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第二十四話 いただきます。

「もう、過ぎたことなのです。こちらこそルードがお世話になりました」


 ルードの母であり、ウォルガードの元第三王女リーダは、笑みを浮かべつつそう言った。

 レラマリンの母であり、ネレイティールズの女王、レラエリッサと父であり王配のマグドウィルは、リーダが寛大な心の持ち主だと尊敬の眼差しを向けていた。


 ……だが実は、人一倍めんどくさいのが嫌いなだけ。

 確かに、一ヶ月近くルードに会えなかった。

 だからといって、それはリーダの生きてきた四百年と比較すれば、ほんの一瞬のようなもの。

 ここに来るまでに、枯渇してしまっていた『ルード成分』も、魔獣の退治が始まるまで、しっかりとの吸収を行ったから、十分に満たされている。

 あと満たされていないところといえば、リーダ自身のお腹だけ。

 彼女は、『早く挨拶を終えて、ルードの料理をお腹いっぱいに食べたい』と思っているはず。

 それはルードも、もちろん同席したイリスもイエッタも、キャメリアもクロケットですら予想ができたはず。

 気づいていないのは、ルードやリーダと離れていて、アルフェルとローズの傍で暮らしていたアミライルくらいだろう。


 イエッタの、開いているかどうかわからない、糸目の表情によるポーカーフェイス。

 イリスとキャメリアの執事然と、侍女然とした能面のような表情。

 だが、目元だけは苦笑を隠せないため、二人ともボロを出さないよう、目を伏せて堪えている。

 リーダの姿に憧れまで抱いている、純粋なアミライルの表情。

 ルードの婚約者として立っているからこそ、緊張しまくったクロケットの表情。


 毎日のように朝会議を一緒していたレラマリンだけが、よく知るルードの苦笑をしている表情だったから気づいていた。

 短いながらも、同じ立場でいる男女の間を超えた友達だから。

 王女という立場だからこそ、リーダはきっと『早く終わって欲しい』、と思っているはずだと。

 自分がそう思っているからこそ、リーダの気持ちがわかるように思える。

 ルードも同じだろうと、だからここは、終わらせられるのも自分しかいないはずだ。


 リーダからしたら、一ヶ月近くも息子ルードに会えなかった。

 ルードだって、一か月近くも、母と、家族と会えなかった。

 このネレイティールズからしたら、自国と比べるのもはばかられるほどの大国、ウォルガードの王太子、および、未来の王太子妃を軟禁状態にしてしまった。

 これは王家をもって、全面的に謝罪をしなければならない。

 それどころか、此度の魔獣災害、結果的に解決したのが、自国の者ではない。


 突破口を開けたのは、ルードなのだから。

 王家直属の衛士隊の隊員と、隊長のティリシアがルードの手助けをした。

 ルードが考案し、隊員や漁師、木工職人たちと一緒にた餌木もどき、通称〝エビ〟を作り上げ、それを操作し、魔獣の意識を攪乱させる功績をあげることができた。

 そのまま、魔獣の意識を穴から離れたところで引きつけておくはずの作戦だった。

 だが、あまりにも突発的な、最悪の状態も起きてしまったと、報告を受けた。

 それでも、年上の友達になってくれたクロケットは、『ルードちゃんは、大丈夫ですにゃ』と、手を握って元気づけてくれた。


 あの後戻ってきたティリシアが、魔獣討伐の結果とともに、報告してくれた驚きの経緯。

 まさか、あの魔獣が、海上に出て、すぐにでも飛び立つことができるようにと、真紅の翼に集めていたキャメリアの発する魔力に反応するとは思わなかった。

 ルードは反射的に、いつも通りの手順、変化の呪文を唱えず、魔力の解放と制御でフェンリルの姿になってしまった。

 キャメリアとティリシアを、背中で弾き出し、自分は魔獣を挑発するように牙をむく。

 そんな彼の身を挺した行為が、この度の事件の解決へ近づくことができたとも言えるだろう。

 だが、ルードは魔獣に囚われてしまい、そのまま気を失ってしまったのだ。


 その後のことは、女王と王配殿下がティリシアから受けた報告の通り。

