表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/12

俺日:お正月特別編!(前編)~明けましてオメガ暴走~

お正月特別編です。

風邪引いていて投稿が遅れました。

前後編なので、後編は一月中には投稿したいと思います。

とうとうこの日がやってきた。


クリスマスのすぐあとにやってくるそれは、俺の金銭面において大きい打撃を与える。


そう、正月だ。


1月1日。通称:元旦。


もう元旦の旦の字がお茶にしか見えなくなってしまっているやつ。


こんなもの読んでないでPCの前からすぐに離れることをお勧めする。

携帯電話で見ている奴は、そんな事してないで電話しろ。


電話を携帯するから携帯電話なのだ。それじゃ、携帯ネットだ。即改名すべきだ。


って、俺は何を一人で呟いているんだ。


これが噂の正月ボケか。


……話を戻そう。


まず初見の方々のため、簡単な人物関係をお話しておかなくてはなるまい。


まずは俺、山空(やまぞら) (かい)は、前まで一人暮らしだった、高校二年生だ。


両親は仕事の都合で二人とも海外。


で、一人暮らしだったってのは、前までは一人暮らしだったのだが、現在は違うということ。


そう、我が家に居候が約二名いる。


その居候二人と、俺の昔からの親友とその妹。あとは……変な奴が一人。


そして自分を含めた、計、6名が、この物語における主要人物たちだ。


そんなわけで、お正月なり。



俺日:お正月特別編!!(前編)

