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俺日:エイプリルフール特別編! ~一番グッってくる嘘をついた奴優勝~

エイプリルフールは5日前に終わった件について。

突然だが、今日は何の日かおわかりだろうか。

4月1日。そう、俺の誕生日だ。……ってのは冗談で。

4月1日と言えば、マーベラス大陸に不時着した未確認飛行物体を開発した科学宇宙人との接触を試みる……ってのも冗談。


つまり、4月1日と言うのは、そんな冗談をも言える日。

そう、エイプリルフールだ!


そしてここで自己紹介しておこう。

俺は、東北の高校生探偵、山空(やまぞら) (かい)!! 現在高二にして超モテまくりの成績優秀、スポーツ万能、頭脳明快、奇妙奇天烈(きみょうきてれつ)摩訶不思議!!


人呼んでぇぇ!!! バンッ!

未来の小型自動車だっ!! ズババーン!!


………冗談ですはい。ごめんなさい。

俺はごく普通の冴えない高校二年生ですはい。




俺日:エイプリルフール特別編!!

~一番グッってくる嘘をついた奴優勝~



朝。

4月1日の朝を迎えた。

いまだ肌寒いこの季節に、俺はなぜか上半身裸で冷水をぶっかけられ、身を切るような冷たさゆえの痛みに感覚さえも麻痺してきている。


現在布団の上で仰向けになっている俺には、冷水をぶっかけた犯人が手に取るようにわかる。てか実際に鷲掴んでいる。


「エメリィーヌてめぇ、朝っぱらから超刺激的な目覚まし的な喧嘩売るとはいい度胸じゃねぇか……?」


俺はゆっくりと起き上がり、目の前の犯人の頭を掴んでいる手に徐々に力を込めていく。


「い、イタイ!! 頭が割れるんヨ!! ごめんなさいなんヨ!!」


目の前の犯人は、涙目になりながらジタバタして謝罪を繰り返している。

だがしかし、俺は許しはしない。誰が許すものか。この状況で許せるとかほざく寛大な心の持ち主がいたら、直接会ってぶん殴ってやりたいくらいだ。


「おいそこの犯人さんよぉ……まずこの状況をこの俺が納得できるように説明してもらおうかぁ……? あ゛ぁ゛ん?」


「わ、わかったんヨから解放してくれなんヨぉ! これ以上締め付けられると鼻からカルボナーラが出てきそうなんヨぉ!!」


「よし、言え」


目の前の犯人の要求を、俺は()んだ。

さぁ、そこの犯人さん。この俺にも理解できるような納得のいく素晴らしい説明をしやがれ。

だが、納得をするかしないかは俺次第だがな。


「ぐすっ……カイのアホ……な、なにも……あんなに強く握らなくても……」


「言え」


「ハイ」


いつまでたっても白状しない犯人に、俺は軽く脅迫した。

するとどうだろう。犯人はその場で立ち上がり一目散に俺の部屋から飛び出して行ったではないか。ワォ、ビックリ!


………………。


「待てやこのガキャぁぁぁぁ!!!!」


上半身裸、さらにはトランクス一枚……つまりパンイチ(パンツ一丁)なのも気にせず俺は逃亡しだした犯人を追いかける。


自室を飛び出し、階段を駆け下り。

犯人の影が入って行ったリビングへと華麗にターンを決め…て……って……。


「うわっ!? かかかか、海兄ぃなんて恰好してるのよ!?」

「うーみん変態……いや、うーみん先輩!?」

「か、海……いくら春だからと言ってもだな……」

「うむ。実に変態だ。まっことなき変態だ」

「変態が襲ってくるんヨ!!」


なぜかみんな居ました。


「ぎゃぁぁぁぁああぁ!!!!!」


俺は光の速さをも凌駕するんじゃないかというスピードで、階段を駆け上がり自室の布団へいざおやすみなさい。


「って、冷たい!! ビッチョビチョやがな!!」


先ほど撒かれた冷水により、俺の愛用している布団が程よく濡れていた。

気がつけば俺のパンツもグッショリである。


………あ、いや、漏らしたわけではない。すべてはあの犯人のせいだ。


「…………………………よし」


しばらく考えた結果、みんなの前へ何事もなかったかのように登場することにした。

幸い、今日はエイプリルフール。嘘をついてもいい日だ。

みんなもあの先ほどの出来事を嘘にしたいはずだ。いや、嘘だと思い込んでいるはず。

見たくもない俺の下着姿を見せられてしまったのだから、これはもう嘘にしなくちゃ収拾がつかないはず。


よし、俺がごく普通に、こうさりげなーく。何事もなかったかのように演じれば、何事もなかったかのような空気になり、そのままみんな忘れ去ることだろう。


シュバババ!! バイ~ン!! ボチャーン!!


