俺日:お正月特別編!(後編)~年のはじめの初地蔵~
後編です!
オッス!秋だぞ!
え、ちょ、海じゃねーよ!!秋!竹田 秋!!
ちょっと、なに露骨にガッカリしちゃってんの!? 俺ってそんなあれか!?
あ、ちょっと!!戻らないで!!最初だけだから!すぐに海と交代するから!!
「秋兄ぃ、気にしすぎだよ……。大丈夫だって」
「そ、そうかな」
「そうそう。誰もそんな事思わないよ。……きっと」
「なんだよ今の間は!!」
「ほら、早く進めないと終わっちゃうよ?」
「わ、わかったよ」
「それじゃ、頑張ってね!」
……はぁ。
本当に大丈夫なんだろうか……。
まぁ、気にしてても仕方がない!張り切って、前回のあらすじを……。
前回のあらすじ!!
今日は一月一日。元旦だ。
色々あって、海の家に集まる事になった。
あ、海じゃなく、海の家だからな。
で、俺は、妹の琴音と一緒に、海の家に向かった。
で、到着。
そのあとは……そうそう、琴音が忘れ物したみたいで、なぜか俺が自分の家に取りに戻ったんだ。
琴音が振袖着てたから、自転車じゃなくて歩きで来たんだよ。
だから凄い疲れた。
琴音の忘れ物は玄関に置いてあってすぐ見つかり、めんどうだから、俺は自転車で海の家に戻った。
戻る途中、同じクラスの奴らにもあって、なんとなく声をかけたのだが。
忙しかったらしく、反応せずにどっか行ってしまった。
そして海の家に到着。インターホン押したのに誰も出てこないので、勝手に上がらせてもらった。まぁ、一度来てるから大丈夫だ。
そしたら、琴音が恭平に押し倒されてた。
そんなもの見てしまったら、兄貴として助けなければいけないわけで。
思いっきり恭平をぶん殴ってやった。なんか鍋被ってて、手が凄い痛かったのは内緒。
そんな感じかな。
……って、今思ったけど、俺って前回ほとんどいなかったな……。
「しかもあらすじじゃなくなってるし、無駄に長いしね」
「また琴音かよ。いいだろ、せっかく目立てるチャンスなんだから!」
「そんな長々とやってると嫌われるよ? それに、どうせみんな『zzzzzzzz』ってなってるよ」
「え!? みんな寝ちゃってるの!? 話の途中で寝るのは校長先生の時だけにしてくれ!!」
「それじゃ、後編をどうぞっ!!」
「あ!それ俺のセリフ!!」
「なら早く言いなよ。もう時間切れ間近だよ」
「うわ、あと5秒しかない!!」
「ほら早く!」
「お、おう!それでは、こ【時間切れ】
俺日:お正月特別編!!(後編)
~年の初めの初地蔵~
やぁ、海だ。
後編しょっぱなから、見苦しい男の下らん茶番をお送りしてしまった事を、心からお詫び申し上げ……いや、なぜ俺がお詫び申し上げなくちゃならない。
後でキッチリと落とし前をつけてもらうよう、バッチリとシバき倒しておきますゆえ、お許しくださいますようお願い申し上げます。
まぁ、琴音もちょこっと出てきたし、それで何とかなると信じよう。
そんなわけで、本編に戻りたいと思う。どぞ。
≪日本晴れ!!≫
いきなり変な発言をしてしまったな。
まずは順を追って説明しよう。
今日は元旦、1月1日だ。ちなみに、午後1時12分。
おしかった。あと1分早ければゾロってたのに。
まぁ、つまりは、みんなで初詣に行きましょう。ってわけだ。
皆というのはもちろん。
冒頭で茶番を繰り広げた、秋。その妹の琴音。宇宙人のエメリィーヌに、変態のオメガ―もとい恭平。変人のユキ。
そして、この俺、山空 海の計6名。
個性豊か(個性無し含む)な面々で、歩いてきたるは我が家から一番の最寄りの神社だ。
人が少ない時間を見計らってきたというのに、その甲斐むなしく、見渡す限り人、人、人。
まるで人の展覧会やぁ!!
