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おきつねさまと食べ歩き  作者: 八代将門
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幕間6 おきつねさまたち

 将門に我が心が覗かれる。


 将門の澄んだ神力が我の心に沁み入ってくる。


 いやじゃ、いやじゃ、いやじゃ。

 我の醜い心を覗かれるのはいやじゃ。


 瑞穂め、余計な気をまわしおってからに。


 我を受け入れてくれた一族、将門であろうとあのことを知ったら、都のものと同じく我を忌避するであろう。

 人というのはそういうものだ。

 それは絶対に避けねばならぬ。


 そう、我は安住の地を見つけたのじゃ。

 この心地よい場所を守るためならなんでもする。


 そう、なんでもしてやる。やらなかったことで後悔するのはもう終わりじゃ。



 すべての神力と妖力を注連縄しめなわに流し込む。

 そうじゃ、我、白面金毛九尾の狐じゃぞ。神代はともかく妖の世界では我に叶うものなぞおらんわ。


 早う解かねば・・・。

 まだ足りぬ、まだ足りぬ。

 ・・・大国主大神おおくにぬしのおおかみめ、このようなものを瑞穂に渡すとは。


 足りぬ、足りぬ、足りぬ・・・・。


 将門の神力が我の闇に届かんとしている。


 足りぬのなら増やせば良い。

 ・・・心の闇を力に変えればいいのじゃ。

 将門! 触れるでない。

 間に合うか。



 我の九本の尾が震える。


 口と体から注連縄が消え去る。

 立ち上がると、将門に駆け寄る。


「縛!」

 動き出そうとする荒野丸と瑞穂にしゅをかける。邪魔はさせぬぞ。


 我の心の闇に触れようとした将門につい払いのけるように力を放ってしまった。見ると鼻から血を流し、虚ろな瞳をしている。我の血の気が引く。力を当てすぎたか?

  

 もう、失うのはいやじゃ!

 我は将門を胸にかき抱く。血の生臭さとまとわりつくような感覚が我を襲う。

 将門の息遣いを胸に感じ、安堵する。

 

 将門は我の闇に触れおった。

 ならば、記憶を消し去るまでじゃ。


 両脇に立つ睦月と桔梗が叫んでいる。


「旦那様、旦那様、旦那様・・・」

「将門!」

  

 二人とも我の力に当てられて、声が出せるとはたいしたものだ。それだけ、将門のことを・・・・。

 我の心が痛む・・・。なぜじゃ。


「八代将門の主神たる玉藻前が命ずる。そちが思いつきし考えと我が心を覗きし記憶を永久とこしえに消えさらんことを」

 神力を行使する。


 胸の中で将門が寝息を立て始める。

 うむ、血は止まっておるな。

 

 胸に将門の息遣いを感じる。うまくいったようじゃ、おそらく記憶は消えておるじゃろう。



「荒野丸、瑞穂。二度と余計な真似をするではない。じゃれあいや悪ふざけは構わぬ、我も好きだしのう。じゃが、我の心に立ち入ることは誰にも許さぬ。たとえそなたたちの主神や出雲、伊勢を敵にまわすこととなってもな・・・・、わかったか」


 我は全神力と妖力を持って九本の尾を広げ、荒野丸と瑞穂を威圧する。

 荒野丸がすまなそうな顔を、瑞穂が驚きの中にも悔しさをにじませた顔をしている。

 荒野丸を好いているのはわかるが、ちと執着しすぎだのう。まあ、我もからかいすぎたが。


「解!」

 荒野丸と瑞穂の呪を解く。


「玉藻!・・・」

 荒野丸が何か言おうとする瑞穂を止める。


「瑞穂、やめろ」

 荒野丸が頭を下げる。


「すまん、余計なことだった。ただ、からかい半分とはいえ、お前のことを思ってというのは本当のことだ。こいつ、俺が神使となってからのお前しか知らなんだ。こいつの不始末は俺の不始末だ。代わりに俺が謝る。重ね重ねすまん」


「しかし、旦那様・・・・」


「見ろ、瑞穂」

 荒野丸が瑞穂を促す。


 うむなんじゃ。

 睦月も桔梗もなに我の背後を見ている。


「十本目?」

 桔梗がつぶやく。


 振り向くと、おお、完全な尾ではないが、金色に輝く光が一本、尾の中に混じっている。

 感覚は・・・・まだないな・・・・。

 ふむ、十尾への道が見えてきたのか、尾が増えるのは久々じゃ。


「今、あいつの勘気に触れてみろ。粉々に消し飛ばされるぞ」

 

「安心せい、我は寛容じゃ。神使の可愛げのある嫉妬心なぞ塵芥ちりあくたのようなものじゃ。瑞穂、落ち着け、荒野丸とは過去も現在も心配するような関わりなぞなかったわ。それにの、我、演技は下手かもしれんが、真剣勝負なら負けわせぬわ・・・・」


 ここで釘を刺さねばならぬ。


「良いか、我の心配をしてくれるのはわかるが、これは許すことができない。話せばわかるというのは瑞穂、そちのことわりじゃ。将門も己のことわりを持っておるが、人や神、妖に押し付けることはせなんだ。そちはちと人という存在を神代から見下しているのではないのか? 我だけではなく、神や人、妖の心には闇がある。すべてのものが闇を受け入れることができるなぞと思うなよ」


 何か言い放とうとする瑞穂を荒野丸が抑える。


「八代にはくれぐれも謝っていたと伝えてくれ。ここで何を言ってもせんなきこと。後ほど主神とともにお詫び申し上げる」


「旦那様!」

 頭を下げる荒野丸に瑞穂が抗議の声を上げる。


 荒野丸の姿が未練がましく視線を向ける瑞穂とともに消え去る。

 やれやれ、片付いたか。


 ・・・・・・あれ、将門の息遣いが聞こえない・・・・。


「将門!、将門!、将門!」


 神力の行使のほどを誤ったのか?

 我はさらに将門の頭を強く胸にかき抱く。


「・・・玉藻様・・・・その、旦那様、胸に埋もれて息ができないのでは?・・・・」

 

 睦月が涙ぐんだ目で我を見つめていた。

 

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