謎の効果音と共に着替えを済ませた俺は、大きく深呼吸をし、ゆっくりと階段を下りる。

そしてリビングのドアの前に立つ。


よし、ここからが重要だ。

こうさり気なくいくんだ。そしたらきっと……


『おぉ、みんな来てたのかー! おはよう!』


『あ、海兄ぃ、おはよう!』

『おはようございますです、先輩!』

『オッス! お邪魔してるぜ!』

『山空、やっと起きたのか』

『おはようなんヨー!』


『いやぁ、すまんすまん。ちょっと昨日夜更かししててさぁ』


『もう、海兄ぃってば』


あははははははは!!!! ―――――


………ってなことになるはずだ!!


俺の計画に狂いはない。

みんなのことは俺が一番よーく知っている。

俺のパンツなど、笑ってごまかしてくれるはずさ!!


俺は意気込んで、皆の待つリビングへ!!

いざ、ご入室!!


「おぉー! みんな来てたのかぁ! おはよう!!」


『あ、変態が来た』


みんなにハモられました。


「いやぁああぁっぁぁぁ!!!!!」


そりゃもう光の速さをも凌駕するんじゃないか…いや、その速さをもさらに凌駕するんじゃないかと思われるスピードで俺は階段を駆け上がる。

そして自室にある布団へと潜り込んでいざおやすみなさい。


「って、冷てぇんだよクソッ!!」


ビッチョビチョな布団を乱暴に持ち上げると、俺はそのまま階段を駆け下り、リビングへと突っ走る。

そしてみんなに投げつけた。


「うおっ冷てっ!? なんだこれ、めちゃくちゃ濡れてる!!!」


見事に秋の顔面へと直撃。

そしてもがく秋。


そしてそんな秋を完全に無視し、俺のことをなんか冷めた目で見つめてくる皆。


「お……お前らのバカー!! お前ら……お前らの……ば、バカー!!」


冷ややかかつ悲しい目のみんなに捨て台詞を吐き捨て、俺は外へと飛び出した。


「って、冷てぇ!! 雨降ってやがる!!」


俺はすぐに引き返しみんなの待つリビングへと舞い戻ったのだった。








「……んで、なんでこんな雨の中、俺の家に主要メンバーが勢ぞろいしちゃってるわけ?」


なんだかんだで再び濡れたため再度着替えた俺は、好き勝手に(くつろ)いでいるみんなに問う。

時計を見てみると午前9時の2分前だ。


まったく、せっかくの春休みだというのに、お前らいったい何なんだよ。

俺の休日を邪魔してそんな楽しいのか? お前らは人間じゃない。鬼だ。悪魔だ。疫病神だ。


「まぁまぁ、そう()ねんなって」


エメリィーヌと(たわむ)れながら、秋があきれた表情で俺をなだめてくる。


ここらで人物紹介と行こう。


まず、朝、この俺に冷水をぶっかけてこの悲惨なる現状を作り出した張本人でもあるコイツは、エメリィーヌ。

本名、エメリィーヌ・ジョセフと呼ばれる、コッカコラ星とかいう何とも不思議な星から家出してきた宇宙人だ。

どうやら秋の事を気に入っているらしく、大概は秋と遊んでいることが多い。しゃべり方に特徴のある、(多分)7歳くらいの女の子である。


そして、次に秋。

竹田(たけだ) (しゅう)という名前で、俺の中学時代からの親友でもあるわけで。

いい奴なんだが、いい奴すぎて返って地味な奴なのだ。地味~な奴です。良く言えば普通の子。

俺と同い年の17歳の男子生徒Aだ。


「ちょ、なんだよその紹介!! もうちょっとあるだろ!? こう、ツッコミのエキスパートとか!!」


秋が過敏にツッコミを入れてくる。

どうやら俺はまた喋っていたようだ。


困ったことなんだが、俺は無意識の内に考え事を口に出してしまっていることが多いらしい。

そしてそれだけじゃまだしも、口に出さぬよう気をつけていれば今度は表情に表れてしまい、なんかわかりやすいらしい。悲しいぜ。


「てかそんなことはどうでもいいんだ。お前らいったい何しに来たんだよ」


「そ、そんなことってお前……」


