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おきつねさまと食べ歩き  作者: 八代将門
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おきつねさまと平氏の系譜

 さて、場所を水天宮の御社の中に移したものの、居心地の悪さといったらこれ以上はないというくらいだ。なにせ、俺はというと現世ではたかだか大学生の小市民。まさかやんごとなき方との第三種接近遭遇を果たすとは。

 とりあえず平伏したまま、挨拶と自己紹介を済ませる。ちなみに俺の安徳天皇へのスキンシップという不敬については、次回訪問時にもシュークリームを持ってくることで、玉藻と安徳天皇の間で取引が成立したらしい。 

 

 安徳天皇、平家物語で語られる悲運で名高い天皇だ。平清盛の孫にあたり、平氏と源氏が争った壇ノ浦の戦いで、三種の神器とともに入水して二位の尼とともにその命を散らしている。もっとも神となった今の姿からはそんな悲劇に対する悲嘆などの感情は一切感じ取れない。やはり神ともなると人間の感情などとは無縁になるのだろうか。


 社殿の奥に鎮座する安徳天皇。脇を神使二人が固め、その向かいで俺たちが平伏する状況となっている。神使見習いである子供たちは席を外している。奥には三つの席があるが、安徳天皇は真ん中に座り、残りの二つは空座となっている。おそらく建礼門院と二位の尼の席なのだろう。座とこちらを隔て、普段は降ろされているだろう御簾は全開であげられている。

 だいたい反則だろう。主神やら皇族っていったらこう~バリバリのセレブオーラみたいなのだして……。


「出てるわよ、ばっちりと。正直、直視できないくらいよ。将門、よく話しかけられたわね」

 こうべを垂れた桔梗が俺を突っつきながら囁いてくる。桔梗にはセレブオーラごとき後光が見えてるらしい。なぜに俺には見えないのだ、解せぬ。

 

「なに、そちの魂の根源たる平将門は我の祖先である平貞盛たいらのさだもり公の従兄弟じゃ、血のつながった一族であるし、その魂を持つそなたは我との魂はありようが似ているのじゃ。あげく名前まで同じじゃ、つながりの強さといえばいかんばかりであろうか」

 いやいや、それ何代前の話だよ。おじいさんのおじいさんのおじいさんぐらいの話だろ。魂だって100倍から200倍くらい薄まっているんじゃないのか?


 さすがに自分の名前と同じ平将門公については多少気になって調べたことがある。

 桓武かんむ天皇の皇子である葛原かずわら親王の王子である高望王たかもちおうの孫が平将門公だ。そしてその従兄弟で将門公を討った平貞盛の子の維衡これひらが平清盛の先祖だ。あれ、そうするとこれって敵同士になるのか。


「気にせずともよいぞ。保元の乱では伊勢平氏でも敵味方にわかれて戦となったしな。それに神となった以上、すでに現世でのしがらみなど些細なことよ」

 安徳天皇がとても子供とは思えない達観した口上を述べる。まあ、姿かたちは子供だが、そりゃ神様だものな。


 安徳天皇が放つセレブオーラ?はすさまじいらしく、安徳天皇を直視できるのは玉藻と俺くらいらしく疾風はやて七竃ななかまど睦月むつきは頭を垂れて、安徳天皇を直視できないでいる。それに気づいた安徳天皇が近松に御簾を半分下げるよう命じ、神使たちに頭を上げるよう伝える。

 ちょうど安徳天皇の上半身が隠されるようになると皆がようやく頭を上げる。

 うむ、桔梗大丈夫か?

「これなら何とか大丈夫よ」

 桔梗の心配をすると睦月がすねたような顔つきでこちらを見る。

 いや、睦月のことも心配しているから、ほら、ちゃんと前を見て。

 

「しかし、主様あるじさまにおかれましては、安産祈願の祈祷に応えるために二位の尼様と九州は国東くにさきの水天宮摂社に参ったはずでは?」

 近松ちかまつが問いを発する。


 へえ~、祈願に応えるのに主神が参じるなんてことがあるのか。

「うむ、現世で時たまとんでもない金額の寄進をする者がおる場合、当然、それに応えるために主神が参る時があるのじゃ」

 玉藻が俺の問いに答えてくれる。

 意外と義理堅いんだな神様って。


「こたびは九州にて初孫が生まれるとの安産祈願のために摂社を一つ寄進した者がおりまして、その寄進に対する加護のために参じていたはずなのですが……」

 近松が補足の説明をしてくれる。


「うん、玉藻が来るって聞いたから、あっちは母上に任せてきた。駄々こねて泣き落としたら一発で許してくれたぞ。それに……」

 前言撤回、わがままは神と子供の特権、その上にフットワーク軽いな。


「「それに?」」

 丸静と近松の声が重なる。


「玉藻の尻尾を愛でるためじゃ」

 あげく神の威厳が微塵も感じられない理由だった。


「だって最近、玉藻全然来てくれないんだもの。最後に来たのは……」


「うむ、文政のお陰参り以来じゃから、二百年近くたっているのう。この地に社が移ってきてからは初めての訪問じゃのう。じゃが神在祭であっておるじゃろうが」

 まさに光陰矢の如し。どうも神代の時間の観念にはついて行くのをあきらめたほうがよさそうだ。それにお陰参りってなんだ?


