鉄筋四階建て校舎の屋上から投げ落とされました
これは、いじめ問題についてのある種の解決を、異世界での冒険に偽装して提示するものである。
嘘ですけど
ここは異世界一丁一番地。
そびえ立つは城は木部城。
われこそは木部太助。
かつて長宗我部様に仕えし、誇り高きサムライ。の家に生まれた高校一年生。身長170cm体重60kg。いつもこっそり背伸びしているから、実際は168cmもないかもしれん。頭も顔もいまいちだが、最近は足が早くなった。クラスでは最速だ。剣道初段の腕前だ。
長々披瀝したが、こんなプロフィールを覚える価値もない、単なるいじめられっこだ。
学校の屋上から、「ちょっと飛んでみろ」とキムラ君達イジメグループに投げ落とされたら、異世界まで飛んじゃいました。テヘペロ。
テンプレだろ~?
あ、ワイルドだろ~?のモジりだったんだけど、もう覚えてないか。ゴメンゴメン。なんせ異世界に来てちょっと経つもんでね。ギャップっての?パラレルワールドギャップ。
異世界は空が青く高く。
頭上高くを龍が舞う。
まるで小さな蛇が空を泳いでいるように見えるが、あれは相当に巨大な龍が相当な高さを飛んでいるんだろうが、どれほどかは見当もつかない。
ジャイアントスパイダー、巨大な女郎蜘蛛の背に乗って、僕は異世界の草原を駆ける。
草に隠れる異界兎を見つけた我が愛馬、ならぬ愛蜘蛛、イツマが糸を放ち絡めとる。
『疲れたわ』
イツマは本来の姿である女郎蜘蛛に戻ると、僕の肩で休む。
僕と共に日本から来たので、本来はただのクモ。
ジャイアントスパイダーの姿になれるのは僅かな間だ。
肩に蜘蛛をのせ、おとなしくなった兎を抱えて城へ戻る。
遥かに霊峰をのぞむほか、見渡す限りの草の原。
一筋の川が、流れているのかいないのか、それほどゆったりと霊峰からながれて来る。
そのほとりに、我が城。
体育祭とかお祭りで見る、救護テント。それくらいもない、土のかたまりが見えるが、これが木部城である。
その前庭には50坪ほどの畑が広がり、萎れた作物がなんとか生きている。
歩測で12メートル四方の正方形の畑を作ったんだが、一面に茂っているわけでもないから、見栄えなどしない。
畑の傍らには、牧場を構えた。
城と同じくらいの広さの石垣の中に、異世界の兎が番で入っている。
しかし、この石垣は膝ほどの高さしかないから、もう毎日のように逃げ出されてしまう。もっと高くしないといけないなぁ。
ほとんど唯一の異世界要素である、我がジャイアントスパイダーでも見つけられないことも多いのだ。
この城を拠点に、僕の異世界冒険譚は始まる・・・のではあるが、ここまでくるまでが大変だった。
まずは、僕がエクストリーム自殺をするところまで遡る。
「殴られたくなければ10万もってこいと言ったのに、放課後逃げようとした」
これが許せないそうだ。
いくらなんでもそんな金はないから、だいたい毎日僕を殴る。
それではたまらないから、放課後のチャイムも聞かずに、僕は全速力で逃げる。はじめはとても逃げ切れなかったが、毎朝近所を走って、たいていは逃げ切れるようになった。
しかし、今日の席替えで、キムラと部下に挟まれた席になってしまった。ホームルームの終わり頃から、キムラ達に腕をつかまれてしまった。結構強い調子で離せと叫んでいるが、教師は見てみぬフリだ。
教師の承認がなくては、ある程度以上のレベルのイジメは成立しない。いじめられっこに言わせれば、オカマの教育評論家の言っていることはことごとく「嘘と証明できない嘘」だ。
ひょっとすると、こうなる事を知っていて、教師が席を決めたのかもしれない。この教師のことは卒業してもずっと消息は追いかけよう。別に何をするつもりもないが、ひょっとして政界に出馬するなら、足の一つもひっぱってやろう。
