監視カメラに映った
小説投稿の確認も兼ねての投稿でした。
非日常を書けたら良いなと思って書いたつもりです。ぜひ読んでいってください
────ありえない
店長室で気ままにインスタントラーメンを食べていた俺は、監視カメラに写った映像をみて、飲み込んだ麺を吐き出しそうになった
時刻は午前5時
ガラスフィルムが貼られた窓からも微量ながら朝日が漏れてくる
鳥の囀ずりがやんだ
とても静かだ
元々、ド田舎に位置するコンビニエンスストアなので、周りにはおじいちゃん、おばあちゃんの民家や大きな森が広がっているだけ
だけど今日、この時間は、俺の耳が音を拒絶したのか、まるで時が止まったかのように静かだった。恐ろしく静かだった。
店の中には俺と、アルバイトの男子大学生が二人。そして───
─────────鹿がいた
えっ?鹿?
確かに傍には大きな山があるし、熊なんかが民家の周りを通った事があるとか近所のおばあちゃんに笑い話で聞かされた事があるけど、
えぇーー!?
なんだこれ?なんだこれ?
自動ドアの開いた音がなって監視カメラを切り替えた瞬間、鹿が優雅に気品溢れる態度で(動物に気品があるかは知らないが、少なくとも俺にはそう見えた)入って来たんですけど!?
えぇーー!?
こんな体験、初めてなんだけど!?
「いらっしゃいませー」って言った中谷君がその後、直ぐに思考停止してるし、俺も頭の中が異様な状況に困惑してるよ!
「と、とと、取り敢えず、動物愛護団体に、で…電話しないと……」
落ち着く為に声に出して対策を考えるが、何故か一番最初に出た案が最善案で、他に良い案が浮かばず、結果、俺は直ぐ様部屋の入り口にある受話器を取りに動く
因みにこの間も俺は映像から目を離していない。寧ろ凝視……否、疑視している
受話器を手に取り、震える指でボタンを押そうとする
こんな素早く対応できたのも監視カメラのお陰だ。普段はマイペースな老人が利用するだけなので、万引きの気配が微塵も感じられず、殆ど意味をなさない監視カメラだが、この時ばかりは力を発揮した
「いや、待てよ……」
と、ここで俺はボタンを押す手を止める。別に動物愛護団体の電話番号を忘れた訳じゃない。そんなのは店長になった時に覚えさせられている。
ただ考えたのだ、動物愛護団体が鹿を捕まえにかかったら逆に鹿を刺激して店の商品に被害が出るんじゃないかと、
ただでさえ赤字続きのコンビニで、商品に被害が出たとなると閉店の恐れがある
それなら敢えて、何もしないで鹿が店を出るのを待つのが賢明何じゃないか?
そう、これは先に動いた方が負ける、言うなれば洗礼された居合い抜きの達人の勝負!
「ふぅー、冗談が言える程度には落ち着いたようだな……」
だけど、さっきの考えは正しい。ここはなるべく被害が出ないように台風が過ぎ去るのを待つべきだ。
そう思ったが吉日、俺は中谷君が鹿を刺激しないようにレジに向かった
◆◇◆◇◆◇
「なかたにぃくん~…」
足音が響かない最小限の動きでレジに着いたとき、既に鹿は見当たらなかった
帰ったのかと思ったが、一応の警戒として、小声で中谷に呼び掛ける。
監視カメラで見てたときからずっと固まったままの中谷が漸く、機械のようにこちらを向く。
そして―――ぶわぁっ
何かの糸が切れたのか中谷が勢いよく泣きはじめた。それと同時に俺に迫ってくる
「でんぢょおぉぉぉ‼‼」
「しっーー!」
声が大きいわ!静かにしろ、静かに!
俺の店長人生が終わっちまうじゃねぇか!
「ごわがっだでぇすぅ~……ごわがったです店長~」
俺の忠告通りボリュームを下げて泣きじゃくたので、取り敢えず腰から離すのは止めといてやろう。
「大丈夫か?俺も状況がいまいち分からんのだが、中谷、鹿は何処にいった?」
「あの゛づのでぇ刺されるがとおも゛いまじたぁ………」
「うん、取り敢えず落ち着こうか」
会話になってない。というか角で刺されるかと思ったって、何?
最近の大学生って鹿にそんな偏見抱いてんの?
