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俺日:節分特別編!~豆まきクエスト 俺たちの戦いはここからだ~

節分特別編です。過ぎたけど。

俺はごく普通の高校生で、まず軽く自己紹介と行こうか。


山空(やまぞら) (かい)だ!!


……とまぁ、そんなわけなんですがね。


今日は2月3日。

この日が何の日か、この現代社会の理不尽さに耐えながら、日々努力して生きぬいている人間の皆さまにはもうお分かりだろう。



そう。節分。


そういえば小さい頃、節分と言おうとして、誤って接吻と言ってしまったことがある。

その頃は意味なんてわからなかったが、母が凄いからかって来たのを覚えている。


そんな節分の日。もう節分を知らない人はいないだろう。……ある1人を除いて。




俺日:節分特別編!!

~豆まきクエスト 俺たちの戦いはここからだ~



「カイ!カイ!カイ!」


「……なんだ…?」


「カイカイカイカイ!意味は無いんヨがカイカイカイカイ!」


「うるせぇな!!意味もなく人の名前を連呼するんじゃねぇ!!」


こんな意味不明な会話で始まった今日の朝。


朝から元気が良いこの小娘は、実はなんと宇宙人なのである。

名前はエメリィーヌ。当然、性別は女。……宇宙人って女って言うのか? まぁ、見た目は女の子だ。しかも超絶美少女。


色々あって、現在は俺んちで居候中。

こんな可愛い子と一緒に暮らせるなんて。俺の人生バラ色だぁぁ!!!と、言いたいところだが。


まだ、7歳だし。性格は可愛く無いし。大食いだし。口悪いし。


「今なんかウチの悪口が聞こえたんヨが……?」


ベッドの上に座り、俺を鋭く睨みつけて来るエメリィーヌ。

どうやら俺は、また喋っていたようだ。


はぁ……、気をつけないと。俺はすぐ考え事をそっくりそのまま暴露している事が多いらしい。それも無意識なのだから怖い。


「それよりも、カイ!今日は節分とか言う日らしいんヨが……なんかするんヨか?」


足をばたつかせながら聞いてくる。


そう、節分。

こんな日に俺が何もしない訳ないだろう。


イベント的なものはすべて盛り上げ、すべて参加し、みんなで楽しく、仲良く、清く正しく美しく。これがモットー。


エメリィーヌはどうやら節分を知らないらしくてな。昨夜『節分』と言う単語だけ教えておいた。


つまり、節分はどんな事をしてどんなことになるのかは全く知らない。


ところで、これを読んでいるそこのキミ!!

まさかキミも節分の内容を知らないわけではあるまいな。


え? 知らないの? しょうがねぇな。この海様が簡単に教えて差し上げよう。


鬼来たる。豆投げる。鬼逃げる。


基本はこれだ。

季節の移り変わり、おもに冬から春へと変わる日。2月4日の前日に行われるこの行事。


もとは、季節の変わり目には邪気が生じると考えられており、それを追い払うための行事らしい。

邪気は鬼に見立てて。そんな感じだ。


もちろん本物の鬼が出て来る訳ではなく、大概は一家の大黒柱であるお父さんが、鬼のお面をかぶり、鬼の役を演じる訳だが。


全国のお父さんに一言だけ告げておこう。

絶対にお子さんの前で鬼のお面を外してはいけない!!