~明けましてオメガ暴走~



「うっ!……完全なる寝不足!!」


正月。


山空家の朝は早い。と、言いたいところだが。


現在時刻、朝の11時。午前11時だ。


昨夜、年替わりのカウントダウン見てたが為、いつもより遅い起床。


俺はゆっくりと身体を起こす。


「……はぁ」


体が重い。


若干クラクラする。


やっぱり夜更かしはするもんじゃねぇな。と、心からそう思った。


若干ダルいが、そろそろ起きないさすがにヤバい。


夜眠れなくなるし、今日は色々と予定もある。


って、俺はいつから規則正しい青年になったのだろうか。


昔は全然平気だったのだが……てか、今よりももっと酷かった。


平気で寝坊はするし、約束はすっぽかすし、朝食なんか食べたことなどなかった。


だが最近の俺ときたら。


目覚まし時計の音と共にキッチリ起床し、朝食も食べ、約束の時間もきっちり守る。


今はこれが普通の生活になっているが、前の俺からは考えられねぇよな。


慣れって怖い。


だから夜更かしや、昼頃まで寝るなんて久しぶりだ。


俺はゆっくりと自室からでて、一階へと降りる。


途中、洗面所により、蛇口を開け、寝ぼけた顔に冷たい刺激を送り込む。


いやぁー!スッキリだわ。


って、こんな優雅に優雅なひと時を実感している場合ではない。


今日は色々と忙しいんだった。


顔を洗った俺はリビングへ。


そこには、いつもの如く居候二人にこたつを占領されていた。


「あ、カイ遅いんヨ!出掛けるんじゃなかったんヨか!!早く準備するんヨ!!」


「わりぃわりぃ。でも、まだ出かける時間じゃないし、みんなだって集まってないだろ」


「そんなことどうでもいいんヨ!!」


こたつに入って横になり、漫画を読みながらポテトチップスを食いあさり、誰がどう見ても一番のんびりしてそうな奴が、この俺を急かしたてる。こいつが居候その1。


軽く紹介しとくと、信じられないかもしれないが宇宙人なわけよ。


ある日突然現れて、勢いで居候始めたんだ。


まぁ宇宙人と言っても、普段はただの小生意気な小娘だがな。


ちなみに今日は、冒頭で紹介した親友、その妹、変人たちと一緒に騒ぐ予定。


初詣行ったり、正月らしい遊びで盛り上がったり、正月らしい料理を食い漁ったり。


クリスマスの時はこの居候小娘にプレゼント買って、夕食を豪華ディナーにして、金がほぼなくなったわけだが。


興奮冷め止まぬうちから正月になり、お年玉、豪華おせちなどで金を失う始末。


さらには、『俺ももうお年玉をあげる側になったのか……』と、心の傷の貯金ばかりがたまっていく。


それが今日。


だがしかし、そんな暗い気持も正午まで!!12時過ぎるとともにブルーな気持ちをおさらばし、新たな年の幕開けを祝おうじゃないか。


だから11時59分59秒99まではブルーでいさせてください。


なぜなら、みんなが来るのは12時だから。

待ち合わせはもちろん俺の家。


なんか流れるように勝手に決まった。俺はまだ了承してないのだが……奴らが来ると言ったら絶対に来るので準備をしておくのだ。


「カイ!何ボーっとロボットになってるんヨか!」


一応言っておこう。

ロボットになっているつもりはない。


「なんだよエメリィーヌ。お前朝から機嫌が悪いな」


「もう昼になるんヨ!朝ご飯食べてなくて死にそうなんヨこっちは!!」


凄い形相でキレるエメリィーヌ。


確かに、俺は朝は寝ていたので作ってない。

それは本当に悪いことをしたと、いつもならすぐに反省し謝る所だ。


だがな。

今日は違うぞ。


だって、テーブルの上には大量のみかんの皮とお菓子の袋、ちなみに食べかすがとても大量に散乱しているからだ。


もうそんなに食えば腹いっぱいになるだろうに。てかなれよ。


「カイ!!何してるんヨか全く!!」


なんだよ。

居候の分際で偉そうじゃねぇか。


「エメリィーヌお前、口が悪いぞ。仮にも女の子なんだからもうちょっとおしとやかになりなさい」


一応寝坊した俺も悪いので、エメリィーヌに優しく注意してみる。


俺って優しい兄貴になれると思う。


だがしかしエメリィーヌは。


「うるさいんヨ」


ムカッ。


「お前調子に乗ってんじゃねぇぞ。いい加減にやめねぇと家から追い出すぞこの居候!!」


「も、もしそうなってもシュウの所に行くからいいんヨ!!」


エメリィーヌの顔からは若干焦りが見て取れる。


強がりやがって!


「なら今すぐ出て……行ったら許さんぞ。外は危ないんだ」


つい言ってはいけない言葉を言いそうになり、俺はあと一歩のところで踏みとどまる。


エメリィーヌはまだ道なんてよく知らないからな。

事故にでもあったらシャレにならん。


いやー、やっぱいい兄貴になるな、俺。


自分の心の広さを実感した瞬間だった。


「か、カイがそこまで言うならここにいてあげるんヨ」


俺はまだそんなに言ってない。

本当は出て行きたくないもんだから、すぐに賛成しやがって。


なんだかんだ言ってまだまだ子供だな。


「あ、そうだ山空。きみにちょっと頼みたい事があるのだが……」


「ん? なんだ?」


さっきまでの俺とエメリィーヌの言い合いの中、ずっと無言でテレビを見ていた居候その2。


そいつが突然、キリッとした表情で何か俺に頼みたい事があるらしいことを言ってきた。


こいつが俺に頼みごと? いったい何なんだ。


「混沌の夜に光射す時、緑色の小さな精霊に我の生命捧げたし。我空腹。何かを捧げたもれ」


「……はいはい」


腹が減ったことを無駄に高いクオリティで無駄にカッコよく告げたこいつは、居候その2。


本名:鳴沢(なるさわ) 恭平(きょうへい)


