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崖下の国   作者: 南戸由華
第1章 邂逅
6/7

発見

なんだか、今日はサクサク書けたので連続で更新させていただきました。

うーん、風景描写は難しいですね。

 

 しばらくすると、ようやく揺れがおさまり、皆テーブルの下からゆっくりと出た。


「ふー、ようやくおさまったな。」


 ホルムが一番に立ち上がった。彼は部屋の角の低い戸棚を開け、予備のランプを取り出し火を灯すと、それを持って玄関に様子を見に行く。幸い、玄関の扉は壊れておらず、難なく開いた。


 他の3人も玄関に向かった。床に食器などの破片が沢山散らばっていて、歩くのに少し難儀しながら、各々、外の様子を確認しに向かった。


 他の家からも人が出てきた様子で、あちこちにランプの光が見える。


 レンは自分の家の方向を見て、家が崩れていないのを確認してほっと安堵した。かなり大きい地震だったので、少し心配だったのだ。

 ただ、中は無事ではないだろう。

 ミランダの家の中も床にあらゆるものが散乱している。


 自分の家も……

 レンは、はっと思い出した。


 地下室!!


「レン、こっちはいいから、自分の家を見てきなさい。くれぐれも足元には気をつけるんだぞ。」


 レンの気持ちを察したのか、ホルムがレンにランプを渡し、家に帰るようにうながした。


「うん、行ってくる」


 レンは大きな不安にかられながら急いで自分の家に行った。

 明かりをつけると、予想通り、リビングの床にはあらゆるものが散乱していた。ただ、何年も1人で住んでいるレンは、そもそもそれほど物を置いておらず、食器等も数が少なかったので、ミランダの家ほど被害はないように思えた。


 問題は、地下室だ。


 地下室への入口がある部屋に行き、恐る恐る、地下室の扉を開く。

 ランプをかざして中の様子を見ると、不安は現実になっていた。


 地下室にあるすべての本棚が倒れるか傾いており、しまっていた本が尽く床に落ちて、散乱した大量の本で床が見えなくなっていた。


「はぁぁ、これはひどいなぁ」


 せっかく分野ごとに整理されていたのに、もうめちゃくちゃだ。一つ一つタイトルや中身を確認しながらまた整理して本棚に入れるのにどれだけ時間がかかることか。

 その前に床全体に雪崩を起こしている本を一旦どうにか一箇所によせて、まず本棚を立てるとこから始めなければならない。


 レンはすっかり落胆してしまった。そして、もう一つ重大なことを思い出した。


「『崖下(がいか)の国』は!?」


 ミランダの家に行く前に『崖下(がいか)の国』を置いた机は本の山に倒れ込んだ本棚、3つすべてを越えた向こうにある。

 崩れた本が足元まで来ていて近づけないが、遠目に見た感じだと、机の一番近くにあった本棚が机の方に倒れ込んでおり、机の上もその本棚から落ちた本が山を作っているのが分かった。


「これは…明るくなってから手前から地道に片付けて、徐々にあっちに向かうしかないか…」


 読みたい本を不自由なく探せる環境が崩壊したことと、解決するはずだった疑問が自分の力では解決出来なくなってしまったことに少々いらつきを感じながら、レンは地下室を出た。


