蜘蛛と書いて「とも」じゃないや「イツマ」でした
足元の草を抜き、目印にする。
僕の影の先端に蜘蛛に移動してもらい、そこの草も抜く。
携帯の時計を確認すると、時刻は13時。ひょっとして、と思ったが、やはり電波は圏外だ。電波の精霊と通話したりはできないようだ。アラームを一時間後に設定して省電力モードにするが、どうやっても電源は一週間くらいしか持たないだろう。
これで、影を記録できた。つまり、太陽の位置を記録したことになる。
同じ位置に立てば、影の位置の違いで時間経過がある程度わかる。
つまりはあれだ、日時計だな。
もっとも、太陽の運行まで異世界は異なるかもしれない。
アポロンが二輪馬車を引いているなら、それこそ後戻りしたって構わないんだぜ?
なんとなく元の世界と同じ気がするが、影を記録すれば、体感に頼るより幾分はマシな精度で検証出来る。
『なにやってんの?おまじない?そういうことするコじゃなかったと思うけど』
「太陽の移動を影の移動として、記録してる」
『ああ、一時間待つために?ケータイで確認するんじゃないの?』
「そのためじゃないよ。太陽の運行が元の世界と同じか知りたいんだ」
蜘蛛は僕のいうままに少しづつ一時間おきにバッタを食べるらしい。一口いった時のテンションだと、味皇さまになってた気がしたが、一応は警戒しているみたいだ。うまいぞー!でも!毒はこわいぞー!まあ、鉄鍋のジャンさんだったら毒になる食べ合わせが出てくるかもしれないしな!警戒は大事だよな。
他人に毒味をさせるのは、ちょっと申し訳がなかったが、蜘蛛は昆虫を生で常食しているし、ましてや妖怪。蜘蛛の中でも別格。それはもう別格官幣社。昆虫を生で常食しない人間、中でも無菌室同然の日本国のいじめられっこ、耐性も運気もないこの僕、弱い人間の中でも別格に弱い僕よりも、はるかに異世界バッタを試食するべき人材だ。人じゃないけどな。
日時計の目盛りを刻んだら、蜘蛛の複眼のナビで、次々とバッタを捕まえていく。
アシダカグモなんかのアクティブなハンターと違い、この蜘蛛は網を張って待つジョロウグモだ。倉庫で見た時も、確かに網を張っていた。
バッタをおっかけて捕まえるのは僕の方がうまくやれると思う。
まあ、妖怪だから糸を飛ばして捕獲しても驚きはせんがね!
バッタを捕まえながら、蜘蛛を質問責めにする。
妖怪ってのにも興味シンシンな年頃なのよ。
『まあ、アタシが成ったのは、二年前くらいで、その前のこともボンヤリとしか覚えてないけどね。昔子供のアンタがアタシを助けてくれたことがあったような気がする』
なにそれ照れる。
ともあれ、妖怪というのがなんなのか、そもそもコイツが妖怪なのかもわからなかったが、突如として知性を二年前に獲得して、聞こえてくる会話から言葉を覚えたらしい。
ちなみに蜘蛛は巣の振動で獲物の捕獲を覚るので、当然振動に敏感。まして妖怪蜘蛛となってからは巣の張り方を工夫して、家中の音を聞いていたらしい。ちなみに足で聞く。
最近は糸を工夫してラジオを受信してたというから驚きだ。
「他に妖怪っていないの?まあ、君が妖怪だという前提で話すのもアレだけど」
『人間はみんな妖怪みたいなものじゃない?あ、でも紙魚の妖怪はいたわ』
「シミ?」
『紙魚っていうのは、本を食べる虫よ!アタシは家の守り神だからね、目覚めてからは古書を守るために、ホント、頑張ったんだから!』
紙魚を駆除するために、あちこちに網を張ったらしい。その時に、なんと。
『命乞いをしてきてね。文字を教えるから見逃せって』
そんなインテリ昆虫もいるのかい!まあ、昔の人は暗記したページを食べたらしいからな。何か関係あるのかもしらん。
ともかく、その紙魚の妖怪から読み書きを教わったそうな。
貴重な財産を食べさせるわけにはいかないから、僕のノートなんかを食べるように約束させたらしい。
って、そりゃ、古書の類に比べれば僕のノートは価値なんかないけど、ひどくね?教科書とか参考書を食べられるよりいいけど、ひどくね?最後の方から食べてけば実質影響ないと思いますけど!