ってなわけだ。
で、最初に言ったと思うが、今日は日本晴れなわけで。
雲ひとつない青空。照りつける太陽。
冬の風が身体を程よく冷やして去っていく。てか寒い。
せっかくの正月だというのに、なんでこうも人が多いんだか。
今昼だぞ。昼飯どうしたんだ。こんな時間に初詣に来るなよ。ファミレス行ってこいよ。
「こんな日にファミレス行く奴いねーだろ」
うるさいぞ秋。お前初っ端喋りまくったんだからもういいだろ。出て来るなよ。
とにかく、もう一度だけ言う。見渡す限り人なんだよ。
ここは結構広いからな。初詣にはもってこいの神社だ。
ほとんどの女性は振袖姿。男性は普段着の人たちが多いが、袴姿も多々伺える。
何より、子供達の元気な声が凄い聞こえるな。夏祭りでもないのに。
ほらまた。耳をすませるとよく聞こえる。
『お前運ないなー』『くそーっ、大凶か!!』
おみくじを引いている子供達の声。
『へへっ、タッチ!』『あぁ、捕まっちゃった』
やることをすべて済ませた後の鬼ごっこを楽しむ子供達の声。
『うおーっ!!カイ見るんヨー!ハゲなんヨ!!クリクリボウズなんヨ!!』
神社に祭られているお地蔵様の頭を乱暴に叩きながら、ドエラい事を言い放つ子供の……って。
「エメリィーヌ、やめなさい」
お地蔵様になんて事を。
それにしても、ハゲは無いだろう。ハゲは。
……って、なんで神社に地蔵? 普通狛犬とかだろ。
地蔵は寺じゃなかったっけか。……まぁ、いいか。
「カイー、ツルツル!ツゥルツル!!」
だからやめろ言うとんのじゃボケ。
いつまで頭をさすれば気がすむんだよ!
ほら、周りの人見てるから!!クスクス笑われてるから!!
「ダメですよエメちゃん!」
ここで、ユキが止めに入る。
ナイスだ。俺には今のエメリィーヌに近づく事は出来なかった。恥ずかしくて死ぬ。
だから、ユキ。お前がいてくれてマジ助かった!!ありがとう!
エメリィーヌに近づき、そっとエメリィーヌを抱き上げるユキ。
その姿は、保母さんそのものだった。
ユキは絶対に保母さんになった方がいいと思う。むいてる。絶対むいてるよ保母さん。
ユキは子供っぽい所あるから、子供たちと同じ目線に立って話とかできそうだしな。
……いや、最初から同じ目線なのか。頭の中子供だもんな。
「あー、うーみん先輩。今何か失礼なこと考えてましたですね?」
エメリィーヌを抱きかかえたまま戻ってきたユキが、むすっとした顔で俺を見て来る。
いや、そんな事はどうでもいい。あれだけ言ったのにまだ分からないのかお前は。
「外でうーみんって呼ぶなぁ!!」
ここにクラスの奴らがいたらどうすんだよ!
ただでさえ彼女だのなんだのって変な噂が立ってるのに。
「本当の事だろ?」
「真顔で何言ってんだ。影薄」
「影薄って誰だよ!!」
秋も絶好調だ。
っと、あれ?
オメガの姿が無い。
俺の右隣に立っていたはずのオメガが、いつの間にかいなくなっている。
「琴音。オメガどこ行った?」
「なんで私に聞くのよ」
うっ、琴音、目が怖い。
オメガといったら琴音だから、つい琴音に聞いてしまった。
つーか、何も言わずにいなくなるなよ。子供かあの変態は。
「くそー、オメガの奴。どこ行きやがった」
俺は周りを見渡してみる。
オメガの事だ。
どーせ、そこらへんの女の子と仲良く会話してるんだとは思うが……。
何せオメガだからな。襲いかねん。
こんな日に警察にとっ捕まりました。なんて事になってみろ。
しかもナンパに近い行為で、俺の知り合いなんて事になったら。
………多分他人の振りをするな。うん。
「おい海。恭平いたか?」
秋が聞いてきた。
「全然いない。あいつこの短時間でどこ消えたんだよ」
あいつ銀髪だからな。すぐ見つかるはずなんだが……。
「日頃の行いが悪いから神の裁きでもあったんじゃないの」
おい琴音。そんな顔でそんなこと言うなよ。本気にしちゃうだろ。
「恭平の奴どこ行ったんだよー!隠れてないで出てこーい!」
「秋に言われると、さすがのあいつもさぞムカつくだろうな」
「なんでだよ」
