おきつねさまと神使の従姉妹
ひと通りの騒ぎが収まった後、ようやく再起動を果たした叔父夫婦と祖父母、両親の間で、今までの顛末とことの是非について話し合われた。
俺と睦月、四姉妹は当分蚊帳の外である。
とりあえずお膳に手をつける。
おお、今シーズン初の鮎の塩焼き、冷めてはいるがきちんと蓼酢がついている。
睦月、骨はこうやるとうまく取れるぞ。俺は鮎を上から箸でおして身を崩してから頭ごと骨を抜き取る。
睦月が真似る。いや、うまいな。一回で成功させるとは。
ふと、顔をあげると四姉妹の生暖かい視線が突き刺さる。
お前たち叔父さんたちの話を聞けよ、将来がかかっているんだぞ。
「いやいや、おぬしのせいじゃろ!」
玉藻が突っ込む。怒りっぽくなったな。
「誰のせいだと思うておる」
玉藻が鮎を頭からバリバリ齧る。うん、カルシウムは大事だよな。はじかみ残すなよ。
従姉妹たちも食事を取り始める。ここらへんのメンタルの強さはさすが我が一族らしい。
玉藻が監修しただけあって、今年のお膳は一味違った。お造りには鯛に縞鯵、牡丹鱧、ご飯は枝豆ご飯、椀はキスであつらえてある。鉢肴は、茄子とオクラを炊いたもので味は薄め。玉藻と睦月の膳にだけ稲荷寿司。
ふむ、玉藻は繊細な味が好みなのか。なら、湯葉懐石か豆腐懐石もいいな。京都が駄目ならとりあえず日光あたりか。
話は続き、叔父夫婦も最初は難を示したものの、祖父と父による『純利益倍増確実!』などという甘言に踊らされて見事四姉妹の身売りに同意した。
おいおい、叔父さん雑貨の輸出入業だろう。海外まで玉藻のご利益通じるのかよ。
「失礼な。われ、もとは大陸生まれじゃぞ」
おおう、忘れてた。天竺にもいたらしいな。
「それと ゆばかいせき とやらも食べてみたいぞ」
だから、心読まないでくれ。
祖父母、両親、叔父夫婦により、四姉妹の内誰かが養子に入ることには決まったが、問題は”だれが”ということだ。
これは四姉妹の話し合いでということになり、あらためて、四姉妹と俺と睦月、玉藻での話し合いの場が設けられることになった。
そして場を変えての話し合い。
なぜか、大量の菓子と飲み物を近所のコンビニではなく近くのコストコまで買いに行かされ、さらに戻ってみると桔梗までいる。
誰だよバラエティクッキーとティラミスを希望したやつ!。
女:玉藻、睦月、桔梗、千春姉さん、千夏、千秋、千冬
男:俺
なにこの圧倒的女子会。
しかも、皆もう既に打ち解けているし。
俺がここにいる理由あるのか?
玉藻、何説明したの?
「将門、そこに座りなさい」
怒りの表情に満ちた長女の千春が俺をねめつける。
俺が座ると睦月も座布団を持って俺の横に移動してくる。
今年大学三年になった千春姉さんだ。21歳で俺より年上のため、いつも千春姉さんと呼んでいる。
あれ、なんか千春姉さんだけ怒りのベクトルが違う気がする。
まさか、自分より先に結婚したからって怒っているわけじゃないよな。
「千春さん、自分より先に将門がゴールインしたから怒っているのよ」
桔梗がさらりと言う。おう、桔梗まで俺の心読めるのか?
「ちが〜〜〜う。玉藻様から聞いたわよ。どう見ても今回の原因あなたででしょ。よくもこんな騒ぎに巻き込んでくれたわね。私たちまだ学生なのよ。養子はともかく、結婚だなんて私たちの意思ってものはどうなるのよ? 何より、何で私たちがあんたの幸せのために苦労しなきゃならないのよ。何が悲しくて、こんな話し合いをしなきゃならないのよ」
玉藻一体どういう説明をしたんだ。
元はといえば玉藻の食い意地のような気がするが。
「私は別にいいわよ」
千夏。
「私も」
千秋。
「私も」
千冬。
「えっ」
千春姉さん。
「だって、私、姉さんみたいに頭良くないから高校出たら就職か専門学校行く気だったし、本家に入れば、花嫁修業という名のニート生活送れるでしょ」
千夏、無駄に前向きだな。
「結婚相手見つけてくれて、式の費用まで出してくれるんでしょ。おまけに苗字変えなくていいし。ああ、新婚旅行は豪華クルーズで」
千秋、旦那の容姿とか稼ぎとか不問なのか。
「年齢的に私が候補になるわけはないしね」
千冬、しっかりしてるな〜。
「ということは私と千秋のどちらかで決まりね。まあ、あとはおじいちゃんや伯父さんたちに二人のうちから選んでもらえばいいんじゃない」
千夏があっさりと結論を出す。
「あなたたちそんな簡単に・・・」
「じゃあ、千春姉さんが立候補する?」
千夏の言葉に千春姉さんがだまりこむ。
「千春姉さんは好きにしていいのよ。別にうちは選ばれなかった方か千冬が婿をとって継ぐから。研究に打ち込むもよし、嫁に行くのもよし。気にしなくてもいいのよ」
千夏があっけらかんと言い放ち、千秋と千冬も同意する。
「将門、おぬしの一族、みんなこんな感じなのか?」
玉藻が何か得体の知れないものでも見るかのように姉妹を見つめている。
「おぬしが自分の有り様を軽く見るのは性格だと思っておったが、他の一族の者もそうなのじゃな。これはもう業としか言いようがないわ」
「んで、話、決まったとこで本題に入るわよ」
千夏が場を取り仕切り始める。
あれ、本題って今までのが本題だよね。
「さあ、将門兄さんは、出ていく出て行く」
千秋と千冬にむんずと両手を捕まえられ、立上らされると部屋の外に追い出される。
千夏は俺を追いかけようとする睦月の肩に両手を置いてガッチリホールドしている。
「さあ、睦月ちゃん。将門のどこが気に入ったのか話してもらうわよ」
千夏。
「将門お兄ちゃんとどこまでいってるの?」
千秋。
「耳と尻尾、モフらせて」
千冬。
「・・・・・」
あっけにとられ展開についていけない千春姉さん。
睦月が助けを求めるかのように俺を見つめる。
しかし無情にも俺の眼の前で、桔梗によりが襖が閉められた。




