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あらゆる危険から私を守るだけの簡単なお仕事です←気をつけろ

「……それは、そのあれだ」

「なによ。えーと、そういえばあんた名前は?」

 そうだった。言い訳以前に、まだお互いの自己紹介をしていなかった。

 エルマという名前も聞き出して知ったのでなくて、流れで聞き取ったのだ。そういえばまだ自分の名前を言った覚えがない。

「でも、自己紹介しあう必要あると思うか? もうパーティーはおしまいだろ?」

 そう。

 今しがたエルマ襲撃の一件があり、パーティーに来ていた人達のほとんどはすでに避難していた。さっきのチンピラ共も例外では無い。

 この状態でパーティーを続けるのはちと難しいだろう。パーティーとは人がいてこそパーティーなのだから。

 なので今更名前を確認しあっても、もう呼ぶ機会はないのだ。ウェイターの仕事はパーティーの終了と共に完了だ。

「必要あるわ。他の護衛の自己紹介は聞いたけど、あんたのは聞いてない。雇用主として知っておかなくちゃね」

 エルマがふふん、と得意げな表情になった。やはりエルマも十七歳の少女、表情のバリエーションはほどほどにあるようである。

「……ばれてたのかよ」

「もちろん。私は来てくれた護衛の方の名前と顔は覚えてるわ」

 良い心がけだが、今回に限り罵倒を飛ばしたくなった。

 だがまだ他の護衛にはこのことを伝えていないはずである。

 自分とエルマが邂逅してから誰かと話しているのを見ていない。

 テレパシーを使っていなければまだ神宮の不法侵入はエルマ以外にはばれていないはずだ。

「……もしかして、見逃してくれんの?」

 この対応がそのまま続けば、そういうことだってあるはず。

 恩着せがましいが一度命だって助けてやったのだ。

「見逃したくないけど見逃すしか、ないわね」

「はあ? そりゃどういう意味だよ」

 エルマがこんなへんちくりんな話し方をするとは思わなかった。

 が、これにもきちんと理由はあったのだ。

「だって、あんたが本気で逃げようと思ったら……止められないでしょう」

「……ああ、そういうことね」

 それはそうかもしれない。

 さっきの氷を使う魔法使いも、暗殺者を名乗ると言うことはそれなりの腕なのだろう。

 だから、そいつのおかげでこの世界の魔法使いの程度が知れた。

 暗殺を稼業とするような手練でも欠伸混じりの行為で撃退できる、といリザルトが。

「私は、あんたに引き続き護衛をしてもらいたいと思ってるんだけど」

 エルマが珍しく俯くながらそんな事を言った。

 短いつき合いなのに”珍しく”と形容出来るくらいなのだからある意味異常な状態だった。

「うーん」

 その計らいを受けて、ちょいと考える。

 あの肉の一件がそのまま残っていたなら、文句一つ言わず護衛を引き受けたはずだろう。

 神宮はそういう奴だった。

「肉の一件は解決しちゃったからなあ。説明したらチャラでいいって決めたし」

「っ! あんた本当にそういうの気にするのね」

「他に何かあったっけ? 貸し借り」

 無い。

 不法侵入の件は命を助けたということで解決しているはずだ。

 そりゃ不法侵入も悪いには悪いが、命はそれよりも重いだろう。お釣りとまでは言わないが相殺は出来ているだろうと断定できる。

「あんた、今どこに住んでるの?」

 いきなり質問の方向性を変えてきた。まだ諦めていないご様子。

「そりゃあ、なあ?」

 というかどうしよう。

 元いた世界ではぼろいアパートに下宿していた。

 国の超能力研究に従事するとそれなりの謝礼が貰えるのだ。それで十二分に生活を営むことは出来ていた。

「その辺だよ。安い下宿に泊まり続けてる」

「仕事は?」

 なんだかお見合いっぽくなってきたが、桃色な気配は感じられないので護衛の件についての質問であるはずだ。この質問の返答は今後どう関わってくるのだろうか。

「狩り。それと採集」

「そう。それじゃあ私の護衛を引き受けたら、清潔な部屋と清潔な食事と結構な額のお給金を用意してあげるわ。どう?」

「……ちょっと待ってくれ。今考えるから」

 そう来たか。

 衣食住はなによりも尊いものだからこの提案はかなり魅力的だ。

 それにやけに清潔を推してくる辺り、もしかしたら野宿なんて不衛生で出来ないのかも知れない。

 住むところも安定した収入も一気に入ってくるのだから、はい、と言うべきなんじゃないだろうか? サイコキネシスを使ったとて、家を一から作るのは手間が掛かりすぎる。土地の所有問題だってあるかもしれない。