「お前の方がいつもいなくなるだろ?」
「そーいう意味かよ」
あれ、絡んでこない。
ちょっと怒らせたか? まぁ、いいか。
「シュウ!向こうの方に行ってみるんヨ!!」
エメリィーヌは、とても嬉しそうに秋の手を引く。
地球の行事が珍しいのだろう。
こんなにはしゃいでいるエメリィーヌを見るのは久しぶりだ。
そして、なんでこういう時いつも秋なんだ。道に迷ってもしらねぇぞ。
言い忘れていたが、秋は極度の方向音痴だ。みんな忘れていると思うが。
秋に道案内を任せてみろ。さんざん彷徨ったあげく、意味の分からない所に迷い込み、持ち前の影の薄さでヒッチハイクもままならない。
タクシーさえ止まってくれないことだってある。
そんな奴といっしょに出かけるのにも、かなりの苦労だ。
まぁ、そのおかげでエメリィーヌと会えたと言っても過言ではないのだが……。
そして一番腹が立つのが、本人が自覚していないという事だ。
かの有名な、沖野宮 来栖(※架空の人物です)はこう言った。
『己の信じた道を歩め。さすれば道は開ける』と。それは間違いだ。
秋に己の信じた道を歩ませてみろ。航空機を使わずにイギリス辺りまで行ける隠し通路とか見つけかねん。
でもまぁ、さすがに学校までの道や、自宅に帰るまでの道は覚えたらしいな。
だがそれでも、半年ぐらいその場を離れてみろ。家に帰れず路上生活の幕開けだ。
てなわけで、エメリィーヌに引っ張られ歩きだそうとする秋に、一言だけ告げておく。
「秋!携帯の電源を常時入れておけ!!」
「ん? 分かったけど。なんなんだ?」
「そしてエメリィーヌ。これ持ってけ」
俺は自分の首に掛けておいたあるものを取り、エメリィーヌに渡す。
「ヨ? なんでなんヨか?」
「いいから、首から下げとけ」
「分かったんヨ。じゃ!シュウ行くんヨ!」
「お、おう!」
そう言って二人は人ごみの中へ消えて行った。
ちなみに、エメリィーヌに渡したのは、あいつの勾玉だ。
あいつはその勾玉を持つ事によって、さまざまな超能力を使う事が出来る。
念力。とかな。もちろん、瞬間移動もできるのだ。
でも、調子に乗って使い過ぎると、エメリィーヌの気力が持たず、大変なことになる恐れがあるので、普段は俺が管理している。ってわけだ。
「海兄ってば、どんだけ準備が良いのよ」
俺の隣に立っている琴音が、若干呆れながら言ってきた。
ふふふ。この俺をなめてもらっちゃ困る。
一番注意深い男なんだぜ俺は。
ふふふ。ふふふふふ。
「海兄ぃ、そんな気持ち悪い顔してないで、やる事さっさと終わらせちゃおうよ」
おい。気持ち悪くて悪かったな。
てか琴音さっきから元気がないな。いったいどうした?
俺が心配そうに琴音を見ていると、それに気づいたのか、琴音が言った。
「ほら、私、人の多い所とか基本苦手だから」
「人見知りだからか?」
「それもあるけど……なんかね。疲れるんだよ」
琴音、この若さにして、精神はとっくに年老いてやがる。
てか、ユキまで見当たらん。どこいった。
「『海先輩に迷惑かけるなんて。眼鏡先輩、見つけてとっちめてやりますです!』だってさ」
ユキの口真似をして、俺の疑問を解いてくれた琴音。しかも妙に似ている。
つーかさ。その行動が迷惑なんだよね。
せめてどこ行くとか告げてけっつうのに。
まぁ、子供じゃないしな。大丈夫か。……大丈夫だよな。
「先にもう、すませちゃっていいってさ」
そうか。皆で来た意味がないような気もするが、良しとしよう。
「じゃあ、やる事ちゃっちゃと済ませて、皆を待つ事にしよう」
「賛成!」
うお、急に元気になりよったわこいつ。
そんなわけで、俺は琴音と一緒に人ごみの中へと歩きだした――――
特にこれから変わった事もないので、久しぶりに秋へバトンを渡すとしよう。
語りが秋になっても、どうかそのまま、優しく見守ってあげて欲しい。
え? そんな適当でいいのかって? ふふふ。いーのいーの。
どーせ特別編だし、普段出来ない様な事も簡単に成し遂げてしまうのだ。
てな訳で、語りチェンジ。秋、よろしく!――――――