「お陰参りとはお伊勢参りのことです」

 すかさず睦月が教えてくれる。うむ、用語についてはもっと勉強せねば。


「それと月読命つくよみの神使たる望月もちづきからな、玉藻の神使が伊勢平氏ゆかりのものと聞いてのう。そうともなればぜひ会わねばと思った次第じゃ」

 月読命つくよみの神使の男の娘め、余計なことを話しやがって。

 やはり将門公がらみでトラブルに巻き込まれるのはデフォルトなのか。俺は失礼にならない程度に小さな溜息をつく。


「しかし、玉藻の尻尾も良いが、そちの尻尾の触り心地もたまらんのじゃ」

 俺の尻尾を見つめながら言う。あわてて横に出していた尻尾を体の後ろに隠す。

 安徳天皇の言葉に睦月が眉を顰めるが、さすがに安徳天皇相手に俺の尻尾の独占権を主張するわけにはいかないらしく、なにやら微妙な顔つきをしている。


主様あるじさま、そのような狐の尻尾よりもわれの尻尾のほうが・・・」

 丸静がずずいっとにじり出て主張したのだが……。


「だって、丸静の尻尾、最近あぶらっぽいんだもん」

 一刀両断だな。

 あ、丸静沈んだ。しかも物理的に床にめり込んでるって器用だな。


 どうも話を聞くと安徳天皇が神として祀られ神格化した時、伊勢に命じられて玉藻が面倒を見たらしい。

「われあやかしでもあり、宮中の女御にょうごでもあり、神としても祀られたからな。まあ、宮中のしきたりと神代のしきたりの両方に通じているからのう。言仁ときひとや時子、徳子に神としての手ほどきをしたのじゃ」

 話の流れから言うとそれ安徳天皇や二位の尼たちの生前の名前か。しかしまあ、玉藻に常識を説かれるとかなんか不思議というかありえないというか……。

 

「ほう、将門は我のことをそのように……」

 玉藻の周りの空気が冷たくなる。

 ゴメンナサイ、ゴメンナサイ。平謝りである。

 そんな俺たちの姿を見て安徳天皇が笑い声をあげる。


「ふむ、玉藻は良き神使を持ったのじゃ、将門とはよいえにしを結びたいものじゃ」

 いやここ安産詣での御宮で縁結びじゃないし、神在祭を迎えるにあたってこれ以上やっかいごと……、げふん、ビックゲストとお知り合いになって騒ぎに巻き込まれるのは勘弁願い……。


「われも一族に連なるうえに神たる平将門公とは面識はあるが、やはりあの顔は怖くてのう、苦手なのじゃ。その点そちは、将門公と同じ魂を持ちつつも恐れなど微塵も感じさせぬところが気に入った。今後ともわれに尻尾を愛でさせるのじゃ」


 俺はさすがに何と答えていいのかわからず思わず玉藻に助けを求める。

言仁ときひと、何を企んでおる。そなたの神代での守り役を務めた我はごまかせんぞ。ここ水天宮では甘露なるものや美味なるもののお供えなどより取り見取りじゃから、他の社や神と違ってそのようなものを我と将門には求めてはおらぬじゃろう。それでもえにしを結ぶなど何か考えがあるとしか思えん。ましては子供じみた尻尾などという戯言もいまさら通用せんぞ」

 玉藻マジで怒ってないか。

 あれ、なんか本当にビックゲストによるビックトラブルの予感がひしひしと。


「われの神使たる将門は正しき事ならば頼まれれば嫌とはいえん性格じゃ。まあ厄介事もひきつける面倒な神使でもあるがのう。じゃがそれを利用せんとすることは、たとえ言仁ときひとといえども見過ごすことはできん。将門に何をさせようとしているのじゃ」

 玉藻、あげて落とすのやめてくれる? 


 しばし沈黙が漂った後、安徳天皇のまとう雰囲気が一変した。

 別に姿勢を正したわけでもないのに、周りに緊張感が満ちる。なんとなくだが理解した、これが神格というものなのか。


「さすが宮中の策謀の中で生きてきただけあって玉藻は鋭いな~」

 一瞬にして子供じみた雰囲気が霧散する。こりゃもう子供の顔つきじゃない、為政者の顔つきだ。

 玉藻と俺以外いつの間に平伏している。みな安徳天皇の神格にあてられたらしい。


 安徳天皇がふいに立ち上がるとスタスタと俺の前に歩み寄ると腰を下ろし、床に軽くこぶしをついて話しかけてくる。


「玉藻が第一神使、八代将門においては、是非とも 草薙剣くさなぎのつるぎを盗ってきていただきたい」

 えっ……。


「正気かよ!」

 思わず不敬な言葉を吐いてしまった俺を咎めるものはいなかった。


 いや本当はもう少しおとなしい話になるはずだったんです。でもキャラ暴走、設定暴走いたしましてこの有様です。いやはや即興で書くって恐ろしいと痛感しました。逆に自分はプロット作って書くのは向いていないのかと思う今日この頃です。

 とりあえずエタるは絶対避けたいので、勢いのまま突っ走っていきますので今後ともご愛読のほどよろしくお願いいたします。


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