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おきつねさまと食べ歩き  作者: 八代将門
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おきつねさまと心の闇

 うむ、鵺に変化するレッサーパンダも大概だが、このタヌキ顔で神使姿の中年男、かなりお腹がぽっちゃりと・・・・・。

 荒野丸の視線が俺に突き刺さる。

 いや、そんなに殺気込めなくても。

 また、ちょろるから勘弁して。


 桔梗、何受け流してるの。順応早すぎ!


「これだから嫌だったんだ。俺だってもう三千歳超えてるんだ。きつねと違ってここまで経ると、昔みたいにやんちゃは出来ねえ体になってるしな。瑞穂勘弁してくれよ」

 心底嫌そうな顔だが、瑞穂の手前、あまり強いことは言わないようだ。

 桔梗もさすがに慮ったのか『このタヌキ顔のどこが・・・・』とは聞かなかった。やべ、読まれないよう、読まれないよう・・・。

 瑞穂が頷くと荒野丸が人型を解き、レッサーパンダの姿に戻る。まあ、鵺に変化しないだけマシか。



「八代、ここまでやっておいてなんなんだが、ちと忠告だ」

 荒野丸が、転がされた玉藻を軽く見やりながら、俺に言う。


「俺と玉藻の関係、神代の事情、そしてまあことわりというか作法か。玉藻がほとんど教えていないってのが、よくわかった」

 転がされた玉藻が動きを止める。


「こいつのことだから、半分(・・)は『何も教えずにいた方が面白いことが起きる』なんて考えで、ろくな話をせなんだろうが、それだとちとまずい」

 半分? おいおいなんだよそれ。

 

「神ってやつの中には、玉藻みたいに傲慢で自分勝手でなくせに狭量だったりしてな。対応間違えるとえらいことになる」

 まあ、神使もだがなと付け足す。

 いや玉藻disりすぎじゃね。まあ、自分も瑞穂もだけど。

 

「俺も主神(将門公)に使えて七百年余り経つが、未だその性格と性根が掴みきれん」

 将門公との仲立ち頼み辛いな。 


「まあ、そんなことのために伊勢があったり、出雲で神在祭が行われるんだが、まあ、君子危うきに近寄らず、敵を知り己を知ればってやつだ。神代の常識ってやつをちょいと頭に叩き込んだほうがいい」

 

 荒野丸が身を乗り出して俺に言う。


「八代、お前は切れる奴というか・・・なんというか・・・、ああ、読めないっていうのが正しいな。俺の存在、玉藻の過去から獅子王を想起し、入手方法まで思いつくっていうのは正直寒気がしたぜ。我が主神に獅子王の封印を頼んでも無理だの一言だったからな」


「あ〜、何て言ったらいいんだ・・・・」

 荒野丸がワシャワシャと頭を搔きむしる。


「八代はの・・・、神代の理を軽んじすぎなのじゃ」

 瑞穂が荒野丸の言葉を引き継ぐ。


「睦月を娶った経緯は聞いておる。伊勢が日の本中に知らせたからな。あれで神代はお前に注目せざるを得なくなった」

 睦月が縁台に置かれた俺の手を握る。

 

「神代は新たなことわりの出現に揺れているのじゃ。八代が見せたことわりは神代でも現世でも、さらには黄泉の国、夜の国のことわりにもあらず、新たなことわりなのじゃ」

 そういや前に神代のことわりなど関係ないと玉藻に啖呵切った覚えがあるな。


「先ほど、玉藻の考え半分といっただろ。こやつ根は面白いとか思ってはいても、半分はお前が心配だったんだ。ここで脅せば、神代とはある程度距離を取るはずだとな」

 荒野丸が、後を引き取る。


 俺は改めて転がされてる玉藻を見る。向こうを向いているので、どんな表情をしているのかわからない。九本の尻尾も垂れたまま微動だにしない。

 本当にそんな深い考えしてるのか? 和菓子につられる神様だぞ?


「神代に関われば関わるほど、人から離れていくのが自分でもわかるだろ」

 と荒野丸。


「その耳と尻尾、みたところ妖力が感じられるわ、まだ妖とは言えんが半妖といえよう」

 と瑞穂。


「人でもなく、妖でもなく、神でもなく、それで神代と現世を生きて行く。そんな八代を玉藻をおもんばかったのだ。・・・まあ、あくまで半分程度だがな」

 瑞穂よ、半分程度であの仕置きか。

 茶化しながらも確かに気になる。本当にそこまで考えているのか?


「玉藻の神力妖力が抑えられている今、八代なら玉藻の心奥を読めようぞ、試してみい」

 瑞穂の言葉を聞いて、玉藻が這って逃げる。いやいや、そんな尺取り虫みたいに離れていかなくても。

 桔梗、仁王立ちで通せんぼしなくてもいいから。


 俺は、離れていく玉藻を見つめる。

 考えを読むってどうやるんだ? 今までは玉藻の感情と心の声が自然と流れ込んできた。

 覗くのか? どこを? 頭か? ・・・胸か?・・・ 心の有り様とは?

 逃げるな、玉藻、俺に心の・・・・・。


『享楽、反省、後悔、好奇心、傲慢、退廃、食欲、貢物、温泉、えすて、メロン、長持・・・』なんだこれ、渦のごとく勝手に流れ込んでくる。


 あれ、奥底からこちらになんか・・・・・


 あれここは?

 俺は白い花が咲く木々の間に立っている。

 これだけ花に囲まれてるのになんの香りもしない。なんの花だこれ。

 一陣の風が吹くと白い花びらが一斉に散る。

 散りゆく花の向こうに誰か見える。

 ケモミミ、巫女服姿、睦月か?

 ・・・でも尾が二本だ。睦月じゃない。

 途端、俺は花びらに包み込まれ、視界を失う。

 

「懺悔、贖罪、鍵、身代わり・・・・卯月うづき!」

 ひときわ大きい感情の渦が花びらとともに俺を襲う。

 この感情はなんだろ・・・・・。あれ、卯月って四月のことだよね。

 でも、これって名前か?。


 そこまで思った瞬間、俺は意識を失った。


「・・・様、・・・様、旦那様」

 睦月の声が聞こえる。あれ、目の前真っ暗で、顔全体が柔らかな感触で覆われている。鼻からぬるりと何かが流れ出る感覚と・・・、ダァアーーー、頭が痛い。あれ、俺、なにしてたんだっっけ?


 玉藻の心読んで、何か流れ込んできた。卯月ってなんだ? 誰だ? 懺悔? 身代わり? あれもしかして・・・


「そこまでじゃ、八代将門の主神たる玉藻前が命ず・・・・」

 あれ、何で玉藻の声が俺の頭のすぐ上から聞こえるの?


「旦那様!」

「将門!」

 あれ、何で睦月と桔梗の声が両脇から聞こえるの?


「・・・そちが思いつきし考えと我が心を覗きし記憶を永久とこしえに消えさらんことを」


 俺は、顔に押し付けられた二つの柔らかいものの甘美なる感覚とともにその言葉を受け入れた。



 

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