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エピローグ 働き詰めのルードにお休みを。

四章エピローグです。

 ジョエルとクレアーナの二人を残し、ルードたちは悪戯がバレる前にさっさと大空へ飛び立った。

 エランズリルドでの確認はジョエルへの方便だ。

 立ち合いと言っても、エランズリルドで降ろす荷物とシーウェールズまで持っていく荷物は色で分けられているからそれ程混乱することはない。

 エランズリルドでの荷下ろしが終わるとシーウェールズへ戻ってきた。

 リューザは最後の荷下ろしが終わると、明日の荷の確認をしている。


 空港の管理をしているアルフェルの立ち上げたローズ商工会。

 リューザたちはそこのスタッフとのやり取りも慣れたものだ。

 もう何年も一緒に仕事をしているかのような、そんな風にも見えなくもない。

 荷受けに来た商人たちは、リューザがヒュージドラグナ。

 伝説の飛龍だとは思わないだろう。

 フェリスとシルヴィネが作った指輪のおかげもあるのか、彼も流暢な言葉を使う。

 伝説の飛龍と人との間に、屈託のない笑顔がこぼれる。

 これもルードが夢見たもののひとつだったに違いない。

 

 シーウェールズでの確認が終わり、ウォルガードへ帰ろうという頃には、辺りもうは真っ暗闇だった。

 後でゆっくり帰るからとルードに伝えたリューザは、残りの仕事をしていくそうだ。

 先にキャメリアの背に乗り、ルードとクロケットが空に昇っていく。

 ルードとクロケットの目に映った闇夜の空。

 見下ろすシーウェールズの町の明かりも、また綺麗だっただろう。


 こうして家族の支えとルードの奮闘により、ルードが関わった各国が空で結ばれることとなった。

 間もなく狐人の国、フォルクスにも小さいながら空港の設立が始まることになっている。

 雪深いフォルクスだからこそ、定期空路が結ばれることでより豊かな生活ができるようになるだろうと、イエッタも言っている。

 ルードと暮らすようになってからイエッタも驚くほど元気になっている。

 今イエッタの傍らには、専属とまではいかないが、ドラグリーナがついている。

 ルードの家族になったドラグリーナで黒髪の一番小柄な女性。

 それはタバサの工房で錬金術師となっていたノワールドラグリーナのラリーズニアだった。


 エリス商会からタバサの工房を行ったり来たりしてるうちに、物を生み出すことに興味がでてしまった彼女は、タバサに弟子入りすることになった。

 イエッタはタバサとよく話をするらしく、家にいないときはほぼ工房にいるのだそうだ。

 そこで味噌や醤油、そのほかの味見をしているうちに、ラリーズニアとも意気投合。


 今では彼女の背中に乗り、フォルクスへ様子を見に行くことがあるらしい。

 たまにしか飛ばないラリーズニアと、フェリスのように飛べとせがまないイエッタ。

 それよりも二人は、これを再現できないか。

 あれをこんな風にできないか。

 そんな技術的な討論をする方のが、楽しかったのかもしれない。


 狐人の国フォルクスは元々、エリスとローズの生まれ故郷。

 ルードにとっても特別な場所だったりするのだ。

 だからこそ、エリスとローズにも、アルフェルにもいつでもフォルクスに行けるようになるといい。

 ルードはそう思っていた。


「ルードちゃん。このあたりでいいかしら?」

「そうですね。ここなら雪崩も起きないでしょうし。あ、でも。遠くないですか?」

「ニアちゃん。どう思うかしら?」

「はい。ここでいいと思います」


 ルードとキャメリア、イエッタとラリーズニアで雪深いフォルクスにこっそり来ていたのだ。

 イエッタはルードの生みの親、エリスの祖母だと知っていた。

 初めて出会った頃の彼女は、一人で立つことすらできないほど衰弱していた。

 あのときルードが魔力が枯渇するほど、全力でイエッタを癒さなければ。

 今こうしていることもなかっただろう。


 いつだってルードは無理をして縁を繋ぐ。

 人との縁のためならルードは手加減をしないからだった。


「イエッタお母さん」

「何かしら?」

「ここの雪って一年中融けたりはしないのかな?」

「そうね。我が知る限り、融けたことはないと思うのだけれど」


 ルードは一瞬だけ考えた。

 融雪しても上から降り積もってしまうのなら、わざわざ溶かさなくてもこのまま整地できないか?


