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俺日:クリスマス特別編!(前編)~クリスマスイブの夜に~

クリスマス特別編です!

前後編となっております。

やあ、俺だ。山空(やまぞら) (かい)だ。


突然だが、今の俺の現在地は、自宅のリビングのソファの上。

毛布に(くる)まりながら、尋常じゃない寒さに震えているのだ。


現在は午前7時。立派な朝だ。


だが、いつもの朝とはわけが違う。そう、特別な朝。


休日の朝だ。……という事ももちろんあるが、今日はそれだけじゃない。


そう、なんと……今日はクリスマスの前日。

つまり、クリスマスイブの朝なのだ。


今夜がクリスマスイブ。


……え?お前らの世界は八月じゃなかったのかだって?


ふふふ。大人になりなさい。

これは本編とは無関係の話だ。いわゆる特別編。


季節がごろごろ変わるのはよくある話なのだ。わかったな?


まぁ、そんなわけだ。



俺日:クリスマス特別編!!(前編)

~クリスマスイブの夜に~



こんなに寒いのに、外はまさかの日本晴れ。

雪が降るどころか、雲ひとつないこの状況。


せっかくのクリスマスなんだから、雪の一つや二つふってくれればいいものを……。

じゃないとこの寒さに苦しめられている今の俺が報われん!!


って、そんな事はどうでもいい。


「うぅ……寒いな」


そう、寒い。

俺の家には暖炉はもちろんストーブもなく、暖まる為の家電製品といえば、暖房、こたつ、そしてホットカーペット。


この三つだ。


だが、暖房は空気が悪くなる。だから俺はあまり使わないのだ。

つまり、残りはこたつとホットカーペット。


ホットカーペットはすでに使っている。

まぁ、ソファに座ってたら意味ないのだが……電源を入れたばかりで、まだただのカーペットなんだよ!!


そして、こたつ。

これも現在使用中。


……ああ。分かっている。お前らの言いたい事はすべて分かっているのだ。

矛盾してるよな? そうなんだよ。そうなんだよ!!


「寒い? カイは何を言ってるんヨか?全然寒くないんヨ」


ブチッ。流石の俺も、頭の中の何かが切れた。


「そうだよ山空。どのへんが寒いんだい?」


ブチィッ。そのうち血が噴き出してくるかもしれん。


そう、こたつは……。


「白々しいんだよお前ら!!人んちのこたつ占領(せんりょう)するんじゃねぇよ!!」


こたつは居候二人が占領してるのだ。


「なら山空も潜ればいいじゃないか」


「ざけんな!!そもそも潜るもんじゃねぇよ!!!」


そうなのだ。

肩まで入るぐらいなら、俺のこたつは余裕で平気。大きいからな。


でもな。

雪で作ったかまくらの如く、こたつの中に住み着いているとしたら話は別だ。

この俺に入る余地なし。


「何だよ山空。なら僕達はどうすればいいんだ?」


オメガがこたつの中から聞いてくる。

つまり、『俺には声しか聞こえないぜちっくしょー』状態だ。


「……あのさ。こたつから出ろとは言わねぇよ。せめて潜るのをやめろ。顔を出せ」


俺はオメガ達に優しく語りかける。

俺ってば優しいな。


だが、オメガは……


「ほれ」


そう言って、少しこたつから何かが出てきた。……って


「誰がメガネだけを出せと言ったぁ!!!顔を出せよ!!生首の如く!!!」


見事にこたつの外に放り投げられたオメガの黒ぶち眼鏡。


メガネのレンズを光らせながら、コロコロと……いや、カツンコツンと、床を跳ねながら俺の足元までやってきた。


………メガネよりもこたつ。


どうしよう。寒さのあまり、頭がおかしくなってしまったのかもしれない。

まさかこの俺が、メガネに同情する日が来るとはな。


「生首の如くって……表現が怖いんヨ……まったく」


こたつの中から、可愛らしい声が。


「うるさい!そんなことより、顔ぐらい出せよ!!」


俺はやはり、寒過ぎていかれていたのだろう。

もうコタツに入ることより、こたつから顔を出させることに全力を注いでいたのだから。


「まったく、これでいいんヨか!!」


ちょ、なんか凄いキレ始めたよコイツ。

しかもこたつから出てきたものは………まぁ、一言でいえば顔だった。


「……確かに顔だけどな。だれが紙に描いた顔を出せと言ったんだよぉぉ!!!」


そう、十秒で誰でも書けるような簡単な顔。


せめてもっと頑張って描けただろんじゃないのかよ?