 一緒にレラマリンと、一緒にいたクロケットに、執事として傍にいてくれたオルトレットも聞いていた。

 リーダが、ルードが、重たい空気を望んでいないと理解したからこそ、レラマリンは空気を入れ替えなければと、思っただろう。


「女王陛下、いえ、お母さま。ここはフェルリーダ様のお言葉に甘えさせていただきましょう」


 ルードを見て、『そうよね? ルード君』と目で訴える。

 ルードは彼女の言葉に、肩をすくめて、苦笑で答える。

 思いもしない助け舟がここで入ることになった。


 その正体はイエッタ。

 彼女はルードの目を通して、クロケットの報告を受けて、レラマリンとルードが、同い年の、同じ立場の、男女という性別を超えた、友人関係を築けていることを知っている。


「そういえば、リーダさん。あの魔獣、どうするのでしょうかね?」

「イエッタさん。わたしもそう思ってたんです。ルード、わたし、お腹すいちゃった」

「そうよルード君。魔獣、どうなったの?」


 イエッタとリーダが、普段の口調になったチャンスに、全力で乗ることにした。

 レラマリンはこの場で、わざとボロを出すことにしたのだ。


「レラマリン。いくらルード殿下が、あなたと友誼を結んでくださったとはいえ、それはあまりにも軽率な……」


 母のレラエリッサも、つい、突っ込みを入れてしまっていた。


「あら、初耳だわ。そうだったんですね?」

「まぁ。我も初めて聞きましたよ」


 リーダもイエッタも、あえてこの場はとぼけることにした。

 正直、イエッタもあまり堅苦しいのは好きではない。

 そのあと、リーダの提案で、今、シーウェールズの王女レアリエールが、ウォルガードに留学していることなど。

 シーウェールズ王家とも、実は家族ぐるみな付き合いをしていると、リーダとルードから説明を受けることになる。


「あははは。よかったね、お姉ちゃん……」

「はい、ですにゃ……」


 そうしてルードとクロケットは、目を見合わせて、改めて脱力できたのであった。


 ▼


 レラエリッサとマグドウィルは、事後処理が残っているからと、王城へ残ることに。

 魔獣の確認をするという建前で、ルードたちを追って、少々遅れてレラマリンは海岸へ出てきた。

 もちろん、ドレス姿ではなく、いつも城下町へでているときの姿へ着替えをしていたから遅れてしまったのだ。


 そこでレラマリンが見たものに、驚いてしまう。

 なんと、海岸の砂浜には、そこになかったはずの、簡易的なテントのようなものができているではないか?

 簡易的な石造りで、四方に太い柱があり、その真ん中に数本の少々細い柱で支え、その上には、五センチほどの厚さで薄い屋根がついていた。


「る、ルード君?」

「あ、ごめんね。用が済んだら、砂に戻すから。大丈夫だよ」


 まるでルードが作ったかのような返事が返ってくる。

 屋根の下には、どこから持ってきたのか、テーブルと椅子まで並んでいた。

 そこに、まるで避暑地にでもいるように寛いでいる、リーダとイエッタの姿。


「ルード、ほんとにお腹すいてるのよ。お願いだから、早くしてね?」

「はいはい。もう少しだけ待ってて」


 ルードは実感していた。

 この場所ですら、まるでウォルガードの手前の森のように、魔力に溢れた大気に包まれた空間になっているかのようであることを。

 ルードはその場にしゃがみ込み、両手を砂浜につく。


「よい、しょ」


 フェリスから教わったこの魔法は、本来、無詠唱で行われるのだが、ルードはまだその域に達してはいない。

 魔力を解放しつつ、呪文の詠唱を行う。


『砂は砂。土は土らと結びつき。姿を変えて、我に応えよ』


 するとそこには、砂がまるで生きているかのように持ち上がり、テーブルとキッチンのようなものを形成していく。

 シーウェールズなどに空港を作った際、ルードは一度詠唱するたびに、魔力の枯渇を起こしていた。

 その度に、キャメリアの背に乗り、ウォルガードで魔力の回復をしなければならなかったことがあった。

 フェリスに相談すると、やはりまだ、ルードには詠唱が必要だろうということになり、イエッタと一緒に考えてくれたのが、この呪文だった。


 ルードたちが魔獣を退治したからだろうか?

