幕間7 おきつねさまたち
「旦那様を返せ!!!」
睦月の言葉とともに、”将門もどき”が持つ太刀が土くれに戻っていく。
う~む、睦月もだいぶ頭に血が上っているようじゃのう。神力と妖力がだだ漏れじゃ。われを出し抜いた時といい、乙女稲荷神社の件といい、なかなかの神力と妖力じゃ・・・。まあ、将門の趣味であろうあの格好だけはいただけないがのう。
まったく、今もわれの結界がなければ、屋敷もろとも吹き飛んでおるところじゃ。
「お、おい、お前、わかっているのか。この体は・・・」
再び太刀を具現化するが、睦月の力に当てられて再び土くれに戻っていく。
我の前にボロボロになって転がっている”将門もどき”が何か言っておるが、睦月の耳には届いていまい。まあ、見た目はひどいが睦月も無意識に手加減しおるのじゃろう、さすがに大きな怪我は・・・・。
「ちょ、待て、そこは・・・」
あっ、うむ、あの股間への一撃はさすがにまずかろう。
そろそろ止めておかねば後々の子作りに影響が出かねまい。そろそろ・・・。
「おい、そこの年増狐、お前、見てないで、こいつを・・・」
将門もどきが我に視線を投げる。と言いつつも、睦月に見えない死角の左手に弓を呼び出すあたりはなかなかに小賢しい。まあ、すぐに睦月の力で土くれに戻るだけじゃがな。
全く、外見は将門なのに中身がこのような小物とは・・・、胸糞が悪くなるわ。我を年増呼ばわりじゃと。
ふむ、もう少し、ほっておいてもよかろう。
しかしのこのアップルパイというものは美味じゃのう。さっくりとした食感と甘く煮込まれた果物との柔らかい食感の組み合わせがたまらん。まったく、将門め、あれほど怪しきところに近づくなと言ったのに、大方、何かに浮かれておったのじゃろう。
おお、睦月、腰の入ったなかなかの一撃じゃな。
将門もどきが再び我の前に転がってくる。
「ゲホっ、わっかているのか? この体はお前らの神使のものなんだぞ。それを傷つけるってことは・・・」
凝った呪を仕掛けてきた割には考えが浅いやつよのう。まあ、このおかげで大体予想がつくわけじゃが。
「わかっておるわ、その体だけが将門で中身はまがいものだとな。見てわからんか、睦月はすでにお主を将門とは認識しておらぬ。体が将門? あやつにはそのようなことは関係ない。その体の魂と心のつながりが切れている以上、お主は睦月の大事な旦那様を奪ったただの狼藉者じゃ」
体を乗っ取っただけで勝負に勝ったなどと思うあたり認識が甘いわ。
「旦那様を返せ!!」
睦月が再び叫ぶ。うむ、無理じゃなこれ、睦月の力が強すぎて、我の結界からちょろっと漏れおった。間違いなく疾風と七竈に知られたな。
我はため息をつく。残ったアップルパイとやらの独占は夢と消えたか。
「で、この有様はなんなの?」
我の背後から疾風の声がかけられる。名に違わず流石に疾い。
うむ、おまけに器用じゃのう、我の結界の隙間をすかさず塞ぎおった。
あの性格さえなければ優秀な神使なのじゃが。
「誰かが将門に呪を仕掛けおった。挙句、体を乗っ取って具現化しおった。この時点で誰が仕掛けたか想像がつくがな」
まあ、将門公には先日の荒野丸と瑞穂の件を貸しとしてあるから、まずありえんが、将門の体に入り込める時点で、下手人は絞られる。
それとお主ら、何、早速、アップルパイを食べてるのじゃ。
「影どもの仕業と?」
七竈、何聞き流してるのじゃ。
我はため息をつく。
平将門公には七人の影武者がいる。いたではない。今もいるのだ。
我も以前、聞いただけであったことはないが、それぞれ、将門公の身代わりとして身罷り、その地に祀られて以来この神代でも影武者を勤めているらしい。