これはね。もう行事云々(うんぬん)の前に、嫌われるから。


まずお父さんが鬼のお面をつけながら部屋に侵入。

小さい子、大泣き。お母さん、ニヤけ。


そんな状況で、お面を取って素顔をさらしてみなさい。


鬼(謎の怪物)=父。


という構図が、可愛いわが子の脳内で完成し、父はしばらく寂しい思いをする事となる。

だから、泣いているわが子があまりにも可哀そうだからと言って、素顔をさらしたら、それすなわち父の敗北だ。


だから父は、泣きじゃくるわが子を横目に、鬼なんか出てけと理不尽に豆をぶつけられながら、そそくさと退場しなければならない。


それが節分。

これは、父親の精神を鍛える絶好の行事だと言よう。


と、言うわけで、節分についてエメリィーヌに伝えてもよいのだが、それじゃあ面白くない。

日頃散々なことに巻き込みやがって。これは絶好の反撃のチャンスだ。


「いいかエメリィーヌ。節分ってのはなぁ」


俺はエメリィーヌにこう説明した。


節分、それは。

鬼が襲ってきて、良い子じゃない人間を骨までしゃぶりつくす行事だ。と。


それを聞いたエメリィーヌの表情は、見ただけでも強張っていると分かるぐらいになっている。


なんでこんな嘘をついたのか。

いやぁ、正直、鬼に怯えているエメリィーヌって見てみたいじゃん?


普段強気のエメリィーヌが、泣きわめく姿を。

そこに俺がさっと登場し、エメリィーヌにこう告げるんだ。


安心しろ。俺がついてる。


これを聞いたエメリィーヌは、俺にメロメロ。抱く恋心。

エメリィーヌは俺にズッキューンな心境となり、俺はたちまちヒーローだ。

そして数年後には……………って、俺は何考えてんだぁぁぁ!!!!


ありえん。絶対にありえない。あり得たら逆に困る。

俺はロリコンではないと自負してるし、エメリィーヌに対してそんな事は無いと言い切れる。


くそっ、長年彼女が出来ないがゆえの妄想モードに入り込んでしまった。

あ、いや、彼女的なのはいるんだけれども。


……正直あの人はねぇ。変人だからねぇ。


「うーみんせんぱぁぁい!!!愛を届けに地の果てからとんでまいりましたですよー!!!」


バンッと勢いよく放たれたドアに、よく見なれた変人が一人。


ったく、噂をすればなんとやらってか。

一応紹介しておこう。


コイツは白河(しらかわ) (ゆき)。俺の事をうーみんとよび、現在俺にゾッコンラブらしい。

見ての通りの変人……変わったやつ。


てか、ここ俺んちなんスけど。これって俗に言う不法侵入ってやつじゃ……。

しかもこんな朝早くからなにようだ貴様。


「もう!先輩ってばなんです? その寝癖!いますぐ朝支度してくださいです!!」


……彼女か!!!

お前は俺の彼女か!!


「こんな朝早くからきやがって!! 俺んちは二十四時間営業じゃねぇんだぞ!!そこらのコンビニと一緒にするな!!」


「いいから早く!ほら、ビシッとしなさいです!! 顔洗って……あ、あと歯磨き忘れずにですよ?」


……オカンか!!

お前は俺のオカンか!!


「分かったから押すな!自分で歩ける!!」


「おぉ、立派になりましたですね」


……息子か!!

俺はお前の息子か!!


てか何回やらせんだ!!


「ほらほらぁ、あ、エメちゃんもですよ!」


「あ、わ、分かったんヨ」


俺とエメリィーヌは、ユキのなすがままに洗面所に運ばれ、介護を受けた。俺は老人かよ。

一言も反論を許さない。これが女子力というものなのか。恐るべし女子力。


「ほらっ、今度は朝食ですよ!」


「あ、ちょ、ちょっと!」


「ご飯なんヨ!!」


俺んちなのに。なんだよこの侵略された感じは。自由にさせてくれぇぇ!!!