 魔力を解放したあと、ルードは手をグーパーさせるように、握っては広げる。

 倒れそうになるような、気持ち悪さは感じられない。

 元々この地域は、魔力が豊富だという話は本当のようだ

 循環されているとされる、この場の大気中にも魔力が増えているように感じがする。


「ふぅ。うん、大丈夫だね。まったく枯渇する感じがないや。キャメリア、アミライル、あとはお願いね」

「はい。かしこまりました」

「かしこまりました。ルード様」


 レラマリンは唖然としてしまっていたが、我に返ると、ルードから以前、魔法が得意だと聞いていたことを思い出した。

 かといって、ここまで非常識だとは思っていなかっただろう。


「る、……え? えぇっもごもご…」


 レラマリンは自分の口に、手のひらで強引に蓋をする。

 ルードに今の魔法は何だと聞こうとしたレラマリンは、更にあり得ないものを目の当たりしてしまった。

 それは、キャメリアとアミライルが、何もない虚空から調理器具を取り出し、キッチンの上に置いているではないか?

 その合間に、ルードはキッチンの波打ち際寄りの場所に、新たに何かを作り始めている。

 レラマリンは腕を組み、目を閉じてから、諦めたようにルードの隣にいたクロケットの服の背中部分をつまみ、つんつんと引っ張る。


「どうか、しましたかにゃ?」


 レラマリンと違い、猫人族であるクロケットは、背後から彼女が近づいているのを匂いで感じ取っていた。

 だから笑顔で振り向くことができたのだろう。

 レラマリンがクロケットの耳元で、もごもごと質問をぶつける。

 もちろん、ルードやキャメリアたちに感づかれないようにこっそりと。

 クロケットも察したのか、同じようにこっそり教えてあげるのだ。


 ルードの非常識な魔法は、手加減をしないとあのようになる。

 この周辺の魔力が戻ったようなので、いつもどおりにやっていたのだろうと。

 キャメリアたちが荷物を隠すことができるというのも、話で聞いていたのだが目の当たりにするのは、レラマリンは初めてだった。

 この世界にも大道芸のようなものはあるが、手品のようなものはなかったはずだ。

 クロケットも初めて見たときは、驚いたのだと教えてあげたのだった。


「ルードちゃんは、こういう子、にゃんですにゃよ?」

「そうだったのね。うん、考えるのやめた。考えたら、負けのような気がするもの」

「それがいいですにゃ」


 気がつけば、ルードの用意したキッチンらしき場所には、ルードやクロケットがよく使う、調理器具がもう完璧にセッティングされていた。

『これから何が行われるのだろう』と、城下町にいた人たちも、徐々に集まってきている。

 この場に、城下では人気者のバレバレに変装をしたレラマリンがいるのだから、人々は『航路解放の催し物』でも行われるのかと思っただろう。


 キッチンの状況を見て、準備が整ったことを確認。

 ルードは『さてと』と、先ほどから乱用しまくっている地の魔法を使い、足下に大きなたらいを作り出す。


「キャメリア、ここに母さんから預かってる足を出してくれる?」

「はい。んー、これでしょうか?」


 キャメリアが取り出したのは、軽く氷付けにされた魔獣の手か足の先だった、肉の塊が二本。

 何かに巻き付いていたかのように、丸いいびつな円を描いたまま、固まっていたようだ。。


「うん。これこれ。母さんから聞いてたんだよね」


 キャメリアたちの隠す能力、そのもの自体の時を止めることはない。

 熱いものを熱いまま、凍ったものを凍ったまま保管できるわけではない。

 氷室とおなじように断熱をされた状態で隠したわけではないから、多少溶けていても不思議ではない。

 ルードは同時に、水の魔法を制御して、波打ち際の海水をたらいの中に放り込む。

