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おきつねさまと食べ歩き  作者: 八代将門
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おきつねさまと神使の想い

 東京駅でのぞみに乗り換え、京都に向かう。俺も桔梗も弁当はシウマイ弁当だ。千円超えがざらにある駅弁の中で、この内容で830円とはまさに神!。ただ、残念なのは東京駅定番の弁当売り場である『祭』と『踊』で買えないことだ。


 桔梗はアンズから、俺は昆布と生姜、鮪の照り焼きをご飯に上に粉々にしてまぶしてからおもむろに食べ始める。遵法精神に欠ける桔梗が座る隣の席からは、何やらプシューっと缶を開ける音がするが、俺はウーロン茶だ。

 弁当を食べながら、饒舌(ほろ酔い)になった桔梗と現状の整理と今後の話をする。


「急にこんなことになって戸惑ってるだろうといいたいが、順応してるな~」

 桔梗がいくら適応力が高くても、これはちと展開早すぎるだろうと思っていたが、わが幼馴染にはどうということでもないらしい。

 桔梗を横目にシウマイに袋から練りだした辛子を少しづつ付けていく。


「高校卒業して家に入っても、毎日道場で稽古をつけるか、花嫁修業ぐらいだったでしょ。これなら専門学校でも行っておけばよかったと思っていたところにこの騒ぎよ。こんな楽しいことなら大歓迎よ」

 昔からこういうやつだった。

 桔梗は辛子なしで、シウマイにぱくつく。俺は、シウマイに醤油を垂らす。


「私に前世があって、神話の世界に足を踏み入れるなんて、ワクワクするじゃない。それに武術を極めんとするには、武神の加護は必要だし、どんなご利益があるか期待しているわ。銃器の神様とかいないのかしら」

 お前の頭はどこぞのアニメの団長並だな。そのポジティブさが恐ろしい。

 

「とりあえず本山の山場を乗り越えてからだが、基本、桔梗にはうちのお社付きの巫女みたいなことしてもらうぞ」

 俺はかまぼこと卵焼きを後回しにし、筍煮をつっつき始める。これだけでご飯一杯はいける!。


「いいわよ。花嫁修業と言ったって、料理、掃除、洗濯、着付け、裁縫なんてもうできるから不要だしね。稽古だって師範代に任せておけばいいし。全く・・・、ここ最近、将門もいないし暇だったのよ」

 桔梗はここで声を潜めた。


「で、睦月ちゃんとはどこまで進んでいるの?」


 俺は箸で持っていた一つ目のシウマイを床に落としてしまった。ウーロン茶飲んでいる時じゃなくてよかった。

 

「あんた、やっぱ変わってないのね。人のことだと冷静に考えられるくせに自分のことだとからっきしダメね。睦月ちゃん、あんたに間違いなく気があるわよ。いよ、この狐こまし・・・・。それに、将門だってまんざらじゃないんでしょ。睦月ちゃん、間違いなくあんたの好みどストライクだし」

 なぜに、お前が俺の好みを把握しきっているのか聞きたいが、あれ、俺、何、胸バクバクいわせちゃってるの。


「睦月ちゃんと話しているとわかるわよ。あれ慕っているというよりもう依存ね。本人自覚ないけど将門と話すときや将門の話になると尻尾の動きと表情が全く違うもの。それに裸に剥いちゃったんでしょ、責任取らなきゃ」


 俺、見てないから。

 桔梗はからかい半分で言ってるんだろうが・・・。認めたくないから考えないようにしてたのに、人から言われるとどうしていいかわからない。

 桔梗め、俺がわざと考えないようにしていたのを承知で、言葉にしやがった。


「だいたい睦月・・・と会って三週間も経っていないんだぞ。そんなこと言える・・・」


 俺は前の座席に備え付けられてるテーブルに弁当を置くと、言葉を濁しながら手洗いに立ち上がろうとする。


「ダメっ」

 桔梗が俺の手を掴んで座席に引き戻す。


「あんた、睦月ちゃんのこと後回しにする気でしょ。このままズルズルと今のままでって考えているでしょ。ダメよ、ケリつけなさい。人との人との関係って曖昧なままだと、そりゃ脆いものよ。もし、あの子のこと大事に思ってるのなら、良いにしろ悪いにしろ自分の想いをしっかり話すのよ」


 まあ、睦月ちゃんは人じゃなく狐だけどねと桔梗が呟くと、鳥の唐揚げに手を出した。


「まあ、あんたが恋愛感情を持つなんて絶対無理だって思ってたけど、まさかこんな展開になるとは思わなかったわ。おばさまもこれなら納得するんじゃない?」


 俺は桔梗に反論出来なかった。


 結局、京都に着くまでに考えはまとまらなかった。食欲も失せ、俺のシウマイ弁当残りは辛子のかけられたシウマイの文句を聞かされつつ、桔梗の胃袋に収まった。


 




 京都駅に着くと八条口からタクシーに乗り、10分ほどのホテルに到着する。

 シングル2部屋、桔梗とは別の部屋だ。職業欄には”神職”と書いた。これなら装束で外出してもあまり不審には思われないだろう。

 部屋に分かれ、夕食はお互い適当に取り時間早めの夜9時にロビーで待ち合わせることになった。

 

 食欲がないので夕食はパスすることにして、シャワーを浴びる。

 装束に着替えるため荷物を開けると、白衣と袴を包んだ風呂敷に何やら手紙と白い生地が入っている。

 

『玉藻前様の言いつけで下着を用意しました。履き方は、別の紙に書いてあります。お山へはこれを身につけ、俗世の物は持ち込まぬようにとのことです』 母より


 六尺褌ろくしゃくふんどし

 

 締めたことねえよ!


 

  





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