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おきつねさまと食べ歩き  作者: 八代将門
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おきつねさまと神使の旅支度

 午後、俺が見学コースを案内しているうちに、睦月が帰ってきたらしい。


 合間にお社に顔を出すと、睦月が尾を振りながら挨拶を寄越す。

 おお4本の尻尾が扇風機のように綺麗に回っている。

「八代様、ただいま戻りました」


「おかえり、大変だったろう。八幡大神やはたのおおかみとの話し合い、ご苦労だった。睦月には迷惑ばかりかけてすまない」

 俺は頭を下げる。


「頭をお上げください。私こそ八代様にお礼を申し上げねば」


 話を聞くと、宇佐の帰りに本山に寄り、桔梗の神使(仮)就任と俺の神使(仮)から正式な神使への昇格について改めてお話し合い(脅迫)をしたらしい。

 その時、睦月が天狐てんこになっているのに、稲荷神いなりのかみと神使たちが衝撃を受けたらしい。

 悔しくても睦月を丁重に扱わざるをえない神使たちの姿を見て、今までの溜飲が下がったとのことだった。


 しかし、そこで神使たちがありえないことだと騒ぎ始めたらしい。結局、稲荷神が直接、俺に会って確認をし、事実ならば正式な神使として認めると言ったのが今回の稲荷詣での発端だった。ちなみに桔梗はついでらしい。


「神使たちから、不穏な気配を感じました。八代様を害するという気配ではなりませんが、あわよくばという俗めいた気配でございました」

 神のくせに何やってんの。

 まあ、俺の考え通りなら、俺には本山の神使どもの霊格や神格を上げることはできないはずだ。


「心配してくれてありがとうな」

 俺は無意識に睦月の頭を撫でようとして、気づき、慌てて手を引っ込めた。


 睦月がちと残念そうな顔をしたのは俺の思い込みかもしれない。


「あ〜、ちとわれらの存在、忘れてないか」


 傍には呆れた顔の玉藻と、なんとも言えない表情の桔梗が立っていた。



 夕刻、長屋門を閉め、お社に向かうと縁台と木製の長椅子ベンチが置いてあった。あんまりお社の前で俺たちが話しているので、祖父と父が納戸から引っ張り出して、設置してくれたらしい。

 

 玉藻と睦月、桔梗と席に着き、俺は稲荷詣で最大の難関とも言える問題を提起した。


「俺は今まで京都に行ったことないし、おそらく行けないだろう」

 本山は京都府伏見区にある。

 俺の言葉に桔梗が思い当たるような表情をした。


「あれか、修学旅行インフルエンザ事件か」

 桔梗が言う。さすがに桔梗でも覚えていたか。


「当時、高校の修学旅行が京都・奈良2泊3日で予定されていたんだが、季節外れの夏のインフルエンザで学年全体の7割が倒れ、中止になった」

 今ならわかる。あれは将門公の魂を引っ張った俺が、潜在する都憎しの呪か何かを撒き散らしたのだろう。

 そう、そして裏づける事件はもう一つある。


「成田山新勝寺バスジャック事件か」

 再び桔梗が呟く。

 さすがに自分が関わった事件の名前は覚えているらしい。

 町内会で成田山新勝寺への節分会への参加が企画された。俺と桔梗も参加を要請されたが行く途中の高速道路のサービスエリアに休憩のため停車したところ、刃物を持った男が乗り込んできたのだった。バスの運転手は早々に車外に転がり逃げ、このままでは籠城事件になろうかという時に、桔梗が犯人の刃物を叩き落とした上、締め落としたのだ。


 当然事情聴取や後始末で新勝寺には行けずじまい。代わりに後日、近場の温泉への1泊旅行が企画されたがこちらは何の問題もなく開催できた。


 成田山新勝寺は平将門公が乱を起こした際、それを鎮めようとした時のみかどの勅命を受けた僧が勧進したことを起源に持つ。将門公にとっては鬼門だ。おそらくその時も俺の呪か何かが事件を呼び寄せたのだろう。


 俺の話に玉藻はあっけらかんと言った

「いや、大丈夫じゃろ。おぬし今はわれの神使じゃ。仮とも言えどもおぬしの魂にしっかりとわれの神意が反映されとる」


「あれ、玉藻も都憎し、って言ってたじゃないか?」

 根本的にそれが俺と玉藻の出会いの条件だったはずだ。


「前にも言ったじゃろ、今更、都に何かしようとは思っておらんと」

 あれ、じゃあ何の問題もないの? 俺の考えすぎ?


 俺は頭を抱えた。

「おぬしはちと考えが回り過ぎるのが玉に瑕じゃの」

 玉藻がため息まじりに言うと、桔梗が笑い声をあげた。



 結局俺の心配は杞憂に終わった。

 玉藻と睦月は神界を通じて本山へ行けるのだが、俺と桔梗はそうはいかない。まあ、これから正式な神使になったとしても、神界を通じてお社間の移動ができるわけではないらしいからな。


 新幹線で京都へ、そこから京阪かJRで稲荷駅まで。指定された時刻が亥ノ刻(夜10時)だ。日帰りというわけにもいかないので、宿も手配しなければならない。

 桔梗の都合はと聞いてみれば、道場の指南は他の師範代に任せるから問題ないとのこと。さすが家事手伝い(無職)こういう時はフットワークがいい。

 すぐにでもと思ったが、桔梗の装束が出来上がるのが木曜日の午前中とのことなので、午後の新幹線の指定席と本山から歩いて15分ほどのビジネスホテルを二部屋、念のため2日間予約する。

 

 ここで一悶着起きた。

 玉藻が、俺は白衣と袴、桔梗は巫女姿で参るよう命じたのだ。

 まあ、ホテルで着替えればいいのだが、そこから本山まで街の中を闊歩しなければならないのは辛い。 タクシーを呼んでもコスプレか何か思われるのも気恥ずかしい。まあ、我が幼馴染は、道場で白衣と袴に慣れているのか苦にならないらしいが。


「いやいやいや、恥ずかしすぎるから」

 夜とはいえ街中をあの格好で、しかも巫女服姿の桔梗を伴って街中歩くなんてなんて閥ゲームだよ。

 いくら人間離れした状況に巻き込まれようと、さすがに世間様から痛い目で見られるのは辛い。


「しかたあるまい。何事もかたちからというのが神界のならわしじゃ。これはいくら譲れんぞ」

 玉藻の言葉に俺はがっくりと首を垂れた。

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