続・噛まれた!
「いたぞ!」
「そっちだ!」
「逃がすな!」
背後から矢継ぎ早に指示が飛ぶ。
俺を殺して喰うために。
俺はショッピングモールの中を走り抜け、背後から血走った目で追いすがる人間達から逃げる。
ゾンビに噛まれた俺が免疫を獲得したことがモール中に知れ渡るのに大して時間は掛からなかった。
そして、妄執に憑り付かれだした人間を抑えていたリーダーが一人の男に殺されたのが数時間前。
ゾンビに噛まれた娘を救うためには俺の肉を喰わせるしかないと主張する男に、リーダーが散弾銃で頭を吹き飛ばされたのがきっかけとなった。
それを合図としてモール中の人間達が手に手に鉈などの武器を持って俺に襲い掛かってくる。
天井裏のエアダクトに篭ってしばらくほどぼりを冷まそうと思っていた俺だったが、業を煮やした連中が物を燃やして煙攻めをしてきたせいで出るのを余儀なくされた。
「ふう。」
トイレに下りて一息ついた俺に向けられる散弾銃。これだから人生はままならない。
振り向いてみるとそこには由紀雄がいた。血走って焦点の定まらない、虚ろな目をした彼が俺に詰め寄る。
リーダーを殺したのはこいつだ。
「頼む、死んでくれ。娘を救うためだ。
お前の肉体はお前だけのものじゃないんだから、みんなで喰う権利がある。」
ああ、こいつは昔からこんなだった。
「俺を信じろ」だの「トラスト・ミー」だのが口癖のやつに碌なのがいないのはコイツから学んだんだっけ。
「お前の肉を喰わせればきっと娘は助かる……っ!」
引き金に指がかかる。すぐさま危険を察知した俺は銃口を上に持ち上げる。
瞬間、銃声が鳴った。
音に気付いて複数の足音が接近してくる。
「こっちだ!」
「いそげ!」
邪魔になる銃は取らずに俺はその場から逃げ出した。
「何時までも逃げられると思うな!」
いつしか俺は玄関ホールに追い詰められていた。
最早俺に逃げ場所はない。バリケードの向こう側以外には。
包囲した彼らがゆっくりと網を狭めてくる。
バリケードの向こう側の連中と目の前のこいつらの違いなど一体何処にあるのだろうか?
俺は必死でバリケードを壊した。背後から怒声と悲鳴が上がる。
急ぎ足で駆けつけてバリケードを守ろうとするのもいたが、俺の手の方が早かった。
くずれたバリケードの向こうから雪崩れ込んでくる連中の群れを見て、俺を追い掛け回していた連中はパニックを起こして逃げ惑う。
彼らの上げる大声が幸いして俺は物陰に身を隠すことが出来た。
外に居た連中がほとんど中に入ってきた頃合を見計らって俺は外に出る。
モールの中から聞こえてくる断末魔の叫びを背に俺は歩き出す。
まあ、いいさ。ひさしぶりの外だ。
俺は静かに死にゆくショッピングモールを後にした。




