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崖下の国   作者: 南戸由華
第1章 邂逅
7/7

目覚め

かなり久びさの投稿です


長い夜が明けた。


瞼の上にまぶしさを感じ、レンはゆっくり目を開いた。

部屋に光が射し込んでいる。

見慣れぬ天井。

そうだ、ここは自分の家ではない。


昨夜、レンはエレナの家に泊まらせてもらったのだった。

彼女が呼んできた医者に少女を診てもらっていたら、すっかり遅くなってしまったので、少女のベットの側の床に毛布を引いて寝かせてもらったのだ。


ゆっくりと体を起こす。床に寝たので少し腰と背中に痛みを感じたが、昨夜の疲れもあって、よく寝たという爽快感があった。


ぐっと伸びをし、横を見る。

昨夜の少女がベットですやすやと眠っている。


ベット横の窓から射している光が彼女の綺麗な顔を照らす。


白髪に、金の瞳の少女。

地震によって崩れた山肌の穴の中から、彼女は出てきた…?


彼女が目を覚ましたら、問いたいことが沢山ある。


幸い、昨日の医者の話だと頭の怪我は大した事はなく、他に目立った怪我も無かった。安静にしていればそのうち動けるようになるだろうということで、治療も、頭の傷を消毒して包帯を巻くだけで終わった。