俺と同じ高校に通う……てか、同じクラスの高校二年。


無駄なイケメン。美男子だが、そいつの本性は変態。


中学生までの女の子(少女)にはとても優しくするが、時折興奮しすぎて暴走する。


あとは四角い黒ぶち眼鏡で、少女と同じくらい二次元大好きのオタク。


思いっきり痛い奴だ。あとは……そうだな。銀髪だ。


あと発明が趣味で未来のネコ型ロボットもビックリの珍道具を持ち出したりする。


紹介終了。

あ、そうそう。言い忘れていたが。

オタクでメガネなことから、俺はこいつのことをオメガと呼んでいる。


「説明ごくろう!じゃあ、早速昼食をいただこうか」


……偉そうだなおい。


「まぁ、いいや。すぐ作るから待ってろよ」


「たまご焼きが食べたいんヨ!」


急にご機嫌なエメリィーヌ。

さっきまでイラついてたんじゃないのかよ。


「わかったわかった。すぐ作る」


「ありがとうなんヨ!!」


――まぁ、そんなわけで、まだ何も始まっていないというのに、こんなにここで時間を使っていいのだろうか。

これからいろいろあるのに。


てな訳で、約束の時間までダイジェストでどうぞ。


飯を作った。食った。そのあと準備した。約束のお時間。


ちなみにおせち料理ね。あれは皆が集まってから適当に食う、つもり。

まぁ、たんに忘れてただけだが。そんなところだ。


一応、みんなが集まったら、初詣に行く予定だ。


「カイー!見るんヨー!」


エメリィーヌの機嫌はすっかり良くなり、今じゃ無邪気な子供だ。


「……何ニヤニヤしてるんヨか、カイはアホなんよか?」


………無邪気な子供だ。


「アホとは失礼な。……てか、なんだ?」


「ほら、見るんヨ!どうなんヨか?」


今の格好を、嬉しそうに俺に見せつけて来る。


いやぁー、振袖って良いねぇー。


そう、エメリィーヌは薄緑色の振袖を着ているのだ。


俺は最初、振袖なんて今さら着るやついねぇよ。と思っていたが、オメガがそりゃもうしつこくて。


『このアンポンタン!正月は振袖!夏祭りは浴衣!!風呂上がりはバスタオル一枚(バスローブでも可)と、この現代社会において義務付けられているのだ!!』


と、熱く語られた。変態丸出しある。


てか、そんな変な義務があるわけ無かろうに。現代社会なめんなよ。


だがまぁ、結局は俺が折れてしまったわけなんだがね。


ちなみに、エメリィーヌの振袖はオメガが用意した。

なんでそんなもんがオメガのかばんから簡単に出て来るんだよ。


まぁ、そんなわけで、エメリィーヌは今、振袖姿だ。


「カイ!!聞いてるんヨか!?」


「あ、あぁ、ごめんごめん。なんだって?」


「だから、これどうなんヨかなって」


そう呟くと、振袖を再度俺に見せつけて来る。


反対しておいてあれなんだが………やっぱり振袖は最高だ。オメガナイス!


俺はオメガに心から感謝をした。


振袖なんて古臭いと思っていたが、そんな事はない。


女の子達が身に纏うにより、その人の可愛らしさたるものすべてが引き出されている。


それがたとえ、エメリィーヌでもだ。


あのエメリィーヌでさえ、とても可愛いと思わせてくれる振袖。


やっぱりいいよな。振袖ってのは。


「なんか怪しい雰囲気を察知したんヨ……」


おい。そんなに引くことないだろうが。


分かりやすいほど引いているエメリィーヌ。


『ピーンポーン』


突如、家のチャイムが鳴りだす。


いったい誰だよ。こんな時に。


「皆が来たんじゃないんヨか?」


エメリィーヌが言った。


皆が来た?


時計を見てみると、12時15分。


確かにみんなが来てもおかしい時間帯ではない。


でも、あいつらが。


あいつ等の誰かが。


「ご丁寧にインターホンを鳴らしてくれたことがあるかぁぁぁ!!!!」


そう、結構みんな俺の家に遊びに来るのだが。


たとえば10回遊びに来たとして、その全10回は勝手に上がりこんでくる始末だ。

不法侵入だ。


そんなやつらが、インターホンを鳴らしてわざわざ来た事を俺に報告するだと!?


あり得ない。

あり得る訳がない。

あり得てたまるかってんだ。


「山空。早く行ってあげたらどうだ?」


『ピーンポーン』


「ほらカイ、外で待たされてる身にもなってあげて欲しいんヨ」


わぁ、うるさいうるさい!!


こんなにしつこくインターホン鳴らしやがって!!


「まるで誰かが来たみたいじゃねぇか!!」


「誰かが来てるんヨ」


『ピーンポーン』


くそ、やめてくれ。


琴音たちなんだろ!? みんな来たんだろ!?


だったらなぜそんなもの鳴らすんだよ!!


「それが普通だよ山空」


おかしい。おかしすぎる。


カギは開いているんだ。知り合いなら普通に上がって来るのが常識。


「山空。常識が狂っているぞ」


オメガが何か言ってるが気にならない。


もしかしたら、訪問販売とか、詐欺師とか。


借金取りかもしれない!!