俺はされるがままに席に着き、ユキは朝食を作るためにキッチンへと。


「やぁ、山空。これは何事で?」


俺の向かい側に座っていたコイツ。


コイツは居候その2で、特徴を言えば、銀髪で四角い黒ぶち眼鏡をかけている。

オタクで変態でロリコンで発明家という謎のスキルを持ち合わせる変な奴だ。


名前は鳴沢(なるさわ) 恭平(きょうへい)。俺は、オタクでメガネな事から、オメガと呼んでいる。


「いやぁ、なにがなにやら俺にもさっぱりで」


「なんであの人は朝からあんなにテンションが高いんだ?」


「俺が聞きたい」


それから十分後、朝食が運ばれてきた。


とても朝食らしい朝食に、俺は若干驚いた。

味は普通に美味くて、当の本人は作って食して帰って行ったのだった。


………何がしたいんだあいつ。いつも以上に意味が分からん。


それからしばらく。


午前10時を指す頃だ。


この時間は特別な時間。そう、鬼が来る時間だ。


実は昨日、秋とこっそり連絡を取っていた。


あ、秋ってのは、俺の中学からの親友で、竹田(たけだ) (しゅう)って奴なんだけど。

特徴は……その………あれだ。


特徴が無いと言いますか、特徴が無いのが特徴と言いますか……、とりあえず、地味な奴とだけ覚えておいてくれれば幸いだ。


そしてそんな地味な兄貴とは裏腹に、とてもイイ特徴をお持ちの奴がいる。


それは秋の妹の、竹田(たけだ) 琴音(ことね)だ。

親友の妹というわけで、俺も仲良くさせてもらっている訳なのだが。


いやぁ、俗に言う怖い女ですぜ旦那。

中1にしてあの怪力は無いわぁ。あとは天然が良く目立つ。


で、話を戻すと、そんな秋に昨日相談した。

鬼役を頼まれてくれねぇか? と。


そしたら案の定断られた訳なんだが、無理やり押し付けてくれたわ。まさしく俺の気迫勝ち。


で、約束の時間が10時なわけよ。

いや、別に意味は無いけどさ。早いとこ済ませた方がいいじゃん?


豆なんか撒くんだ。掃除しなくちゃ。


だからそろそろ来てもいい頃なんだけど………。


その時だった。


かすかに玄関のドアが開いた音が聞こえる。

そして足音と共に、このリビングへと近づいてきた。


そしてリビングのドアがゆっくりと開き……。


「海兄ぃ!今日も普通だね!」


ってお前かよ!


開いたドアから顔を見せたのは、噂の暴力少女。琴音だ。


「誰が暴力少女よ!!」


「いて!? いててて!!いててっててっ!!?」


近づいてくるなり俺の手首を曲げてはならぬ方向へ。


ちょ! 人の手首はそんな方向には曲がらないようにできてるの!!

無謀な挑戦はやめてください!!!


「こ、こ、こっとねちゃァァァん!!!」


そして琴音に飛び付く噂の変態オタク。


もうなんなんだこいつら!!

次から次へとアクションを起こさないでくれよ!!


「恭兄ぃ、張り付かないで」


変態にがっちりと確保された少女。

いつもは変態が星になるのだが、たまには少女が負けるようだ。油断していたのかそうでないのかわからんが。


てか痛い!!もういいでしょ!? 放しておくれ!!


「あ、ごめんごめん」


俺の胸中を察してくれたらしく、やっと手を放してくれた。

あー、痛かった。


ちなみに、変態はセリフ無きままぶっとばされてます。

ボッコボコです。フルボッコです。琴音の頭上に48コンボの文字が見える。……気がする。


そんな騒がしい中。

玄関の方でドアの開く音がかすかに聞こえた。


そして……


「うーみん先輩!!愛しのユキですよっ!!」


おめぇかよ!!

なんでまた来たんだよ!!帰ったんじゃねぇのかよ!!てか鬼役のアホは何やってんだよ!!


「あ、ユキちゃん!おはよー!」


「琴音っちも来てたんですね。おはようです!」


女子は二人仲良くあいさつを交わす。


………って、あれ? さっきまでいたはずのエメリィーヌがいない。


気が付くと、エメリィーヌの姿が無かった。


そんな時だった。


バンッっとリビングのドアが勢い良く開く。

そこにいたのは……


「いやぁ、これで大丈夫なんヨね」


エメリィーヌかよ!!!

何回やんだよこのパターン!!てかおせーぞ秋!!


