幕間3 おきつねさまたち
旦那様が『女子会』というのを催してくれた。しかも温泉で。
昔、屋敷神だったとき、主家の人たちが 湯治といって温泉に出かけるのを見送ったことがある。
まさか、自分がそれを体験するとは。
人の世では嫁ぐ前の女子が集まって独り身最後の夜を祝うらしい。夫婦になるのを祝うのは分かるが、独り身の最後の夜まで祝うというのはやはり人の考えることは良く分からない。
それでも旦那様が私のことを考えて催してくれたのは良く分かる。
旦那様には話していないが、旦那様の私に対する想いは、思わず赤面するほどに伝わってくる。玉藻前様も感じ取れるくらい強いらしい。
旦那様は想いを感じ取るより、言葉や態度で告げられるのがお好みらしいので私もなるべくそのようにしている。
本当は旦那様とお呼びしたいけど、先日のような失敗もある。旦那様は残念そうだが、この呼び方は私の心の中だけにしておこう。
はじめて温泉なるものを体験したが、ただの湯につかるだけと思ったが違うらしい。
玉藻前様によると、湯には肌をつややかにする力があるらしい。
なるほど、湯の色は透明ではなく、赤茶けた色をしていた。これになんらかの力があるのだろうか。
桔梗様が、
「耳と尻尾が出せないと窮屈でしょ」
といって、貸切風呂なるものを手配してくれた。
玉藻前様と桔梗様とわたしだけで入り、ほかの客は入ってこない仕組みらしい。
おかげで耳と尻尾を出してくつろぐことが出来た。
桔梗様が私の胸を見る視線が厳しかったのはなぜだろう。
まさか将門はこれを・・とつぶやいていたが、恥ずかしながら、まだ、旦那様にも見せたことないのに・・・。
旦那様はわたしと玉藻前様にさらに『えすて』なるものを手配してくれていた。
これがまた極楽だった。人の術士が二人、玉藻前様と私につき、香油を全身に塗り、手で揉むという儀式なのだが、ついぞどのような妖の術を行使すれば、あのような極楽を味わえるのか分からなかった。
途中、玉藻前様があまりの心地よさに人前にもかかわらず耳と尾を出してしまったが、神力でなかったことにしてことなきを得た。実は私もうっかり耳と尾を出してしまっていたのは内緒だ。
そして夕食。
お揚げも美味ではあるが、信仰心のこもらぬ料理でもこのように美味なる物であるとは思いもしなかった。
はじめて見る料理ばかりだったが、桔梗様が食べ方を教えてくれた。料理の脇にはお品書きが置いてあり、旦那様が事細かに説明してくれた。まさに至福のひと時だった。
食事後に部屋に戻ると布団がしかれ、部屋の端に追いやられたテーブルにはみたこともない菓子と飲み物が山盛りにおいてあった。
桔梗様に言わせると 女子会というのには 菓子と飲み物が必須らしい。
もっともそれにしてもこの量はね。と桔梗様が笑ってらした。
ちなみに玉藻前様はぽてとちっぷすなる手が油で汚れるものを、桔梗様はばっかすやらみーなるものを好んで食していた。桔梗様が興奮し始めたのはこの菓子の所為だろうか?
私はわっふるなるものが気に入った。
玉藻前様と桔梗様と私、どのような話をすればいいのかと始まる前は悩んでいたが、存外話は弾んだ。
玉藻前様は、昔の男性遍歴を赤裸々に語ってくれたし、桔梗様は旦那様の昔話をしてくれた。
私は二人に詰め寄られて、旦那様への想いを語らされた。
丑三つ時を過ぎ、桔梗様が眠くなったということで、女子会はお開きとなった。
玉藻様は露天風呂というものを試してみたいと言って出て行く。
広縁のテーブルに置かれた一冊の本が目に入る。手に取りめくってみると、昔懐かしい文字が目に入ってきた。在りし日の主家で取っていた新聞もこんな感じだった。
読み始めると、幸せな夫婦がこの旅館を訪れるところから始まる話らしい。
思わず旦那様と私の姿を重ね合わせる。
旦那様がいないにもかかわらず顔が赤くなる。私は本を置くと、桔梗様の隣に敷かれた布団に潜り込み、旦那様のことを想った。
これにて温泉編終了となります。
予定では本日、沖縄より帰宅する予定です。残念ながら書き溜めはここで終わりなので、更新速度は落ちると思いますが、今後ともご愛読のほどよろしくお願い致します。




