おきつねさまと神使の教育(改訂版)
ストーリー的に大きな改変はありません。字数を増やしただけの改訂になります。
2,926文字から4,972文字、原稿用紙8枚から13枚に増やしております。
あくまでもお試しなので、全話に手を入れるかどうかは決めておりません。ただ、話を膨らませたり、つじつまを合わせることに楽しさを感じているのも事実です。
最初からではなく最新話から手直しをするという変則的な手法ですが、お楽しみいただければ幸いです。
(2016年1月21日 19:26)
俺と荒野丸、神使の旦那ーずのもともとあったかどうかもわからない矜持が、下半身のとある部分の緩みとタヌキ顔のせいで地に落ちてから数日、九月に入ったというのに相変わらずな暑さが続く中、玉藻が思いつきの爆弾発言。
「ふむ、将門にはもう少し神代と関わりを深め、神や神使との付き合いというのを学んでもらおうと思うのじゃが、どうだ?」
どうだ? じゃないだろう。今はいいが、大学戻れば講義あるのにさらに勉強かよ。
だいたい今だって勉強だよ。なんだこれ鳥居の種類とか覚える必要あるのか? 神明鳥居に明神鳥居、伊勢鳥居に山王鳥居や住吉鳥居・・・・まだあるのかよ。ギリシャの円柱の種類並みだな。
俺は縁台に広げられた各種神社、神道の本を見やる。
全く、なんで俺が勉強で、お前ら冷たい麦茶を飲んでるだけなんだ。
お茶請けのかりんとう饅頭を買ってきたのは俺だぞ。
「旦那様、こちらをどうぞ」
睦月が饅頭を差し出してくれる。ちっ、玉藻や桔梗がいなければ・・・。
二人きりだけなら、あ〜〜んしてもらうのに。
残念ながら手で饅頭を受け取ると口に放り込む。
うむ、このカリッとした食感とやわらかな餡のアンバランスさがたまらない。榛名山の南麓まで車を走らせて買ってきた甲斐があるな。今でこそシャトレーゼでも売ってたりと世に溢れることとなったかりんとう饅頭だが、やはりこの店のものに限る。
「学ぶと言っても、方々の社に行って神代と繋ぎと伝手を作ることじゃ。ただでさえ、おぬしらは神代では有名人じゃ、誼を通じたいという申し出も数々来ておる。ちょうど良い機会じゃ、ぶっつけ本番でこれらの社を訪れ、挨拶と神使の作法を身につけてくるのじゃ。いかにお主が常識はずれでも、本山での誓詞奏上を超える馬鹿な真似はせんじゃろ」
いや、馬鹿な真似じゃなくて真剣だったから、あれ。
まあ、神代も現世もそんなに作法違わないだろう、今までの挨拶もだいたいうまくいったし。
それにしても、フィールドワークとは玉藻の教育方針はスパルタだな。
「教えるのがめんどくさいだけなんじゃない」
時代劇で良く見る白いポンポンで、小狐丸の手入れをしている桔梗がつぶやく。
桔梗、それは思っていても言ってはいけない言葉だ。
「それでは、旦那様、玉藻様の分祠のご挨拶にご近所のお社に伺うのはいかがでしょうか?」
睦月ナイスだ、それに玉藻ではなく俺に提案してくるあたり、よくできてる。
おい、玉藻、主神としてないがしろにされたと思って、そこでいじけるな。さりげなくかりんとう饅頭の皿を引き寄せるあたりはさすがだ。
俺は東京の家の位置を思い浮かべる。千駄木、日暮里、鶯谷・・・・。寺町だけあって、周囲は寺ばっかりだ、七福神めぐりとかもあるが、これは神仏習合がらみだし除外していいだろう。まあ、一応確認はしておくか。
「玉藻、寺は除いてもいいんだろう?」
「うむ、寺でも習合しておれば神代に行けるのじゃが・・・・・、仏どもは堅苦しくてのう。我の性に合わぬ上に付き合いも面倒じゃ。まあ、此度は考えなくても良いぞ」
助かる。さすがに近所の二十を超える寺を巡るのは勘弁だ。
となると一番近いのは・・・・・元三島神社もあるが・・・・・根津神社か!。
地下鉄千代田線の根津駅か千駄木駅それぞれから歩いて五分程のところにある、千九百年の由緒がある神社だ。ちなみに根津駅から歩いてくると根津小学校入口に信号無視したくなる歩行者信号があるが、目の前が交番なので自重するように・・・・、これ豆な。
祭神は素戔嗚尊、大山咋神、誉田別命こと応神天皇。
まあ、各々本社があるだろうから根津の社を任されているのはそれぞれの神使たちだろうが。
それに根津神社は境内に摂末社として乙女稲荷神社と駒込稲荷神社がある。
特に乙女稲荷神社は縁結びの神様として名高い上に、千本鳥居のごとき景観が素晴らしいらしい。是非見ておきたいところだ。