そんな暗い情念に身を焦がしつつも、キムラの拘束を振り切れない。
席替えの結果を見る前に、逃げるべきだったのだ。
キムラから離れた席になったらイイナ、などと結果を確認していた自分をぶん殴ってやりたい。キムラ達は生まれる前にさかのぼって抹殺してやりたい。
四人がかりで屋上へと連行される僕。両手両足を四人にそれぞれつかまれて宙吊りだ。これほど異様な光景があっても、簡単に「イジメの事実はない」と隠蔽するんだから学校の閉鎖性は恐ろしいものだ。
クラスメートも、他のクラスの同級生も、上級生も、暴力を承知で見てみぬふり・・・いや、おそらく関心がない。24時間テレビでデブがのろのろ歩くところに感動はしても、目の前の現実の暴力は気にならない。そういえば、独裁者が言ってたっけ「若者には車と映画を与えておけばいい」って。テレビは洗脳装置としてなかなか上手に機能しているようだ。
屋上は立ち入り禁止だが、実際にはちょっとワルな連中は好きに出入りしている。教師も黙認しているのかもしれない。危険だから立ち入り禁止なんだが、事故が起きても、知らなかったと言えばいいと思っているんだろう。
殴られるのを覚悟した僕は、少しでも軽く済むように。
「かんべんしてよ~」
などと演技半分の泣き声をあげるが。
「飛んでみろ、飛べるぞ」
その凶悪な発言の趣旨を理解しかねていたが、フェンスの一部が引き倒されている箇所へ近づくに連れ、股間が縮み上がる。
屋上へは久しぶりに来るが、こんな破壊はなかった。
まさか、僕を下へ投げ落とすために、キムラ達がやったのだろうか。
そのまま、僕の体は半分屋上からはみ出す。
「ほんとうに、ちょっと、かんべんしてよ」
演技抜きに、恐怖にひきつった声が出る。
キムラと部下A、B、Cに手足を持ち上げられ、卑屈に許しを乞う僕を、しかし、キムラは許しはしなかった。
僕の体は宙を舞い、そして落下した。
あまりの事態に、呆然と高速に流れる景色を見る。
そして、衝撃。
突然、意識が断ち切られたと思ったら、目の前に「何か」がいた。
必死で探るが、五感が機能していない!
「はたして、記憶が残るかはわからない」
「君の霊魂は相当の速度で移動しているからな」
「おそらく、霊魂が裏返って出るのは相当に違った世界になるだろう」
気配から言葉が聞こえてくる。
聞こえる、というよりも、わかる、という感覚だ。
気配は複数なのか、まるで大勢が合唱しているように「個」を感じない。
「人に限らず、あらゆるものは、死ねば生まれ変わる」
「しかし、君の場合は、速いからな」
「だいぶ、遠くに出る」
慈しむようであり、哀れむようでもある。
「まあ、無事に転生すれば今までの記憶も」
「このメッセージも」
「覚えていないのだが」
再び、意識が断絶する。しかし、今度は覚醒への断絶だ。
五感が戻ってくる。背中には大地を感じる。
瞼を閉じていてもわかる。
強い日差しが。
この感じだと、そう、九月の日差し。
真夏の「ギラギラ」じゃあないけれど、いやいやなかなかどうして、眩しい日差しですよ。
どうやら死んでいない。なんだったんだ、さっきのリインカーネイション的なリンボ的な、島的な。あれはなんだったんだ。噂の走馬灯か。馬でてこなかったぞ。詐欺だ。
詐欺と言えば、そうそう、じぇーじぇーえいぶらなんとかさんの「死後オチはないと公約したけど、リンボは死後じゃないからアリ」という強弁いくらなんでもじゃない?え?「ケチつけるやつはリンボを理解していない奴、つまりキリスト教への無理解であり許し難い」とかファンwはいいますか。それってファンっていうか?工作員的な臭いがしますけどw閃光のハサウェイさんがハサヘイトのブログを見て体調を崩したから、そういうのを書くのは駄目、禁止!とかほざく善意のブロガーとかネットニュースそっくりっすねwそういえば日本の芸能界にもそんなことを芸能記者にかかせている事務所あるねw