『それで・・・見ちゃったの。「学校」がアンタの鬼門だってわかっちゃったの』
僕のノートに「死ね」「自殺しろ」だのなんだのと書き込まれていることを紙魚は発見したらしい。それで、蜘蛛は僕が学校で不運に見舞われる事を危惧することになったわけだ。的中したね!
いじめられている、と他人に知られるのが、なんでか恥ずかしかった。実際知られるまでは。
自分にも嘘をついて、イジメ初期の軽いものは「イジメじゃなくてイジリだ」とか思い込んでいたもんだ。思えば完全にイジメだったよ。僕のプリント、ビリビリ引き裂かれていたもんw
ところが、こうして妖怪であっても他者に知られてみると、隠していたのがばかばかしくなった。親に相談していれば、転校とかフリースクールとか大検とか通信制とか、そんな手段もあったかもしれない。屋上から投げ落とされることもなかったかもしれない。
今頃、異世界で三目バッタをおっかけていないで、紅茶を片手にネットサーフィンしていた。かもしれない。
なんで言えなかったのか。絶対に隠した事でプラスにはならないよな。
そうは言っても。イジメられてたって事で同情を引いたりして利用できるのは、「ただしイケメンに限る」
芸能人もよくイジメられてたのなんのと言い出すんだけども。
この味は!「嘘」をついている味だぜ・・・ゲイノ・ウジン!
僕は嘘だと思っているけど、まあいじめらっれこにとってマイナスにはならんから許す!
そんな精神的ダメージやら成長?があったものの、妖怪の能力も種類もなんも分からなかった。まあ、蜘蛛の妖怪なのは間違いないけど。
『でも、アタシって土蜘蛛じゃない?』
「いや、お前はジョロウグモなんだから、そのまんま、絡新婦でいいだろ!」
『でも、女体化できないし。土蜘蛛だと思う』
いやいや。土蜘蛛って反抗的な豪族の蔑称ですしおすし。元は人間ですから~残念!
その後も、なんのこだわりか「土蜘蛛」を自称するので、ひょっとすると女郎という語がやっぱ女子的にはアレな感じなのかと思い、土蜘蛛ってことにしました。で?山蜘蛛なの?海蜘蛛なの?
それに、よく考えたら土蜘蛛も女体化、擬人化?するよね。
「ところで、君の個人の名前はないの?」
『ないわね。だいたい妖怪の個人名なんてあるの?』
「あるでしょ」
『じゃあ、名前つけてよ』
これは困った。こういう自分と同等の知性を持つものに名前をつけるなんていう経験はまだない。自分の自転車にオーロジャクソン号、とか名付けたことはあるけど、そんな名前付けたから船長の僕は処刑されちゃったし!
感性でつけられる奴もいるだろうが、僕はなにかにちなんだ名前をつけるヘタレ。
「土蜘蛛なら、五馬媛からとって、イツマ・・・なんてどう?」
『いいわね!姫!』
こうして名前をつけたわけだ。人に名前をつけるということは、いざって時に後ろ盾になるって事なんですよ!アルパチーノなんですよ!英語で言えばゴッドファーザーなんです!童貞なのに、ファーザーとか!
携帯が一時間を告げるまでに、バッタは30匹あまりもつかまり、イツマの毒で麻痺させられて糸でぐるぐる巻きにしてある。制服のポケットはバッタでいっぱいとか、小学生の頃をおもいだすな!
僕も生食することになるのかもしれない。
バッタの毒以外にも寄生中なんかの心配があるので、正直、絶対に避けたいところではあるが、その時はイツマに消化液を注入して貰って、ドロドロにしたところを頂こう。寄生虫や細菌やバクテリアが蜘蛛の消化液で死滅することを願って。
『もう一口いくわよ』
イツマはちょっともったいないがさっきのバッタを捨てて、あたらしく消化したバッタをすする。一時間で変質していないとも限らないからだ。
『やっぱり、なにやら妖気みたいなものがあるわね!なにか魔術でも使えそうな気がしてきたわ』
いいね!女体化してくれよ!それでナニしても、所詮人間童貞だけどな!ていうか、昆虫姦とかレベル高すぎだろ!
進まないな。さっさと水を確保したい