 考えてみれば護衛といえど、あの氷の魔法使いと同じような奴の相手をすれば良いだけなのだし、仕事的には完璧にこなせるだろう。

 エルマもそれをわかっているからこんな好条件を出してきているのだ。

「……まあ、いいか」

 ぼそっと呟く。

 小さな声だったが、エルマは瞬時に反応した。

「そう。決定ね。あんたは今日から私の護衛をする。それじゃあ自己紹介の必要性が出来たわね」

「そうなるな」

「私の名前はキュリア・エルマ。今日で十七歳。こっちは弟のキュリア・エルー。十五歳よ」

「ええっ! 僕も自分で自己紹介したかったのに!」

 エルマはそう言うエルーの頭に拳骨を落とした。

 エルーは「あうー」とか言ってしゃがみ込んだ。これも姉弟愛に相違ない。

「それじゃあ次はあんたの番。名前は?」

 こちらの世界では、カタカナの名前がスタンダートのようだがここは自分の本名を伝えるとする。いざとなれば「すげえ田舎の方の出なんだよ」とか言えば立つ瀬はある。

「神宮真治。十七歳だ」

「変な名前ね。まあこれからはシンジって呼ぶわ」

 人の名前を変呼ばわりとはどういうことだ! と憤慨はしない。

 なんせ神宮という名前自体適当に考えて作ったのだから。

「それじゃあ付いてきなさいシンジ。今日はもう家に帰るわよ。私こんなパーティーに出たくなかったんだから。ずっと家にいたかったわ」

「ほう」

 颯爽と歩き出すエルマの背中を追う。

 女の子だというのにかなりのハイペースだ。エルーなんか少し小走りになっているような気がする。

「ふ、二人とも歩くの速くないですか? 僕が遅いだけなのでしょうか?」

「おーおー。エルーはか弱いなあ。お前それでも男か? エルマと性別逆じゃないのか?」

 なぜだかエルーを見るとからかいたくなってしまう。エルマと姉弟だというのが若干信じられない。

「僕は男です! それとエルマ姉様は女です! もう!」

「はっはっは」

「……そうよ。私は女よ」

「んあ?」

 ふと前を見れば、エルマが歩みを止めてこちらに身を向けて立っていたいるのが確認できた。

 そして右手には、杖。

「ちょっと待て。その杖はなんだ」

「ひっ!」

 神宮が落ち着いて対応している間に、エルーは神宮の背中にさっと隠れた。

 しかし神宮に隠れられるものなど無い。エルーの後ろに隠れても、すぐにエルーが自分の後ろに隠れるだろう。漫才のようだ。

「あんたには私が男に見えるの? ねえ?」

 気にしていたのはそんな事のようだ。

 しかし、エルマも言うとおり華の十七歳。こんなジョークにさえ過敏に反応を示した。

「いやいや。比喩、じゃなくてたとえの話だって。本気でそう思ってるわけ無いだろ」

 そう言い終えてから、イメージを構築する。

 超能力の良いところは目に見えての準備期間がないことだ。

「あっ!」

「悪いな。でも仕方無いだろ。お前の目が本気過ぎて冗談に出来ない」

 言いながら、自分の目の前に浮かぶ杖を手に取る。

 無論エルマから回収した杖である。サイコキネシスでエルマの手からするりと抜き取ったのだ。

「ほー。これが杖か。まさに杖って感じだな」

 杖自体は木製だ。ただ持ち手の部分は金属で覆われている。なるほど持ちやすい。

 長さは二十五㎝ほどで振り回すのにもちょうど良い長さとなっている。

「……あんた、杖持ったこと無かったの?」

 どうやら男女の件は終わってくれたようだ。

 神宮が杖とファーストコンタクトを取ったことの方が一大事らしい。

 これは誤魔化すのに骨が折れそうだ。

「まあ、そんな感じだ。狩りの時は弓使ってたし。魔法は補助としてちょっと囓っただけ」

 銃と言いたかったが、この世界に銃がなかったら怪しまれるので弓と言うことにした。

 弓はもし無かったとしても、ぱぱっと作れるので問題はない。すぐに現物を見せることが出来る。

 まさに完璧な回答だと思っていたが、問題は別の所にあった。

「……人の動きを制限する魔法なんて、補助ってレベルじゃないわよ。それに杖が無かったら満足に魔法は使えないものよ。熟練の魔法使いでも火の玉を出すので精一杯のはずだわ」

「……それはあれだ。昔狩りの途中で死にかけて、その時不意に使えるようになったんよ。だから俺自身も詳しいことはわからないんだ」

 前者の部分は創作だが、後者の部分は紛れもなく本当の事である。

 そんな神宮の本気が通じたのか、エルマは少し押し黙ってからゆっくりと台詞を紡いだ。

「……まあ、いいか。強いんだったら何でもいいわ。しっかり私を守ってちょうだいね。あとその杖はあげるわ。就職祝いよ」

 そう言ってから、再びエルマは前を向いて歩き出す。英姿颯爽といった態だ。女性にこの形容を使ったのは初めてである。

「杖ねえ。別にいらないんだけどな」

 適当に杖をぷるぷる振りながらエルマの後を追いかける。

 これから面倒なことがあったら杖を振りかざして「近づいたら魔法使うぞー」と脅しの道具として使わせて貰おう。そう考えると案外役に立ちそうな気がした。

「さて、この後はどうなるのかな?」

 就職祝いの杖を振ってみた。

 何も起こらない。

 木の棒が、ただ空を切っただけだった。


というわけで投稿です。

まだまだ書き溜めはあります。

書き溜めを投稿してその間に新しい話を書く。

この無限軌道を維持し続けられれば……!

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