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異世界で魔力に開眼しました

 それから僕は。

 ハッスルして31匹もバッタを捕まえてしまった。

 興奮のせいか、固形物・・・ではないが水以外のものを腹にいれたせいか、はたまた謎の魔力の補給のせいか、僕はとくに眩暈も息切れもなく、華麗にバッタを集め、心地よい疲れをおぼえながら、河原の岩に腰を下ろす。

 それにしても、この辺にはバッタがやたらに多い。


 これはあれだ。

 某国産初?RPGの最弱モンスターにあたるものがバッタなんだ。僕の「くせに生意気」に言えば、「コケ」だね。え?農民?何言ってるんだ、ここが夢幻界だったら、とっくに瞬コロされてるぜ!


 リリリリリリ


 タイミングよくケータイのアラームが響く。


 何も言わないうちから、イツマがバッタを渡してくれる。


 「異世界の食材に感謝を込めて!いただきます!」


 バッタの首を折り、中身を流し込む。

 吐き気をこらえて水で流し込めば。


 熱い塊が腹に生まれたのがはっきりわかる。

 それが体中に消えていくのも。

 慌てて熱が右手に集まるようにイメージして。


 「フォアク!」


 おのが手指をフォークに見立て、地面を軽くひっかく。


 ごそっ・・・


 ほとんど抵抗が感じられなかったが、大地に4本の軌跡が刻まれていた。あたかも巨大な・・・全長1mのフォークで削ったかのように。


 『・・・すごいわね・・・手は大丈夫なの?』


 その声に我に返り、じっと手を見る。

 なんともない。

 それどころか、土や草といったもので汚れてさえいない。


 「・・・異世界・・・最高・・・」


 感激していた。


 『なに?』


 イツマが訝しげに尋ねる。おおっと思考が、感激がおもわず漏れ出していたか!


 僕は、あらためてイツマに向かっていう


 「異世界!最高!」


 なにせ、僕は魔力を発揮したのだ!

 ひょっとして、火を放つことも可能かもしれない。夢が拡がりんぐ。

 いずれは魔力を自在に操ってみせる!

 次のバッタが待ち遠しいぜ!


 そういえば、日時計のことぬるっと忘れていたなぁ。しょうがない。それに、こうして地面に刻みをいれる力を得たこれからの方が、風雨に耐える記録が残せるというものだ。

 なにしろ、これは年単位で記録していくべきことだからな。

 まあ、じきに天体観測用に四分儀くらいは手に入れたいところだが。


 あるよね?


 てゆーか、いるよね?人間?


 折角のテンションが・・・下がる・・・


 気を取り直して、好材料について意識を集中。こういう時は「いいことだけ思い出せ」ってやなせ先生も言ってた。ドリーミングが歌ってた。


 この魔力はさっきの技だけでも十分使える。さっきは「食材に感謝」した流れでつい「フォーク」になってしまったが、ナイフにすれば刃物のかわりに、釘にすれば狼にも対抗できる?・・・バトルウルフは無理だよな・・・

 当然、スコップ(シャベル)にすれば、地面を掘ることができるだろう!


 本当に夢が広がりんぐ。

 穴を掘ってそこで寝起きすれば風の心配がないし、掘った土を日干しレンガにしてもいいが・・・赤土じゃないから無理かもしれない。灰色のような土って日本じゃ見たことなかった。これは養分なんかも無さそうだ。

 いや、わかんないけどね!

 この固い土なら切り出せばそのままブロックみたいに使えるかもしれない。


 もっといいものがある。


 椅子代わりに使っている岩。

 あれを切り分ければ、素晴らしい建材になるだろう。

 見渡せば椅子代わり程ではないが、ブロックを切り出せそうな岩がゴロゴロしている。


 『木がないわね、それにしても』


 僕らの故郷、日本にはまあ大抵どこにでも木が生えていた。

 しかし、この辺りは砂漠ではないが木など見当たらない。せいぜい1mくらいのいわゆる「潅木」が川の近くに点在するだけだ。

 遊牧の民は飼っている動物の糞を燃料やら建材にするんだが、僕も家畜を飼えるかな?

 仮に薪で煮炊きを賄おうとしたら、あっという間に乏しい森林資源を使い尽くしてしまうんじゃないか?




 次の一時間は薪を集めることとする。

 さすがにバッタは十分採った感がある。

 先ほど目を付けておいた僕の腕くらいはある流木?のところまで、薪を拾いながら進む。

 流木を拾おうとしてフラついた時、それまでに集めた薪はそこへ捨てて来たから、そこは暫定的に薪の集積地になっている。といっても流木以外は30cmもない枯れ枝が二本きりだが。


 一時間かけて来た道を戻るが、薪や枯れ草を集めながらのせいで半分ほど戻ったところで15時のアラームを聞くこととなる。

 はやくも慣れた手つきでバッタのアンプルを折り、南無阿弥陀仏そしていただきます。水で飲み干す。


 「スプーン」


 手で水を掬うように、地面を掘った。

 抉れた跡を見ながら満足感にひたる。

 ある程度、自由に魔力を操っていると思う。天才じゃったか。ゆくゆくは1ミリの精度で刻んだりしたいね!

 抉れた土はやはり固く乾いていて、手の中でぼろぼろと崩れる。砂と土の中間くらいか。これだって貴重な資源だ。僕は地面にこぼした分も集めて、ポケットにしまう。


 再び、薪を探しながら、歩みを進める。

 川ではほんの時折、ぼちゃり、水音が響く。驚いて水面を見れば、手のひらに乗らないくらいの大きさの魚影が消えてゆく。


 「この音を聞いたの?」


 『決め手はこの音ね』


 それ以外には、音といえば時折吹き抜ける風の音だけだ。


 薪のところに戻り16時の魔法の時間を待つ。30cmくらいの枝が5本。他に湿っていたり、あまりにも細かったり短かったりするのがいくらかあるが、これらはしばらく置いておこう。


 リリリリリリ


 おまちかねのアラーム。

 南無阿弥陀仏そしていただきます。

 そして。


 「ナイフェ」


 腕を振り下ろす


 ガンッ・・・


 失敗だ!衝撃とともに手が地面に埋まったまま止まってしまう。手刀で地面を切り裂く途中で止まってしまったのだ。しかし慌てずにイツマから次のバッタを受け取り、片手で飲み干す。

 手刀に魔力を集めて。


 「フンッ」


 切り裂くイメージ。


 今度は難なく手刀を振り抜いた。


 ふーっ


 ため息が漏れた。手は全く無事のようだ。そして、地面を見る。


 『これはスゴイはね』


 痕跡が興味深い。

 途中まではほじるように進んでいる軌跡が、おそらくは止まってしまったところから大きく変化している。まるで包丁で豆腐を切ったような鋭く細いものに変わっていた。

 確かに、一発目の魔力は手がナイフになるイメージだったが、二度目はそれに加えて地面が切り裂かれる様もイメージした。それが変化の理由だろう。

 肉体を硬くして道具のように使えるばかりでなく、結果そのものをイメージすることで作業をより効率化できる━のではないか。


 まだまだ検証が必要だが、ひとまずは火おこしといこう。


 大きな流木の上にしゃがみ、手首くらいの太さの一番太い薪を体重をかけて押し当てる。

 あとはこれを擦れば火がおきる・・・はずだ。

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