「キャメリア、ラリーズニア。お姉ちゃんとイエッタお母さんを乗せて、少しだけ浮いててくれるかな?」

「かしこまりました。ルード様」

「はい、ルード様」


 雪がちらつく上空で四人は待機しててくれる。

 その間にルードは地面に手をつく。

 レーズシモンでやったように、一気にではなく。

 自分の立っている場所を整地してから、徐々に範囲を広げていく。

 なるべく振動を与えないように。

 それは雪崩が起きないようにという配慮でもあった。


「二人とももう大丈夫だよ。降りてきて」

「はい」

「かしこまりました」


 フォルクスの人々は長い間雪の上での生活に慣れている。

 ならこの状態でも大丈夫だろう、と。

 ここに雪をうまく使えば、生ものなどの保存も容易いだろう。

 それにこの場は永久凍土になっているはず。

 ならば雪をどける必要はない。

 なるべく平らに、建物を建てたとしても大丈夫なように。

 ルードは積もる雪の下だけを整地して見せたのだった。


「ふぅ……。多分大丈夫だと思うよ。イエッタお母さん」

「ルードちゃんは、相変わらず考えたらすぐにやってしまうのね」

「ですにゃ」

「あははは。ちょっとだけ疲れたけど、これで建物建てても大丈夫だと思うから」


 ルードは雪の上にぺたんと尻餅をついてしまう。

 レーズシモンでも同じように整地した後に力が抜けてしまった。

 やはり今のルードの魔力量では、フェリスのようにはうまくはいかない。

 あの時と同じように、余裕が全くない状態で無理をしてしまったのだろう。


 イエッタはルードたちを連れてすぐにフォルクスへ入った。

 イエッタの執事だったエドと摂政で甥のテムジンを呼び寄せると、空港の利用方法などを説明し、整地した場所を案内しに来た。

 近日中に小さな空港を開設し、輸送を開始するから、必要なものをピックアップするようにと簡潔に伝える。


「イエッタさん。こんなことをいったい誰が? まさかイエッタさんが?」


 何もなかった雪の積もる林の一部を、綺麗に整地してある状況を見て、テムジンは呆然としてしまっていた。


「これはね、我の息子。ルードちゃんがやってくれたの。こう見えてね、ルードちゃんは我たちよりも上位の種族なのよ」

「上位というと?」

「見た方が早いかしら? ルードちゃん。あれ、やってみせてくれる?」

「えーっ? 僕、疲れてるし……。一瞬だけですよ?」


 ルードにはイエッタのお願いを断ることはできない。

 仕方なく目を閉じて、ちょっとだけ魔力を絞り出しつつ。


『祖の衣よ闇へと姿を変えよ』


 ルードが詠唱を終えると、その場には純白のフェンリルの姿が現れる。

 その姿を目にしたテムジンは。

 冷たい雪の上に仰向けになって、可愛くもない服従のポーズをとってしまっていた。

 イエッタは『ぷぷぷ』と笑いを堪えていて。

 横にいたラリーズニアは首を傾げていて、状況がわかっていないようだ。


「だから嫌だったんですよー」

「ですにゃね」

「ルード君。ふぇ、フェンリルだったんですか……」

「テムジン。あなたもまだまだですね。……ぷぷぷぷ」

「イエッタお母さん。わかっててやらせたでしょう? もう、別に隠してた訳じゃないんですよ……」


 テムジンがこのままでは不憫に思ったのだろう。

 ルードは首輪に意識を集中すると、元の姿に戻っていた。


「あ、可愛かったのに、もう戻っちゃったんですにゃね……」


 クロケットの残念そうな声。


「えぇ。実に残念です」


 キャメリアまで表情に出すほどだったとは、ルードは思っていなかった。

 確かにクロケットと歳が同じで、ルードとクロケットを主と仰ぐ彼女だったが。

 執事のイリスと同じように、もしかしたら可愛いものが好きなのかもしれない。


 ▼


 ルードたちがウォルガードへ戻ると、翌日からフォルクスの空港開設が始まった。

 今まで三か所の工事経験と、フォルクスでは規模が小さいせいもあり、数日で終わるとのことだった。

 終わり次第、アルフェルとローズが挨拶を兼ねてリューザに同行するらしい。

 その際は、イエッタがエリスを連れて行くとのこと。

 アミライルとラリーズニアを含めた六人で、久しぶりの里帰りを楽しんでくるらしい。


 ジョエルと友好的な関係を結ぶことができたクレアーナは、商会のことは自分にまかせて楽しんでくるようエリスに言った。

 レーズシモンへはリューザたちの背に乗っていつでも行ける状態になっていたことから、今はクレアーナとジョエルがお互いの国の間を行き来している。

 それはルードが夢見ていた、将来的に人を輸送するための試験をしているようなものらしいのだ。


 各国の空港から商人たちが馬車で細かい輸送をするようになった。

 大きな商会の代理輸送を請け負うことで、輸送の仕事にあぶれる人がいなくなったそうだ。

 それでも悪いことを考える、へその曲がった商人はいなくはならないのだろう。

 ただ、料金の受け渡しが行われない代理輸送では、悪知恵も働かせることが難しい。

 それ故、前ほどトラブルは起きてはいないとアルフェルも言っていた。


 ルードは『ウォルメルド空路カンパニー』の私室で、イリスの作った書類に目を通していた。

 十五歳のルードもこうして見ると、立派な商会主に見えなくもない。

 ただ、母親のリーダは心配でならないだろう。

 ルードが入れ込んでしまうと、周りが見えなくなり、失敗して落ち込んでしまうのだから。


「……ルード、少し休んだら?」


 ルードの背中から、優しく抱き着くリーダ。

 その声といつものいい匂いで、リーダだとすぐにわかったのだろう。


「あ、母さん。……でもさ。毎日やってたから、何もしないのがね。退屈でしかたないんだ」

「──ほんと、エリスの子よねぇ。そのあたりがそっくりだわ。そんなに頑張りすぎると、また失敗しちゃうわよ? 頭に立つあなたに余裕がないとね、下で頑張ってくれてる皆が困ることになるわ」