泣きじゃくる中谷を宥め続けて1分が経過した頃
やっと落ち着いたようで、中谷は喋り始めた
「鹿は…トイレの方に向かい……ました」
「マジか、」
全く状況は改善してなかった。
何故にトイレなのか………、さらに謎は深まるばかりである
まぁ直ぐに外に出たというのも俺の希望的観測なんだけど……
「取り敢えず中谷は、休憩室に行って休んでろ。もう今日は帰ってもいいぞ」
「分かりました」
そう言って、中谷はのっそりとした足取りでレジを去った
中谷の姿が見えなくなったのと同時に鹿がトイレの所から出てきた。
ドアの音がしなかったってことは洗面所で何かしてたということか………
「ふぅ…………」
ここからが正念場だ
強張った肩の力を抜き、鹿を見据える。鹿もどういう意図でか俺の目を見ていた。
目が合った
鹿の目には動物にあるまじき神秘性を感じる。俺のすべてを、考えを見透かされてるような感じだ。目を逸らすことが出来なかった。
何秒だったか、何分だったか、はたまた何時間か(後から時計を見たら5分程度だった)、鹿は俺から目を離してゆっくりに動き出した
飲み物コーナーを通りすぎる鹿を目で追う
角を曲がり、パンとお惣菜コーナーの間を動物独特の足取りで通りすぎて、止まった
そこはおにぎりのコーナーだった。
何故おにぎり?鹿って草食だよな?
厳密にというか、詳細に言えば米も元々は稲という植物なのだが、今はそれは全くといっていいほど関係ない
そんなことに思考を巡らせていると、いつの間にか鹿はこちらに向かってきているのに気付く
ぼとっ
鹿がレジに置いたのは、『シーチキンマヨネーズ』と書かれたおにぎりだった。
咥えて持ってきたせいか、上の部分が少し潰れている
「……………はい?」
俺に何しろと?
そのまま持ち帰ったのならまだ分かる。いや、分からないけど、何とか自分で整理する、ついでにSNSでツイートする。
だけど、レジに持ってくるって何?
えっ?もしかしてお金払ってくれんの?
ピッ、
取り敢えず試してみることにしてた
「110円になります。」
さてどうでるか…………?
見下ろした俺は見上げた鹿と自然と目を合った
ぺろっ
「……えっ?」
何か冷たいものが触れた感覚がして俺は意識を覚醒させる
いつの間にか鹿が俺の手の平を舐めていた
何が起きた?どうなった?
そもそも、俺は何で手を出した?
無意識に?否、あそこまで集中していた状況で無意識はありえない。
別にボーッとしてた筈もない
ただ鹿と目を合わせた瞬間に───────
まさか…………本当にありえな考えだけど、多分、俺は、俺の心は鹿の目に呑まれた…………んだと思う
手を出させられた………無理矢理に……
「って、何変なこと考えてんだ俺は……」
そんなことはあり得るはすがない
もう一度鹿の方を見ると、既に鹿は目を逸らし、おにぎりを口に咥えていた
やっぱり普通の鹿だ。俺は安堵の声を漏らす
それからは鹿は何をするわけでもなくコンビニから出ていく
俺の偏見だが、自動ドアが開くメロディーさえも神秘性を帯びているように感じた
鹿が出てから数10秒後
俺はハッと思い出したように
「あ、ありがとうございました!」
強張りながらそう言った
動物には分かる筈の無いのに何故か無性に感謝の念を伝えたくなった
途端に足の力が抜けて俺はレジの中に
しゃがみこんだ
なんだよ、結局、俺も恐かったんじゃん
中谷にカッコつけといて情けないな
俺は心の中で笑った
本当になんだったんだろう………
鹿が店に入ってきて、トイレの方に向かって、出てきて、目が合って、おにぎりをレジに持ってきて、またも目が合って、手の平を舐められ………舐めさせられて、店を出ていった
「っ、はああぁぁぁ」
そんな大きな溜め息をはいて、10数分に及ぶ神秘的な現象は幕を閉じた
その後、鹿は二度と俺のコンビニに来ることは無かった
そういえば、鹿という生き物は神の使いとして敬われているらしい。そんな迷信を俺は殆ど信じていないが、もしも神の使いに手の平を舐められたらどうなるのだろう?何か良いことが起きるのかな?それは誰にも、勿論、俺にだって分からない
だけど1つだけ言える事は
あの後、近くにある山から歴史的に価値のある遺跡が発見されて、沢山の観光客が来たことにより、俺のコンビニが黒字になったという事だけだ。
ありがとうございました