おきつねさまと神使の尻尾
あれ、自分の姿見ていないのになぜ耳と尻尾があるのが分かるのだろか?
「ぐほっ!」
疑問に思った瞬間、睦月にボディアタックをくらい、抱きつかれたうえ、なぜか思いっきり泣かれた。
「旦那様!、旦那様!、旦那様!」
おお、呼び方戻ってる。あれ、なにこの感動具合。むっちゃ、なにか流れ込んでる。
「私と一緒! 私と一緒!」
いや睦月、尻尾握らないで! 千切れる、痛いって! これって痛覚あるってどういうことよ!
「なんということを・・・」
玉藻、ドサクサにまぎれて耳握るな! 痛いって。
あれ、俺、今、耳が四つあるのか?
すげえ、両方の耳から音が聞こえる。しかも片方の耳ものすごく聞こえがいい、こっちケモミミのほうか。
玉藻を見ると呆然とした表情で、俺の耳をまだニギニギしている。いや、それやめて。
「はいはい、そこまでよ。二人とも落ち着いてね」
いつの間に来たのか、桔梗がパンパンと手を打ち鳴らす。
「母屋でおば様とお盆の打ち合わせをしていたら睦月ちゃんが突然走り出してね。私がおってきたって訳よ」
わが嫁はいつの間にこんなにアグレッシブになったのだ。
桔梗のとりなしに、玉藻は俺から離れるが、睦月はそのままだ。
「いや、睦月、ちょっと尻尾痛いから」
「一緒、一緒、旦那様と同じで一緒!」
おおう、止まる気配がない。いや胸当たってる、はだけてる、ああああ、何、俺の耳の匂い嗅いじゃってるの?
桔梗は苦笑しながら、玉藻と見合う。
「桔梗、そちはこれを予想していたのか?」
あれ、俺なにも話してないよね。それにこんなこと考えてもいなかったし。
玉藻があきれたような表情を浮かべる。
「玉藻様、わかったでしょ。これが将門よ」
あれ、なに、その二人のアイコンタクト?
そして十三分後。
俺は、玉藻の前で正座させられている。
はて、前にもあったような・・・。まあそのときは睦月も一緒だったが・・・て、脇を見ると睦月が俺に枝垂れかかり、俺の尾の1本を握っている。
多少は落ち着いたものの、どうしても俺の尻尾の一本を握ったまま離さない。
「睦月、はしゃぐのは分かるが、将門から離れよ。ちとはしたないぞ」
睦月は改めて自分の状況に気付いたらしく、顔を真っ赤にして、俺から離れる。が、尻尾は握ったままだ。
玉藻がため息を吐く。
「このような解決法があるとはのう」
玉藻が頭を抱える。
いや、何の話してるの。
「こちらのことじゃ!」
玉藻が叫ぶ。
なにきれてんの?
「これで切れんほうが、おかしいわ。人の魂のまま神格化しただけでなく、妖にも変化しておる。なにか? お主ほんとに人か? おぬしの魂はなんで出来てるのじゃ? これは呪か? われが弄んだ男どもの祟りか? 今年の神在祭どうするのじゃ。まさか将門も呼ばれるなどということはないよな?」
一気に言いきる。
「いや、なんで」
玉藻が傍らの縁台に拳を降ろす。
縁台は激しい破裂音ともに、”元”縁台に姿を変える。
俺、睦月、桔梗、どん引きである。
「おぬし妖に片足突っ込んでおるのじゃぞ」
「いや、んな訳ないだろう。睦月がこれから先、俺の寿命を気にすることなく、見せ掛けだけでも楽しく暮らせるようにって思っただけ・・・、あれ、それなのになんで俺、こんな格好をしているんだ?」
俺、こんな格好望んでないよね。
「だん、八代様」
睦月が再び目に涙をためる。ああああ、これも前にもあったあああああ。
「いやいやいや。俺、睦月と一緒にいるために力つかったから。あれ、はずなんだが・・・」
俺は救いを求めるかのように玉藻に目を向ける。
「はぁ~。おぬし、人の寿命の限界を知り、かつ、神になることも出来ぬと理を知り、ならばと妖への変化を実行したのじゃ。妖なら神とまでとは言えず、人よりは寿命が永いからのう。もっとも完全に妖というわけでもないから、どのくらいの変容なのか、が、どうしてそのようなことを考え付くのじゃ」
いや、考えたわけじゃないから。想ったらこうなっていただけで。
それに、たかが尻尾と耳だろう。ほらこれなら消せるぞ。
俺は尻尾と耳をかき消し、元のジーンズ姿に戻る。
握る尻尾がなくなった睦月が、また涙を浮かべる。
「ああああ、戻すから、戻すから」
俺は改めてケモミミ、尻尾、神使姿に変化する。男の矜持のため、その過程は見えないよう煙にまいてある。
とたん、睦月がむんずと俺の尻尾の一本を握り締める。
なぜかドヤ顔の桔梗と、俺、涙目の睦月を見て、玉藻が頭を振る。
「たかがではない。その耳と尾からは弱いながらも妖力を感じ取れるわ」
「それに耳と尻尾にきっちりと感覚があるじゃろう」
俺はうなずく。
「みせかけだけの 虚仮威しではない。睦月、安心しろ。そちの大事な旦那様は立派な半妖じゃ」
玉藻の言葉に睦月が満面の笑みを浮かべた。