「って、何が大丈夫なんだ……?」


俺はエメリィーヌに聞いてみた。

さっきまでどこに行って何をしていたのか、気になったからだ。


するとエメリィーヌは、胸を張りこう言った。


「対鬼用の罠なんヨ!!」


………あちゃー……。

やってしまった。こりゃミスッた。俺のせいだ。

どーりでなんかガチャガチャ音がすると思ったよエメリィーヌさん。


そうだった。エメリィーヌには鬼は悪魔並みにひどい奴だと教え込んだんだった。


どうするか。なんか罠仕掛けちゃったけどどうするか。


………まぁ、秋にサプライズって事で。


エメリィーヌは、琴音と挨拶を交わして二人仲良く遊び始める。

ユキは俺の隣に着席。

変態……もといオメガはぶっ倒れたままだ。


そんな状況の中、玄関の方で音が。

そして……ガンッ『痛ぇ!!』ゴンッ『なんだこりゃぁぁ!!』どかんっ『はぁ!? バナナが!!』


なんか痛そうな衝撃音のあとに、秋によく似た声が聞こえた。

エメリィーヌは身体をビクッっと震わせて、怯えながらリビングのドアを凝視する。


おいエメリィーヌ。

お前どんだけ罠仕掛けたんだよ。てかバナナって何!?


そんな時、リビングのドアがゆっくりと開き始め……そこにいたのは……。


「なんか変な人出てきたァァァ!!!!!」


「変な……人じゃ…ない…ゴホッ」


鬼が出て来ると思っていた俺は、つい大声をあげてしまった。

変な人はどうやら相当深手を負ったようだ。


とりあえず、どう変なのか。見たままに告げるとだな。


箱。粉。粘着。バカ。

以上。


頭に段ボール箱をかぶった謎の覆面ヒーローが、見事に真っ白に染め上げられ(小麦粉だと思われる)、足にはガムテープが大量に張り付き、とても歩きづらそう。

そしてなにが起こったのか分からんが、バカと書いてある紙が服の上から腹部に貼られている。


そんな謎の覆面ヒーローが、目の前でボロボロだ。

と、とりあえず。


「おい、大丈夫か…?」


俺が聞くと、覆面ヒーローはかすれた声で答える。


「なんなんだあれは……。目の前からきらりと光るものが飛んできた時は死んだかと思いまし……た……。あ、だめだこりゃ」


バタンッ。と、覆面ヒーローはその場でぶっ倒れてしまった。


「やったんヨー!!鬼はウチがやっつけたんヨ!!これで地球の平和は守られたんヨね!」


「え、エメリィちゃんがやったの…?」


「そうなんヨ!」


エメリィーヌは両手をあげながら大いに喜んでいる。


……どうしよう。この惨状、絶対に俺のせいだ。

まさか、死人が出るなんて……。


俺は、取り返しの付かない事をしてしまった……!!


エメリィーヌに嘘を教え込んだばっかりに……。

秋が死んじまった!!『あ、だめだこりゃ』って地味な事呟きながら!!


