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おきつねさまと食べ歩き  作者: 八代将門
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おきつねさまと神使の気遣い


 意識を取り戻した俺が見た光景はまさに凄絶としか言いようがなかった。


 すぐ目の前、手を伸ばせば届く位置に玉藻が立っているが、その胸元の着物が真っ赤に染まっている。なんだこれ。その上、胸元が若干はだけている。なにこのエログロ!。


 そして玉藻。顔には微笑みを浮かべているが、目が笑っていない。俺をジッと見つめている。

 瞳を見る。いつもは金色の瞳なのに・・・、吸い込まれそうな深い闇・・・。

 スカイツリーに登ったわけでもないのにあそこがヒュンとなる。

 胸元に広がる赤い色。

 あれって、どう見ても血だよな。確か縛られていて・・・・。


「って玉藻! その血、怪我でもしたのか」

 俺は我に帰ると玉藻の体を触りながら確認する。注連縄しめなわを無理やり解いて怪我でもしたのか。


「落ち着け、将門! これはおぬしの鼻血じゃ」

 えっ。


 俺は手を鼻に持っていく。ぬるりとした感触に手を見ると真っ赤に染まっている。

「うぉおおお、お、ぃえ」

 思わず奇声を発してしまった。慌てて鼻をおさえるが、もう止まっているようだ。


 傍から俺に濡れ布巾が手渡される。桔梗ありがとう。ってこれ縁台拭いた布巾じゃねえか・・・。

 まあ、ないよりマシか。

 俺は、布巾を鼻にあてて血を拭う。


「睦月ちゃんが、今、ティッシュ取りに行ってるわよ」

 我が嫁はティッシュが何かわかるのだろうか。

 貧血気味なのは俺のはずなのに、桔梗の顔が青ざめている。剣術家でもリアルの血はきついのか?


 あれ、荒野丸と瑞穂は?

 俺は顔を斜めにあげて後頭部をトントンと叩きながら辺りを見回す。


「うむ、気を失ったお前を慮り、神田明神に先ほど帰りおった」

 玉藻がカラカラと笑いながら言う。先ほどの瞳の暗さがいつの間にか微塵もない。

 まるで百面相だな。感情の起伏が激しくて、考えが何も感じ取れない。


 いつの間に注連縄しめなわ抜け出したんだ。


「出雲ごときの縄で我が縛れるものか。我の神力と妖力を侮るな」

 相変わらず俺の心読んでるな。あれ、俺さっきまで・・・・

 って。


 

 注連縄しめなわ


 注連縄しめなわに縛られた玉藻を見て、何してたんだっけ。


 荒野丸と瑞穂に何か言われた気が・・・。


 気がつくと俺の左手を玉藻が握っていた。


「此度はすまないことをした。おぬしがあんまり我を粗略に扱うから、ちと灸をすえるつもりで荒野丸を担ぎ出したのじゃ。今後はこのようなことはせぬ。何かあればきちんと話すようにするから許してくれ」

 玉藻がこうべを垂れる。

 演技? 本気? ・・・なんだこの思いつき、俺、玉藻に対して何かんがえ・・・。


 俺、なんで気を失ったんだ?


「・・・おお、お、おぬし、我の考えを読もうとしたのだがな・・・」

 玉藻が頭をあげるとズイッと俺の顔に近づいて言う。

 ああ、思い出した。

 俺、玉藻の心を覗こうとして・・・・、あれ、そこからどうなったんだ。

 一瞬、真っ白な光景が思い浮かんだが、何も覚えていない。


「われな、注連縄しめなわ解こうと、全神力と妖力を発しておってな・・・。おぬし、あ〜、それに当てられて気を失ったのじゃ。頭痛と鼻血はそのせいじゃ」

 玉藻、顔、近い!。

 俺は思わず後退りする。そんなに気合入れて弁解しなくてもいいから。


 玉藻は俺の左手を離すと神妙な顔つきで話し始める。

「将門よ、おぬしを勝手に神使にし、神代に引き込んだこと、間違いなく我のわがままじゃ。その後もおぬしに甘え、此度は主神にあるまじき恥ずべき行為により、おぬしに迷惑をかけた。じゃが、誓おう・・・」


「我、玉藻前は天照大神あまてらすおおみかみ月読命つくよみ素戔嗚尊すさのおに誓う。神使たる八代将門、睦月、太田桔梗を神代、現世とかかわらず全ての穢れから守らんことを」

 玉藻の背後で、九本の尾が黄金色に輝き、緩やかに回っている。


 玉藻、顔が笑っていても、心が泣いてる。

 隠しているつもりだろうが、なぜか分かった。


 確かにきっかけは玉藻のわがままかもしれない。でも、それなりに楽しい人生となったと思う。そりゃ、人間やめたと言われたらそうかもしれないけど、俺には睦月がいる。それに、荒事は桔梗に頼ればいいしな。

 食べ歩きもまだ浅草だけだしな。


 それに、分かっちまった。


 玉藻は必死に隠そうとしたけど、あいつ神使か眷属がらみで昔になんかやらかしてる。

 だから、俺を意識的に神代のことわりにあまり近づけぬようにしたのだろう。

 

 おそらく、俺の先ほどの記憶がないのもおそらく玉藻の仕業だろう。心を覗いた俺に玉藻が何らかの干渉、おそらく記憶を消すなり、封じるなりのことをしたのだろう。

 これは玉藻に読まれるわけにはいかない。玉藻だって三千年も生きてりゃ、そりゃ人に言えない過去ぐらいあるだろう。

 何百年、何千年も後悔や悔悟の念を持ち続けるなんて、ひどい拷問だ。

 玉藻には二度とそんな気持ちにはさせない。

 俺は、思いついた考えを、ひたすら意識の深いところに沈める。


 俺は、何も知らないし、気づいていない。


 それが俺のことわりだ。


「他神の神使を使い、健気に使える神使をお脅すような主神ではありますが、我が一族を古より守り、嫁と引き合わせてくれた大事な主神でもあります。心から(・・・)の誓いの言葉に感謝申し上げ、今後とも神使の仕事に邁進してくことをここに申し上げます。」

 考えをおくびにも出さずさらりと言う。

 

「ううう、うむ、今後とも励むが良い」

 玉藻が照れたように横を向く。

 よし、ごまかせた。


「旦那様、これを」

 睦月が母屋からちょうど戻り、俺にボックスティッシュを差し出す。

 俺の心が暖かいもので満たされる。


「ありがとな、あと玉藻もにもな、俺の・・・」


 うん? 玉藻の胸がなぜ俺の鼻血で血まみれなんだ。

 ・

 ・

 ・

 俺の顔があそこに存在したということか!

 俺の鼻があの谷間に存在したということか!

 ・

 あの感触を堪能したということか!


 少し肌けた玉藻の胸を見ると、再び鼻からヌルリとしたものが流れでて、また、意識が遠くなっていく。


 感触・・・・・、覚えていねえええええ。


すいません。ちょっと観念的な話になってしまいました。

これからの展開は 幕間6を挟み おきつねさま紀行 ○○○○を予定しております。



他力本願ですが、都内で食べ歩きにオススメのところがあれば是非ご教授ください。


北千住、北品川、門前仲町、清澄白河辺りを攻めたいと思いますがどんなものでしょうか。




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