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異世界のはじめての夜だというのに、狼が怖くて眠れませんでした

 満天の星空の下、草の褥に抱かれて、僕は赤子のように眠った。と言いたいところだが。

 地面が冷たい・・・


 地面が固くて冷たくて、なんとも寝苦しい。

 枯れ草を集めてベッドを作ったり、薪を集めて火を起こしたり、もうちょっとやっておくべきだった。

 完全に失敗です。


 とはいえ、「もうちょっと」という仕事じゃないんだよね。

 ベッドにするほど枯れ草集めるのも時間がかかる。

 そして、火をおこすというのは、下手しなくても一日仕事だろう。

 もっともそれも熟練度とか腕力とか体格による。火おこし自然教室ってイベントでいろいろな火おこしを目撃および体験した僕だからこそ確信をもって言える。


 僕は丸一日あっても火を起こせない可能性が高い。


 火おこしにはいくつもの手立てがあるが、マッチやライターならともかく、専用の道具を使っても苦戦した。

 もっとも簡単だと言って、教師役のボーイスカウトのマッチョは、まず虫眼鏡で太陽光を集めるやり方を伝授してくれた。虫眼鏡と黒い紙を使えば、速攻で火がつくんだが、数が足りずに小さな虫眼鏡を使用したグループは結局発火しなかった。虫眼鏡の主として大きさによるみたいだが、あれでさえ失敗はありえるのだ!


 次に、火打石が紹介された。火打石ってのは鋼と硬い石のセットだ。硬い石ってのは、鋼をかすかに削れるくらい硬ければなんでもいいと思う。ぶつけ合わせると、火花が散る。飛び散った火花が、おが屑なり、砕いた炭なり、ほぐした竹なり、燃えやすい物に落ちて煙が上がったら、あとは手で覆いながらフゥフゥ息を吹き込むだけの簡単なお仕事・・・簡単じゃないんだな、コレが。

 ちょっと湿気があるだけで、火花が飛んでも煙なんてあがらない。大気中の湿気でも、えらく燃えづらくなる。さらにさらに!吹き方にもコツがあるらしく、相当強く激しく風を送らなければならないが、下手に吹けば火のつきかけたおが屑そのものが吹っ飛んでしまう。


 そして、僕が使う予定の、摩擦で着火する方法。これはさらに難度があがる。


 とはいえ道具と人手があれば火打石よりも簡単なくらいだ。

 三人がかり。紐を巻いて棒をぐりぐりする、軸がぶれないようにおさえる、摩擦部分をフーフーする。このスリーマンセルなら簡単だ。もっとも、高速でぐりぐりする棒を押さえつけるにはしっかりしたガイド窪みが必須であり、その辺のフツーの板と棒じゃとてもうまくいかない。


 一人でやるとなると、弓を使って片手で棒を回転させ、片手で棒の頭をおさえる形になる。

 軸を固定するのは難儀だし、タイミングを見計らって摩擦行為をやめて、火種に息吹を与えねばならない。窪みを穿つ必要があるのはそのままに、弓の作成という手間が増える。むりぽ。


 一番節約したカタチ、漫画で原始人がやってるやつ。錐で穴をあけるのようにして摩擦する、ここまで人手も設備も節約すると、当然技術腕力の比重が高まる。自然教室の僕たちは相当頑張った。三十分近くも、みんなで交代で頑張った。手のひらは赤く痛み、気の早い奴なんかもう手の皮がベロっとむけて半泣きだ。そこまでやっても結局煙は出るが火はつかなかった。


 ただし、これは本当にやる人間の技術、経験、体力、体格に依存する話。火打石なんかは慣れればもっとマシだろう。でないと江戸時代とか辛すぎる。そんなに火のハードルが高かったら誰も煙草で一服しないだろ。ライターやマッチなんかとは比べ物にならない手間だったしても、今日は湿度が高いから火はなし!なんてことはないでしょ。


 技術も経験も体力も体格も十分だとどうなると思う?


 自然教室では、2mのマッチョが二本の薪を擦り合わせてあっという間に火をつけるところをみた。一本を足のしたに置き、かがみこんでもう一本を押し付けながら擦る。体重をかけながらそれなりな速度で擦っているとみるみる煙があがり、そしてマッチョは地べたに這いつくばってふぅふぅと煙をあげる薪を吹く。


 パッ


 と突然火が上がる。


 マッチョが棒持って屈みましたゴスゴスゴス・・・123456789・・・マッチョ這いつくばってフゥフゥ・・・ええとどこまで数えたっけ、うわっ火じゃっ!


 こんな感じだよ。もしも、あのマッチョだったらちょっとくらい薪が湿ってようが、ものの五分とかからずに着火できると思うが、もちろん、それはマッチョの超肉体と技術があってこそだ。


 そんな具合だから、正直に言って当分は火のない生活を覚悟しているくらいだ。

 もっとも、きちんと乾いた木片が手に入れば、なんだかんだで一時間も擦れば火がつくんじゃないか、そんな風に楽観する僕もいる。


 ともかく、薪を集めてからだ。折角火をおこしたのに、燃料がないんじゃあ話にならない。火というのは火種が永遠に燃えているわけじゃないからな。




 アォオオオオオ


 ウォオオオオーン




 狼の遠吠えだろうか。

 やっぱ絶対火は必要だったんじゃないか。


 一瞬で考えを改めさせる狼の遠吠えである!

 木部太助、反省!


 「狼とかまずいんじゃない、イツマ姫?」


 『近づいてくるようなら、川入って逃げましょう』


 深呼吸して落ち着く。


 「どれくらい離れているの?」


 『どうかしらね。川をみつけた時の半分くらい。10kmもないと思うけど』


 10km未満。

 ・・・獲物の匂いが届く距離だろうか。もしも追跡されたら。

 猟犬が獲物を何日も追いかけ回し、ついに疲れはてて倒れる漁師のドキュメンタリー番組の映像が脳裏をよぎる。

 本格的に追跡に入ったら、川で諦めるものなのだろうか。それに、1mの水深でもエロくない意味で下半身はズブ濡れ、水温は低い。どれだけ体力を失うことになるのだろうか。


 『人間の匂いを追いかけるかしらね?そこからして疑問だけど』


 確かに、人間を獲物として認識していない、むしろ天敵として敬遠してくれる可能性もある。


 『人間がこの世界にはいなくって、はじめての匂いかもしれないわね』


 なにそれ最悪じゃないっすかイツマさん!

 人間がいないって、そんなん!

 ひとりぼっちって、ひどい!


 まあ、向こうでもボッチでしたけどね!いやいやボッチと、ロビンソンクルーソーは違うでしょ。あと家族もいたし!


 「狼」という最悪の現実と、無人島ならぬ「無人世界」という最悪の想像に苛まれながら、そしてもちろん大地の固さにも苛まれながら、まんじりともせず一夜を過ごしましたとさ!

つい数週間前に火おこし体験してきました!

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