「うん……。それは痛いほど身に沁みてるよ」


 リーダは『すんすん』と鼻を鳴らす。

 ルードを心配して、クロケットとキャメリアが扉の外から覗いてるのに気づいているのだろう。


「そうだわ。ルード」

「んー?」

「寒くなる前に、クロケットちゃんと海を見てきたら? シーウェールズの先に、小さな小島があるっていってなかったかしら?」

「あ、そういえば。そんな話をアルスレットさんから聞いたことがあったかも。うん。見るだけでも行ってみよっかな? 母さんも来る?」

「馬鹿ね。クロケットちゃんと一緒にいってきなさい。ほら、ドアの向こう。心配して見てるわよ?」

「──うにゃっ!」

「クロケット様。そんなに動かれては……」


 『どしゃっ』っと何かが倒れる音がした。

 ルードが振り向くと、そこにはキャメリアがうつ伏せに倒れている上に。

 将棋倒し状態に重なり合って倒れ込んだクロケットの姿があった。


「……にゃははは。バレてたんですにゃね」

「それはそうよ。わたし、こう見えてもフェンリラなのよ? クロケットちゃんより鼻が利くんですからね」

「そうでしたにゃ! リーダお母様は、そうだったんですにゃね……」


 クロケットはリーダのことを最近では『リーダお母様』と呼ぶようになっていた。

 ルードとの間に正式な婚約が結ばれてからは、リーダがそう呼ぶことを許したらしいのだ。


「クロケットちゃん、冷たいわね。ヘンルーダと混同するから、『ママ』って呼んでくれていいと、あれほど……」

「いやいやいや。無理ですにゃ。私、エリスお母様にも言われてましたけれど、無理でしたにゃ。それにほら、私二十歳ですにゃよ?」

「わたしからしたらね、ルードもクロケットちゃんも、キャメリアちゃんもね。けだまちゃんとあまり変わらないのよ? 誤差みたいなもの?」

「……それを言われてしまいますと、にゃにも言い返せませんにゃ」

「キャメリアちゃんも、シルヴィネさんからよろしくと言われてるのよね。ママって呼んでくれてもいいのよ?」

「そ、それは困ります。ほら、私はクロケット様とルード様の侍女ですので……」


 まさか自分にターゲットが移るとは思っていなかったのだろう。

 慌てふためくキャメリアを、ルードとリーダはちょっとニヤっとしながら楽しそうに見ている。


「ルードちゃん。リーダお母様も言ってくれてますから、海。見に行きましょうですにゃ」

「あ、うん。じゃ、僕たちちょっとだけ行ってくるね」

「気を付けて行くのよ? キャメリアちゃん、二人をお願いね」

「はい。かしこまりました。リーダ様」

「ママって呼んでくれないのね……」

「いえ、ですから、その。勘弁してくださいっ!」


 キャメリアはルードとクロケットを脇に抱えて部屋から慌てて出ていってしまった。


「うふふ。クロケットちゃんとキャメリアちゃん。可愛くていいわよね」


 知っててやってたリーダだった。


 キャメリアはルードとクロケットを乗せて、秋の高い空を上っていく。

 今年はルードが忙しく動いていたため、あっという間に過ぎていった感じだっただろう。

 リーダが言うように、もうすぐ冬へと季節が変わっていく。

 そうなる前に、リーダはクロケットと遊びに行かせたかったのかもしれない。


「キャメリアもママって言わされそうになってたんだね?」

「いえ。既に言わされていました。その、恥ずかしくて恥ずかしくて……」

「ですにゃね。エリスお母様も、何気に獲物を狙うような嬉しそうな目で追いかけてきましたにゃ……」

「あははは。それだけ二人のことが好きなんだと思うよ」

「えぇ。それはとても嬉しいのです。ですが、その」

「ですにゃね」


 二人は二十歳なのだ。

 さすがに『ママ』は厳しいのだろう。


 ちょっと肌寒く感じる秋の空。

 ルードからしたら、婚約者で大好きなクロケットと、家令として大事にしてくれるキャメリア。

 二人が大好きなのだから。

 こうして、クロケットとキャメリアと空を飛ぶのも何度目だろう。

 いつまでも飛んでいたいと思ってしまうくらいに、当たり前になってきている。


「ルードちゃん。海、ですにゃ」

「ルード様。どのあたりでしょうね?」

「うん。まぁゆっくり飛んでみようよ。海の上なんて初めてだからさ」


 秋の空から照らされるシーウェールズから先に広がる大海原。

 宝石のようにキラキラと光るその水面は、ルードに、新たな出会いを感じさせるものだっただろう。


お読みいただきありがとうございました。

これにて四章は完了です。

途中、閑話を挟むと思いますので、

これからも「フェンリル母さんとあったかごはん」をよろしくお願いします。


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