何にせよ、無事でよかった。


彼女の落ち着いた寝顔を見て、ほっとしながら立ち上がり、寝室を出る。


隣のダイニングではエレナがしゃがんで床に落ちた物を片付けていた。


「あら、おはようレン。」


彼女はレンが起きたことに気づくと、立ち上がった。


「おはようございます。手伝いますよ。箒はありますか?」


「それはありがたいわ。箒はキッチンにあるから、ガラスの破片なんかをお願い。」


レンは言われた通りに掃除を始めた。


30分ほど2人で掃除していたら、なんとかダイニングは一通り片付いた。


「ふぅ、とりあえずこのくらいか。レン、どうせ今日は学校は休みだろうし、ゆっくりご飯食べて行きなさい。」


「いいんですか?ありがとうございます。」


「もちろんよ。片付けも手伝ってもらったことだし。作っておくから、シャワーでも浴びてきなさい。浴室はあっちね。」


昨夜の汗をそのままにしていたレンはエレナの言葉を嬉しく思ったが、ふと疑問が浮かんだ。


「エレナ師って、料理できるんですか?」


「し、失礼ね!私が頭が堅い学者だからって馬鹿にしてるの?簡単なものくらいできるわよ。」


珍しくエレナが動揺している。


簡単なものくらい、ね。

レンは自分の予想通りなのがおかしくて、くすっと笑った。


「こら!いいからさっさとシャワー浴びてきなさい!」


言いながらエレナはタンスの上にあったバスタオルをレンに投げつける。


「はい、ではお言葉に甘えさせていただきます。」


レンはにっこりエレナに笑いかけると、そそくさと浴室に向かった。


浴室は先ほどエレナが使った様子で、壁と床が濡れていた。地震の影響は小さかったようで、彼女もすぐ片付けられたのだろう。


衣服を脱ぎ、シャワーを浴びる。

汗が流れる爽快感と同時に、微かな不快感が肌にまとわりつく。


そう、この水もあの湧き水池から引かれているのだ。


そう思うと、レンの心の内の、さらに奥の方で、何か小さな嫌なものが疼くのだ。


彼にはその理由が全く分からなかった。頭では水は人間の生活にとって大変重要で、ありがたいものだと分かっているのに、どうしても不快感が拭いきれない。


もちろん、ものすごく嫌だ、というわけではない。今も「我慢している」というほどの不快感は感じてないのだ。

例えるなら、太陽の光を浴びることはそれほど嫌ではないが、光を浴びていると日焼けしてしまうから少し不快だ…といった感じだ。


このまま水に触れ続けると何か…

何か不快なことが起きるのではないかという小さな小さな胸騒ぎがするのだ。


…なんだか上手く言葉にできないな、と考えながらレンは苦笑した。


ーー全く、嫌な体質だなぁ。


水に触れる機会など生きている限り無限にあるというのに。


もう大分慣れたが。


シャワーを済ますとレンは体を拭き、服を着た。

もう1度髪をしっかり拭く。後は自然乾燥でいいか。


ダイニングに戻ると、エレナが食器をテーブルに並べていた。真ん中にレタスとスライストマトが盛られた大皿があり、周りに食器が3セット置いてある。


「あの子が起きて来るかもしれないしね。」


レンの目線に気づいたのか、エレナが言った。彼女はロールパンをいくつかカゴに入れてテーブルに持ってきた。


コンロの方からはウインナーの焼ける香ばしい匂いがした。

どうやら彼女は、各々セルフでサンドイッチを作らせるスタイルにするようだ。


「…自分は切って焼くだけですもんね」


ボソッとレンが言うと、


「何か問題でも?」


とエレナが不敵に笑った。


エレナに苦笑いを返すと、レンはふっと真顔になって彼女に問いかけた。


「ところで…あの子のこと、どう思いますか?」


エレナも疑問を持っているはずだ。あの少女の異様な外見に。


「そうね…」


エレナは軽く下を向き、少し考えると、自身の頭の中を整理して、自身に言い聞かせるようにつぶやきだした。


「あの髪の色は…生来のものだとすると、この国では全く見ない色ね。彼女はどう見てもまだ子供だし、髪に艶があるわ。それに、瞳の色も珍しい色よね…そういえば、タンガルの方の少数民族に白髪の人々がいると聞いたことが…その人々の血を引いているのかしら…まず、あの子が病気であんな髪色になったの可能性を調べる必要があるわ…」


レンは彼女のつぶやきに黙って耳を傾け、自分でも色々な可能性を考えていた。


もしかしたら、自分が知らないだけで、あんな容姿の民族がいるのかもしれない。


とりあえず、彼女が目を覚ましたら、問いかけてみようということで、話はついた。


そんなやりとりをしていると、ガチャと扉が開く音がした。


驚いて音の方を見ると、寝室の扉が開かれ、噂の少女が現れた。


彼女は心なしかおどおどした様子で、その金色の瞳でレンとエレナを見つめている。


「…目が覚めたのね。体の調子はどうかしら?」


エレナが少女に恐怖心を抱かせないように、口調に気を遣っているのが感じられる。

エレナが少女にゆっくり近づき、手を差しのべると、少女は警戒しているのか、小さくうなり声を上げた。


「あら、大丈夫よ。乱暴なことはしないわ。お腹空いてるでしょう。あっちでご飯食べましょう?」


なおも優しく語りかけるエレナを見て、少し警戒心が解けたのか、エレナの手をじっと見つめ、そっと小さな手を重ねた。


「そういい子ね。」


エレナがそのまま手を引いて、テーブルに連れていこうとした時、少女が口を開いた。


「あなた達☆#?%○怖い☆#私¥\^&ここは…??」


…!?


レンとエレナは耳を疑った。

彼女が話しているのは、間違いなくこの国の言葉ではなかった。訛りなんて、そんな程度ではない。


「ここは○☆#¥&…??」


少女はなおも話し続ける。

レンは混乱した頭で考える。

「ここはどこだ」と聞いているのだろうか?所々聞き取れる単語があるのに、全体の意味が全く分からない。


混乱したレンはエレナに視線を向ける。

彼女も混乱した表情をしている。


しかし、彼女の混乱はレンとはまた別種のもののようだ。少しだけ青ざめた表情をしている。

エレナは何かを確信したような表情をすると、ごくりと唾を飲み込み、口を開きゆっくりと少女に語りかける。


「……」


とてもとても優しい口調だ。


その言葉を、レンはやはり聞き取ることができなかった。エレナもまた、この国の言葉ではない言葉を口にしたからだ。


「エレナ師、その子の言葉が分かるんですか…?」


レンは恐る恐る聞いた。いくら単語がいくつか分かるからといえ、さっきのは間違いなく自分達の知らない言葉のはずた。


エレナはレンの質問には答えず、少女に笑いかけ、その頭を軽くなでた。少女は少しだけほっとしたような顔をした。

少女の手を引き、テーブルにつかせると、ようやくレンの方を向き、質問に答えた。


「この子が話している言葉は、以前私が積極的に学んでいた言葉なの。簡単なやり取りしか覚えてなかったけど…まさか役に立つ時がくるなんてね。」


「え…一体どこの言語なんですか?僕らの言葉と少し似ている気もするんですけど…」


レンは、はっと思い出した。そうだ、彼女は歴史学者だ。そして、昨日の授業で質問していたーー


「この子は大陸語を話すのよ。カリソナ国が建国されるずっとずっと前に、大陸全土で共通して話されていた古い言葉を。似ているのは当たり前なのよ。私たちの言葉はそこから少しづつ変形していったものだから。」


言いながら、エレナはさらに青ざめていく。


「まさか、今になってこの言葉を話す人間と会うなんて…。外見といい、一体この子は何者なの…?」


少女は先程までの警戒心はどこへやら、テーブルにあったパンを手にして美味しそうにかぶりついていた。




精進していきます

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