「シュウ!みるんヨ!!ツルツルがいっぱい!!」
神社の右奥へ進むと、入口付近でもあった地蔵が五体綺麗に並んでいた。
この場所が結構な隅だったがために、周りに人は少ない。
そしてお地蔵さまは、一番でかいので、全長1メートル近くある。
右から背の順で。まるでマトリョーシカ人形のようだ。
地蔵の足元には、ジュースの空き缶がお供えされている。
誰かがふざけてお供えしたに違いない。
……不気味だな。
罰が当たったらどうするんだよ。てか、なぜこんな所に地蔵が五体も。
昔、この神社で何かあったのか? ……怖。
「シュウ!ほら!ツルツル家族!」
エメリィーヌは陽気に、一番大きいお地蔵さまの頭を、懸命になで続けている。
海の奴、ちゃんとエメリィーヌの世話してるのかよ。
こんな事させて、もしなんかあったりしてからじゃ遅いんだぞ。
ここは、兄貴経験が豊富なこの俺が、キッチリとエメリィーヌに教え込まなければなるまい。
俺は一歩踏み出し、エメリィーヌに真剣な表情で伝えた。
「お地蔵様に失礼なことするなよぉ……!夜中に化けて出てきたりするだろぉ……!」
「……そんな遠くで怯えながら囁かれても困るんヨ」
遠くとは失礼な。俺とエメリィーヌまでの距離は、約3メートルほどだ。
「し、しょうがないだろ!ほら、今首が動いた気がする!!」
ひぃ!!目が怖い!!不気味だ。不気味すぎる。
「首なんて動いてないんヨ。しかもまだ明るいんヨ?」
エメリィーヌ。よくそんなものに近づけるじゃないか。
俺は無理。自慢じゃないが、俺はかなり怖がりだ!
チキンでも何でも言うがいい。怖いもんは怖いんだ。もう体が拒絶反応起こしてるんだ。
明るかろうがそうで無かろうが、夜中に化けて出られでもしたらたまらん。
「ツルツルー♪」
だからやめろエメリィーヌ!!
あぁ、地蔵様の頭の上に乗っちゃったよ!怒る。絶対怒るよ。地蔵さまのたたりにあうよ!
てかなぜ片足で立ちあがる!!バランス凄いなエメリィーヌ!!まるで白鳥の湖を踊っているバレリーナのようだ!
いや、ここは妖精と言った方がいいかもしれない。
……妖精じゃない、妖精なら地蔵様の頭の上で踊りはしない!!
「アルプス一万尺~♪」
歌いだしたー!!!
つーか何で童謡知ってんだよこの宇宙人!!
「坊主の上で~♪」
替え歌かよ!!
てか坊主の上じゃない!!地蔵の頭の上だ!!
「アルペン踊りを さぁ踊りましょヘイッ♪」
ヘイッ♪じゃねぇだろ!!踊るなー!!
地蔵の頭の上で踊るんじゃない!!お地蔵さまの上だけはやめてくれぇ!!
いや、坊主の上でもダメだけども。
つーか、本家は小槍の上だろ。小槍の上で踊るはずだ。……危ないな。
よい子のみんなは、小槍の上で踊らないようにしようね!!子ヤギじゃないよ!こよりでもないよ!!
間違って覚えていた方。恥ずかしい思いをする前に覚えておこう!!
余談だけど、アルプス一万尺は歌が29番まであるらしいね。
って、いつまで踊ってるんだエメリィーヌ!直ちに降りろー!!
そんな時だった。
エメリィーヌが乗っている一番背の高い地蔵が、エメリィーヌの重さで傾き始める。
「あぶねっ!!」
俺はすぐにエメリィーヌに駆け寄り、エメリィーヌが転げ落ちる前に抱き抱える。
そのあとすぐに……地蔵様が……ガンッ、ガンッ、ゴツンッ、ゴンッ、ガツンッ。
ドミノ倒しのように、リズミカルに次々と横になられる地蔵様達。
「あ、危なかったんヨ……シュウ、ありがとうなんヨ」
「楽しいのは分かるけど、浮かれ過ぎだぞ……って、お地蔵様がぁ!!」
俺が助けなければ、今頃エメリィーヌは地蔵の下敷きだ。
地蔵さまはミニサイズといえど、結構な重さがある。頭でも打てば、大怪我になる所だった。
そんな事よりも、地蔵様がお倒れなすってしまった。
やってしまった。これはまずい。
「ど、どうしよう!!……って、ん?」
五人中三人目の地蔵、つまり、中央のお地蔵様を見てみると、なんか顔面が緑色に染まっている。
その緑色の何かは、地蔵の顔から地面をたどり……俺の足元の……空き缶に!