走馬灯を見られなかったのは残念だが、とはいえ、屋上からスパイラルマタイして、生存したんだからラッキーだ。
いや、他人に投げ落とされたから厳密にはスパイラルマタイじゃないのか。ニュージェネレーションの狂気でもないね。あれだ、いわゆるエクストリーム自殺だね。
あいつらの親だったか親戚だったかが、県警幹部だったかなんだったかだから、自殺処理ないし事故処理されかねん。生きてて良かった。
となれば、さっさと逃げないといけない。
連中がやってくる。
いや、もうその辺りにいるかもしれない。
死んだふりが得策だろうか。
いや、足音も気配もない。ここは脱兎の如く逃げるべし。
がばっと起きるやいなや、僕は駆け出した。
自慢じゃないが、逃げ足は早い。
なにせ毎日5kmもロードワー・・・いやランニングしているから。
ロードワークはないよね、あれは亀田兄弟みたいなマスコミ側の人間の言葉であって、僕達がやることには使ってはいけない。そうジョギング、ランニングだ。
いや、だけどいじめられっこのチャンピオンベルトさんも、ロードワークって言ってたな。
いいのか?いいのだろうか?ロオドワアクとのたまってもいいのだろうか?
いやいや内藤アバターさんも、テレビ出る前はランニングって言ってたよ多分。
ぐらり
体が平衡を失う。どこか怪我したのか、あるいは立ちくらみか。それとも、それ以外のもっとおぞましいなにかか。
違う、目を開けるのを忘れていた。いじめっこの驚異から逃避するあまり、目を閉じたまま逃げ出していたんだ。情けねぇ。
目を開く。
目の前には大草原。
遥かに地平線をのぞむ。
僕は整地されていない大地を踏みしめて走ろうとするが、こけつまろびつ。いつものような速度は出ない。
あれ?
違和感を感じたのは、ここ数年、道路か廊下かグラウンドしか走らなかった足か。あるいは建造物に遮られて地平線などみたこともなかった瞳か。化学物質の一切ない文字通りの草いきれいに驚いた鼻か。あるいは、その全てか。
何れにせよ、強烈な違和感に立ち止まる。
怯えたように、辺りを見回す。
ように、というか、完全に怯えてるんだけどね。
いつもそうだ、何かあるとすぐに立ち止まる。これがイカンのだ。とにかく走りながら考える、間違いかもしれなくとも、いっそ間違えながら軌道修正する。ソウイウモノニワタシハナリタイ。
のだが、今回は止まるのが正解だった。初の「びびって正解」かもしれん。
一切の人工物のない、一面の草原。三百六十度、ことごとく地平線へ続く草原。
これはたかだか20mの高さの屋上から投げ落とされて、怪我一つなかった「奇跡」が些事になるほどの奇跡。本物の奇跡。
なにせ、ごく普通の日本の高校の屋上から投げ落とされて、見渡す限りの大平原に落下したのだから。
僕は直感していた。
ここは日本じゃない。
この空の高さ。
この大地の広さ。
中央アジアに空間移動してしまったようだ。
僕は、文字通り抜けるような美しい空を行く龍を見ながらそう直感していた。
あれ?
中央アジアじゃないな。
これはあれだ。
異世界へトリップ。ヤバイ薬とかじゃない方の「トリップ」ね。
よく考えたら、なんぼ中央アジアでも、360度、山が全く見えないってのはないわ。なかったわ。
ああ。
そうか。
あれは夢じゃなかったのか。
あの、奇妙な集合意識体とでも呼ぶべきものとの対話。
あれぞまさしくリンボ。
僕は異世界へと転生した。
いやいや。
転生っていうか、前世の記憶どころか、肉体も服装も殺されたときそのままなんですけど?