 ティリシアやレラマリンのように、緻密な制御をすることはできないが、大雑把であればルードも水を制御することができる。

 もちろん、イリスほどではないが、氷を制御することもできるのだ。


「よし、これでこうして。もみ洗いだっけ?」


 海水に両手を突っ込み、水温を調整しながら、解凍しつつ魔獣の足肉をもみ洗いしていく。

 イリスから、魔獣の体表のぬめりが強いと聞いていた。

 イエッタから、『一度凍らせたタコはね、そのまま解凍しながら洗えば、ぬめりがきれいに落ちるのよね』など、タコの調理法を教えてもらっていた。

 思った通り、ぬめりが綺麗に落ちているように感じる。


「マリンさん」

「は、はいっ?」

「この水、ここに流しても大丈夫ですよね?」

「え、えぇ。たいした汚れではないみたいだし。循環させているから、大丈夫だと思うわ。もちろん油なんかは、流しちゃ駄目よ?」

「うん、それはわかってるよ。ありがとう」

「いいえぇ」


 ルードは、水魔法を制御して、足肉以外の海水を、波打ち際に戻してしまう。


「お姉ちゃん、お湯いいかな?」


 流れるような連携とまではいかないが、長年一緒に料理をしているクロケットは、阿吽の呼吸とでも言うのかのように、ルードの料理の邪魔をしないような動きができていた。

 返事をする前に、鍋を両手で持ち上げ、キャメリアの元へ歩いていたのだから。


「はいですにゃ」


ルードに言われたとおり、大きな鍋にキャメリアから出してもらった真水を張り、クロケットは鍋の底に手をかざす。


『炎よっ』


 薪が用意されているわけでもなく、湯を沸かす魔道具が用意されているわけでもない。 純粋に、火の魔法と魔力の制御だけで、彼女はお湯を沸かしていく。

 その炎は、細くても力強い。

 おそらくは、無駄を省いた火の魔法制御方法を、ルードから教わっていたのだろう。

 レラマリンは驚いた。

『にゃにもできませんですにゃ』と、いつも謙遜していたクロケットが、まさかここまで魔力を制御できるとは思ってもいなかった。

 ウォルガードに越してきて、魔力が原因で倒れて以来、毎日のように魔力の制御法を鍛錬しつづけたのだから、この程度のことはできてもおかしくはない。


 ルードは、きれいにぬめりの取れた足肉を見た。

 イエッタに教わった調理方法には、生で食べる場合、皮を剥いた方がいいのだと。

 だが、茹でる場合は、皮を剥く必要がないらしい。

 獣人種は顎が丈夫だし、何か問題があれば、そのときに皮を剥こうと思った。

 根野菜で叩くと柔らかくなると教えてもらったのだが、どの種で叩けばいいのかわからないと言うと、それならば棒で叩いてもいいと教わった。


 ルードの腕と同じくらいの棒で、壊れない程度に叩いていく。

 クロケットに沸かしてもらった湯をとった小さな鍋に入れ、塩を少々混ぜたのち、タコ肉を足先と思われる方から、ゆっくり煮立った湯に入れていく。

 すると、若干だが丸まっていくのが見える。

 熱が加わって、色が赤みを帯びてきたところで、頭の中でゆっくり数を数える。

 煮立った湯から取り出し、ざるに乗せて軽く湯を切る。

 クロケットが気を利かせて、イリスに作ってもらった氷を入れたたらいをもって、ルードの横にそっと立つ。


「ありがと、お姉ちゃん」

「どういたしまして、ですにゃ」


 笑顔と同時に、二本の尻尾がゆらりと揺れている。

 クロケットはこうして、ルードと一緒に料理ができるのが、楽しくて仕方がないのだろう。

 冷水でタコの足肉からあら熱を冷まし、ルードが愛用していると思われる、使い込まれた簡易的なまな板が置かれた台の前に立つ。

 それは、ルードとクロケットが並んで立っても、二人同時に使えるような大きさをしていた。