「地味って言うなよ!!」


………あれ。

なんだ生きてたよ。しぶとい。


「あれ? シュウ……なんヨか?」


エメリィーヌは不思議そうにつぶやく。


「い、いやぁ、ごめんなエメリィーヌ! おじさんつい嘘ついちゃったや!」


俺は軽く流そうとした。


「なんなんヨ? ウチ、何かしたんヨか?」


無理だった。


こうなりゃ説明するしかない。

まさかこんな事になるとは。


「じ、実はなエメリィーヌ。鬼は怖くない。以上」


「はぁ?」


エメリィーヌの言葉からは、わけわからんヨ。が伝わってくる。


そんな時。


「エメル。山空が朝言っていたのは嘘なんだ」


さっきまで倒れていたはずの変態が、会話に入ってきた。


「じゃあ、鬼は嘘なんヨか?」


「そう、鬼のお面を被っているだけで、中身は人間。つまり鬼役をしている訳なんだよ」


「……?」


「節分は、その鬼の役の人に掛け声と共に豆を投げ当て、鬼を追い払うおまじないのような行事なのさ」


「そうなんヨかぁ」


オメガの説明で、どうやら納得してくれたようだ。


「おにはーそと!ふくはーうち!!って言いながら投げるんだよ」


琴音が言う。


「それで、今回鬼役は秋先輩だったってわけです」


ユキも言う。


「いやぁ、それにしてもエメリィーヌお前、すげぇなぁ。どこであんなトラップ技術学んだんだよ?」


俺は気になったのでエメリィーヌに聞いてみた。


「企業秘密なんヨ」


(#^-’)b

↑こんな顔しながらエメリィーヌは言った。


そしてもう一つ気になる事がある。


「そこで死んでる奴が言ってた、きらりと光るものってなんだ?」


確か飛んで来たとか言ってた。


「あぁ、それは……その……てへっ!」


いやいやいや、誤魔化すんじゃないよ。

なんなんだいったい。


そのとき、やっと喋り出した覆面ヒーロー。


「あ、あれはやばいぞ……多分見た感じ……あれは海の貯金箱だ……」


「マジかよっ!!?」


俺は猛スピードで廊下へとかけだす。


廊下は凄い有様になっていた。


粘着部分が上向きになって、床に敷き詰められているガムテープ。

そのガムテープにくっついている皮無しバナナ。

天井からつるされてゆらゆらと揺れているフライパン。

あちこちに散乱しているバナナの皮。


そしてそれを潜り抜けた先には…………


「ノォォォォォォォウ!!!」


俺は思わず頭を抱えて膝をついた。あ、バナナ踏んじまった。


俺が見たもの、それは。

穴が開いた壁と、その近くの床に散らばった黄土色の破片。


これはまさしく………


「俺の埴輪(はにわ)の貯金箱じゃねぇかぁぁ!!」


俺の大事に大事に使っていた貯金箱が、見るも無残な状態となっている。

まぁ、中身は空だったんだが。


俺は落ち込みながら、エメリィーヌの罠の残骸を片付けていった――――


――――それから20分後。


俺の掃除テクでピッカピッカになった廊下。


エメリィーヌに節分について詳しく説明し、皆で炒った大豆を持ち、鬼役の秋の入場シーンからやり直すことに。これでいいのか、節分。


「エメちゃん、いいですか? 鬼は外。福は内ですよ!」


「分かったんヨ!……モグモグ……」


ちょ、コイツ豆食ってやがる。

まぁ、気持ちは分からんでもない。


「ところで海兄ぃ。節分にまく豆ってさ、なんで大豆なの? 大豆じゃなくちゃダメなの?」


突然琴音が疑問を口にする。


言われてみれば……なんでだろうな。


「別に大豆じゃなきゃダメってわけでもないと思うけど……幼少の頃、落花生(らっかせい)撒いてる友達もいたし……」


「落花生? それ危ないんじゃない?」


「ははは、確かに、鬼役の人からすれば拷問だろうな」


「そこまでだ人間どもめぇ!!」


琴音とそんなくだらない会話をしていると、リビングのドアが開き、鬼役がいつの間にやら登場。


赤い鬼の、プラスチック製のお面で、先の鋭そうな角が2本。


そのお面……、中学の頃に夏祭りで買ったお面じゃねぇか。まだ持ってたのか。

確か300円という良くも悪くもない微妙なお値段だったはず。


つーか、秋。高校生にもなって鬼役とか恥ずかしくてできねぇよ!!って言ってたわりには、結構ノリノリじゃねぇか。


鬼のお面をかぶった秋は、両手を腰に当てて、カッコよくこう言い放った。


「ぐははは。よくぞここまで来たな戦士たちよ!」


おい、ちょっと待て。

お前は鬼を勘違いしてないか? どこぞのRPGだよ。


つーか、よくぞ来たって……お前から来たんだろ。


お前がそんなノリだと、エメリィーヌ辺りがノッちゃうだろ?