「カイには取られる借金なんてないんヨが……」


その時だった。


『もう!何してるんですか先輩!!』


後方から声が聞こえ、振り返ってみると。


ガラス越しに、庭に立っている人物がいる。俺のよく知る顔が一人。


ユキだ。


エメリィーヌが窓に駆け寄り、カギを開ける。


すると、ユキが大変ご立腹の様子で上がりこんできた。


「先輩何してたんですか!5分も!!女の子を待たせるなんて最低ですよ!」


家に上がりこんでくるなり怒鳴り散らすユキ。


……うん。うんうん。うんうんうんうん。


「やっぱりお前はこうでなくちゃな!!よかったよかった!!」


「ほえ?」


この不法侵入っぷり。それでこそお前。


あんなインターホン鳴らすとか常識外れだ。


「せ、先輩……?」


ユキが困惑しているようである。


あ、紹介がまだだったな。


コイツは白河(しらかわ) (ゆき)。15歳の高校一年生だ。ちなみに、俺と同じ高校。


俺のことをうーみんとかふざけたあだ名で呼びやがる。


なんというか、ちょと変わったやつだ。どうやら俺の事が好きらしい。以上。


「って、なに勝手に不法侵入してんだよ!!」


堂々と庭から入ってきやがって。


「おい山空。それは理不尽というものですぞ」


「もう意味分からないんヨね」


「えと、あの、一応インターホン鳴らしましたですが……」


「インターホンなんか鳴らすな!ビックリするだろ!!」


「うーみん先輩が壊れてますです」


なんだと。

俺は壊れていないぞ。


「壊れているのは世界だぁ!!……あ」


「山空が騒がしいから精神安定シール(改)をはらせてもらった!」


「だ、大丈夫なんヨか……?」


「本編にあったような後遺症は改良したので大丈夫!」


「なら良いんヨが……」


…………なんだろう。

気持ちがすっきりとして、胃痛、胃もたれ、ムカつき、吐き気、などがすっかり良くなり……


「このシールにそんな効果は無いよ」


「胃薬まっしぐらじゃないですか」


さまざまな罵声がこの俺に浴びせられる。


そんな時、俺は気付いた。


「ん? ユキお前、なんかお前らしくない格好してるな」


「地味にひどいですよそれ……もっとよく見てくださいです!」


こうしてユキは、先ほどまでのエメリィーヌの用にこの俺にその姿を見せつけて来る。


淡いオレンジ色に、ちょい唐草模様の振袖。


こんな振袖があっていいのか。てかあるんだな。


いつもとは違い、とても可愛らしく、なおかつとても似合っている。


性格美人という言葉があるが……コイツの場合その逆だな。外見美人だ。


性格は残念だけどな。


……今思ったんだが、ユキってモテるだろ。見た目だけならかなり可愛いからな。


「それがまったくなんですよねぇ。てか、先輩ひどいです」


どうやらまた口に出していたようだ。


そんな時だった。


『ピーンポーン』と、また恐怖のチャイム音が響く。


「もうウチが出て来るんヨ」


エメリィーヌがただ立ちつくす俺に呆れ、一人で玄関へと走っていく。


そして、数十秒後、静かな足音と共に琴音がやってきた。エメリィーヌと話をしながらだ。


「あ、海兄ぃ……って、なんで色合わせちゃったの。ダサい」


俺を見るなり、自慢のお気に入りの服をバカにしてきやがったコイツは、竹田(たけだ) 琴音(ことね)


俺の親友の妹にして、中学一年生という若さを持つ。


俺にとっては可愛い妹のような存在だが、最近なんか怖い。


なにかあればすぐ脅してくるし、都合が悪いと力技で捩じ伏せて来る、ある意味極悪な闇の心を持つ。


その隠された心の闇を表すかのように、琴音の来ている振袖はちょい花柄の黒だ。


この腹黒め。あの頃の大人しい琴音はどこ行った。説明終了。


ちなみに俺の格好は、黒のトレーナーに黒のズボン。


さらにトレーナーには、みんなの愛する帝王ペンギン、通称:ペンペンのイラストが堂々とプリントされている。


「海兄ぃ、私の事そんな風に思ってたんだね…?」


げっ、キレてる。

また無意識に考え事を喋ってたってか。この癖早く治した方が身のためだな。


って、そんな場合では無い!!