 そしてふと、その疑問を投げかけた人物のことを思い出した。


「もしかして…エレナ師の家も大変なんじゃ…」


 彼女の家にも数多くの本があった。もしかすると、新しい家に引っ越すということで、また新たに本が増えているかもしれない。

 もし、倒れた本棚の下敷きになっていたりしたら…

 彼女の家は村長の家付近だとミランダが言っていた。あのあたりは山の近くで、民家が少ないのだ。助けに行く人手も少ないだろう。

 それに、彼女の家に大量の本があり、レンの地下室のような危険があると知っている者も、レン以外にいないかもしれない。


 レンはエレナの無事を確認しに行くことを決めた。

 自分の家のことはとりあえず後回しだ。


 外に出て、早歩きで村長の家の方に向かった。

 途中、道を歩いていると、多くのランプの光が集まっているところがあった。

 どうやら、家が崩れてしまい、瓦礫の中から、救出作業が行われているようだ。


 あちこちから、子供の泣き声も聞こえる。


 自然とレンの歩調は速まった。


 まず、村長の家に向かった。村長の家は外から見た様子だとなんとか無事なようで、村長夫婦が外に出ているのが見えたので、そちらに向かう。


「村長、奥さん、大丈夫ですか?」


 もう70になる年配の村長とその妻に声をかける。


「おぉ、レン。少し腰を打ってしまってきついが、体の方はなんとか…家の中はめちゃくちゃだがなぁ。」


「来てくれてありがとうレン。私達は大丈夫だよ。」


 2人とも人が来てくれたことに安堵した様子だ。


「それはよかった。また片づけのお手伝いに来ますね。ところで、この近くに、エレナ師が越して来たと聞いたのですが…」


 聞きながらレンは周りを見渡した。どこの家なのだろう。


「あぁ、エレナさんね。彼女の家はもう少し山の麓の方だよ。そういえば、山の方から地面が崩れるような音がしたんだが、彼女は大丈夫かねぇ。」


 村長が心底心配そうな顔をしている。

 レンは山の方に目を向けた。暗くてよく見えないが、確かに、前に見た風景と若干異なる気がした。もしかしたら地震で土砂崩れなんかが起こっているのかもしれない。


「分かりました。すぐに確認しに行きます。お二方は、お家で待機しててください。ガラスの破片なんかには気をつけて。」


「ありがとうレン。彼女の家はこっちの道を山の方にまっすぐ行ったところにあるよ。何かあったら遠慮なく助けを呼ぶんだよ。」


「分かりました。行ってきます。」


 村長に言われた道を山の方にまっすぐ進んでいく。幼い時に、父とこの道を通って山に遊びに入ったことがあったが、夜に行くのは初めてで、経験したことのない暗闇がなんとも言えない恐怖を誘う。