本来の目的を思い出した俺は、再びみんなに問いただしてみた。

秋がなんか落ち込んでるがスルーしてくれ。


「ほら、今日は嘘つき感謝の日でしょ? だから来たの」


エイプリルフールを勤労感謝の日、的なノリの名前に変えてしまったのはほかでもない、琴音である。


本名、竹田(たけだ) 琴音(ことね)。苗字でも分かるとおり、竹田 秋の実の妹である。

13歳の中学1年生。


「とても可愛い女の子!」


「おい琴音。勝手に変な設定を入れるんじゃない」


俺の人物紹介空間に口を挟みやがって。


では改めて。

竹田 琴音。中1の13歳。

とてもどころではなく、めっちゃめちゃ怖い女の子。

男性陣には容赦なくクリティカルパンチを発動し、力でねじ伏せようとかいう凶暴性の持ち主。

でも基本大人しい……ので、からかったりしなければ大丈夫……だと思う。

英語が大の苦手らしい。つまりアホでドジで天然でちょっぴりおバカな女の子である。


「海兄ぃ……?」


「ごめんなさい!!」


鋭い目で睨んできた琴音。

早速本性を表しやがったな怪物め! 悪霊退散! 万年豊作!!


「琴音ちゃん琴音ちゃん! いいケツしてごふおぇっ!!」


「ウザいッ!!」


琴音にセクハラ行為を働き制裁を喰らっているこの変態は、オメガ。

本名は鳴沢(なるさわ) 恭平(きょうへい)。俺と同じクラスの16歳。

自他共に認めるかなりのイケメンだが、その正体は変態でオタクでロリコンというしょーもない男。

銀髪に黒縁(くろぶち)めがねで、なんかちょくちょく発明家な一面も見せるが、しょーもない発明品が多く、本編でもそのスキルはあまり注目されていなかったり。

ちなみに、オタクでメガネなことから俺はオメガと呼んでいる。


「僕は変態ではないぞ!!」


「変態だろ」

「変態でしょ」

「変態なんヨ」

「変態さんです」

「変態だな」


「そ、そんな……」


みんなに現実と向き合わされ、変態はとても落ち込んでいる。

だがしかし変態は変態。誰が何と言おうと変態なのだ。だって本当に変態だしな。


「それよりうーみん先輩! 先ほどはイイ体つきしてましたですね……ぐへへっ」


「お前もあいつと変わらねぇよ!!」


と、このようなジジ臭い発言をしてきて、思わずツッコミを入れてしまった俺だが。


このジジ臭い発言の主はほかでもない、そう、ユキだ。

本名、白河(しらかわ) (ゆき)。通称:ユキと呼ばれるこの少女。

高校一年生の15歳。メルヘン好きの変人である。

俺のことを『うーみん』とかふざけたあだ名で呼び、初めてあった日の路上で告白されたりもした。

とにかく、俺のことが好きらしい。……それは嬉しいのだが。

見た目は美少女でも、中身は変人。時折精神がメルヘンの世界へ飛んで行き、暴走を始める。


オメガが覚醒する変態ならば、ユキは暴走する変人だ。


……以上が、俺の愉快な仲間たちなのである。

そしてこんな長々と人物紹介をしてしまい、本来の目的がまだ聞けていないことも、皆さまは忘れてきてしまっていることだろう。

なのでもう一度聞きたいと思います。


「なんでこんな雨の日に、なぜおまえらは朝から俺の家にいるんだよ?」


「だから琴音が言ってたろうが。今日はエイプリルフールだから来たんだよ」


若干キレ気味に秋が言った。

なんでキレられなきゃいけねぇんだよ。つーか意味分からねぇよ。


「だからもう一度聞くが、なんでエイプリルフールだと俺の家に来るんだよ!!」


「あ、そうでしたです。ここはユキが説明しますです!」


自ら名乗りを上げたユキ。

これは期待できる答えが聞けそうだぜ。


「ならばユキに聞く。なぜ、エイプリルフールに俺の家に来た?」


「皆さんで嘘をつくためです!」


なるほど、わからん。


『皆さんで嘘をつくため』つまり、みんなで仲良く嘘をつきあいましょうってことですかい? はぁ?