琴音は強い。超強い。ガチの琴音が負けてる所を見た事がない。だから怖い。


「おい琴音。今日は我慢してやれ。めでたい日なんだから」


俺のことをかばってくれたのが、琴音の兄貴にして俺と同学年の竹田(たけだ) (しゅう)

コイツはもう説明なんぞいらんだろう。地味なやつ。以上。


「わかってるよ。その程度で私が怒るわけないじゃん。ムカつくだけで」


やっぱり怒ってるじゃん。めっさ怒ってるじゃん。


「琴音っち!明けましておめでとうございます!です!!」


「あ、ユキちゃん!おめでとう!その振袖可愛いね」


ユキのおかげで、琴音の気が紛れ、俺への怒りはどこかへ吹っ飛んだようだ。


てかこうなると、ここにいる女子らはみんな振袖姿になるな………振袖は時代遅れとか思ってたのって俺だけか?


ちなみに秋は、無地で灰色のフード付きトレーナーだ。地味だ。


「ありがとうです琴音っち!琴音っちも可愛いですよ!よく似合ってますです」


「ありがとユキちゃん」


二人は楽しそうにお互いを褒めあっている。


そこに、秋が近づいて言った。


「白河の振袖姿って綺麗だよなー。なんというか新鮮だし」


「あ、ありがとうございます!」


「なに? 秋兄ぃもユキちゃんを狙ってるの?」


「そうでんですか!? でも、その……ごめんなさい」


「違ぇよ!! しかもなんだ……新年早々告白してもないのにフラれた気分だぜ……」


「言葉の通り、新年早々告白してもないのにフラれたんだよ秋兄ぃ」


「誰のせいだと思ってるんだ!?」


「秋兄ぃの実力」


「ひ、ひどい……」


新年早々元気な奴らだな。

俺はもうすでに疲れてきたというのに……


「あ、そうそう。今気付いたんだけどさ」


琴音がなにかを思い出したらしく、秋に向かって話をしている。


「なんだよ?」


「私、家にかばん置いて来ちゃったみたいで……」


どうやら、忘れ物らしい。


「……で?」


「だから秋兄ぃ……ね?」


「……なんだその俺に対する期待に満ちた目は。自分で行けよ」


「ほら、誘拐とかされたら大変じゃん?」


「そうですよ。琴音っちはか弱いんですから!」


二人の会話に、ユキが乱入した。


てか、琴音がか弱い……? 何をバカなことを。


「で、でもだな」


「シュウはお兄ちゃんなんヨから我慢しないとダメなんヨ!」


エメリィーヌも参加。


「えぇー。なにその理不尽な理由」


……こんなに人がいるというのに……秋の味方が誰一人いない。……どんまい。


「ほら、みんなもこう言ってることだし!可愛い妹のお願いなんだよ?」


「うわっ、ズルい!てか、どこの世界に兄貴をパシリに使う可愛い妹がいるんだよ」


「ここにいるよ」


「パシリに使ってるのことを認めやがった!!本人の目の前で認めやがった!!」


秋、お前どこまで残念なんだよ。


「そういうわけだから、よろしくね」


「どんなわけだよ!!」


「ちょっとの間走ってくるだけじゃないですか。秋先輩」


「白河お前、俺たちの家の場所知らないくせによくそんな事が言えたな……あ、そうだ」


「言っておくんヨが、超能力で連れて行くのは嫌なんヨからね」


「えぇ!マジで!?」


秋ってばすっかり遊ばれてるな。


てか、俺に一言いってくれれば(かば)ってやるのに。


「往生際が悪いよ秋兄ぃ!男の子でしょ!」


「いや、確かにそうだろうけどもさ……ほ、ほら、そろそろ出掛ける時間だし!海に迷惑だろ。なぁ海」


秋が俺に助けを求めてきた。


しょうがねぇな。


あいつも悲惨だ。庇ってやるか………。


「俺は、こんなに可愛い妹に頼まれたら動くだろうなぁ。あ、時間の事は気にするなよ。いつでもいいから!ははは!」


「マジかよ……」


あ、間違えて琴音を庇っちまったぜ!いやぁー、ミスッた。ハッハッハ。


「くそ……海の笑顔が無性に腹立つ」


「ほら、海兄ぃもそう言ってることだし、よろしく!!」


「……わかったよ、かばん取ってくればいいんだろ。ちくしょー!!!」


