プロローグ 中編
多くの皆様にご覧いただき、誠にありがとうございます。
予定は、2日PM10時でしたが、どうも、期待されている様なので、
一日早いですが、更新します。
「すると、俺達の他にも、召喚された人が居るのですか?」
「さよう。此度の災厄は、只一人の勇者が居れば解決するという類の物ではござらぬ故。正に大規模転移と申される程偉大な大魔法でありましたな。此度の魔法には魔導士100余名が一年の歳月を費やしたとか。皆様の他にも、およそ数十人単位の勇者を召喚している筈です」
馬車には、俺達三人の他、騎士の隊長、ローマン氏と何やらメイドさんが一人。俺達が乗り込むとウエルカムドリンク宜しく飲み物を用意してくれた。そのまま俺達五人を乗せ、馬車は出発した。
「この馬車は思った程揺れないんですね。ショックアブソーバーが効いている感じですが」
「おおっ! お目が高い。正に、過去の勇者よりもたらされた技術の一つを用いて揺れを軽減させております。某は粗忽者故、どういった技術かの説明は出来ませぬがの。がっはっは」
ローマン氏は、豪快に笑うと、つばが飛ぶのか、さやかとシロが嫌そうな顔をする。
「ローマン卿、余り騒がしくされますと御婦人方が怖い思いをされますわよ」
それまで話す事の無かった金髪の美人メイドさんが助け船を出してくれた。思ってたよりも綺麗な声だ。ヤバい。レベル高っけー!
「おおおおっ! 失礼つかまつった。お嬢さん方、お許しを」
「ですから、リアクションが騒がしいですよ」
また怒られた。いいなぁ。そう考えてたら、さやかに睨まれた。ぞくぞく。
「それで、俺達は一体何をやらされるんですか?」
話の腰を折ってしまったのは俺だが、ようやく話題を戻すことができた。
「そうそう、その事ですが、この世界には、我等人族の他にも、多くの人種が住んでおります。各々の種族はそれなりに交流もあり、決して仲違いをしているような事もありません。しかし、中にはそうでない種族も居ります。それが【魔族】です。青い肌と角、中には翼を持つ者もおり、我等人族の数倍の膂力を持つ悪魔の軍勢です。そんな【魔族】が、我らが聖王国に侵攻してこようとしております」
他人種による侵略戦争か。話半分に聞いておかなきゃ、こっちが侵略者だった、なんてオチになったら目も当てられない。だが、聞いたところで真実を話す訳も無い。いろんな方向から情報を得る算段をしなければな。
「彼奴らは、我等よりも遥かに強く、強靭な肉体と、莫大な魔力で、過去の歴史の中でも我等人族を蹂躙してきました。我等は【魔族】の奴隷だった歴史を持っているのです」
「そんなっ! 奴隷だなんて、そんな事許されていい筈がないっ!」
さやかがそんな歴史に対して駄目出しをした。彼女は自分のモデルとしての稼ぎの一部をユニセフに寄付して、子供たちの権利を守る活動なんかもしている。そんな彼女からすれば、奴隷なんて受け入れられるものではない。義憤に燃えるさやかに対し、俺も、シロも、冷静に見極めなければいけない。
そもそも、俺達は魔族なんて見た事も無いわけで、今の時点で片方の主張のみを聞いて決断する訳にもいかないのだ。ただ、さやかのこの怒りは、良くも悪くもダミーとして使える。さやかの怒りを隠れ蓑に、色々と画策出来ればいいのだが。
そういえば、あいつはどうしたかな?
(マビノギオン。実際、魔族ってのはどうなんだ?)
『説明しよう。魔族は、この世界において他の種族の者と交わる事の無い勢力として現在も存在している。彼らは悪鬼羅刹と称されているが、決して一方的悪という訳でもない。実際、この騎士の説明も間違ってはいないが、全てが正しいわけでもない』
(その、正しい訳でもない部分って何だ?)
『再び説明しよう。人族は常に蹂躙され続けていた訳でもない。歴史上では共に災厄から世界を救った事もあるし、魔族が人を救った事例も多々存在する。今回の召喚も言ってみれば聖王国【ヴァハラマ】側の事情による所が大きい。利害の不一致は確かにあるが、一方的に魔族に咎ありとは一概に言えない』
(OK。そこまで判れば十分だ。当面の目標は、彼らのお願いを躱しつつ、正しい情報を集めることだな。ところで、お前の情報はどこまで信用できる?)
