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おきつねさまと食べ歩き  作者: 八代将門
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おきつねさまと神使と鵺と

「玉藻前様の神使たる八代将門殿と太田桔梗殿とお見受けする。我、平将門公の神使たる荒野丸こうやまるがご挨拶申し上げる」

 挨拶を受けて俺の硬直(フリーズ)が解ける。


「ご挨拶痛み入る。平将門公には、わたくしが神使になるにあたり、お骨折りをいただいていることについてお礼の言葉も申し上げておりませんでした。平将門公の名代にて、神使たる荒野丸こうやまる様に非礼をお詫び申し上げます」

 俺は視線を切らすことなく軽く頭を下げる。

 声が多少震えたが、言い切っただけマシだろう。

 どうしても視線を外すことができない。それほどまでに俺の第六感が警鐘を鳴らしている。


 そりゃ、本山の神使どもが黙るわけだ、これはもうレベルが違う。よく玉藻はこんな化け物を軽く扱っていたな。俺は神代を今まで甘く見ていたことを痛感した。

 神使でこのレベル。なら、平将門公は?。


「将門!」

 桔梗の声が俺を思考の海から拾い出す。

 ようやく傍の桔梗を見ることができた。気丈にも全身冷や汗にまみれながらも、微動だにせずに小狐丸に右手を添えている。


「人の身でありながら、我の前で正気を保つとはさすが。我が主人の想い人であっただけのことはある」

 こいつ桔梗が目的か?。


 俺の考えを読んだかのように、荒野丸こうやまるがクックッと笑う。笑い声さえも怖気が来る有り様だ。


「安心めされい。此度は我が主人あるじの命によって罷り越したわけではない」

 荒野丸こうやまるが二本足で立ち上がる。

 ふと三毛別羆事件さんけべつひぐまじけんが脳裏によぎる。

 俺は一歩引きたくなったが、自分の心を叱咤する。桔梗も怯むことなかった、助かる、後で太刀袋買ってやるぞ。

 

「ほほう、なかなか豪胆であるな、神使殿」

 ヤバイ、こいつマジで心読んでやがる。小手先の話術は通じない、覚悟を決めるしかない。

 最悪、桔梗だけでも・・・。


「その思い切りの良さ、さすが、我が主人あるじの魂を引き継いでいるだけのことはある」


 俺は、右手で桔梗を制し、自分の背後へ誘導する。


「ふふふ、神使殿は心配性であるな。案ずるな、八幡三神を敵にまわすことなぞせなんだ」

 さらに心を読まれる。


「我、雷獣での。坂東のこの地で若雷が穢れを祓ったと聞いてのう、どのような力か確かめに参ったのだ」


 尾の蛇がさらにヒューヒューと音を発する。


 様子見などではではない、これはもう立派な威力偵察だ。

 これは俺の考えが浅かった。玉藻とのやりとりを真剣に捉えず、睦月との関係に有頂天になり、神代と現世との認識の違いを真摯に考えず、桔梗へ甘えた、それがこのざまだ。

 

「さすが玉藻前様の神使たる睦月殿、空狐だけあって、賀茂別雷命かもわけいかづちのみことの加護を御するとは・・・」

 笑いながら言う荒野丸を見つめながら、俺は歯ぎしりをする。

 睦月を巻き込むな。そのためならなんでもしてやる。考えろ、考えろ、考えろ。

 こいつの本質は、弱肉強食だ。

 抑えつければいい。だが俺の力では無理だ。絶望感が俺の心に拡がる。

 いや、諦めるな。

 

 鵺を退治したのは三位源頼政だ。神ではないので頼ることはできない。

 でもこいつはその鵺が復活したものなのか、それとも新たな鵺なのか?

 

 三位はどうやって退治した?。何で?。俺はつたない記憶を探る。


「獅子王!」

 小さく呟く。


 源頼政が鵺を退治したのは獅子王という太刀だ。鵺にとっては弱点となるだろう。今は東京国立博物館に所蔵されているはずだ。国立博物館の敷地内に社は・・・・ない。神代に通じていない以上リアルに盗むしかないが、どう見ても不可能だ。

 

「ほほう、神使殿は聡明であるな。そこに気づくとは・・・、たいしたものだ。だが、そこまでだ」

 荒野丸が嘲笑する。

 こいつ完全にからかってやがる。


 だが俺は八代将門だ。玉藻前様の第一神使にして、睦月の旦那、そして桔梗の幼馴染だ。

 諦めることなどしない。針の穴を通す所業かもしれないが、絶対に諦めない。

 

 玉藻は遣唐使の吉備真備の船に乗ってこの国に来たと言っていた。孔子や孟子の書物を提供して船に乗せてもらったと自慢していた。なら孔子と孟子と面識はあったのか?

 わからない、だけど希望はそこだけだ。

 

 東京国立博物館の前身は明治五年の湯島聖堂大成殿の博覧会だ。大成殿には孔子や孟子が祀られている。

 

 玉藻に確認を取らなければならないが、勝算はある。

 

 もし、可能ならば神代を通じて獅子王を手に入れられる。


 俺はそこまで考え、思考をブロックする。


「ふふふふふ、さすが我が主人と同じ魂を持つだけのことはある。ここまで、追い詰めても諦めぬとは・・・。現世から我が神代に再び出ずることはないと思っておった獅子王だが、そのような方法があるとは思わなんだ。やはり主は危険よのう」 

 読まれた!。

 荒野丸が目を細め、再び四つ足となり、今にも飛びかからんとする体制となる。

 

 桔梗が小狐丸を抜こうとし、前に出ようとするが、俺は荒野丸から目線を切らず桔梗を制止する。 


「全力は尽くすが、桔梗、すまん」

 俺は、全神力、妖力を出さんと集中する。耳と尾が出るのがわかる。

 まず敵わないだろう。それでも・・・・。


「はて、荒野丸においては我が第一神使たる八代将門と八幡の神が後見する神使たる太田桔梗に何用じゃ?」


 俺と桔梗の背後から声がかかり、荒野丸が一歩引く。


 真打(玉藻)登場だ。


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