プロローグ 前編
やあ、俺の名は赫羽甲児。
君と同じ、何の代わりも無い普通の少年だ。
でも、君がもしある日突然、人間以上の力を持ったとしたら、君はそれをどう使う?
その力で、世界を滅ぼす悪魔になるか?
それとも、世界を救う英雄になるか?
俺、赫羽甲児は、その恐ろしい力を突然もらい受けてしまうのです。
そして、その力とは……
◇◆◇◆
<某日、都内某所>
俺は赫羽甲児、19歳の誕生日を翌日に控えた、ごく普通の少年だ。
俺は今、大学からほど近い所にある俺のシェルターハウスである神保町のマンションから、皇居前を通って246に向け、愛車であるポルシェ991ターボSを走らせ、渋谷で待っているであろう俺の妹と幼馴染を迎えに行く途中である。
え?
どこが普通だって?
至って普通だよ。そんな青筋たてて拳握りしめないでくれよ。
順を追って説明しようか。
まず、俺は金持ちのボンボンではない。両親は普通に共働きの地方公務員だったしな。
ただ、俺の両親というのが堅実な性格で、俺が生まれた頃から毎月5万円ずつ俺の為に積み立て投資をしていてくれたのだ。
そうすると、年間60万円が俺に譲渡されることになる。この金額は贈与税がかからないギリギリの線という事で決められたものだ。
そして、その譲渡された金を証券投資で運用する。まぁ、俺が未成年なので、国内株式にしか投資できない訳だが、それでも、俺の親というのがなかなか目端の効いた人物で、俺の口座のポートフォリオには、変な無駄銘柄を絶対入れない人だった。
だからだろうか? 今までにも何度かあった株式暴落の危機も、「どこ吹く風」ってなもんで、俺のポートフォリオは堅実に資産を貯めていった。
小学校へ入学する頃には、約1000万。
中学校に入学する頃には、約4400万。
高校に入学する頃にはなんと、一億円を突破し、
高校を卒業し、一年経った現在、2億6千万程の資産となっている。
更にはその資産から毎年配当金が出ているのだ。高校時代からその額は年間数百万に達し、昨年は、一年間でトータル1000万以上の金額となっていた。
流石に普通の少年たる俺が、学生の時分からそんな大金使い道も無く、ここ数年通帳に溜まりっぱなしであったが、大学に入学を切っ掛けに、ちょっと散財しようかと、ほんの少しだけ使ってみたのである。
一応、配当だけは自由に使っていいことになってたしな。
まず、大学近くで一人暮らしをする為にシェルターハウスとしてマンションを購入。これは、頭金として2000万程支払った後、毎月のローンを配当金で賄えるよう手配した。
月額30万程を15年ローンなので一括でも払えそうなのだが、大学を卒業したら、このマンションは他人に貸し出して家賃収入を得るのに使えるというので、月の家賃で賄える位のローンにしておくといいとのアドバイスを知人からしてもらったので、そんな感じにしている。
で、同じ要領で白いポルシェ991ターボSも、頭金として1500万程、残りは36回ローンで支払うようにしてみた。
え? ポルシェは911じゃないのかって? 今現在でも、商品名は確かに911のままだが、現在販売されている車の開発コードネームが991という番号なんだよ。俺は、そっちの開発コードで語っている。 この車は、それまでの911と比べても格段に運動性能が高い。はっきり言って今までの911と比較して格段に性能は上なんだ。
例えば、かつての伝説のスーパーカー、ポルシェ959。昔200台限定で発売された4WDツインターボの怪物マシン。当時の新車販売価格4400万以上。実際の取引では2億円以上で取引された化物マシンだ。最大出力450馬力、最高速度310km/hの夢のマシンだ。昔ビートたけしが事故おこした車だな。
で、現在の俺の愛車991ターボSは、というと、最大出力560馬力、最高速度318km/h。性能だけでいうと小差に見えるが、サーキットに持ち込めばこの二台、比較すると、959は、991の影も踏めない状態で大差がつく。しかも、当時の車と比較して殆どストレスフリーの扱いやすさである。20年以上の技術格差があるとはいえ、免許取り立ての俺が乗るには断然こっちがいいに決まっている。
しかも、お値段はたったの2600万ちょっと(車両本体価格)どっちが得かなど考えるまでも無い。
話が脱線したな。
新車を買ったばかりでテンション上がってたようだ。いずれにしても、俺は特別な存在という訳じゃあない。こんな事は、やり方さえ間違えなければ誰でも真似できるってことさ。
ここまで言えば俺が特別な存在じゃないって事理解してもらえたと思う。以上Q.E.D。
などと、誰に対して話しをしてるんだか?