ま、まさか。
俺はそっと足をどけてみる。
するとそこには、『森林伐採青汁』と書かれた、さっきお供えしてあった空き缶。
どうやらまだ中身が残っていたようだ。
結構な量が残っていたようで、地蔵の顔にぶちまけられたそれは、雫となって滴り落ちている。
俺のお気に入りのスニーカーも、白から緑にカラーリング済みだ。ははは。
って、どっど、どうしよう!
とりあえず顔を綺麗にしよう!!
俺はエメリィーヌを地面に下ろし、ズボンの左ポケットからハンカチを取り出す。
取り出したハンカチで、地蔵の顔を拭こうとした時に気付いた。
周りにレースがひらひらとして、四隅のうち一か所にだけ、可愛いピンク色したリボンの絵が刺繍されている。丁寧に洗われ、洗剤のいい匂いが漂っている。
そして、買ったばかりのように真っ白だ。
それが、今俺が手にしているハンカチの実態。
それはまさしく、琴音が大事に使っているハンカチだった。
なぜ、このハンカチをこの俺が?
若干パニックになった頭で記憶を遡ってみる。
えーと、今日の朝着替えて……、海の家について……琴音の忘れたかばん取りに行って……あぁ!!
そうだ、あの時、琴音のかばんからこのハンカチが落ちて……。
勝手にかばんの中身を見るのもあれだから、あとで届けようと思ってたんだった!!
それまで、ポケットに……。
って事は、右ポケットに俺のハンカチが……
俺は何とか思いだし、右ポケットを漁ってみる。すると。
「あったぁぁ!!!」
見事自分のハンカチを見つけ、地蔵様の顔を拭こうとした時だった。
……まてよ。
この青汁、前、海が買って、道路にこぼしてたよな。
で、次の日雨が降って……そうそう、その次の日見たら、まだあとが残ってたんだよな確か。
『雨の中に打たれても消えない青汁の緑って……何の成分使ってんだよあの青汁……』
とか何とか言っていた気がする。
やばい、早く拭かないと地蔵さんが一週間近く、顔色最悪な状態になっちまう!!
でも、このハンカチ……確か琴音が、去年の俺の誕生日にくれたやつなんだよなぁ。
かと言って琴音の大事にしてるハンカチを使うわけにもいかないし……。
でも、俺のハンカチも琴音からのプレゼントで大事に使ってたしなぁ……。
てか、早く拭かないと地蔵が!!
でも、拭いたら絶対シミになるよなぁ……。
いっそのこと、琴音のハンカチを!使える訳ないしなぁ。
でも、俺のもかなり大切なんだよなぁ。
地蔵か、琴音か、ハンカチか、地蔵か、琴音か、ハンカチか……。
いや、やっぱり琴音のは選択肢に入れちゃいかん。
地蔵か、ハンカチか。俺に問われているのはその二択だ。
「シュウ、何してるんヨか?」
俺が悩んでいると、エメリィーヌが不思議そうな顔で聞いてきた。
やべ、エメリィーヌの事すっかり忘れとった。
「実はさ。このハンカチ、両方とも大切なものなんだよ。シミになっちゃうからどうしようかと……」
そう告げると、エメリィーヌはしばらく考える動作をしたのち、閃いたように提案してきた。
「………まだ誰にもばれてないんヨし、逃げちゃえばいいんじゃないんヨか?」
逃げる。
そんな選択肢、頭の片隅にすら浮かばなかった。
エメリィーヌの言うとおりだ。
逃げてしまえば何の問題もない。……だけど。
「そんな事して、祟られたらどうするよ!?」
「祟りなんてある訳ないんヨ」
「ある訳ない。本当にそうだと言い切れるか?」
「言いきれる……こともないんヨね」
「だろ? 見たことないからと言って、無いと断定するのはダメだ。だって、宇宙人がいるぐらいなんだからな」
そう、エメリィーヌがいるくらいなんだ。
超能力だってあったし、きっと祟りもあるに違いない。
「……そうなんヨね。なら、早く拭かないとダメなんヨ!」
「そこなんだよ!!どうしよう……!!」
早く拭かないとダメ。
でも、今手元には大事なハンカチ二種類のみ。
地蔵を見捨てて祟りの恐怖におびえる夜を過ごすか、どちらかのハンカチを使い、一生緑色に悩み続けるか。
二つに一つ……。
「……そうだ!!」
そう、俺は閃いた。いや、見つけたと言った方が正しい。
地蔵の顔だけではなく、華麗にカラーリングの餌食となった物があと一つだけある。
……俺の右足のスニーカーだ。
見事に真緑と化し、最初の原色は見受けられないほど。
そんな中、左足のスニーカーはまったくの無傷。無事なのだ。
このままじゃ、色違いの靴をはいた曲芸師のような感じになってしまう。
つまり、この無事生き延びた左靴には悪いが、お前も緑に染め上げてやるぜぇぇ!!