生前は各々の得意分野で将門公を補佐していたらしいが、この脳筋ぶりを見るとこやつは影一あたりか。そして呪を仕掛けたのは影死あたりかのう。
「玉藻さまの神使も大変ね〜」
いや、疾風、大変なのはこのような神使を持った我じゃろう。我、気をつけるよう注意したはずじゃが。
「私に言わせれば似た者主従といったところだが」
七竈も容赦ないのう。
「で、事情を知らないものがみたら夫婦喧嘩にしか見えないこの有様、どう収拾つけつるのよ」
ちょっ、疾風、その言葉はマズイ。
「これは旦那様じゃない!!!」
凄まじい妖力と神力が吹き荒れる。将門もどきが飛ばされ、疾風と七竈が膝をつく。
これはさすがにやりすぎじゃのう。
「お主、はよう将門のところへ案内せい。さもないとこの世どころか輪廻の輪から消え去るぞ」
我は十尾を静かに揺らしながら将門もどきに告げる。
「そんなこと、お前らにできるわけがないわ」
将門の顔でそのような下卑た笑顔をされると腹がたつのう。
途端、あたりの温度がすーっと下がるのがわかる。
振り返ると睦月が五尾を揺らしながら、立っている。そして、その表情は、以前見たように・・・。
「我、睦月が命じる。この者の・・・・」
だあああああああっ。
「睦月待つのじゃ、大丈夫じゃ、そちの旦那様は無事とり返せる。落ち着け、そこまでせずとも大丈夫じゃ。ここからは我に任せるのじゃ」
我は十尾の力を全開にして睦月を押しとどめる。睦月の表情が途端、泣き顔に変わる。
「旦那様が、旦那様が」
七竈が泣き出す睦月を優しく包み込む。
それも見て将門もどきが這いずり始める。ここから逃げられると思うておるのか?
途端、睦月が素早く駆け寄ると、将門もどきを蹴り飛ばす。
「何、この夫婦喧嘩?」
突然の第三者の声に、我と睦月、疾風、七竈が振り返る。
「睦月ちゃん、なんでメイド姿で将門を足蹴にしてるの?」
桔梗、こやつ気配も感じさせずにこの結界内に入ってきよったのか、いつの間に・・・。
瞬間、将門もどきが起き上がると桔梗にかけより羽交い締めにする。
「ふむ、こやつは人らしいな。この者の命が惜しければ・・・・」
我と睦月、疾風、七竈は、特大のため息をついた。
「これ生きてるのか?」
我の問いに桔梗が答える。
「失礼ね。怪我はほとんどしないように、苦痛しか与えていないわよ」
桔梗の足元に転がる将門もどきはピクリともしていない。
「久しぶりにすっきりしたわ。最近演舞ばっかりだから体がなまってね。しかもこれよかったわ、なんか限界まで攻めても壊れないおもちゃみたいで・・・」
あの後、将門もどきを投げとばした桔梗は、取り出した小狐丸で、太刀やら弓で攻撃してくる将門もどきをことごとくいなした上にこの状態に追い込んだ。
「桔梗、お主の流派もなかなかえぐいのう」
我、睦月、疾風、七竈若干引き気味である。
「ああ、今回は私の我流よ」
・・・・皆、ドン引きである。
「で、将門はどこにおるのじゃ。我とのつながりがかすかにでも感じ取れる以上、無事であるのはわかっておる」
我が十尾を、睦月が五尾を、桔梗が小狐丸を構えて威圧する。
「八幡の藪知らずじゃ!」
将門もどきが自棄になったように叫ぶ。ふむ、ということはこやつはやはり影一か。
八幡の藪知らずとはちと厄介だが、神代には変わらない。いかに将門とはいえ体を乗っ取られた上にあそこから抜け出すことはまず無理じゃろう。
まあ、これも主神の勤めじゃ。
「睦月、そちの大事な旦那様を迎えに行くぞ」
我の言葉に睦月は妖力と神力を霧散させると、笑顔で頷いた。




