現状
一人称は初です。
「暑ぃ~、溶ける~」
暑い夏がやってきた。
ジリジリを太陽が空気とコンクリートを照らし、「ここはオーブンの中か!」と突っ込みたくなってしまう。しかもスーツ姿なため余計に暑く、Yシャツが汗で肌に付き非常に不快であった。
私はしがない就活生だ。来年には大学を卒業し、ついに社会へ巣立つ時期を迎えた若鳥である。しかしその巣立ち先である会社、または未来が定まっていない典型的なイマドキの学生といったやつだった。
会社の説明会が終わり、足早に駅へと向かい帰りの電車に乗る。その電車の中で自身のスマホを弄り、メールの有無を確認する。
メールボックスには幾つかのメールが届いており、その中に1.2週間前に試験を受けた企業からの返事が入っていた。私は電車の中で一人情けなく緊張しながら、そのメールを開ける。
『このたびは、弊社選考へお申し込みいただきましてありがとうございました。誠に残念ながら今回についてはご期待に添えない結果となり…』
もうそれ以上は読まない。
上の決まり文句だけ読めば十分だった。どうせ後に書いてあるのはこちらを気遣うような文面だけなのだから。
十何回か目の失敗だ。感覚が麻痺してしまったのか、もはや落ち込んだことがあったかどうかすら忘れてかけてしまう。
私はスマホをポケットに落とさないように仕舞い、丁度空いた角席に座る。悲しみは無いが、言いようの無い虚無感を感じ、イヤホンに手を伸ばし気晴らしに音楽を聴き始める。
私は家に着くまで音楽を聴き続けた。いつもより音量を大きめで車のエンジン音が近くにいないと聞こえないほどであった。
一人暮らしの我が家に着いて、まず煩わしかったスーツを乱雑に脱ぎ捨てる。どうせ明日クリーニングに出すんだしいいだろう。
部屋着に着替えると丁度スマホの電話コールが鳴った。どうやら実家かららしい。たぶんお袋だろう。ドンピシャだなと呟いて些か疲れたような声で電話に出た。
「おう、どうした」
『今日の説明会どうだった?』
「どうもねぇな。いつも通り説明聞いて、適当に筆記テストをやっただけだった」
『適当って…。そんなことばっかり言ってるから何時まで経っても内定貰えないんだよ』
「うっせ。それだけか?」
『まぁそうだけど…』
「今日疲れてもう寝るから。じゃあな」
そういって強引に通話を切る。心配してくれているのは良く分かるがどうも今日は独りになりたかったため少しきつく当たってしまう。
私はスマホに充電機を挿し、買い忘れていた食べ物を買いに、近くの弁当屋へ自転車を走らせていった。
弁当を買い夕食を済ませる。いつもは自炊をするが今日はあまりそういった気分にはなれなかったのだ。
飯を食い終わるとシャワーを浴びて今日の汚れを落とす。シャワーから上がると急に瞼が重くなってきた。まさか本当に眠くなってくるとは…。電話を切るための言い訳だったが本当に眠くなってきてしまった。
そして私はそのままベットに横たわり、エアコン付けっぱなしで眠りについてしまった。
その夜は珍しく夢を見た。
夢といっても誰かに追われたり、どこぞのヒーローになったりといった上等なものではない。
自身の過去。つまりは自分の少年時代の夢を見ていたのだ。だいたい保育園から小学校低学年くらいの時の。
その時期私はとある島に住んでいた。本州から離れた離島で飛行機と船で手軽に行ける島だったが、本州とは違う「島時間」と言われる、ゆったりとした時間の流れが存在する所だった。
私はそこで0歳から8歳までを過ごしていた。自然豊かな島は幼い私に多くのことを教えてくれた。
草木の青臭さ。海の大きさ。風のおもしろさ。台風の怖さ。生命の強さ。
数を上げていけばきりが無い。幾年たっても決して忘れることの出来ないそれらを、私は島で身をもって学ぶことができたのだ。自分の数少ない密かな自慢である。
そんな島で暮らしていたある日、親父が二匹のフクロウを家に持ってきた。そこから私とフクロウたちの奇妙な縁が始まった。
自然っていいよね。
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