『説明せねばならない。基本、知識に依る部分に関しては全面的に信じてくれていい。しかし、誰かの感情に属する事、なかんずく、思惑などについては、予測はつけられど、全幅の信頼をおいていいという訳ではない』
ふむ、大体事前に予想していた通りか。
「ところで、勇者殿たちの御名を伺っていませんでしたな。お聞きしても?」
「ああ、失礼しました。俺は赫羽甲児。こちらが幼馴染の巽さやか。そして奥の小さい子が俺の妹の赫羽志侶です」
「ほう、こちらの方は妹君であられましたか。てっきりこちらの御婦人二人が姉妹であるかと」
「良く言われます。が、わたしとさやかお姉様は血のつながりはございませんの。将来ホントに姉妹になるかも知れませんが。ええ。不肖の兄が見限られなければ」
「ほう。やはりお二人はそういうご関係ですか。いや、お似合いのお二人ですな。羨ましい限りですなぁ。がっはっは」
「ローマン卿!」
「おっと、静かにします……」
「ところで、俺達は今、普通に会話をしていますが、皆さんは日本語を話している訳ではないですよね? 一体どういう絡繰りなんでしょうか?」
「恐らく、それは召喚に際して組み込まれていた補助魔法の言語野接続が動作しての物でしょう。これが接続している者同士では、たとえ異なる言語で話合っていても、相手の言葉が理解できるという優れた魔法です。この魔法が存在しなかった頃は、異なる部族や異国の者達とも相互理解が図れずに無駄な戦争を繰り返していたという事です。300年程前にこの魔法が発明されてからは戦も減って世界が平和に、豊かになったと聞きます」
「素晴らしい魔法ですね。相互に接続ということは、結構普及している魔法なのですか?」
さやかが、すんげー前のめりに聞いてくる。ある意味彼女の夢に一歩近づく為必須の魔法だからな。
「ええ、小さな村までとは言えませんが、それなりに大きな街であれば我が神殿の司祭以上の者が誰にでもこの魔法をかけてあげる事ができます。それなりの心づけは頂いておりますが、貧しい者でも、無理をすれば支払える程度の寄付で賄っております。万一、皆様にこの魔法が発動しなかったら、私が改めて掛ける予定でしたから、どの道言葉が通じないという事もなかったかと存じます」
「と、言う事は、ローマン卿は騎士でありながら魔法も使えるという事ですか?」
「ええ、恥ずかしながら神官戦士として最低限の素養は持ち合わせております。ですが、皆様なら少し訓練すれば某程度すぐに追い抜かされてしまうでしょうな。召喚された勇者はこちらの人間の及ばない高みまで上り詰めるのが常でありますからな」
などと会話をしている間に前方に巨大な城郭都市が見えてきた。
「あれが、我が神の総本山【アル シャンテ ロア】です。この世界で唯一の百万人が住む大都市で、市民をあらゆる脅威から守護する結界都市でもあります。故に全世界の人々がここに住まうのを夢見る『憧れの都』ともよばれております」
◇◆◇◆
中に入って驚いた。城塞都市なので、古代ローマのような都市を想像していたのだが、もっと俺達の世界の都市に近い近代的な作りの都市であった。建物は、意外にも五、六階建てのビルみたいな感じで、土壁(にしては頑丈そうな作りである)の物が多く、道路も、ポルシェで走れそうな位平坦で、しかも舗装がされている。
「この道路は丘珊瑚の死骸を細かく砕いたものを土魔法で圧着したもので、毎日多くの大型馬車が通っても、わだち一つ残さない丈夫な道路です。この国の道路は裏道に至るまで、かつての大魔導士『偉大な灰鼠』と言われる人物がたった一人で舗装したと言われております」
「なに、その人! すっげー!」
思わず叫んでしまった。都市一つ丸ごとインフラ整備してしまうとか、どんなゼネコンも真っ青な活躍ぶりである。それに、路面のピンクは珊瑚だったのか。どうやらグアムなんかと同じ作りなんだな。
それ以外にも、やたらと綺麗でゴミ一つ落ちていない。糞尿の匂いも無い所を見ると下水道も完備されているようだ。
それに、行き交う人々の笑顔、笑顔、笑顔! 世界の危機とまで謂われるな災厄が間近に迫っているなんて信じられない位に人々の表情は明るい。少なくともこの都市の民度が高いことは窺い知れる。
「まだ、此度の災厄に関しては市民レベルでは秘匿されていますから。ただ、それを除けば犯罪の発生率も低く、市民の教育レベルも高い水準に安定していて、商業も発達しております。時間が取れれば商業区画へもご案内したい所ですが、今日はこのまま法王様に面会して頂くので、大聖堂へとご案内いたします」
そういえば、俺達以外にも召喚された「勇者」が居るんだよなぁ。ちょっと楽しみではあるな。
「ところで、俺達は何を求められ、何をすればいいのですか?」
「それは私の口からは何とも。それは、法王様や、各国の首脳レベルの方々に直接交渉していただく必要がありますな」
ちょっと待てぇ! 今聞き捨てならぬ台詞があったぞ!
