俺日:バレンタインデー特別編!~似た者同士のバレンタイン~
バレンタインですねー。
でも俺には縁の無いものです。
(挿絵あり)
俺の名前は山空 海。
ごく普通の、高校二年だ。
そんな事より聞いて下さいよ、実は今日、バレンタインデーなんですよ。
用事で家を飛び出してみれば、町はすっかり甘~いムード。
すれ違う女子学生達からは、恋愛オーラが目に見えて分かる。
一方男子学生からは、ギスギスしたオーラがまたなんとも言えず。
一応学校が終わりなわけだが、俺はまだチョッコレーイトォ!なるものを貰ってはおらぬわけで。
でも周りを見る限り、学校が終わってもまだチャンスはありそう。
今年こそ………今年こそぉぉぉ!!
チョッコレィィッツオォォォォ……ゲッツ!!!!……すまん、興奮しすぎた。
俺はまだ、チョコレートなるものを、今も昔も貰った事は一度もないのだ。
モテない学生が、慰めのために貰う母からのチョコでさえも、俺は貰えてはいない。だって一人暮らしですもん。
唯一貰ったとすれば、過去の琴音からのロシアンチョコレートだけ。
ふざけてると思わないか?
なんで一口サイズのチョコに大量のわさびが詰め込まれてるんだ。しかもロシアンとか言うくせに、一個しか渡さないとか。
普通選択肢があるんじゃねぇの? 一口チョコを一つだけ渡されて、それがハズレって……もはや嫌がらせだよね。
あ、琴音ってのはだな。
俺の親友である、竹田 秋ってやつの妹で、竹田 琴音ってんだ。
兄の秋は地味な奴だが、琴音は違う。現在中1にして、物凄い強さを誇る強者だ。
てな訳で今日は、琴音以外からもチョコを貰うために頑張る。僕、頑張るよ父さん!!
俺日:バレンタインデー特別編!!
~似た者同士のバレンタイン~
『ありがとうございましたー』
俺は買い物を済ませ、コンビニから出た。
冒頭で語った用事のためだ。
で、その用事なんだが……語るより先に、一つだけ紹介しておこうと思う。
俺の家には、現在なり行きで居候が二人いる。
その居候の一人、エメリィーヌをご存じだろうか?
性別は女性。とても可愛い女の子(7歳)なのだが、これまたビックリ宇宙人なのである。
で、話を戻すと。
その小娘に、ちょっとおつかいを頼まれたんだ。
……で、そのおつかいと言うのが………。
「よりによってバレンタインの日にチョコが食べたいから買ってこいとか俺に対してのあてつけかコノヤロォォォォ!!!!」
俺はコンビニの前だという事も忘れ、大声で叫んだ。
すると、なぜかその時だけ女子中学生達の人通りが多く、俺の悲しみのラプソディーを運悪く聞かれてしまった。
俺を見る若い女子らの視線。
その場で、長いようで短い沈黙が………。
「シツレイシマシター………」
俺は、キッチリ45度の角度で頭を下げ、あの有名な二足歩行型ロボットのようにギクシャクとした足取りでその場を離れたのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「ただいまー」
突然だが海に変わりまして秋だ。
只今高校から自宅へ帰って参りました。
「秋兄ぃー、おかえりー」
俺が玄関を開けると、妹の琴音が出迎えてくれた。……のだが。
俺は一言だけ、この最愛なる妹に告げる事がある。
それは、なぜいつも琴音と帰っている俺が、琴音よりも遅れて帰ってきてしまったかの疑問を晴らすことにつながるのだ。
「琴音。お前、先に帰るなら一言だけ告げてけぇぇぇ!!!」
そうなのだ。
俺の通う高校と、琴音の通う中学は道をはさんで隣どうしなんだ。
だから、いつも一緒に帰って来ていたのだがね。
今日は違った。
琴音、いや、このにっくき我が妹は、この俺になにも告げずに先に帰ってしまったのだ。
そのせいで俺は、待ち人など永遠に来ないのにも拘わらず、いつもの校門の前でひたすら待ち続けたんだ。
おまけに今日はバレンタインデー。
俺がひたすら、中学の校門の目で待っているのを、同じクラスの男子生徒に見つかってしまった。
そして。
『竹田お前、高校でチョコが貰えないからって、中学でチャレンジしようとするなよ』
とか言われる始末。
お、俺は別にチョコレートが欲しくて待ってたわけじゃない!!ってな俺の反論も、鼻で笑い、軽くあしらい、大きな誤解を担いでそいつは去って行ってしまった。
どうすんだよ……あいつは、クラスでは有名な情報提供者とか言われるほどの噂好きなんだぞ……。
明日になったらクラス中に知れ渡ってしまうじゃないかぁぁ!!