俺は勢いよく左足のスニーカーを脱ぎ、地蔵の顔面に押し当て……ようとした時にまたしても問題発生。
その問題を生み出したのが、エメリィーヌの一言だ。
「色違いの靴をはいた方が、目立つんじゃないんヨか?」
「……なに…?」
その言葉で、俺は迅速に靴を履き直し、左足のスニーカーを選択肢から外した。
これで振り出しだ。
もう時間が無い。乾ききってしまう。
そんななか、俺は自問自答を繰り返す。
……いいのか俺。
自分の欲望の為だけに諦めていいのか?
例え目立てても、その時俺は満足できるのか?
いい訳がない。……でもなぁ?
おしいよな。せっかくのチャンスだもんな。
もしかしたらお地蔵様がくれたチャンスかもしれないもんな。
やっぱり靴は無しだ。
「シュウ、早くしないと乾いて来ちゃってるんヨ!!」
エメリィーヌが隣で急かしたてて来る。
地蔵、ハンカチ、靴……地蔵、ハンカチ、靴……地蔵……ハンカチ……靴……あぁ!!!
頭の中で、地蔵とハンカチと靴がグルグルと渦巻き、徐々に加速してミックスされる。
で、真の姿となって現れる。
地蔵の首にはハンカチ。そして色違いのスニーカーを履いて、目を光らせながら俺に迫ってくる。
来るな来るな!!夢にまで見そうだ!!
くそっ、早くしなくちゃ……どうする、どうする……。
俺は必死に考えた。だが、ハンカチスニーカーのお地蔵様がニヤニヤと薄気味悪い笑みを浮かべて迫ってくる。
……あぁ、もうダメだ!!来ないで!!ごめんなさい!!すぐ拭くからぁぁ!!
「あぁぁぁ!!!!うおぉぉぉ!!!」
「し、シュウ!?」
迫りくる地蔵様に耐えかねた俺は、両の手のハンカチをポケットにしまい、そのまま両手で顔色最悪地蔵の顔面を撫でまわした。
「拭くのが無けりゃ、己で清めるのみさぁぁ!!!」
そりゃもうやけくそで地蔵の顔を撫でまわす俺。
俺の両の手のひらが、みるみるうちに変色して行く。
「うりゃぁぁぁ!!」
撫でまくる。
撫でまくること早5分。
「ぜぇ……ぜぇ……」
「シュウ……余計に広がってしまってるんヨ」
「分かってる……そんな事は分かっている」
手のひらだと、拭くというより塗り広げる状態になった。なってしもうた。
まるでコケが生えたような状態のお地蔵さま。正直、最初よりも最悪な状態である。
くそ……くそ……。
「こなくそぉぉ!!!!」
俺はその現実に耐えきれず、もう何の中途もなく、琴音のくれた大事な。とても大切だったはずのハンカチを取りだす。
で。
「ぬかみそぉぉ!!!!」
意味の分からない雄たけびと共に、地蔵の顔面に擦り付けた。
そんな時。
ポロッっと………地蔵様の……顔が……ギャァァァ!!!
取れた!!顔が取れおった!!顔からサッカーボールになり果ておった!!!
終わった。これは終わった。もうだめだ……。
地面に両手両膝を突き、思いっきり落ち込む俺。
そんな時、ある人物と出会った。
「エメルじゃないか!こんな所でどうかしたとね?」
「あ、キョウヘイ」
俺がゆっくりと顔をあげ、声のした方に振り向くと、そこには、序盤でいなくなったはずの恭平の姿。
難しい顔をしながら、ノートパソコンで何かをしている途中だったようだ。
「恭平!お前いい所に来た!!」
これはチャンス。
ラッキーとしか言いようがない。
説明しよう!
恭平は色々な珍道具を持っているのだ!