「その通りなんヨ。みんなで嘘つきあい大会の開幕なんヨ!!」


パンパカパ~ン! パッパッパッパンパカパ~ン!!!


エメリィーヌがそう告げると、どこからともなくパレード開催的な音楽が流れ始めた。


「っておいオメガ。なんだこのふざけきった音楽は」


落ち込んでいたはずの変態…いや、オメガの手元を見てみると、なんかラジカセが置いてあった。

どうやらこの効果音的なものはこのラジカセから出ているようだ。


「何を言っているんだい山空。パンパカパーン、パッパッパッパンパカパーンだよ?」


「だからそれはなんだよ!!」


俺がそうツッコミを入れると、オメガはしばらく考えるそぶりを見せた後。

その場でゆっくり立ち上がったと思いきや、なんか踊りだした。


「パンパカパ~ン♪ パッパッパッパンパカパ~ン♪ ……ね?」


「いや、そんな(きら)めく笑顔で返答を求められても……」


つーかお前大丈夫か。

なんで急に踊りだしたんだお前。

変態を通り越してキモいぞお前。


「まぁ、簡単に説明すると、なんかこう……グッっとくる嘘ついた人優勝ってわけだよ」


琴音がそう言った。


簡単な説明だが全くわからん。


「グッってなんだよ。こう、俺が想像しているグッって感じであってんのか?」


「そうそう。とにかくグッって感じの嘘ついた人優勝だから」


……グッってなんだよ。


「名付けて! 『一番グッってくる嘘をついた奴優勝!!』です!」


なんか2chのスレにありそうなタイトルだなおい。


「……で、基本的に何をするんだ?」


「嘘をつきますです」


「いや、そーゆう事じゃなくってよ。なんだろうな……こう、順序的なものを教えてくれよ」


たとえばどんな感じで始まるのか。とか。

どんな感じにしていくのか。とか。色々あるだろう。


「あぁ、それなら、一人ずつ順番に嘘をついていって、グッってきたら優勝だよ」


琴音が説明してくれた。


……って、ちょっと待てよ。

なんで俺だけ知らないのにみんな知ってるんだよ。

さっき適当にきめたってわけでもないだろ?

え、なに? 俺ハブられてんの?


御託(ごたく)はいい。さっさとかかってきな坊主」


「うるせぇよ変態!! てかお前一応年下だろうが!!」


「なっ、ぼ、僕は変態ではない!!」


『いや、変態だから』


みんなでハモりました。


「そ、そんな……」


再び落ち込む変態…いや、オメガ。

現実を受け入れなさい。そして、変態を卒業しなさい。


「じゃ、なんか盛りあがってきたことなんヨし、そろそろ始めるんヨ!!」


エメリィーヌが仕切り始める。


「そうだねエメリィちゃん! では、『一番グッってくる嘘をついた奴優勝!!』 開始!!」


パンパカパ~ン! パッパッパッパンパカパ~ン!!


再びラジカセから音が聞こえる。もう面倒なのでスルーだ。











そんなこんなで開催された嘘つき大会。

みんなで輪を作るように正座して座る形となっている。


そしてなぜかラジカセからTVドラマ、ラ○アーゲームの緊迫したBGMが流れ続けている。なにコレ。


「それじゃ、まず俺から行くぜ」


秋がまず先陣を切って突っ走るようだ。

俺は初陣(ういじん)だからな。まずは熟年者の技を見させてもらおう。と言っても、みんなして初陣だとは思うが。


「えー、ゴホンッ。ヴォエヴォエー」


変な発声練習と共に、場の雰囲気が一気に暗くなる。

って、おいオメガ!! 何だよこの暗い照明!! いらねぇよこんな演出!!