眉、眉、目、目、鼻、口で直線6本で出来上がりとか。絵描き歌にすらならんぞ。


棒が6本ありました~♪チョンチョンチョンチョンチョンチョ~ン♪で終わっちまう。


「これだからわがまま将軍は」


メガネを捨てたオメガが呟いている。

もうオメガじゃねぇよコイツ。


メガネないからオタクだよ。で、変態のロリコンだよ。


「つか、なんだよその将軍。なんでも将軍にすれば解決!って考え方やめろよ」


わがまま将軍。

多分、相当わがままなのだろう。だって将軍になっちゃったくらいなのだから。


「そんな変な考え持ってないじょえ」


おい語尾。

その語尾どうツッコめばええねん。


……つーかさぁ、もういいわ。

こうなったら、俺の華麗なる口説きテクで自分からこたつを出るように仕向けてくれる!


と、意気込んで告げるはクリスマス。


「クリスマス!!」


「おい山空。急にどうしたんだじょえ?」


ちょ、だからその飲み物みたいな語尾やめろ。


「で? クリスマスがどうしたんヨかまったく……」


そして小娘。気付いてないと思ってるのか?

お前の中で『まったく』がマイブームなのかよ。正直ウザいぞ。


「いいかエメリィーヌ」


「ウチはイカじゃないんヨ……まったく」


「うるせぇよ!!つーかイカなんて言ってねぇ!!」


「山空どうした? 流行りの威張りん坊将軍じょえ?」


おまえらうぜぇ!!

威張りん坊将軍って何だよ!!暴れん坊将軍の親せきか何かかよ!!


はぁ、はぁ……いったん落ち着こう。ふぅ。


俺は落ち着きを取り戻し、静かに話し始めた。


「いいか?」


「だからイカじゃ『言わせねーよ!?』


落ち着き2秒で崩壊。


もうやだ……俺には手に負えないよ……。


「最近流行りの手に負えないしょうぐ『だから言わせねぇつってんだろ!!』


寒いことなどすっかり忘れ、その場で立ち上がると同時に毛布をこたつに叩きつける俺。


もうこうなったら、すべてを無視して話を続けてやる。


俺は若干…てかかなりメンドイので、無視しようと意気込んだのだった。


「よく聞け二人とも!実は今日、俺はある計画を企てていたのだ!!」


なるべくカッコよさげに告げた。


「ある計画?それはなんだじょえ」


「それはな、二日にわたるクリスマスパーティだ!!」


そう、実は、これを計画したのは秋。

なんか、なんとなく思いついたらしい。


秋達の両親も、許可してくれているらしいしね。


集合は午後7:00となっとります。なんとなく。

もちろん俺の家で。


まぁ、そんな所だ。


だから俺は、秋が持ち出した企画を、さも俺が提案しました風に二人に話しているのだ。


「……山空。意味がわくぁからんじょうぇ」


……どこぞのなまりだよあんた。


「まぁ、簡単に説明するとだな……」


俺は二人に趣旨を説明した。


要は、いつものメンバーで二日間盛り上がろうみたいな?


ちなみに、ユキは家族と過ごすからパスだってさ。やったね。


もちろん、一泊二日だ。


「こ、こ、こここ、ここここ、こと」


突如オメガに異変。


「おい、落ち着け」


「こ、琴音ちゃんも来るのか!?」


若干興奮状態のオメガ。

一応、来る予定だけど……。


………来るかなぁー?