 山の暗い森が近くなってくると、森に入る手前、道が途切れるところに小さな家があった。明かりもついている。


「あそこか。無事だといいけど…」


 家の前に着いた。扉の小窓からは部屋の明かりがこぼれている。扉の前に立ち、恐る恐るノックしようとしたその時、


 内側から扉が開いた。


 レンは驚いて、反射的に1歩下がり、開く扉に激突しそうになるのをなんとか避けた。


「あら、レンじゃない!びっくりした。どうしたの?」


 エレナが後頭部をさすりながら出てきた。


「い、いや…僕の家の本棚が大変なことになってて、もしかしたら…エレナ師も下敷きになったりしてたら大変だと思って…」


 急な登場に驚いたのと、無事だったことに安堵したのと、気持ちが混ざって、思わずおどおどした口調でレンは答えてしまった。


「あら、心配してきてくれたのね。私は大丈夫よ。あなたの予測通り、倒れてきた本棚にちょっと頭をぶつけちゃったけど、大した怪我じゃないし。」


 エレナはにっこり笑った。

 レンはようやく落ち着きを取り戻すと、ほっと安堵した。


「それなら、よかった。」


「それより、レン。山の方の様子、見た?」


 エレナ師が山の方に視線を向ける。

 レンもつられてそちらを見た。


「いや、暗くてよく見えませんでした。」


「そうなの。なんだか、山の方からすごい音がして、悲鳴みたいなものが聞こえた気がするのよ。」


「土砂崩れがあったのかもしれない、とはさっき村長から聞きました。悲鳴が聞こえたってことは…もしかして巻き込まれた人がいるのかも…」


 最悪の事態を想像し、2人は顔を見合わせた。


「探しに行きましょう。」


 自分達しか気づいていないであろう、いるかもしれない要救助者を助けるために2人は山の森の中に入って行った。

 エレナ師も灯りを持ってきたため、先程より行き先を明るく照らすことができた。


 山の中にいる獣たちに刺激を与えないように、細い山道を静かに慎重に進んでいく。自分達が徐々に山を登っていくのを感じた。


 しばらく歩くと、地面が明らかに不自然なところに出た。


「ここで道が崩れているわね。」


 山肌に沿っていた山道が、山肌の土砂が崩れたことで完全に見えなくなっていた。

 崩れた土は少し湿っていたため、踏み固めて進むこともできそうだが、万が一滑ったりすると、森の木に引っかからない限り、山の麓まで滑り落ちてしまうだろう。例え木に引っかかっても、山道まで戻るのは困難だ。


「先の方に道が見えますが…これ以上は進めませんね。」


 どうしようもないと諦めを感じながら、レンがランプをかざして先の方を見つめた時、ふと、視界の端に白く何かが光った。


 そちらに視線を向けると、目の前の崩れた山道の少し上の方の山肌に、確かにランプの光に反射して何か白く光るものがある。


「糸の束…?」


 よく目を凝らすと崩れた山肌にぽっかりと人が入れるくらいの大きな穴が開いていて、その穴の淵からゆらゆらと白い糸の束のようなものが揺れている。


 …違う、糸ではない、あれは髪の毛だ!白い毛のすぐそばに細い腕が垂れているのが分かった。


「エレナ師、あそこに人が倒れてます!あの穴のところ!」


 エレナもそれを確認したようだった。

 レンはあの穴に近づくことができるか考えを巡らせた。

 今レンがいるすぐそばの山肌には手足をかけられそうな窪みがたくさんあるため、これをつかって崩れていない山肌を這って、なんとか穴の近くまで登って行ける気がした。


「エレナ師、僕が登って行きます!」


「分かったわ。万が一落ちた時、下で捕まえられるように構えておくけど…期待はしないでね。」


「はい、気をつけます。」


 言いながらもう既に手足を岩と窪みにかけていた。しっかりとつかむ前に、軽くつかんだり、踏んだりしながら、手足を置く場所の安定さを確認し、少しづつ登る。

 エレナができるだけ手を伸ばしてランプを掲げているおかげで、なんとか周りが見える。

 なんとか穴の近くまでたどり着き、少し身を乗り出し、穴の様子をうかがった。


 どうやら、穴の中に倒れているのは小さな子供のようだった。穴の中から頭と片腕を投げ出してうつ伏せに倒れている。後頭部には血がにじみ、長い髪の毛の間から見える細い首にも血が細く流れている。


 頭を怪我しているのなら早く助けて治療しなければいけない。


 穴の中に入るのは厳しそうだが、子供の腕をつかんで引きずり出すのはなんとかできそうだ。


 穴に一番近い窪みを左手でしっかりつかみ、右手を子供の方に差し出す。

 めいいっぱい右手を伸ばして、なんとか子供の腕をつかんだ。


 ゆっくりとその体を自分の方に引き出しながら、レンも自身の体が安定する位置に体を戻していく。

 その子供の腹あたりまで引き出すと、レンは自分から遠い方の子供の肩を右手でしっかりつかみ、右腕全体で子供の上半身を支えた。


 レンの足元ではエレナがハラハラしながら、彼がバランスを崩さないか見守っている。彼女は、万が一レンが足を滑らせた時に、山道から外側に落ちたり、すぐそばの崩れた道の方に落ちないように彼の下半身をすぐに支えられる位置に立っている。


