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おきつねさまと食べ歩き  作者: 八代将門
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おきつねさまとお披露目

 俺が半妖はんようになろうと、ケモミミと尻尾が生えようと、時の流れは変わるわけでもなく、山の日を経て、お盆がやってきた。


 祖父母と両親は俺の耳と尻尾を見てもさもありなんという表情をしていて、驚きもしなかった。


 不可思議怪奇現象に耐性つきすぎじゃね?


 お盆といっても、新盆あらぼんでもないので、全ての親戚が集まるわけではない。父の弟夫婦とその娘たちが来るだけである。本来なら叔母夫婦もくるのだが、あいにくと二年前から海外生活のため、欠席と相成った。

 もっとも四姉妹なので総勢六名、部屋や布団の支度、食材や酒の手配に母や睦月は奔走している。我が家の仏壇を掃除し、精霊棚を設け、精霊馬を作る睦月の姿を見て、違和感を感じたのは俺だけではあるまい。

 睦月、精霊馬で狐を作るのは止めなさい。


「神仏習合から千三百年はたっておるぞ。いまさら、気にする者なぞおるものか」

 と玉藻。

 気にしてるの俺だけかよ。


 夕刻、門前で迎え火を焚いていると叔父たちが到着した。お盆の仕出し膳も届き、広間に運び込まれる。

 

 いつもは上座に祖父と祖母が座り、周りを囲むように一同が坐るのだが、今回は俺と睦月のために上座が空けられている。

 そしてその下に玉藻の席が設けられ、祖父母の席がそれに続く。

 最初は、玉藻を上座にという話だったのだが、玉藻がそれを固辞したのだ。


「まあ、宴の主役はおぬしらじゃしの。われは紹介だけで十分じゃ」

 その紹介とやらが、一番の驚きなんだが。


「神代におけるおぬしの存在のほうがよっぽど驚きじゃ。少しは自覚せい!」

 はいはい。

 こんなやり取りを経て、迎えた宴。




「本当にやるのか?」

 俺はうんざりした口調で本日十一回目の疑問を両親にぶつける。


「決まってる」

「当たり前でしょ」

 容赦ない返答だ。

 

 俺と睦月は神使の装束だ。俺は衣に袴、睦月は巫女衣装、こんなお披露目あるのかよ。

 従姉妹たちになんと言われるか・・・。

 あれ、睦月、牡丹柄の黒引き振袖作ってなかったっけ?


「あれは、十月の披露宴でとのことです」

 睦月が節目がちに答える。


 睦月はというとケモミミと尻尾を神力で隠し、見た目は人間だ。今日は髪はおろしてある。

 まあ、百聞は一見にしかず、とは言うが、何も知らない叔父夫婦、従姉妹たちにはこれからの出来事(イベント)刺激が強くないか?

 俺は一縷の望みをかけて、両親を見る。

 

「だめだ」

「だめよ」


 はいはい、行きますか。


 両親が俺に先立って広間に入り、俺と睦月が続く。

 玉藻は席に坐っているが、今日は十二単じゅうにひとえではなく、女官服姿だ。耳と尻尾は隠している。しかし半端ない威圧感だ。物怖じしないはずの四姉妹が気おされている。

 パツキン、和装の知らぬ顔の人が坐っているというのに、誰も話しかけられないでいるらしい。

 皆の顔をちらりと伺いながら席に坐る。


 叔父夫婦、従姉妹たちは戸惑った表情を浮かべている。


「さて、皆そろったことだからはじめるぞ」

 祖父の言葉で、お披露目という名の混沌カオスが幕を開けた。


「まずは玉藻前様を紹介する。我が家のお社様であり、一族を長年守護してくださった祭神であらせられる。このたび、将門の行いにて、この現世に光臨なされた。玉藻前様、どうか一族にお言葉を」

 

 玉藻が立ち上がり、芝居がかった動作で言葉を発する。

「うむ、われが玉藻前である。そなたら一族の長年の献身、見事である。そなたらがわれを信心する限り、われはそなたらに永久とわに加護を与えようぞ」


 叔父夫婦たちはまさに狐につままれたような顔をしている。

 一番年下の従姉妹、中学1年の千冬ちふゆが、いち早く立ち直った。


「おじいちゃん、これ何の冗談?」


「将門兄ちゃんの格好もそうだし、そっちの巫女さんも誰?」

 中学3年の三女、千秋ちあきも続く。


「玉藻前様、申し訳ありません。この者には私から良く言い聞かせますので・・・」

 これ絶対、仕込んでるだろう。 

 祖父が芝居がかって言う。


「うむ、神は寛容じゃ」

 うそ吐け、誰が縁台を修理したと思っている。


「まあ、信じられぬのもしかたあるまい。われの真の姿を見せようぞ」

 玉藻が軽く右手を振ると、髪から耳が飛び出し、女官服の後ろから金色に輝く九本の尻尾が現れる。

 

「みみ!」

「けもみみ!」

「きつね!」

「マジック?」

 四姉妹が叫ぶ。ちなみに上から、千冬ちふゆ千秋ちあき千夏ちか千春ちはる姉さんである。

 叔父夫婦はフリーズしている。さもありなん。


 玉藻が席に坐る。背後で後光のように九本の尾が優雅に波打つように動いている。


「言いたいことがあるのはわかるが、次じゃ。将門、睦月」

 祖父の言葉に俺たちは立ち上がる。


「このたび、将門の嫁に迎えた睦月じゃ。お社様こと玉藻前様の神使を勤めておる。睦月、挨拶を」


「こたび、将門様を通じてご一家の末席に加わることとなりました睦月と申します。不束者ではございますが、今後ともよろしくお願いいたします」

 睦月が頭を下げる。


「お嫁さん!」

「巫女さんが!」

「神使って!」

「ありえない!」

 おい、千春姉さん、そこでなんで断定する。 

 叔父夫婦のフリーズは更に延長される。


「そこでじゃ、お前たち四姉妹に話があるのじゃが・・・」

 祖父が俺たちに目配せする。


「睦月を将門の嫁に迎えたことでの、将門の子が本家を継ぐことが出来なくなってのう。将門、睦月、見せてみい」


 俺は妖力、睦月は神力を行使する。

 とたん俺と睦月にケモミミと五本の尾が現れる。


「えっ!」

「えっ!」

「いち、に、さん、し、ご、五本!」

「ペアルック!」

 いや、コスプレじゃないから。


「まあ、さすがに人ではない者に後は継がせられんのでな。お前たち四姉妹のうち一人、養子として迎え入れるので、婿を取って、生まれた子に後を継いでもらいたいのじゃ」


 数分の沈黙の後、四姉妹の絶叫が広間に響き渡った。

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