もしかしたら琴音もその設定にノッてきちゃうかもしれないし。最悪ユキも……。


「ふっ…礼にはおよばねぇぜ赤鬼さんよぉ」


ほら。やっぱりノッてきた。………オメガが。

お前何やってんだよ!!カッコつけて何やってんだよ!!


「秋せんぱ……いや、赤オニさん!!ユ…(わたくし)たちみんなが力を合わせた今、あなたにだって負けませんです!!」


うわぁ、なにこの展開。

え? これ演劇でしたっけ?


「そうなんヨ!ウチ達は数々の苦難を乗り越えここにいる。この絆の前に、敵は無いんヨ!!」


めっちゃラストシーンじゃーん。

もう俺には止められないよー。


もう琴音以外ノリノリだよ。さぁ、どうでる琴音!!


「そう、私は…いや、私達は……。あなたを倒して、この世界を救うんだ!!」


あ、やっぱそうなっちゃいます?

てか無駄に壮大だなおい。


「一度負けた人間がえらそうに……調子に乗るんじゃねぇぇ!!」


あぁ……なんだこれ。

これはあれか?

俺もこのノリに参加した方がいいのか?


なんか鬼役の秋が背中からおもちゃの剣とか取り出してきたしなぁ。

用意周到でなにより。


「行くよみんな!私たちの力を示す時!!」


てか琴音。

お前が主人公かよ。なに仕切ってんだよ。


ここはあれか。俺も話に合わせた方がいいのだろうか。


「ふふふ。ふはははは。はーっはっはっはっはっはっは!!」


突然、オメガがわざとらしく笑いだす。

何事!? これからボス戦って時に何事!?


「ど、どうしたんヨかジェイク!!」


ジェイクって誰だよ。


「そう、俺はジェイクだ」


ジェイクだったのかよ!!

てか、凄いなりきってんなオメガ。


普段と違う、とても渋い声色。バカだコイツ。


そんなオメガ…もといジェイクは続けた。


「みな器用に騙されてくれた、俺は、ジェイクではないというのに……クックック」


「どういう事ですかっ!」


「ふっ、つまり俺は、お前らを騙してたってこった」


「な、そ、そんなはずはありません!! ジェイクさんはあんなにも……あんなにもこの(わたくし)に優しくしてくれて……!!」


「あぁーあ。それにしてもスッキリしたぜ。もうこの物を知らないクソお譲さまにも、へらへらと笑いながら、ご機嫌を取らなくてもいいのだからなぁ」


「なっ……そんな……」


オメガ…いや、ジェイクがまさかの裏切り。

ユキはどうやら、お譲さまだったようだ。


この状況から、お譲さまであるユキは、ジェイクといい感じで、恋愛感情が生まれつつあったのだと思われる。

だがジェイクは、そんなお譲さまの恋心を(もてあそ)んでいたという事だ。


「てなわけで、俺はこっち側なんだよねぇ」


ジェイクはそう言うと、鬼の方へ歩き出した。


「貴様はもう不要だクズめっ!!」


「ギャァー」


だが鬼に切られた。


その場でゆっくりと倒れるジェイク。

そして。


「ゆ、ユキーラ姫……俺は……きみが……好……」


「ジェイクさん……!!!」


こうして、ジェイクは息絶えたのだった。

どうやら、敵に操られていたらしい。なんとも悲しい物語が、俺の家のリビングで繰り広げられている。


「うぅ…よくも……よくも……!!!」


大切な人を失った怒りと悲しみで、ユキ…もといユキーラ姫は鋭い眼光で鬼を睨みつける。


「ユキーラちゃんやジェイクさんを利用するだけして……あなたに心はないの!?」


琴音の演技にも熱が入り始めている。


物語もとうとう終盤に入り始めているのだろうか。

そしてこの状況の中、ただただ(たたず)んでいる俺は、相当な場違い野郎なのではないだろうか。


誰でもいいから、俺を現実の世界へ返して下さい。

もしくは、俺に役名をつけて引きこんでください。完全に参加するタイミングを逃した。


そんな中、物語は続けられる。


「心だと? そんなもん………おもちゃだ」


ニィっと笑い、とてもゲスい事を言い放つ鬼。いや、お面付けてるから表情分からんけどさ。なんとなくそんな雰囲気だったんだよ。


つーかお前ら、兄妹でこんな事してて恥ずかしくないのか?