変態がなんか色々機械で操作しているようだ。

もうお前番組のプロデューサー的なものになったほうがいいと思う。プロデューサーの仕事なんてよくわからんが。


そしてそうこうしているうちに、秋が嘘をつき始めた。


「これは俺が小さいころに体験した話なんだけどな……?」


なんか怪談的な話の切り出し方だが、所詮は嘘の作り話なのであるからして。


「昔、駄菓子屋にったことがあるんだよな……そしたらよ、なんと、そこの店のおばあちゃんに100万円貰っちゃったんだ!!!」


シーーーーーーーーーン…………である。


いや、だってそりゃそうでしょうよ。

だって嘘なんですもん。そりゃこんな雰囲気にもなりますでしょうよ。

秋は悪くないぞ。お前は何も悪くない。悪い奴がいるとすればこの変な企画の考案者だよ。


「くそっ、嘘なら勝てると思ってこの勝負を持ち出したんだけどなぁ~」


と、敗者の秋は語る。


考案者てめぇかよ。

ならもう自業自得だよ、つーか帰れ。


「秋兄ぃは嘘つくのあまり得意じゃないんだからさ。勝てるわけないでしょ?」


いや、ちょっと待て琴音。

そもそも、どうすれば勝ちなんだよこれ。

グッってなに? 親指を立てて拳を前に突き出したくなるような嘘をつきゃいいのか?

挿絵(By みてみん)

なんのこっちゃ……。


「じゃあ次はユキですね……」


どうやら次の無謀なる挑戦者はユキのようだ。


つーかお前ら、なんでそんな自信に満ち溢れた表情なわけ?

なに? お前ら本気で勝とうとか思ってんの? ふざけきったこの勝負に。

え、これ俺がおかしいわけじゃないよな? 普通決着なんてつかないよな?


「では、秋先輩……」


どうやらユキは名指しで、その人個人への攻撃をするようだ。

そして何度も言うが、嘘で塗り固められただけのただの作り話である。


「ユキは………秋先輩になら……何されてもいいです……」


顔を赤くし、潤んだ瞳で。

胸元をさり気なく見せつけるような仕草をしながら、色っぽく秋に迫るユキ。


なるほど、色仕掛けか。確かにこれなら、嘘だとわかっていてもドキッとしてしまうだろう。

でも所詮はドキッとするだけのこと。グッっとはならない。よってユキは恥をさらしているだけである。


「お、おい白河、そ、それは海に対してやったほうが……こ、ここ、効果的だと思うけ、けけけ、けども」


思いっきり動揺している。

それを見て笑っているエメリィーヌに対し、なんか何とも言えなさそうな表情で秋を見る琴音。


って、いつの間にか照明&BGMがアダルトチックに!?


部屋中ピンク色に染まり、その部屋に流れる甘~い音楽。

こんな状況でユキに迫られたりしようものなら、理性を保つのも一苦労になること間違いなしであろう。


ちっきしょう、無駄にイイ演出しやがるぜ!!


「秋……先輩……」


「ちょ、ちょ、し、しら、しら、しら、白河!」


生温かい吐息が顔にかかるぐらい接近された秋。


さ、さすがにやりすぎじゃないか!?

これはあれだ……秋、頑張れ!!