最後の琴音の一言で、秋は元気よく外に飛び出して行った。


そうそう若い人は元気がなくちゃいかんのだよ。


そんな時。


「こっとねっちゃぁぁん!!!!」


カメラを片手に、突如雄たけびをあげるオメガ。


あ、さっきまで姿が見えないと思ったら……カメラを探してたのね。


凄い雄たけびと共に、まるで大砲に打ちだされた砲弾のごときスピードで琴音に飛び付くオメガ。


一方琴音は、待ってましたと言わんばかりの顔でオメガの方に振り返った。


隙だらけのように見えて隙がない。琴音、恐るべし。


「て、うわぁっ!?」


と、思っていたのだが、今現在の琴音の格好は、普段着なれていない振袖姿。


勢いよく振り向きすぎたがために、どこかしらでなにかしらが(しょう)じたらしく、バランスを崩したようだ。


ちょうどその時、変態式大型砲弾が琴音の元へ……


オメガもこのことを予期してなかったのだろう。

多分、殴られること前提で飛びこんでいるのだと思う。


だって、頭に鍋を被っているんだもの。


だが突如琴音がバランスを崩したがために、猛スピードでツッコんでいったオメガは……


ほら。よく言うじゃないか。変態は急には止まれないと。


「うわっ!?」

「なぬっ!?」


二人して衝突。

いや、オメガはまだいい。


琴音なんか、オメガの被っている鍋が顔面に直撃。


倒れた時にオメガの下敷きに。


つまり、『変態に押し倒される少女』という、なんとも可哀そうな絵の完成だ。


まぁ、実際は、押し倒されるというよりクラッシュした感じだし、琴音は鼻を打ったらしく、鼻を押さえてちょっと涙目だし。俺んちのカーペットの上だし。


皆が想像するような、ハッピーなシチュエーションとは程遠い感じだ。


琴音からしてみれば、それでも最悪だとは思うけどな。


「こ、琴音ちゃん大丈夫!?」


オメガはすぐにその場から起き上がり、変態とは思えぬ優しい言葉を琴音に投げかける。


「っつ……っ……!!」


あまりの痛さに言葉がでないようだ。


確かに、『スッコーンッ』っていい音が鳴ってたからな。


「琴音っち……悲惨です」


必死に鼻を押さえて痛みに耐える琴音に、ユキが同情の言葉を呟く。


「どっちもどっちなんヨ……」


エメリィーヌは呆れ果てているようだ。


てか、琴音大丈夫かよ。


こんな日に鼻骨折とかしてないよな?


とりあえず、琴音の痛みが引くまで見守り続ける俺達。


琴音の隣に座って、心配そうに見つめる鍋を被った変態―もといオメガ。


しばらく見ていると、ようやく痛みが引いたようで、ゆっくりと琴音が体を起こし始める。


……が、しかし。


「むっ!? 琴音ちゃん!!止まるんだ!!そのまま!!」


「へっ?」


突如オメガが大声をあげる。


そのせいで、琴音が中途半端な角度で身動きが取れなくなってしまった。


あの体勢はつらい。


腹筋の最中の起き上がる直前のような体勢だ。


「きょ、恭兄ぃ、どうしたの……?」


琴音すげぇな。

よくあの体勢で耐えられるよ。


ちょっと身体が震えてきたな。もうそろそろ限界か?


そして、オメガは。


「琴音ちゃん、ゆっくり!そのままゆっくり横になって!!」


「へ?」


「いいから早く!!」


「う、うん……」


オメガの迫力に琴音が圧倒されて、変態の言うがままに再び横になる琴音。


いったいなんなんだ。


「横になったら、しばらくそのままで」


「何なの……?」


「えっと、ここで、僕が琴音ちゃんにまたがる形となって……」


おいおいおいおい。


オメガの変態的行動で、正真正銘の押し倒す形となった。


「へ!? あ、え!? 恭兄ぃ!ちょっと!?」


「琴音ちゃん!静かにして!!動かないで!!」


「はぁ!? え、ちょっと!!腕押さえないでよ!!」


さすがの琴音も、男の力、それも上から押さえつけられたとなっちゃ、抵抗出来ないようだ。


てか、なにしてんのお前!?


