とある酔っ払いOLのくだ巻き
ああ、イヤダイヤダ。あなたは、私をお捨てになったんだわ。
そりゃあ私には、家事の才能も、かわいい子供もないけれど、あなたはそれでもなんども何度も私を好きだって言ったじゃないの。仕事をしている君が好きって、私それを信じて今までやってきたのよ。嘘つき。
結局、みんな嘘だったんでしょう。私だってわかっていいたのよ。騙されていた訳じゃないのよ。わかって、その上で一緒にいたのよ。だから、少しぐらい報われたいの。
世間では「働く女を応援しよう」なんて言われて久しいけど、どうせ男の人は、どうやっても家庭的な女の人がいいんでしょう。僕は違うっていう人、みんな嘘だわ。そういう人は気がついていないだけで、心の中にちゃあんとそういう好みがあるのよ。それで、だんだん老けてくうちに、どんどんそれが首をもたげて、寂しくって、お家らしい女の人が恋しくって、たまらなくなるのおよ。それで、働く、ううん、一人ぼっちの女を捨てるんでしょう。きっとそうだわ。そうに決まってる。じゃないと、私を捨てるはずがないもの。
ねぇ、私がどれくらい惨めだか、わかる?苦しくって、苦しくって、馬鹿みたい。
あなたは一生わからないでしょうね。男の人は子を産む辛さがわからないっていうけど、この気持ちだってわかりっこないわ。男の人は、家庭を“持つ”んですものね。それで、女は家庭に“入る”のよ。女進出が目覚しいったって、こればっかりは昔から変わってないわ。だから、女が捨てられるのよ。不倫するのよ。ずるいじゃない。
ああ、知ってる?幸せは、周りに幸せだと思われないと幸せじゃないのよ。本当に幸せな人は、誰だって見たらわかるの。不幸せなんて、絶対思われないの。でも私たちは本当の幸せなんもってないから、思われるの。だから惨めだって、言われるの。ああ、くやしい。今頃あなたの大事な人が笑って、幸せそうにしているかと思うと、耐えきれない。あなたのために整えてた髪を、ぐしゃぐしゃに掻きむしって、全部壊した気になっても、ダメだわ。私、もしかしたらあなたの家庭を壊したかったのかもしれない。それで、あの女が涙を流せば、気がすっとするはずよ。
でも、それはもっと惨めだわ。目に浮かぶの。家庭を壊した罪で、地獄に落ちて、血の池で溺れているのを、あなたたちに上から眺められる姿が!その時も、私の髪はボサボサで、あの女の髪は綺麗に整ってるんでしょうね。
あなたは完璧主義で、女にもそれを求めるから、あの女がこういう風に髪の毛をぐしゃぐしゃにしてたら、眉をしかめて注意するんでしょう。でも、あいつはそんなんじゃない。いつもピシッと綺麗にして、子供のお手本になってるのよ。人は、見られたら綺麗になるのよ。
子供がいない私には、そんなのできない。むかつく。むかつく。私の事を見習おうなんて人は、誰もいないのよ。誰もいないから、こんなに惨めに成ってるのよ。おいおいみっともなく泣いても、隣の人すら気づかないから、十分に泣けちゃうの。
この防音がなくて、誰かが怒って乗り込んできたら、どんなに救われたかわからないわ。
でも、たとえ今死んでも、誰も気がつかないんでしょうね。それで、数日、数週間後に、ニュースで全国的に知れ渡るの。で、誰も気に留めずに忘れられるの。結局私は、惨めで、みすぼらしくて、みっともなくて、どんなに頑張っても寂しい人種なのよ。いや、もしかしたら頑張らないほうが、幸せになれるのかしら。あの時も、あの時も、変な風に頑張って、意地はって、バカみたいな目にあったものね。
でも、しょうがないじゃない。ああいうの、できる女とできない女がいるのよ。それで、できる女が家庭に入って、できない女は泣き喚くの。私昔っからずっとできる女が嫌いだったけど、今日やっとその訳がわかったわ。ええ、嫉妬だったのね。生まれた時からどうにもならない格差に、嫉妬してたんだわ。なんて惨め!
私きっと、このまま一人寂しく死んでいくんでしょうね。でも、ふふ、実は、それはいいのよ。百歩譲らなくても、それはいいのよ。私が一人寂しく死ぬ独身女じゃなくて、孤高で、高潔な、聖処女だったらね!死ぬ姿が立派に見えるなら、本当に、全然構わない。私は聖女だって笑って死ねるんだったら、幸せよ!どうしても、不幸だって、悲しく死にたくないの。太宰治とか、ナイチンゲールみたいに死にたいの。
でも、私が今死んだら、あなたにはフラれて死んだ迷惑女って思われて、あの女は邪魔な負け犬がいなくなって喜ばれるでしょう。あの女を喜ばせるなんて死んでもやだから、死なないの。わざと苦しむの。
ああ、ちっとも胸が楽にならないわ。息がつまって、喚く程に苦しくなる。でも、泣いただけでは人って死ねないのよね。苦しい、苦しい。これが本当の不幸だわ。餓死とか、貧乏の被害者じゃなくて、面の皮厚く生きている罪人なんだもの。私みたいな人が生きるための食材を、他の人にあげるべきなんだわ。
どうして私、それをしないのかしら。せめて、私がもっと募金とか、慈善事業とかやってたらこんな気分にならなかったのかしら。そうよ、ああ、誰かのためになるってことも、一種の幸せよね。散々悪事を働いてる人は、ちゃんと自分に生きる価値がないって思ってるのよ。自分がいない方がいいって、わかってるの。私もちゃんとわかってるわ。それで、最後ごめんなさいって死ぬの。そうよ、誰も聞いてなくてもね。
はぁ、自殺は駄目とか、辛いじゃない。あなたばっかり私を捨てて、ずるいわ。
私もさっさと捨てちゃいたい。早く捨てちゃいたいのよ。