そんなヨタを語っているうちに、もうR246に入ってきた。このまま渋谷に出て109前で待ち合わせだ。赤坂の陸橋を過ぎると、うん。今日は空いてるな。このままならあと10分もすれば到着するだろう。
今、俺が通ってきた道は、昔やったことのある有名ドライブゲームに同じコースがあった。初めて走った時はそっくりそのままな道に感動したっけ。もっとも、俺自身ゲームは小学生の頃以来やってはいないのだが。
と、いうのも、ぶっちゃけた話、俺は漫画やアニメはそれなりに見る方ではあるが、ゲームだけはどうにも好きになれなかった口だ。
大抵の事はゲームで出来る事をやる位なら、現実世界でやった方が楽しいのに、と思ってしまうのだ。
例えば、ガンアクションがしたいならアメリカにでも行ってPPCなりTRCなりシューティングトーナメントに出た方が楽しいし、賞金も稼げる。俺の友達で、実際そっち方面に進んで今ではあっちでガンスミスをしている奴もいる。
スポーツだって、ちまちまとボタンを押して成績を決めるより、実際体を動かしてやった方が楽しいと思うし、やらなくても、会場で応援した方が楽しめると思うのだが?
そこまで行かなくとも、例えばホラーゲームより、実際お化け屋敷に行った方がライブで楽しめる。たまヒュンだって、目の前の出来事で感じるライブ感は凄いぞ!
しかし、一番理解出来ないのが、パチンコやパチスロのゲームである。
あれ、ゲーム機でやって何が得なんだろうか?
まったくもって意味がわからん! 誰かおしえて!?
つくづく益体も無い考えに落ち入ってしまった。
さて、そろそろ到着、あ、もう待ってた。
「遅ーい! いつまで待たせるのよお兄ちゃん!」
白いブラウスを着たちんまい少女が俺に悪態をつく。彼女が俺の妹、志呂。13歳になったばかりの黒髪パッツン子だ。麦わら帽子で顔を日差しから守っているのは、所謂読者モデルをしているからである。
「しろちゃん。甲児くんだって大学からすぐ来てくれたんだから……」
と、俺を庇ってくれたのが、幼馴染の巽さやか。こちらも、黒髪に所謂姫カットという今時珍しく古風な佇まいの女の子だ。その割にはへそ出しでパンツルックという小洒落た格好をしている。彼女も売れっ子モデルで、というか、妹をこの業界にスカウトしたのが彼女である。
で、シロはさやかの事をモデルとして尊敬しているので、髪型も似せているのである。初対面の人に尋ねると、必ずさやかとシロがホントの姉妹だと勘違いする程似せているのである。
俺の立場は?
「じゃあ、甲児くん。いきましょうか?」
「OK。二人共早く乗ってくれ!」
一度助手席を倒してシロが後席に座る。で、シートを戻してさやかがナビに座る。この段階で付近の男共からなんかすげー羨望と嫉妬が入り混じった感情で見られている。まぁ、こんな美人を二人も乗せてりゃ、それなりに悪目立ちもするが。俺は今更だから気にはしないが。
この後は、一日早いが俺の誕生日パーティーを神宮外苑のレストランで行う予定である。先に行っている仲間が準備をしてくれている筈だ。後は、俺達と、遅れてやってくる筈の両親が集まれば準備は万端整うのだがな。
それにしても、普通は俺に内緒とか、サプライズを仕掛けたりするものだろうが、大抵、感が鋭い俺が準備中に見つけてしまう為、俺も準備側に組み込まれてしまったのである。だからこその送り迎えであるが。
さて、ここからなら青山霊園を通って行くのが近道だな。
二人のシートベルトの着用を確認して、スタートする。
道路脇の街路樹は、いよいよ紅葉も染まり始めて秋も本番、むしろそろそろ冬の足音も近づいてくる頃である。生まれた季節だからという訳ではないが、俺はこの季節が一番好きだ。寒すぎず、ぽかぽか陽気の中でも暑苦しくない程度に冷えた空気感が何といってもいい。今日もガーデンでのBBQらしいので、楽しみだ。
さて、車は進み、早くもラストスパート。【六本木トンネル】を抜けて間もなく目的のレストランだ。しかし、この先にあるトンネルは、古くから幽霊が出るだの、神隠しに会うだの、とさまざまな都市伝説の絶えないスポットだ。そんなちょっと前に流行った都市伝説を披露しながらさやかの表情を観察する。
「そういえば、親父から聞いた話だけど、この六本木トンネルってのは、昔から悪霊の類が寄って来ることで有名なんだってさ」
「いやーっ! 甲児くんマジで止めてぇー!」
うんうん。いい表情♡