「眼鏡先輩……!?」


ユキは唖然。

オメガの突然の行動に、変態慣れしていないユキは言葉を無くす。


「キョウヘイ……何してるんヨか……」


エメリィーヌはとても呆れている。


つーかエメリィーヌ慣れ過ぎだろ。……まぁ、オメガと一番つるんでるのはエメリィーヌだしな。


その時、オメガが突如叫ぶ。


「山空!写真写真!!」


「………は?」


突然何を言い出すんだよこの男は。


「いやぁ、せっかく初めて琴音ちゃんとあんなに密着出来たんだから。記念にツーショットを。と思ってね」


「……その体勢の理由は……?」


「出来るだけさっきの出来事を再現したんだよ。どうせならその体勢で撮りたいじゃん?」


いや、再現出来てないぞ。


そんな今にも襲いかかりそうな体勢じゃなかった。


92%ぐらいお前の妄想だろ。


「やめろー!放して!!変態!!!」


琴音が暴れている。


「ほら、山空。そこのカメラで一枚!」


「どけー!!……死ね……アホー!!!」


……気のせいだろうか。


今、琴音が恐ろしい言葉を、ぼそっと恐ろしいトーンで呟いたような……。


「山空早く!!……あ、カメラの使い方ね。そこの上についているシャッターを…あ、シャッターって分かる? ボタンだよ。あ、ボタンって分かる?」


ぶっ飛ばすぞお前。


ボタンが分からないって俺はどこの田舎者だよ。なめるなボケ。


「海兄ぃ!!そんなことしたら絶命だよ!!」


ぜぜぜ、絶命!? 殺されんの俺!?


普通絶交辺りだろ。


つーか琴音。暴れるなよ。振袖が乱れてきてるぞ。


「あ、それは大丈夫。下に服着てるから」


「なぬっ!?」


なんだよ。また俺喋ってたのか。


てかオメガ。『なぬっ!?』って何だよ。なにを期待してたんだよお前。


「そんな事より山空!!早く写真をぐおっ!?」


「そこまでだ恭平。これ以上妹に変な事してみろ。ゆるさねぇぞ」


『ゴツンッ』と、オメガの頭を容赦なく、鍋もろともぶん殴った秋。


今話初登場にしては無駄にカッコいい登場だ。


「初登場じゃねぇよ!!琴音と一緒に来たろ!?」


あぁ、いたな。確かいたわ。


と、俺が納得していると、琴音はゆっくり起き上がり、乱れた振袖を直しながら……。


「……あぁ、確かに一緒だったね!」


「えぇ!? 琴音お前まで!? 嘘でしょ!?」


「すっかり忘れてたよ。それよりも、なんでもうちょっと早く助けてくれないの!?」


「そ、そんな……てか、お前が頼んだんだろ!!これ!!」


そう言いながら、琴音に何かを突きだす秋。


……かばんのようだ。肩から掛けるタイプの。


「あ、そうだったね。ありがとう」


「まったく、人に頼んでおいて忘れるなんて酷い奴だな」


あぁー、確か頼んでたな。モメてた。


てか足早いな。もう戻ってきたのかよ。


「ついうっかり。えへっ♪」


琴音は、渾身の『ドジっちゃった、えへっ』な顔をした。


「そんな顔しても許さん!!」


当然、秋は許さない。


「許してよ」


「許す」


「ケチ……って、許してくれるんだ」


「いや、許せって言ったのお前だろ」


「言ったけどさ。あっさりすぎない?」


「なら俺にどうしろと?」


そんなバカみたいな会話をしている二人に、秋に殴られてへばっていたオメガが。


「琴音ちゃんを僕にください!!」


「「お断り!!」」


「ぶべっ!?」


二人に殴られていた。





―――てなわけで、俺達はこれから出掛けるわけだが……。


それはまた、別のお話。後編で会いましょう!!


つーかやっぱり最後は殴られて終わりかよ。


まぁ、前編のオチなどどうでもいいか。


果たしておれたちは無事に初詣に行く事が出来るのか。


不安でたまらないぞ……。





お正月特別編!!(前編) 完――――後編に続く。


~おまけ~


琴「ところで海兄ぃ、そのおでこに貼ってあるのってなに?」


海「え? でこ? ……あ、これ、オメガのシールだ……」


エ「ずっと貼りつけてたんヨか……」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