これならちょうどいいな、応神天皇の神使に桔梗の加護の礼をした上で、二つの稲荷神社を任されている神使にも挨拶すればいいか。
「一番近くだと根津神社、乙女稲荷神社、駒込稲荷神社だな」
「・・・・・」
「・・・・・」
あれ、玉藻と睦月、何、その微妙な顔とその無言。
玉藻は苦虫を潰したような顔、睦月は困ったような顔をしている。俺と桔梗は顔を見合わせると頭の中に?マークを浮かべる。
「・・・まずいのか? 昔、玉藻が付き合ってた神使がいるとか、玉藻がおちょくった神使がいるとか、社にいたずらしたとか?」
思いつくままに尋ねる。
「将門!、おぬしが我の事をどのように考えているのかよくわかったわ」
沸点低い主神だな〜。はい、かりんとう饅頭をもう一つ。
俺が差し出すかりんとう饅頭を玉藻が奪い取る。
「そのう、根津権現様と駒込稲荷はよろしいのですが・・・・」
睦月が困ったように言う。
おおう権現様ときたか。そうか睦月は古い時代のあそこを知っているのだったな。
根津権現は明治の廃仏毀釈で廃されたはずだが、まあその言い方もまだ通じるか。
「問題は乙女稲荷か・・・。で、神使なのか?それとも玉藻が何かしたのか?」
玉藻が諦めたようにため息をつく。なんだ、いじりがいがないな。
「その、神使なのですが・・」
「我は行かぬぞ、此度は将門と睦月、桔梗で行ってまいれ」
玉藻が言いかける睦月の言葉に被せて言う。
おい、マジか? 玉藻が出歩かないだと!
桔梗も驚きのあまり白いポンポンを手から落とす。
「玉藻、谷中銀座の最中とメンチ食べないのか?」
まずは軽いジャブ。
「・・・・・」
なかなかしぶといな。
「サトーとすずきでメンチの食べ比べしないのか?」
さらに畳み掛ける。
「・・・・・」
拳を握り締めるあたり、悔しげだ。
「根津のたいやき食べないのか?」
甘いもの攻撃に移る
「くっ・・・・・・」
そっぽを向く。
おいおい、何か天変地異でも起こるのか。
「きつねうどんとちくわの天ぷら・・・」
炭水化物でトドメだ。
「行かぬと言っておろう!」
玉藻は身を翻すとお社の中へ消えていく。
おいおい、玉藻がそこまで嫌がる神使って何者だよ。
ある意味、興味が湧く。
まあ、この問題を軽く考えた俺は後で死ぬほど後悔するわけだが・・・。
結局、根津詣では玉藻抜きで行くこととあいなった。
後日、俺と桔梗は新幹線で東京へ向かい、分社の前で睦月と合流することとなった。
それにしても上野駅の新幹線ホーム深すぎだろう、大江戸線といい勝負じゃね?
最近では、神力の行使による着替えも玉藻に頼らず自力でスムーズにできるようになったので、町歩きは普段着だ。コンドル柄とどちらにするか悩んだが、今日はサンサーフのラトルスネークのアロハだ。桔梗には最低のセンスと冷たく評されたが解せぬ。
屋敷は改装工事が終わったらしく、すでに足組などが外されており、いつの間にかアパートにあった家具とかが運び込まれている。おいおい、俺の知らぬ間に引っ越し完了かよ。ちょ、俺の秘蔵のコレクションむき出しで置いてあるって・・・・。
「睦月ちゃんの着替え出来たわよ」
間一髪、隣の部屋にコレクションの隠匿に成功すると同時に、桔梗が部屋から出てくる。あいかわらずのデニムのホットパンツにTシャツ、バックプリントに何やら文字が書いてある。
「この御酒は我が御酒ならず・・・・何だそれ」
さっきまで車内の冷房対策の薄手のパーカーを羽織っていたので分からなかったが、細かい字が書いてある。
「酒飲んで万歳って感じの意味の神功皇后が詠んだ歌よ」
桔梗好みのそんな歌があるとは・・・・。武道の加護だけじゃなく酒の加護まで受けてんじゃないだろうな。挙句、桔梗が、知識を披露とは。
俺は絶句し・・・・・。
いや、続いて出てきた睦月の姿に絶句した。
白のショートパンツにグレーTシャツ、髪はポニテでつばの広い帽子を手に持っている。
そして注目すべきは丈。
長すぎもせず短すぎもせず、すべてがギリギリの線なのですよ! いかん、某グルメ漫画第2巻のパクリになってしまう。おおおお、あ、足が・・・・、まさに御御足。
玉藻に変わってこれを信心する事を真剣に考える。
御御足神社! あってもおかしくないな。
神力で超記憶術って使えるのか? 俺はこの姿を永遠に記憶に残すべく特訓することを誓った。
「旦那様・・・、これはちと恥ずか・・・」
顔を赤らめながら消え入るように話す睦月。
「桔梗! GJ」
俺のサムズアップにハイタッチを返す桔梗。
桔梗、帰りの弁当は大丸でミート矢澤の贅沢弁当買ってやるぞ!
