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おきつねさまと食べ歩き  作者: 八代将門
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おきつねさまと神使の返礼

 朝、お社の掃除に訪れると昨日、女子会サバトに一人残したことを睦月に涙ながらに責められた。

 くっ、これは効く!

 思わず竹箒を投げ捨てて抱きしめたくなるほどの破壊力だ。


 でも楽しかっただろ?

 だいたい女子会といえば恋バナだ。俺としては、従姉妹たちに自分と睦月のことを知られるのは気恥ずかしいことだが、それで玉藻や睦月が、従姉妹たちと仲良くなれるなら我慢できる。


「はい。玉藻前様と桔梗様との女子会というのも楽しかったのですが、昨日の集まりも楽しかったのです。ただ、旦那様とのことをいろいろと聞かれてしまい、恥ずかしいことまで話す羽目に・・・・」

 睦月の顔が限界まで赤くなる。


 いや、まだ恥ずかしいことなんて何もないよね。それに呼び方、旦那様に戻ってる。


「あの、二人の時だけ、旦那様と・・・」


 うんうん良きかな良きかな。


 玉藻と桔梗は神の加護について盛り上がっていたらしい。

 どうやら、加護のせいか、最近、技の切れがいいらしいので、玉藻に見てもらったらしい。

八幡大神やはたのおおかみだけでなく神功皇后じんぐうこうごうの加護もいただいているとのことでした」

 睦月が報告する。

 最近、勘が良くなってきているのもそのせいなのか。


 千夏と千秋は俺とのことを根掘り葉掘り尋ね、千冬は睦月の耳と尻尾をやたらと触りたがったらしい。

 これにはさすがに閉口したらしい。

 うむ、あとで千冬によく言っておこう。


「千春様は疲れたとか言って、あれから暫くしてお休みになられました」

 考えてみると千春姉さんが一番の常識人だろうな。

 普通、こんな状況に順応できる方が間違ってるってもんだ。


 睦月が俺に枝垂れかかる。

「私は、旦那様が人の常識を持っていないことで、救われました」

 う、うん、睦月の体に手を回さないのは決して俺がヘタレということではない。いや、まだ、披露宴終わっていないし・・・・。

 でも、ここ誰もいないしな。ちょっとなら。


 あたりを見回しながら、竹箒から手を離し、睦月の背に手をまわす。カランという音とともに石畳に竹箒が転がる。

 その瞬間、お社の陰から頭だけ出してこちらを覗き込む千夏、千秋、千冬の視線とぶつかった。


 勘弁してくれ(穴があったら入りたい)



 


 俺の脇に立つ、睦月は真っ赤な顔をしている。

 どうも最近、赤面する睦月ばかり見ている気がする。

 そして、問題は俺の顔もおそらく真っ赤だろうということだ。


 目の前には、ニヤニヤしている千夏、千秋、千冬の三姉妹が立っている。


「先ほどはお楽しみでしたね」

 

「邪魔しちゃったかな〜」


「恥ずかしい時って尻尾まるまるんだ」


 この拷問は玉藻と桔梗が駆けつけるまで暫く続いた。


 

 玉藻と桔梗のとりなしで、縁台に席を移し、話は続く。

 千春姉さんがいないのは、どうやら常識人であろうとこの世界に関わるのは最小限にとどめようとの決意らしい。やはり、人間、大人になると頭が固くなるのか?

 神代と現世、妖について話が弾む。


 話の間をみて、千冬にあまり睦月の耳と尻尾を触らないよう注意する。


「将門、独占欲強いのね〜」

 千夏が俺をからかう。こいつは俺と年が近いだけあって呼び捨てだ。


「いやいや、そういうわけじゃないから」

 途端、睦月が俺の衣の袖をギュッと握る。


「ああ、そうだよ。睦月の耳と尻尾を触るのは俺だけだよ!」

 睦月を悲しませることはもうしない。

 ああ、もう、どうにでもなれ。


「将門兄ちゃんも耳と尻尾出せるんだよね?」

 千冬の問いに。


 おおう、と頷いて妖力で耳と尻尾を出す。


「将門兄ちゃん、尻尾触らせて」

 千冬が手を伸ばす。が、千冬が触る前に俺の五本の尻尾全てを睦月が抱える。


「旦那様と一緒、旦那様と一緒、旦那様と一緒・・・・」


 縁台の周囲に冷気が満ちる。千夏たちをみると鳥肌が立っている上、青い顔をしている。

 いや、今日気温30度以上あったはず。


 桔梗が睦月に何事か囁く。これだけ近いのに何を言ったのか聞き取れない。

 途端、睦月が手を離すと周囲の温度が元に戻り、皆、ホッとしたような顔をしている。


「千冬ちゃん、耳と尻尾って神聖なものなのよ。玉藻様が白面金毛九尾というのは聞いたわよね。軽い気持ちで尾を触ると、どんなことになるか想像がつくかしら」


 桔梗の言葉にブンブンと千冬が首を縦にものすごい勢いで振る。いや、振りすぎて血の気引いてるから。

 千夏も千秋も引いている。


「で、今日はどのような菓子が出てくるのじゃ」

 空気を読んだ玉藻が話題を変えようと発言する。

 ナイス、雇用主。


 ・・・・って、菓子?


「今日は日曜じゃろ。我も睦月も楽しみにして・・・・」


 やべ、考え読まれた。


「・・・まさか用意しておらんとな」

 再び、縁台の周囲に冷気が満ちる。

 あああああ、いやいや、考えろ、考えろ、考えろ。

 三姉妹にアイコンタクトを取る。


 千夏、目を逸らす。だめだ、使えない。

 千秋、目を逸らす。だめだ、使えない。

 千冬、俺の目を見つめ、声に出さず『しっぽ』と。


 俺は首を縦に振る。俺の尊厳が売却された瞬間だった。


「玉藻様、今までどんな菓子を食べたの? 千冬知りたいな〜、もし千冬が知ってるお菓子をまだ玉藻様が食べてないなら、ぜひお勧めしたいし〜」

 なにそのセリフ棒読! しかもわざとらしいうえにあざとい! 玉藻に通じるわけ・・・。


 千冬の言葉に玉藻は、あ〜と額にに右手の中指を当てながら思い出しながら菓子の名を上げていく。


 通じるのかよ!


 それを聞いた千冬が声に出さず『らすく』と口の動きで俺に伝える。


 時計を見る。まだ、昼前だ、余裕で間に合う。

「玉藻様、本日は仏蘭西ふらんすなる国で作られたパンなるものを元にした菓子を提供したいと存じます。つきましては、購入のため、しばし御身のそばを離れることをお許し願いたい」


「許す!!」

 即決かよ。

 俺は、速攻で車を出し、国道17号線沿いのお菓子店に向かう。市内のデパートや駅にも支店があるが、別にそんなにかかるわけでもないので本店へ向かう。

 国道をひた走り、円柱に囲まれた白亜の店舗に到着する。イオニア式だかコリント式だかドーリア式だかわからんが、豪奢な建物だ。

 グーテ・デ・ロワ(王様のおやつ)なる大層な名前のラスクを購入して、帰還する。

 本当ならチョコレートコーティングに金箔を散らした豪奢なラスクを買いたかったのだが、残念ながら夏場は売っていなかった。

 地元を代表する菓子のはずだったのだが、以前、東京からの来客が松屋銀座店で買い求めて、お土産に持ってきた時は苦笑せざるを得なかった。最近では、九州でも売ってるらしい。


 帰宅すると玉藻と睦月から驚きの提案があった。


 今回の披露の礼に、睦月が皆に舞いを見せたいとのことだった。

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