妖怪蜘蛛の更なる能力の覚醒に刮目しました
相変わらず、連休というと「雨」
日干しレンガに、炭焼き、登り窯で焼き物、野焼き……いろいろ体験したいことは目白押しなんですが
そして、三日目。
日も高くなってから目覚めた。
・・・と思う。頭がすごくスッキリしているしね。
なぜ疑問形か、と問われれば。目の前がなんだか白いもので覆われているから。
取り払おうとすると、腕に抵抗がある。
白いものは目の前どころか、腕もすっぽり覆っているのだ。
焦る。
ヤバイ。ヤヴァイ。
なにこれチビりそう。
落ち着け、落ち着くんだ。素数を数え・・・てる場合じゃねー!深呼吸だ深呼吸。
深呼吸というと、吸うことばかり考えてしまうが、逆だ。
呼吸の要諦は実は吐き出すことにある。人間の肺は、いってみればビニール袋だ。つまり、今中に入っているものを出さない限り、新しくものを入れることは出来ない・・・少しは袋も膨らむだろうが、たくさんは入らない。
気嚢、というモノを知っているか。
鳥類が持ち、その祖先である恐竜が持っていたに違いないであろうとされる器官だ。肺の隣にある袋で、これがふいごのように空気を肺に送り込む。肺は袋ではなく、管として、気嚢が供給する空気から━常に新鮮な空気のみから酸素を取り込む。この効率のよい呼吸こそが、鳥類をして空を侵させしめているゆえんである。
気嚢ではなく、より効率の低い、出口一つの袋で呼吸する我々は、まず肺に溜まっている、酸素の減じた、酸素分圧の低い空気を排出し、その後におもむろに新鮮な大気を吸入するべきなのである。
あれ、なんの話だったけか。
『よく眠れたでしょう、アタシの特製布団は』
布団?
このおそらくは全身を覆っている白い靄のような物体は、布団?
イツマの声に冷静さを取り戻して見回すと、頭上に空間が僅かに空いている。
僕は体をくねらせて、その小さな窓に殺到すると、意外な程の柔軟性でもって広がり、僕はその白い空間から脱出できた。
外から見ると、それは『繭』とでも言うべきものだった。
純白の繭。僕を覆っていた、白い繭。
今は中身を失って、いささか凹んでいる人間大の繭。
そう、これ蜘蛛の糸で作った繭状の物体だ。
蜘蛛が糸で獲物をぐるぐる巻にするように、イツマは僕を糸ですっかりくるんでしまったのだった。
それは柔らかいが、ある程度の硬さも備えていて、テントのような寝袋のような中間の機能の繭であった。
それにしても、一体どれくらいの量の糸を使用したものだろうか。
蜘蛛の糸で絨毯を織るというようなことも実際に可能だとはいえ、一夜にして人一人をすっぽりと覆う繭を編むのがどれだけ大変だろうか。感謝である。頼んでないけど。いきなり実行されてびっくりして、ちょっとチビりそうになったけど。感謝しかない。
『びっくりしたでしょう!』
した。しましたよ。
「いきなり不言実行しないでよ!」
『ごめんごめん。話し相手もいないし、何かやってないと眠っちゃいそうでね』
イツマって案外いたずらっ子なんだな。
『感想教えてよ。次作るときに備えて』
「結構いいよ。外の様子がわからないのが唯一の欠点かな」
イツマはよ~し、とか言いながら、新たに糸を紡ぎ始める・・・もったいない。
このハード寝袋をもっと大事に使おう。
と思ったんですけど。
新しいの作ってる合間に、食べてるんですよ、古い寝袋。
糸を・・・食ってる・・・S2機関を取り込む的な?
『蜘蛛の巣って古いの食べて、リサイクルするのは知ってるでしょ』
そうでした。蜘蛛は自分の出した糸を食べてリサイクルするのでした。
確か、遺伝子をいじくって、薬効の糸やら繭やらを作る昆虫を生み出して、効率的に薬品を作る事も研究されてましたな。
イツマがこれほど大量に糸を出せるなら、バッタ汁じゃなくて蜘蛛の糸を食べてしのぐ手もあったな。もっとも、糸の原料は結局は異世界バッタなわけで、そうなると結局はバッタの異世界成分を摂取する事になるわけなんだが。落ち着いて考えれば、選択肢はまだまだあったわけで、もっと考えて相談して慎重に検討しないといけないな。
「イツマの糸を食料にしてもいいかな」
『いいけど、蛋白質しか摂れないんじゃないかしら』
確かに、その通りだけど、バッタをガンガン食べるよりは、比較的安全な蜘蛛の糸を織り交ぜたい。
イツマによれば、妖怪ともなると、糸は質・量ともにそのへんの蜘蛛とは比較にならないらしい。当面はイツマの糸を主食にすることに決めた。本当にお世話になりっぱなしだ。蜘蛛は家を守るから大事にしなさいってのは本当です。感謝感謝。
それにしても、イツマの能力はとんでもないもので、食料さえふんだんにあれば、一日に1kgくらいは糸を生み出せるという。糸の軽さを考えると、それこそ寝袋分くらいの糸は一時間で吐き出せる。さらには、なんと糸を出す段階で、細い糸を編み込んでロープのように仕上げて生み出すことも可能だという。弓やら火種に使用した40本の細糸を編んだ太い糸も、一瞬にして、ひとつの工程で完成していたのだ。ゴイス。一瞬でそれなりの強度の糸を射出できるとか、ゴイス。
それこそ、アメリカンコミックの英雄の蜘蛛男くらいのことはやってのけられそうだ。
まあ、摩天楼どころか、立木も見えない大草原では立ち往生するしかないんだけれども。
朝食には、バッタ汁を一杯というか一匹、それに出来立ての蜘蛛の糸を片手に一山頂く。糸は存外食べにくく、バッタで流し込んだ。川の水も飲む。
そうだ、今日は濾過装置を作ろう。
なんで、水を飲んでから思いつくのか。我ながら嫌になる。