意外にも、こういう話に弱いさやかは、耳を塞ぎながら目をギュっと瞑り早く通り過ぎろとばかりに外界の音と映像を拒否している。ここまで怖がってくれれば、話した甲斐もあるが、かえって怖さが増幅されたり、もっと言うと、怖がってばかりいると、「呼んで」しまうのではなかろうか? それ以前に何か起きるフラグが立ってしまうんじゃなかろうか? と、心配になるぞぉ! と、脅しを入れる。
「「キャー! キャー!」」 言いながら怖がる二人を堪能しながら、俺自身信じてもいないフラグが立ってないだろうか? と、ちょっと心配になっていたり。
「ある警察官の話によると、この中で大事故が起こって車が大破炎上してねぇ~ 焼け焦げた車を調べて見ると乗ってたはずの人の姿がどこにも無くなってる。で、おかしいなぁ? と思ってトンネルの中を探していると……聞こえてくるんだよ。どこからともなく、『たぁ~す~け~て~』って! 『どこにいるんだ?』って聞いてみると、答えない。何も聞こえなくなったので、気の所為だと思って見分を再開した。で、しばらくすると、耳元で聞こえたんだ。『なぜ?助けてくれないの! じゃあ、次は、おまえの番だ!』」
で、そのタイミングでオーディオを最大ボリュームで鳴らすと
「「!」」
すんげー効果あった。
「うえーん! 甲児のばかぁーっ!」
ガン泣きだ。かわいい。
なんて、不謹慎にも悪ふざけをやっていたものだから、それが立っていることに気が付かなかったのだろうなぁ。言い訳してみると。
結論から言うと、立ってました。「フラグ」と、いうか、何かの紋章みたいな光の模様が。
トンネルの中だというのに、眩いばかりの光の洪水が前から押し寄せてくる!
「お、お兄ちゃん! あれ? なに?」
「ここここ甲児くんー! ななななんかでてきたぁー!」
俺はというと、暴れるハンドルを無理矢理直進方向に向けるだけで精一杯である。うかつにも、前を凝視してしまったため、既に視界は真っ白でどうにも方向はおろか、上下の感覚さえ曖昧になってきた。
「まぶしくてみえないよ――――っ!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
さやかが何かを必死に謝っている。あいつ何やっちまったんだか。って、そんな場合でも無い。ブレーキもアクセルも完全に手ごたえがない。
「えーと、グラサングラサン」
シロがグラサン探しはじめた。こんな時でも何となく余裕がある処が我が妹ながら頼もしい。
やがて、ふわりと浮遊する感覚になったかと思うと、いきなり俺達は、ポルシェに乗ったまま落下を始めた。
「「「うっきゃ――――っ!!」」」
ホラーかと思いきや絶叫系とは! つくづく楽をさせないアトラクションだ。
もしかして、これも俺への誕生日プレゼントのサプライズじゃないのか? と、一瞬考えて流石にその考えを打ち消した。どう考えても無理難題乱暴狼藉ってもんだ。
いや、完全に現実逃避だよ。まだ落ちてるし。既に一分以上落下を続けている。恐らく落下のスピードから考えても、俺達、一巻の終わり、だろう。嗚呼、せめてBBQ喰いたかった。
◇◆◇◆
そんな考え事をしているうちに、なにやら停止しているような感覚になっていた。エンジンもいつの間にか停止してるし、さやかは完全に泡吹いて失神してるし、シロも、グラサンしたまま眠っているようだ。いびきかいてるし。いびきって(笑)
どうやら、地面に足を付けている感覚はあるので、ここは天国という事も無いだろう。そして、
「むにゃむにゃ。もうたべられない……もう一杯!」
シロのベタ過ぎる寝言に我を取り戻した俺は、未だ失神しているさやかの様子を確認する。ん、大丈夫のようだ。
ぺちぺちと頬を叩くと、ようやく目を覚ましたさやかは、どうも俺の顔が近かった所為か、赤面して目をそむけてしまう。
「甲児くんのエッチ?」
状況が状況なら萌える台詞だが、流石にこの状況では「残念」の称号を送りたくなる程危機感の無い台詞にぷちキレそうになるが、先ずは俺自身も状況を確認したい。
「どうやら、囲まれているようだ」
そう、ポルシェの外には、俺達を十重、二十重に取り囲む馬(?)に乗った騎士の群。それも、幟を立てた旗騎士の軍勢である。
「こ、甲児くん!? ここ、どこ? あれ? 何なの!?」
目覚めると想像もしていなかった境遇でパニくってるのは分かるが、説明聞きたいのはこっちも同じだ。
『説明しよう。かの軍勢は聖王国【ヴァハラマ】の法王親衛隊。諸君をこの世界、【ファンタス】にと召喚した連中だ』
な、なんだ!? 突然頭の中に山寺 宏一みたいな声で説明が浮かんできた。
「どういう意味だ?」