 まな板の上に置くと、いつのまにかルードの横にいたキャメリアが、薄手のナイフを手渡してくれる。

 ルードは軽い下ごしらえの終わった足肉を、食べやすいように、薄切りをしてお皿に盛り付けていく。

 横では、同じくキャメリアから薄紫の葉野菜を受け取ったクロケットが、ナイフで細かく叩いて、ルードが盛り付けたタコ肉の刺身の横に盛り付ける。

 これはイエッタから教わった、細かく叩けば叩いただけ、香りよくぴりっとした刺激のある薬味として使える葉野菜だ。

 最後に、小さな器に、イエッタがタバサにお願いして制作を急いでもらった、しょう油のプロトタイプ版を注いでいく。

 味噌から発展させた、錬金術師タバサとしての、得意の醸造技術が再現した、イエッタが夢に見た、ルードが知識だけあった、調味料だった。


 イエッタとリーダが向かい合って座る、テーブルにルードは配膳を終える。

 イエッタはリーダを見ると、彼女はひとつ頷いた。


「ルードちゃん、我で、いいのかしら?」

「うん。だってさ、イエッタお母さんが、〝本当の味〟を知ってるんでしょう?」


 もう一度リーダを見ると、彼女は力強く、何度も頷いていた。

 リーダだって、食べたくてうずうずしているのを、皆知っている。

 だが、それを我慢してまで、イエッタに試食をしてもらいたく、リーダは譲っているのだ。


「そう、なのね。それならば、遠慮はしません。いただきます……」


 薄切りにしたタコの身に、叩いた薬味をのせて、イエッタですら試食も終えていないしょう油を軽くつけて、口の中へゆっくりと運んだ。


 実に千年以上かかった。

 いくら再現しようとも、近づくことすらできなかった。

〝瞳のイエッタ〟と恐れられながら、自分の夢すら実現できないでいた。

 それをルードが見させてくれた。

 こうして、夢を叶えさせてくれた。


「んーっ、このコリコリした歯ごたえ。この、おしょう油の香り、味。ぴりっとした刺激。おしょう油にいつか、出会えたときに使ってみようと思ってたのね。それにこのタコ。噛めば噛む程染み出てくる味わい。ほんとう、美味しい、わぁ・・・・・・」


 普段は開いているかすらわからないほどの糸目のイエッタ。

 それがうっすらと開かれたその瞳と、とろんとしたとろけそうな表情。

 右手にお箸を持ち、左手の手のひらを頬に当て、奥歯でひたすら咀嚼し続ける。


「る、ルード、わたしも、わたしも食べていい?」

「はいはい。我慢しなくてもいいのに」


 リーダは変なところで努力家だった。

 幼少のころから、ナイフなどの食器に慣れ親しんだ食生活。

 ルードの料理を食べるなら、箸を使うのが一番だと。

 いつもイエッタが見せる、食事の際の作法も、彼女なりに美しいと思った。

 祖母のフェリスが、魔法の師であるように、ある意味イエッタは、リーダの師のひとりなのだろう。


「いただきます」


 教わったとおりの作法、教わったとおりの美しい箸運びを、リーダは見せる。

 イエッタの真似をして、最初だからと薬味をちょっとだけ乗せて、しょう油を上品につけて、おそるおそる。

 手で隠した口元は、実は大きな口をあけて、ぱくりと頬張るためのカムフラージュ。

 もくもくもくもく、そんな音が出ていそうなくらいに、奥歯でかみ続ける。

 その美しくも細い喉を鳴らして、リーダは驚きの表情を浮かべた。


「ルード、これ」

「どう、かな?」

「噛めば噛むほど、海の香りと味がこう、・・・・・・なのよね」


 正直、言っていることがよくわからない。

 リーダは、今の心境を、うまく言葉にできないのだろう。

 それでも、リーダの瞳が全てを物語っていたのが、ルードは嬉しかった。


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