「法王だけがいらっしゃるという訳ではないのですか?」
「先にも申しましたように、此度の事は世界の危機と言って良い災厄。国際レベルでの連携が必要不可欠でありますれば」
「他の召喚者も居るわけですよねぇ。一体どの位の人数がいるのですか?」
「それも私の口からは。ただ、お迎えに上がる為、8個連隊が動いております」
少なくともあと7人以上は居るのかな?
そうこうする内に、大聖堂とやらに到着した。何の事は無い。到着時から見えていた一番大きな建物じゃないか。
「ここから内部には、武器を携帯した私は入る事ができません。案内はこちらのサリア女史がいたします」
「サリアでございます。ここから先、謁見の間までご案内いたします。謁見の間には、各国の首脳もおりますので、最低限のご注意をお知らせしながらのご案内となります。お聞き苦しい点が多々あるかとは存じますが何卒良しなに」
「「「宜しくお願いします」」」
「それでは、ご案内いたします。どうぞこちらに」
◇◆◇◆
「そもそも、俺達はなぜあそこに召喚されたのでしょうか?」
「召喚魔法の結果は魔法発動の場所より半径19公里内に存在する魔力溜りに現れる事が多いと聞きます。皆様のいらした地点には、地下に迷宮があり、淀んだ魔力が多量に含まれておりました。恐らく強力な存在が現れるであろうと確信しておりましたが、よもや三名もいらっしゃるとは」
「サリアお姉さんは、メイドさんなんですよね? 実はすっごく強かったりしません?」
シロがサリアさんの存在に喰い付いた。さやかも、むっさい男から解放されて安心したのか彼女のスタイルに興味を持ち始めた。
「え? ええ、まぁ。それなりにとは自負しておりますが、一応大聖堂付きの侍従ですし。さやか様! なぜギラギラした目で舐めるように見てらっしゃるのですか?」
「あー、すいません。職業病なので諦めてください」
俺は力無く慰める。慰めになってないか。
「はっ! そそそ、そうです。諸注意を……謁見の間に入る前に控え室でお召し物を着替えていただきます。聖衣を上から被って頂くだけですが。あ、それと、控え室には既に別の召喚者がいらしている筈です。トラブルを起こさないようお願いします。それから、ご案内の後、謁見の間に入っていただきますが、法王猊下は気さくな方ではありますが、周囲には周辺五カ国の首脳や代理の方が詰めております。彼らから、何かしらの言葉を賜ったとしても、この場ではオブザーバーですので、余り気にしないで下さい。重要なお話は基本、法王がお話し下さいます。それでは、こちらが控え室でございます。皆様、しばらくこちらで待機して下さい」
豪華な扉の前で止まった彼女は、ノックすると、中から外開きに扉が開いた。
豪華な室内調度品にまず目を奪われたが、いくつかあるソファには既に十数人の人、恐らく日本人であろう人々が座っていた。
「あっちに座ってるのは元プロレスラーの嶋源一郎。向こうの壁際には俳優の沖田和也。あ、キックボクサーのMAKADOも居るな」
「あ、あっちに居るのは……」
「さやかちゃん!」
「やっぱり、ヨーコちゃん! どうしてここに?」
「いきなりピカッて光ったと思ったら怖そうな人達に囲まれてて、ここに連れて来られたの。なんか怖そうな男の人ばっかだったから不安だったけど、さやかちゃんが一緒なら心配無いよね。もしかして、これって何かの企画なのかな?」
たしか、アイドルの紺ヨーコだったか。さやかの知り合いだったんだな。
「ああああっ! もしかして、こっちの子は」
「はじめまして。MGEプロの赫羽志侶です」
「やっぱり! シロちゃん! 本当に幼馴染だったんだ。? こちらのイケメンさんは?」
「逝けメン? 不肖の兄ですわ」
「あ、もしかして、さやかちゃんの彼?」
「え? いやん! しーっ」
なんか、いたたまれない。他の人達の視線が集中するぅ~ あ、睨まれた。どうやら一般人も居るみたいだが、業界人多いな。
どうやら年下みたいだが、一般人同士だし、仲良くしたいものだが、あ、そっぽ向かれた。! 舌打ちされたっ! ガーン。
◇◆◇◆
くっそう、一体何なんだ? 俺、鞭矢 肇が異世界転移した先に居たのが、俺以外にも大勢の日本人、それも、どいつもこいつも有名人やらリア充ばっか。俺みたいな引きこもりが、この中に入ってやっていける訳がないじゃないか。
つい、今も、何やら女二人づれのリア充の糞野郎がドヤ顔で俺の方に自慢っぽい面を向けてきやがった。
ちっ!