「なんだ。竹田兄か」
俺の顔を見るなり、これ以上ないくらいの分かりやすさでガッカリしている恭平。
竹田兄だよ。なんか文句あるか。
「で、僕はどうやら都合の悪い所に来てしまったらしい。さらば!」
そう呟いた途端、オタクとは思えぬ瞬発力でかけだしていこうとする恭平。
俺は慌てて引きとめる。
「琴音の兄貴の頼みなんだぞ!!」
「ハッハッハ。僕は兄貴には興味が無い!!さらば!!」
ちっ、しぶとい。
こうなったらあの手しかない。持ち出すんだ。わが妹の名前を!
「頼む恭平!琴音のためなんだ!!」
俺は恭平に告げた。
すると恭平は、その歩みを止め、俺に向きなおる。
こ、効果は抜群か!?
だが。
「ふふふ。僕が琴音ちゃんの頼みなら動くとでも思ったのかい?」
恭平は険しい表情で、一歩。また一歩俺に近づいてくる。
「そういうズルイ考えを持っている以上、僕は絶対に協力はしないと言えるだろう」
嘘つけよ!正直に話したところで、走って逃げて行くだけだろ!
「だから、竹田兄には悪いが……」
恭平がとうとう俺の目の前までやってきた。そして。
「たとえ、琴音ちゃんの頼み……琴音ちゃんの……フッ。用件はなんだ?」
「聞いてくれるのかよ!!」
「どうやら僕は、気が変わったようだ。なにせ、琴音ちゃんの頼み……フフッ。琴音ちゃんの……ふふ。むふふ」
思いっきり効果あった。抜群どころじゃない。
効果超絶大じゃねーか!
しょうがない、琴音と恭平には悪いけど、祟りに会うよりはましだ!
「で、どんなことなんだい? その、琴音ちゃんの頼み……ふふっ。琴音ちゃ……好きとかいきなり言われても我輩困るぞよ……ふふ」
ちょ!俺の妹でなんてことを妄想してるんだ恭平!!
琴音……ごめんなさい!!俺のために、今だけ妄想の餌食となってください!!
「キョウヘイ、実は、かくかくしかじかなんヨ」
エメリィーヌが、手短に恭平に話をしている。
うーん。小説って便利。一度言ってみたかった。
「なるほど。それで僕に直してほしいと……」
「そうなんだよ。だからこの通り!お願いします!」
俺は両手を合わせ、恭平に心からお願い申し上げた。
そして。
「……断る!」
なんで!?
今絶対に断らぬモードだったじゃん!!
「だってぇ、琴音ちゃん全然カンケー無いって感じだしぃー。てか、カラオケ行かねー?」
「行かねぇよ!!なにその変なギャル口調!!渋谷の女子高生みたいなその口調はなんだよ!?」
「なんかツッコミが爽快だったから、嫌々だが渋々、適当に了承しよう」
なんだそれ。
凄い嫌味じゃないか。嫌々で渋々で適当って、絶対やる気ないじゃん。
「琴音ちゃんのために竹田兄を殺る気力ならいつでも出せるのだが」
「恐っ!!やめてください!出さないでください!!」
「冗談だしぃー。マジチョーウケルんですけどぉー」
「その喋り方もやめてください!!」
ムカつくから!
「早くするんヨ……」
エメリィーヌが呆れている事に気付いた恭平は。
「ごめんねエメル。コイツがしつこくて」
そう言いながら俺を指差す恭平。
コイツとか言うなよ。
「じゃ、ボチボチやるかね」
そう言いながら、どこから取り出したのか分からない、大型の黒いバッグを地面に置き、ゴソゴソとあさり始める。
数十秒後。
「お、これなんか結構いいね」
そう言って取り出したのは、少し短いマフラーだ。
「なんだこれ?」
マフラーでどうやって直すんだ?
俺が不思議がっていた時、恭平のある言葉のある部分明けをピンポイントに思い浮かべてしまった。
『竹田兄を殺る気力』
まさか、これで俺の首を……。いやぁぁ!!!
「ごめんなさい!!もうしません!!命ばかりはお助けー!!」
「竹田兄。土下座するのは琴音ちゃんを守る時だけにしなさい」
「なんで急に土下座しだしんヨか……理解に苦しむんヨ」
……へ?
俺を絞殺するためじゃないの?
