Ⅰ
有言実行のデュークは、数日で基金設立の承認を得た。全会一致での可決。
議会の誰もが、提案者がリリーであると知り驚嘆したそうだ。
また、諸手を挙げて賛同するデュークにも驚きつつ、国の問題を真摯に考える若き国王の姿勢に、その場の皆が好感を覚えたのだった。
バザーの日程が知らされるとすぐに、リリーは忙しなく働き始めた。
これまで贈り物を送って来た家臣や有力貴族のリストを取り出し、寄付をお願いする書状を認めた。かなりの数になるため、同時並行でジュリアには控室の中の荷物の整理を頼む。
活発に動くリリーの様子を眺め、ジュリアは上機嫌だ。仕事が増えて大変なはずなのに、苦言を漏らすこと無く働いている。
「リリー様が以前のように活き活きされるようになって嬉しいです」
休憩中にお茶を飲みながら、ジュリアの言葉に耳を傾ける。
「3年も引き籠ってしまったから。気力も体力も補充は十分。じっとしていられないのよ」
「確かにそうですね」
そういうジュリアも、以前より明るくなった。他の侍女たちとの交流にも積極的で、様々な情報を得ては伝えてくれる。
「さて、バザーまではあと2週間。頑張りましょう!」
リリーは大きく伸びをした。
☆
「ありがとうございました」
元気良いメリルの声に、リリーは微笑みを返した。
先日の約束通り、メリルに教えを乞われたリリーは、頻繁に子供たちの部屋を訪れた。
新緑が目に眩しいバルコニーでお茶を囲みながら、様々な国の話、船の話を聞かせると、2人は目を輝かせながら耳を傾けてくれた。
更に、噂が噂を呼び、王宮内に外国ブームを巻き起こしてしまったようだ。いつの間にか部屋の隅には彼らの侍女がジュリアと並んで立ち、聞き入っている。廊下からも「押さないで」や「聞こえないわ」といった侍女たちの声が聞こえてくる。
子供たちの母親でさえ同席することがあった。まだ1度だけだが、話をした後お茶を一緒に飲み、すっかり打ち解けた。元側妃の中で、初めてリリーを好意的に捉えてくれた。
すっかり「外国の王子様に嫁ぐ」つもりになったメリルは、特に熱心だ。
カインがこっそりと教えてくれる。
「外国の先生が姉上の豹変ぶりに驚いていたんだ。目の色が変わったって」
確かに、別人のようだ。今では、あれ程嫌がっていた教科書にカラフルな付箋が沢山貼り付けられている。
「兄上も昔同じように変化したことがあったって言っていた」
そういえば外国の授業が眠くて大変だったというようなことを言っていたが。何かきっかけがあったのだろうか。
窓の外が橙色に染まり始め、リリーは部屋へ戻ろうと荷を纏める。
「また来てくれる?」
縋るように腕を掴むメリルに「ええ」と返事をする。横からカインが「外国のお姫様を目指す姉上は大変だなぁ」と茶々を入れると、顔を真っ赤にして拳を振り上げる。
「まあまあまあ。きっかけは何であれ、お勉強が好きになることは良いことですよ」
「兄上も外国のお姫様をお嫁さんにするから、沢山勉強していたんだね」
宥めようとしたリリーだったが、カインの言葉に思わず固まる。
「え?」
外国のお姫様をお嫁さんにする、とは?
聞き直そうと思うのに、言葉が思うように出て来ない。もやもやとする。
その内に2人の食事の時間を知らせる侍女がやってきて、その場はお開きになった。
廊下をゆっくりと歩きながら、ジュリアに問いかける。ジュリアもカインの言葉は聞いていたに違いない。
「デューク様は、外国のお姫様とご結婚されるのかしら」
「まさか!」
子供の何気ない言葉だと聞き流せば良いと思うのに、できない。
どうしてだろう。
落ち込みそうになる心。言い知れぬ恐怖がふつふつと湧いてくる。
妻はリリーだけだと言っていたデューク。実家でのあの誓いを思い出す。
だけれど、それがもし、偽りだったら?
「こっそり調べてみますから、今は悪いご想像はお止め下さい」
眉を下げたリリーに、力強くジュリアは拳を握る。
頼りになる侍女に、深く頷いて見せる。頼りない笑みを添えて。
「お願いね、ジュリア」