とまぁ、そんなわけで、明日から俺は登校拒否を起こしてもおかしくは無い状況に立たされたわけだ。
琴音のせいで。
「ごめんごめん、ちょっと用があってさー。早めに帰って来てたんだよー」
………琴音は笑いながら謝ってくる。
だが、長い付き合いだから俺は分かる。今の琴音、嘘をついている。
「本当に、用事でか?」
俺はちょっとムシャクシャしてたので問い詰める事にした。
だってさ。今日クラスの女子が、クラスの男子全員に一口サイズの義理チョコを配ってたのにさ。
俺の分がなかったんだ!!
で、理由を聞いてみたところ。
『あ、ごめん! あんた影薄いからすっかり忘れてた!! てか今までどこにいたの?』
ずっと教室にいましたけど!!!
朝からずっといましたけど!!!!
あんたの隣の席の住人ですけど!!!
と、こんな具合にだな。悲惨な事が起こった訳なんだ。
だから、俺は疑っていた。
俺の事をすっかり忘れ、一人で帰ったんじゃないかって。
もしそうなら俺は……妹にまで忘れられてしまうようなら俺は………。
お袋にチョコでも貰おう。
「で、なんで俺を置いて先に帰ったとですか……?」
と、再び琴音を問い詰めてみた所ですね。
「……はぁ、実はね? 昨日海兄ぃ達にあげるチョコレート、お母さんと作ってたでしょ? 私」
「……あぁ」
そうなのだ。
昨日、琴音は学校から帰ると同時に、お袋とチョコレート作りに励んでいたのだ。
まぁ、海達にあげる為なんだが。
本命のチョコ以外で手作りってどうなんだろうなぁ。と思い、適当に買ってきちゃえばいいじゃねーか。って言った所。
『私は料理が好きだし、楽しいからいいの』って言ってた。
まぁ、それは別にどうでもいい。琴音の自由だ。
そんなわけで、一生懸命作ってたみたいだが……。
「でね? 海兄ぃ達の分は作ったんだけど、秋兄ぃの分忘れちゃっててさー」
………ほぅ。
「……忘れちゃってて……なんだ…?」
「それが分かったら、秋兄ぃが落ち込むんじゃないかと思って、急いで秋兄ぃの分を買ってこようと……」
………買ってくるのね。
俺の分は買ってきちゃうのね。作ってくれるわけじゃないのね。そうなのね。
もういい。お袋から貰うもんね。
……って、ちょっとまてよ?
お袋も琴音と一緒にチョコ作ってたんだよな……。って事はもしや……!?。
「家族ぐるみで俺の存在を忘れてたって事かぁぁぁぁ!!!」
「秋兄ぃ、ドア開けっぱなしなんだけど……」
俺は、衝撃の真相に気付き大声を出した。
だが、琴音の言葉で、玄関のドアがあけっぱなしなのに気付いた俺。
俺はその場で180度旋回。ゆっくりと後方を振り向いた。
するとどうだろう。俺の家の前を通る女子中学生達の視線が突き刺さる。
そしてその場で、長いようで短い沈黙が………。
ギィィィ……バタンッ――
……俺はその空間に耐えられず、ただ無言で、玄関のドアを閉めたのだった。
バレンタインデー特別編!! 完
~おまけ~
秋「結局、今年も琴音とお袋からだけか……」
海「俺は琴音とユキからだけか……」
エ「ウチはカイからだけなんヨか……」
琴「エメリィちゃんはあげる側でしょ」
恭「僕は今日学校で……63個ほど貰った」
海&秋「なにぃぃぃぃっ!?」