「………ふぅ、どうです!? グッっときましたですか!?」


「こ、あ、ちょ、え、あ、お、あ、え」


秋は言葉にできないらしい。それほどに混乱している。

そして、感想をもらえなかったユキはしょぼくれながら秋から離れ、自分の元いた場所に再び正座して座りこんだ。


いつの間にやらアダルトチックな演出も変わり、再びラ○アーゲームのBGMが流れ始めている。


「秋兄ぃ、動揺しすぎだよ」


やはり妹としては気分は良くないものなのだろうか。

琴音は少し不機嫌そうな声質だ。


秋は顔を赤くしたまま、いまだに硬直している。

ちょ、大丈夫かお前。明日あたり高熱とか出して倒れたりしないよな? てか今にも溶け出しそうだぞお前。


「じゃあ、次はウチなんヨね」


続いてエメリィーヌが名乗りを上げた。

それと同時に、部屋は緑色の光に包まれ、なんかコミカルチックなBGMへと変わる。


「おいオメガ、なんだこの愉快な音楽」


「それぞれのイメージテーマだよ。僕が作った」


どうやら、この変態は作曲能力にも長けているらしい。どうでもええ。


エメリィーヌの曲は聞いてると元気が出るような。

まるで今にもスキップをしたくなるような、そんな音楽だった。


そして今思えば、ユキの時も違う音楽が流れていた気がする。

こう、メルヘンな。そして、乙女の恋心を見事に表現されたような、そんな音楽だったと思う。


……あれ、秋の時はなにも流れていなかったような………。まぁ、いいか。


こうなると、俺のイメージテーマが気になるところだ。


「じゃあ、行くんヨからね。ほら、シュウも聞くんヨ!!」


「お……おう……」


かすれた声でそう答えた秋。なんとか現世に留まっているようだ。


「昨日見た夢の話なんヨがねー、ウチの周りにはなんとカラアゲが大量にあったんヨ!!」


お、夢の話か。

うむ、確かに、夢は作り話の部類に入るからな。

実話じゃないという事は、嘘。つまり、この勝負にはもってこいのジャンルだということだ。


夢の話だったらどんなむちゃくちゃなことでも受け入れられるし、共感も得やすい。

これは、エメリィーヌが優勝するんじゃないか? 意外と奥深いな、このゲーム。


エメリィーヌが夢の話を始めた途端、周りはもくもくとした雲の映像が壁一面に表れる。天井にもだ。

そして、BGMは楽しい夢を感じさせるような、ふわふわとした優しい音楽になっていた。


変態のくせに無駄に選曲のチョイスがイカしてやがる。

音楽の有無によって、だいぶ変わってくるからすごい。


「ウチは無我夢中で食べたんヨ。そしてすべてを食べ終えたとき、なんときれいな妖精が現れたんヨ!!」


「はぅ……妖精さん……」


エメリィーヌの妖精発言により、ユキはメルヘンの世界へと旅立っていった。

エメリィーヌの口元を見ると、かすかに笑っているように見える。


こ、コイツ……まさか狙ったってのかよ……!!


「すると妖精はこう言ったんヨ。『カラアゲの山に埋もれて苦しんでいたところを助けていただきありがとう! お礼に一つだけ願いをかなえてあげましょう』と」


エメリィーヌの見事なトークテクに、ユキは聞き入っている。


「だからウチはこう言ったんヨ。『ゲームをください!』と。もちろん、コトネにプレゼントするために」


「エメリィちゃんって優しい! で、どんなゲームだったの!?」


うおっ!? 今度は琴音まで!!

くそ、エメリィーヌの奴……ユキの好きなメルヘンと琴音の好きなゲーム……そしてさらに優しさと無邪気さで織りなすこの夢物語……。

悔しいが、エメリィーヌこそこのゲームの隠れたラスボスだ!!