 子供の上半身を支えたレンはまたゆっくりと子供の体を抱き寄せた。子供は小さく、思ったよりも軽かったため、なんとかレンでも全身を抱えられそうだ。

 レンは子供の膝の頭が穴から見えたのを確認すると、なんとか子供の体の角度を変えて、膝から下を穴の外に出した。

 子供の下半身がぐっと落ちるのをなんとか片腕で持ちこたえた瞬間、レンが窪みにかけていた右足をずるっと滑らせた。


 エレナがひっと悲鳴をあげる。


「おぉっ!?…とっ…と…」


 レンは大きくバランスを崩したが、左手と左足でなんとか持ちこたえた。

 右足を別の窪みにかけ、体を安定させ、一息つくと、右腕にあった子供の身体をなるべく肩の方に寄せ、右手も使いながら慎重に元いた山道に降りた。


 山道に両足をつけると、一気に安堵感が押し寄せ、ほっと一息ついた。


 なるべく早く医者に診せた方がいいと判断した2人は、共に子供の体を支えながら山道を降りて行き、エレナの家まで運んだ。


 散らかった家に着き、ベットの上に子供を寝かせると、どっと疲れが押し寄せた。


「レン。私に付き合って、重労働させてごめんなさいね。後は私が医者を呼んでくるから、あなたは休んでて。」


「じゃあ、お言葉に甘えます。お願いします。」


 エレナが外に出ていくのを見送ると、レンはベット近くにある椅子に腰掛け、子供の様子を見た。


 体つきからすると、まだ7~8歳くらいの子供だろうか。ボロボロの衣服から細い手足が覗いている。

 顔を覆っている白く、長い髪の毛をかき分けると、色白の、形のいい顔が出てきた。

 顔立ちからすると、おそらく女の子だろうか。

 少女が頭を置いている枕に血がにじんでいるのを見て、そういえば、頭を怪我していたと思い出し、レンは何か頭に当てるものを探した。


 部屋で見つけた、清潔そうな布を彼女の後頭部に当てるため、彼女の頭の下に慎重に手を入れ、そっと頭を持ち上げた時、

 少女がぱちっと目を開いた。


「お、目が覚めた?」


 レンはさっと後頭部の怪我しているところに布を当てると、ゆっくりと彼女の頭を下ろした。

 少女はされるがままにされているが、かなり驚いている様子で目だけでキョロキョロと周りを見渡している。


 体を起こそうとするとする少女をレンは慌てて抑えた。


「だ、だめだよ。頭を怪我してるんだから、急に起き上がっちゃ…」


 少女は驚いてレンの方に頭を向けて、じっと彼を見た。

 レンはその彼女の瞳に驚きを隠せなかった。


「金の瞳…?」


 そう、彼女の瞳は金色だったのだ。


 レンは今までこんな色の瞳の人間に会ったことがなかった。

 基本、ここノーティラスの人々の瞳の色は青か茶色、珍しい色で黒だと生物学の本に書いてあった記憶がある。実際、レンはそれ以外の人間に会ったことなどなかった。


 少女は黙って怪訝そうな顔でレンを見ている。


 それに、この髪の色…

 歳をとって白髪になるなら分かるが、この若さでこんなに綺麗な白髪になるものだろうか。


 他の大陸から来た移民だろうか。


 しかし、なぜ、あんな穴の中に…

 あそこの山道が崩れる前に入ったのだとしても、この子が入るには少し無理がある高さにあの穴はあった。

 それに、あの穴はどうにも崩れた山肌から新たに現れたような、そんな様子だった。

 幼い時に父と山に入った時、あのあたりも通ったはずだが、どうにも、あんな穴見たことがない。


 助ける時は必死でそこまで頭が回らなかったが、落ち着いて考えると、不可解な点が多すぎる。


 少女は安全な場所だと安心したのか、ゆっくりとまぶたを閉じ、再び眠りについた。


「この子は一体…?」


 レンは静かに眠っている、奇妙ではあるが、美しい少女を見つめ、じっと考えた。


字数多くてごめんなさい。

読みにくかったり、何かおかしな点があればぜひぜひ教えていただきたいです。

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