恥ずかしくなったのか顔を真っ赤に染めた睦月が部屋に逃げ込む。
だあああああああ、その部屋さっき俺の秘蔵コレクション放り込んだ・・・・。
睦月、何、鍵かけてるの。桔梗、蹴破れ。俺の矜持が・・・・・。
しばらくして顔を真っ赤にして出てきた睦月に真っ青な顔をした俺は何も言えなかった。
・・・・・睦月と俺で先ほどの一幕をお互いなかったことにして家を出る。
家から根津神社まで徒歩四十分ほどだ。三崎坂を抜け、へび道を抜け、不忍通りへ出る。
睦月は俺の左側に寄り添い、手をつなぎ離さない。桔梗は空気を読んで、少し後ろを歩いている。
桔梗、帰りの弁当は極味弁当にグレードアップだ。
へび道は元は藍染川という川を暗渠化した名残でクネクネしているらしい。道沿いには洒落乙な店が立ち並び、冷やかしながらの散策もアリだが、時間が早いせいでほとんど開いてなかった。残念!
谷中銀座は帰りに行くとして、とりあえず最初の目的は根津のたいやきだ。十時半開店でまだ十五分前だが、もう既に五人ほど並んでいる。列に並び開店を待つ。
手焼きなので、並びの前に十個、二十個なりのお持たせ狙いの客がいるとちょっと時間がかかるが、今日はそんなにかからずにたいやきにありつくことができた。
袋には入れず、そのまま一つづつ紙で包み手渡してもらう。
皮はカリッと系でアンコはあんまり重くない。我が地元だとチェーン店のモチっとしたたいやきが多いので、これはかなりいける。
「もう一個ぐらいいけるわね」
桔梗、この後さらなる炭水化物が控えているんだぞ。
「旦那様、口元にあんこが・・・」
睦月が俺の口元のあんこを拭い、恥ずかしげに自分の口に運ぶ。
おおう・・・、この積極性。
やばい、さっきの秘蔵コレクション本気でガッチリ見られたか・・・。
根津のたいやきの店先を曲がり、昼飯予定のうどん屋の前を通り過ぎるとすぐに根津神社の表参道だ。
鳥居の前で立ち止まり、神力を行使し神使姿に変わる。
周囲の人目には認識されないとわかっていてもこの行為はちと緊張する。
玉藻の特訓のおかげで、スムーズに行えるようになってきたが、相変わらず六尺の感触はなれない。
桔梗の変化は睦月が担当する。
変化とともに身につけた荷物がどこかに収納されるようになったのには助かる。まあ、おかげで桔梗が小狐丸を隠して持ち運べないか騒いだが、さすがに幼馴染が銃刀法違反で逮捕されるのも、神代でダンビラ振り回すのも勘弁ということで納得してもらった。
鳥居をくぐり神代へと入る。
睦月、さすがに手を離そうね、これからは神使の仕事だから。
いや、だからそのシュンとした顔やめようよ・・・・、・・・応えるから。
うつむきながら睦月が手を離す。罪悪感が半端ねええええええええ。
よし! 俺は思いつくと妖力で耳と尻尾を出す。
「睦月・・・」
俺は尾の内の一本を、傍に立つ睦月の尾の一つに伸ばすと指のように絡める。
手をつなぐでもなく、尻尾を後ろでつないでいれば、パッと見分からないだろうし、もし見られても失礼にはならないだろう。
おおう、睦月の尻尾の感触がダイレクトに・・・。
これは千冬のモフリストの心がわかるな。
「だ、だ、旦那様、こ、こ、こ・・・」
睦月の顔が限界まで赤くなる。狐じゃなくタコだなこれじゃ。
俺は微笑む。そんなに嬉しいのか。
俺はそんな睦月とともに歩みを進めた。
そしてこのあと俺は痛感することになる。
神代の常識を知らないことがどんな騒ぎを起こすことになるかを。