(はた)から見ればバカップル並みに恥ずかしいぞ。


だが、そんなことお構いなしに続くこの物語。


「おもちゃって……おもちゃってなんなんヨか!!」


エメリィーヌも負けじと物語に食いついて行く。

俺はただ立ちつくすのみだ。


「まだ成長しきっていないガキどものくせに……この俺様に口答えすんじゃねぇ!!」


秋もノリノリである。目立てるのが嬉しいのだろうか?


「むかっ……成長は個人差があるんだからしょうがないじゃん!!!」


おい琴音。そこはツッコむ所とちゃう。


「そ、それはすまなかった」


ほらぁ、謝っちゃったじゃん鬼!!

もうどうしてくれるんだよ。鬼めっちゃいい奴じゃん。


「行くよユキーラちゃん!!ジェイクさんのためにも!!」


「セシリアの言う通りなんヨ!!」


「セシリアちゃん……エミルーナちゃん……」


おいおい誰だよ。


こうして、琴音…もといセシリア一行(いっこう)は、鬼の……オーニーでいいや。

オーニーに立ち向かったのである。


「覚悟しなさい鬼次郎!!」


鬼次郎でした。


「くらえ!鬼は外!!福は内!!」


「ギヤァァァ!!」


そう叫んだエメリィーヌ…もといエミルーナは、セシリア、ユキーラと共に鬼に豆をぶつけた。

そこらでくたばってるはずのジェイクも、さりげなく参加している。


とりあえず俺も豆まきは参加しておいた方がいいよな……。


「おには~そとー、ふくは~うち~」


俺はチャルメラの音楽にのせて小声で呟きながら、秋がなるべく怪我しないように、豆を軽めにぶつけた。

すると、急にもがきだすオーニー…いや、鬼次郎。


「ぐわぁぁぁ……ば、バカな!? これが人間の力というものなのか……!?」


鬼次郎は、悪役が一度は言ってそうな言葉を口にし、もがく。


「これが私たち人間の結束力よ!!」


「ウチ達の前に敵は無いんヨ!!」


「ジェイクさぁぁぁん!!!(かたき)は取りますですよぉぉ!!」


おい、二人がなんかカッコいいこと言ってんだからさ。

お前だけ愛に溺れるなユキーラ姫。


「な、なんだとぉぉおお!!!!!!」


そう言いながら逃げだして行った鬼次郎。


「こうして、セシリア一行(いっこう)の長い長い冒険は幕を閉じたのだった――――」


いきなり立ち上がって変なナレーション入れんなよジェイク!!

お前死んだんだろ!? なら葬式までくたばっとけボケ!!


「……カイト……空気読もうよ……」


琴音が静かに呟く。……俺を見ながら。


そうか、俺はカイトだったのか。


こうなったらしょうがねぇ。俺も参戦してやるよ!!


「カイトブレイバーァァァァ!!!!」


俺は意味もなく、壮大なる気合を込めて技名を叫んだ。


「………恥ずっ(ユキーラ姫)」

「………ださっ(セシリア)」

「頭大丈夫なんヨか……? (エミルーナ)」


こうして。

一番恥ずかしい事してたハズの奴らに、心底幻滅されたカイトくんなのでした。



節分特別編!! 完

~おまけ~


海「カイトナックル!!」


琴「まだ言ってる……もしかして気に入ったの……?」


海「カイトストレート!!カイトシンカー!!カイトスライダー」


秋「野球のピッチャーになってるじゃねーか」


海「カイトフォーク!!カイトナイフ!!カイトスプーン!!」


秋「食器類になってるじゃねーか!」

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