「なら、そのマフラーは……?」
「これか? その名も『これであなたもカモフラージュ!カメレオンシリーズ(マフラーver)』だ」
「意味が分からないんヨ……」
「エメル、よく見てておくんなましぃー」
そう言いながら地蔵達をすべて立てる恭平。オタクのくせに力あるな。
そして、真ん中の地蔵の頭を持ち、頭を無くした地蔵様の体に乗せる。
「ここからマフラーの出番!これをこの地蔵の首に巻きましてー……」
マフラーで地蔵の首をグルグル巻きに。
「そして、エメル。ここのボタンを押してみ?」
「ここなんヨね」
マフラーの端に、スイッチがついていた。
それを、エメリィーヌが押した瞬間。
「……ま、マフラーが消えた」
首に巻かれたマフラーは、驚く事に一瞬にして消え去ったのだ。
「消えたわけじゃない。同化したのだ」
は? 同化した?
恭平の頭どうかしてるんじゃないのか?
「ほら、カメレオンマフラーだから。カモフラージュだから」
「あー。なるほどー」
恭平の説明によると、マフラーが変色し地蔵の質感をだし、目立たなくしたらしい。
で、マフラーには粘着成分があるから10年は取れないらしい。
まぁ、なんでもいいや。
とにかく。
「恭平!ありがとう!」
これで、地蔵問題はすべて解決ってわけかぁ。
「でも、顔の緑が落ちてないんヨ」
……そうだったぁぁぁ!!!!
そうだよ、首は治ったけど顔が治ってないよ!!どうしよう!!
「そんな時にはこれ。『カメレオンシリーズ(ハンカチver)』。これを地蔵の顔にくっつけて、ボタンを押すと……あら不思議、治りました」
マフラーと同じ原理で地蔵完全復活。
これで肩の荷が下りたぜ。…………って、俺の両手と俺のハンカチ……。
緑に染め上げられたままじゃん。
「じゃあ、みんなのとこに戻るんヨ!」
「行こうか。エメル」
「待った恭平!俺のこの両手とハンカチを」
「断る」
そ、即答ですか……。
まぁ、しょうがない。
そのうち落ちるんだ。気にしない事に決めた!!
「じゃあ、みんなのとこに戻るか」
「それさっきウチが言ったんヨ」
「竹田兄。パクリ乙」
「ヌガァーー!!」
―――――そんなこんなで、海達の所に戻った。
「あ、眼鏡先輩!!どこ行ってたんですか!!」
「竹田兄と今後の琴音ちゃんについて語り合っていたのだよ」
「語り合ってねーよ!!」
「カイー!楽しかったんヨ!!」
「そうかそうか。それは良かったな。本当によかった。迷子になって無くてよかった」
「俺がついてるのに迷子になる訳ないだろ」
「なる」
「うん。秋兄ぃは迷子になるね。絶対になるよ」
「えぇー。琴音までそんな事を……」
「それより、初詣してこようよ」
「あれ、琴音っち達はしてこなかったんですか?」
「うん!皆と一緒にした方がいいと思って!!」
「嘘つくな。『やっぱり面倒だから皆が来てからでいいやぁ。』って言ってたのだれだよ」
「秋兄ぃ」
「俺かよ!!」
「あぁ、そうだった。秋だったな」
「海まで!? なんでやねん!!」
「秋先輩なんて事を」
「いやいやいや、今戻ってきたばかりだから!!」
「そうなんヨ!シュウはずっとウチと一緒にいたはずなんヨ!!」
「いた『はず』って何だよ!!」
「琴音ちゃん!そろそろ付き合って」
「お断りします」
「ほら、そろそろ行くぞ。……つーか、秋。お前汚いな。まぁ、いいや」
「うん。秋兄ぃ靴も緑だね。まぁいいけど」
「え、何があったか聞けよ!!」
「秋先輩、なにがあったんです?」
「そりゃまぁ、いろいろと」
「めんどうな人ですね」
「えぇー……」
「ほら行くぞ」
「分かったんヨ!」
そんなこんなで、無事初詣も終わったわけだ。
ちなみに、秋に変わって、今は俺、海が話しております。
じゃ、あけましておめでとう!
お正月特別編!!(後編) 完
~おまけ~
海「皆は神様に何を願ったんだ?」
恭「僕は『全少女の平和』を願った」
秋「恭平がいる時点でそれは無理だろ」
琴「私は『今年一年、何事もなく平和に暮らせるように』だね」
秋「平和でよろしい」
雪「ユキは『うーみん先輩と今年一年でもっと仲良くなれるように』と願いましたです」
海「意外と嬉しいからよろしい」
秋「海はどうなんだよ?」
海「『目指せ友達100人!』ってか?」
秋「子供か!」
海「ならお前は?」
秋「『今年こそ目立ちたい』って」
琴「なんとなく分かってた」
海「エメリィーヌは?」
エ「……そんな事より、初詣って何なんヨ?」