どうせ俺の顔を見て優越感にでも浸ってるんだろう。
『その通り、どうやら奴は君の平穏を侵す無頼の輩となるだろう。出来る限り早めに排除しておく事をお勧めするよ』
ああ、ああいった奴らはせっかくの異世界の秩序を破壊しかねない。
この世界は【俺】だけの為にあるっていうのに。
俺だけの、俺だけによる、俺だけの為のこの世界。
決してあんな奴らにいいようにさせちゃいけない。
それにしても、いい女を二人も連れてやがる。
と、いっても、どうせ糞ビッチのガバガバなんだろうけどな。基本、紳士である俺は処女以外眼中にないからな。あっちのちっこい女はともかく、あの、どっかで見た事ありそうな女は鼻から除外でいいんだよ。
どうせ、向うにいたら話すどころか、すれ違う可能性すら無かったような女だ。早い所こんな場所を出て何千、何万と、これから出会う予定のエロフや、けも耳モフモフに早く会いたいぜ。
もっとも、先立つ物は必要だろうから、精々国王だか法王から思いっきり分捕ってやろうか。
そう思ったらちょっとだけ溜飲が下がったと同時に、ちょっと立ってきた。
◇◆◇◆
「どうしました? お兄さん?」
「あ、いや、失礼しました。それにしても、ここに集まってるのって、結構本格派が多いような。沖田和也って、元自衛官の知る人ぞ知る武闘派だし。嶋さんは言うに及ばず、MAKADOも日本人としては最強クラスのキックボクサーだし。もしかして、紺さんもなにかやってます?」
「ヨーコでいいですよ。お兄さん。確かに空手を少々」
「ヨーコちゃんは、女子の部で日本第三位になった事もあるのよ!」
えっへん。って、さやかが威張るなよ。
成程。じゃあ、ここに居るのはみんなそれなりにヤル人ってことかな?
俺やシロも小さい頃は高円寺の|スネークピット《ランカシャー流レスリング》でぶいぶい言わせてたし、さやかも、あれで北辰流の免許皆伝だし。
「皆様、お待たせいたしました。謁見の間に御案内しますので、先程お渡しした貫頭衣を着用してからこちらへいらしてください」
ようやくお呼びが掛かった。どうやらこれで全部のようだな。ざっと、20人ちょっと。聞いてたよりは少ないか?
「では、御案内いたします」
そう言われて、さっきのサリアさんよりは年嵩の女性に先導され、俺達は部屋を出て行った。
五分程の道のりをぞろぞろと歩く俺達の先導をするメイドさんはサリアさんとは違って終始無言であった。何となく微妙な雰囲気を引きずったまま俺達はぞろぞろと付きしたがっていた。
やがてこの建物に入ってから一番大きな扉の前で一同停止すると、ようやくメイドさんは俺達に一言話しかけた。
「この奥で法王猊下はじめ、皆様お待ちです」
いよいよご対面か。果たして鬼が出るやら、蛇が出るやら。
『説明しておくとしよう。どうやら鬼も蛇もこの空間に居るようだ』
なにやら不穏な台詞をマビノギオンが言い出した。
次回 本当に、2日PM10時頃
プロローグ 後編
お楽しみに。