『再び説明しよう。彼らは君達を召喚した法王の命を受け、君達を迎えに来た騎士たちである。なお、ここで君達が彼らと諍いを起こす事はおすすめしない』
「随分と御親切なことだ。そういうあんたは何者なんだ?」
『説明せねばならない。今君達と会話をしている我こそ、大いなる意志によって君達の元へ遣わされた神界魔導書【マビノギオン】である。神意によって赫羽甲児と一心同体となった我と君は、今や一蓮托生の運命共同体である。従って、君達自身には我の為にもその身を安全にかつ、丁寧に守護する義務が生じたのである』
「え? つまり?」
『君が傷つけば我が。我が棄損すれば君が、互いに同時に棄損するということである。つまり、我が全損するようなら、君自身もぶっ壊れてパーになるという事だ』
「な、なんだってー!」
俺は、仰け反って驚いた。流石に変な俺に対し、胡乱気なシロとさやかの目線に気が付き、説明をしようとしたその時、流石に痺れを切らしたのか、包囲する騎士達から声をかけられた。
「あー、そこに居る者たちに告げる。こちらは、聖王国【ヴァハラマ】の法王親衛隊、私は、隊長のオブティマス=ド=ローマンである。諸君をこの世界に御招待した法王猊下の命によりお迎えに参った次第。宜しければ我らの招待に応じてはもらえまいだろうか?」
こちらが混乱している最中に、例の騎士団からコンタクトを求めてきた所為で説明のタイミングを失ったようだ。
「どうする? ここは無下に断っていい雰囲気じゃないぞ」
「ど、どうしよう? 甲児くん。怖いわ?」ぴとっ
「さやかさん。流石に今の状況でその雰囲気はビッチ呼ばわりしたくなりますわよ。どうやら、ここはわたしの交渉能力が役に立つ時が来たようですね」
グラサン懸けたままのシロが、ふんす! とばかりに立ち上がる。ガン! と天井に頭をぶつけた。
屋根低いんだから無理すんなよ。
とりあえず、全員一旦車を降りてさっきの騎士の目に見える位置に陣取る。
「えーと、ローマン氏で宜しいのかしら?」
グラサン懸けたまま、シロが威風堂々と騎士に語りかける。
「はい。マドモアゼル。是非とも我が主の願いを聞き入れていただきたいのです。つきましては、我が神の聖堂まで御同道いただけないでしょうか?」
恐らく30代であろう偉丈夫の騎士が、小さなシロに対し膝を折って礼儀正しく答える。
「だ、そうです。お兄様。シロとしては、お話伺いたいと思うのですが?」
お兄様? ちょーこしょばい! いずれにしても、話位は聞いてみなければ何とも言えんだろうな。
「分かった。取りあえず話位は聞いてみようと思う」
そう言うと安心したようで、
「ありがとうございます。それでは、こちらに馬車を用意してございます。どうぞ、ご乗車ください。さぁさ、皆様もどうぞ」
そう誘われてもなぁ。俺はポルシェを見やり、
「この車をここに置いたままという訳にもいかないんだが」
「ふむ、申し訳ありませんが、かような物を聖王都に持ち込むのはいささか無理があるかと。騎士を見張りにつけますので、この場は、このままご容赦くだされ。後ほど竜車を派遣して移動させますので」
マジか!? しかし、仕方ないか。それにしても、竜車か……
「甲児くん。大丈夫かなぁ?」
さやかは今一信用しきれないようだが、事、ここに至っては仕方なしか。
「心配はあるが、ここは言う通りにした方がいい。なにしろ、情報も無ければ俺達の立場も判明していないんだ。どうやら、ここで争っても入手できる情報を損なうだけだろうし、何より、『招待した』と言っている以上、こちらから敵対するのは悪手だろう。ここは言う通りにして、色々教えてもらうのが吉だろうな」
「お兄様の言う通りですわ。とりあえず、どうするにしても、情報が不足しています。ここは、親切なこの殿方からお教えいただくのが最善ですわ」
何だよ。シロの奴、気味の悪い台詞回しでしゃべりやがって。
「どうしたんだ? 急に話方まで変えて?」
「騎士なんて居る社会ですわよ。殿方は立てた方が女は他の方の覚えも良いのでは?」
一理ある。が、俺から見ると、中二が発症したかな? と思ってしまう。シロはたまにこういう事があるからな。正にお年頃でもあるし。現に、ここに来てからというもの、嬉々としてしゃしゃり出ているしな。
「そういう訳ですので、交渉の窓口はお兄様に一任いたしますわ。宜しくおねがいしますね」
「無茶をふるな~!」
とほほ。
まぁ、だからと言って、ここで同道する以外の選択肢もないのであるが。
次回 プロローグ 中編
明日PM10時台に公開予定。
お楽しみに。