それからしばらく。

エメリィーヌの精密な作戦に、ユキ、琴音、秋、オメガと、次々に引き込まれてしまった。


秋のことも忘れずに夢に登場させ、秋は落ち。

変態であるオメガにもハーレム天国を用意し、オメガは落ち。


気がつけば俺以外、エメリィーヌの夢の話にみんな聞き入っていた。


冷静な俺だからわかるが、この夢の話は、すべてエメリィーヌのでっちあげであろう。

今この場で、臨機応変に話の内容を変え、今に至る。


エメリィーヌは、皆の特徴を隅々まで把握していた。


「―――こうして、ウチはその国で頑張って暮らして行くことになるんヨ……以上なんヨ」


「エメちゃん! 面白かったです!! ユキはますます妖精さんが好きになりましたですよ!!」


「あの場面でまさかあの作戦を使うとはね……エメリィちゃん、さすがだよ!」


「俺が、見事に活躍したっ!!」


「僕はいずれ、そのような世界に行ける機械を発明しようと心に決めた」


みんなはすっかりエメリィーヌの作り話に感動していた。


ユキの大好きな妖精さんは見事に強い心と優しさで世界を救い。

琴音の大好きなゲーム性も忘れずに投入し。

秋がまさかの大活躍をはたし。

オメガが奇跡のハーレムを築いた。


その話し方に俺も素直に感心した。

そして。


「……まだ、私と恭兄ぃ。それと海兄ぃの話が終わってないんだけど……もういいでしょ」


「ですね! エメちゃんが一番です!」


「あぁ、エメリィーヌにかなうものなんてないぜ!」


「僕はエメルのことを誇りに思おう」


みんなはそれぞれにエメリィーヌの勝利を呟いている。


「海兄ぃも、エメリィちゃんの勝ちでいいでしょ?」


琴音が聞いてきた。


「……あぁ、そうだな」


俺は正直驚いていた。

エメリィーヌの話は、それこそみんなのことをよく知ってないとできない話だ。

みんなのことをよく理解し、みんなの良いところや悪い所などもちゃんと理解し。

みんなのことを心から知ってないとできない作戦とも言える。


誰にもマネできることじゃない。エメリィーヌの凄さ。そして優しさは、誰よりもこの俺が一番に理解していた。

だから。

ここは素直にエメリィーヌの勝ちにしよう。

エメリィーヌには完敗だ。


「じゃあ、優勝はエメリィーヌ……」


俺が言いかけた時、エメリィーヌの視線を感じた。

しかもエメリィーヌは俺を見るなり、ニッっと、不気味に笑みを浮かべたのだ。


『カイはこの程度なんヨか? なぜウチが物語にカイを登場させなかったのか……わかるんヨね?』


まるでそう言われた気がした。

いや、十中八九、間違いないだろう。


……ふ、わかったぜエメリィーヌ。

俺と勝負がしたい。そう言うことだろ?

いいだろう。そこまで挑発されて黙っちゃいられねぇからな。

後悔するなよエメリィーヌ、この俺を焚きつけたことに!!!


「優勝は、エメリィちゃんに……!!」

「ちょっと待ったぁぁぁ!!!」


琴音の言葉にかぶせるように、俺は言い放った。


「その判定、俺の話を聞いてからでも、遅くはねぇんじゃねぇか?」


ニッ。

っと、俺が笑みを浮かべると、エメリィーヌもそれに返すように笑みを浮かべた。


「……じゃあ、海兄ぃ。よろしく」


若干あきれた声で、琴音が言った。

それを合図とし、みんなが再び正座して座る。


そして俺も……ゆっくりとその場に座った。


「エメリィーヌ。お前には負けねぇからな」


「上等なんヨ」


こうして。俺の番が回ってきた――――










「――――だから俺は。みんなに会えて本当に良かったと思ってる……以上だ」


俺はみんなに話した。


俺がみんなに会えてどれだけ救われたか。

俺がみんなのことをどれだけ好きなのか。

俺にとってみんなが、どれだけ大切な存在なのか。



俺は本当に……みんなには感謝してる。



「……海兄ぃ、私たちのこと、そんな風に思ってくれてたんだね」


琴音は嬉しそうにそう言った。


「ウチも、カイのこと大好きなんヨ!」


エメリィーヌは元気よく答えてくれた。


「だな。でも、そこまで言われるとちょっと照れ臭いな」


秋は少し気恥ずかしそうだ。


「ユキも先輩たちに会えて、本当に良かったです」


ユキも笑顔で答えてくれた。


「山空。そんなこと、いまさら言われなくても分かりきっていることだ」


オメガも、言葉ではそう言っているが嬉しそうだった。



俺はみんなに会えて、本当に良かった。




「じゃあ、エメリィちゃん。優勝は海兄ぃでいいね」


「……しょうがないんヨね」


「じゃあ、海が優勝ってことで」


「ですね!」


「海兄ぃ、優勝おめでとう!!」


皆が口々に俺の勝利を呟く。

そのみんなの表情は、幸せに包まれたような。そんな、とても優しい笑顔だった。


そしてみんなの笑顔を見た俺も、自然と幸せな気分へとなり。

ついに、俺の優勝が決まった――――――――













――――――――と思いきや。


「ちょっと待って琴音ちゃん。山空は企画内容を守っていないですぞ?」


………え?


「……あ!? そうだね、これは嘘をつかなくちゃいけないんだもん」


…………あぁ!!?


「って、ことは……だ」


「ですね」


「エメリィちゃん、優勝おめでとう!!」


ノォォォォォォウゥゥ!!!!!!


「やったんヨーー!!!!!」




―――――こうして。

俺は見事に逆転負けになりましたとさ。


めでたしめでたし。



……恥ずいっ!!






エイプリルフール特別編!! 完




~おまけ~


海「ちなみに、琴音とオメガはどんな話を?」


琴「私は……ほら、ゲームの世界に入ってしまったという作り話を少々」


秋「琴音らしいわ」


エ「キョウヘイはどうなんヨ?」


恭「え、この場で語ってしまっても本当にいいの? 報道とかされたりしない?」


雪「ど、どういう意味ですかそれ……」


琴「やっぱり聞きたくないや……」


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