もしかしたら変態が嫌で来ないかもしれないな。うん。


でも、基本的に盛り上がる事って、琴音大好きだからな。もしかしたら来るかも。


いや、でもやっぱり来ないかも。うーん。んー? うーん。


……つまり。


「お前が必要以上に琴音に構わなければ来るんじゃね?」


「ヤッホォォォ!!!」


とても上機嫌ですな。


こたつの中から、オメガの喜びの叫び声が響く。

幸せな奴だな。


「カイ、クリスマスパーティってどんな事するんヨか?」


こたつの中から聞いてくるエメリィーヌ。


「えーと、みんなで集まって、遊んだり、騒いだりとかかな」


「ゲームしたりテレビ見たりなんヨか?」


「そうそう」


「一緒に盛り上がったり?」


「そうそう」


「ご飯食べたり?」


「そうだよ」


それだけを告げると、急に無言になり始めるエメリィーヌ

そして数秒が経過し……


「どんなご飯なんヨか……?」


「そりゃ、パーティだからな。いつもよりは豪華にする予定だけど」


「……皆も食べるんヨね?」


「そうだけど?」


「……ウチの食べる分が少なくなってしまうんヨ」


おい。

飯かよ。

みんなより飯かよ。

遊びより飯の事かよ。


「安心しろ。なんたってパーティだからな。食べきれないほど買ってきてやるさ!!」


「やったーーーなんヨーーー!!!」


喜びすぎだぞあんた。

どんだけ食いしん坊やねん。……まぁ、こたつの中にいるからどのくらい喜んでるのか分からんが。


「とりあえずそんな訳だから、今から準備するぞ」


俺はこたつの中に引きこもり隊の二人に告げた。


「なんヨ!」


「うむ」


俺の言葉に元気良く返事を返してくれた二人。でもこたつから出てこないのはなぜ?


こたつの事を思い出し、さっきまで気にしてなかった寒さにより体が震えた。


このままじゃ風邪引きそうだ。


「お、おい。そろそろこたつから出てこいよ」


俺の声が震えている。

やばいなこれは。


俺が言うと、こたつがもぞもぞし始めた。

どうやら出て来てくれるようだ。


よかった。これで凍死せずに済む。


……しばらくすると、こたつの中から何かが出てきた。


おいなぜだ。


なんで俺が呟いたのかと言うと、出てきたのは一枚の紙。そこに書かれた『断る』の文字が目についた。


こいつら……。


「ふざけんじゃねぇぇ!!!」



――――――まぁ、そんなわけで、ほぼ無理やりこたつから引きずり出しました。


オメガはこたつの足に張り付きながらすすり泣き、エメリィーヌはそうでもないようだった。


オメガキモい。


そのあとはいろいろと準備をしました。


部屋を飾り付け、豪華料理(特売の唐揚げ)を大量に買い、あと適当にパーティに見えるものをかごに放り込んだ。


最初は嫌々だった二人(小娘と変態)も、今は一緒に手伝ってくれ……るはずもなく。

こたつから出た二人は嫌々どころの騒ぎではなかった。


自室に引きこもり始め、なんか知らんが軽いボイコット状態。


まぁ、自室と言っても、結局は俺の部屋になる訳だが。


そんなこんなで、ほぼ一人で準備をした今日この頃。


すっかり時間は過ぎ、気がつけばもう午後6時30分を過ぎていた。


もうそろそろみんなが到着する時間だ。


え?展開早すぎで、適当すぎる?

大人になりなさい。特別編だからこれでいいのだ。


そして、すっかりおしゃれに飾り付けられた我が家のリビング。


すっかりこたつで暖まっているオメガとエメリィーヌ。


エメリィーヌは、クリスマスツリーの飾り付けの時のみ動いただけ。


まぁ、そんな事はどうでもいい。


俺はこういうイベント行事は大切にしたいのだ。


ほら、誕生日とか夏祭りとかさ。


他にも色々あるが、すべて盛り上げるのがこの俺。ただバカ騒ぎがしたいだけかもしれない。


でもそれでいいのだ。楽しければいいのだ。


バカみたいに騒いでないと、俺はただ疲れるだけだからな。

ストレスの発散も兼ねて、これでいいのだ。問題無いのだ。


ほら、元祖天才バ○ボンに出て来るパパも言っていたじゃないか。

これでいいのだ。と。


つまりはそういうわけだ。


と、ちょうどその時だった。


「うわぁー、凄いねー!」


突然、俺の背後からここにいるはずのない少女の声が聞こえる。


つ.ま.り。


「琴音ぇ!不法侵入は犯罪だぞゴラァ!!」


後ろを振りむけば、そこには、『冬だよ!もう誰が何と言おうと冬なんだよ!!』といったような、まさしく冬の格好をした琴音が立っていた。


手袋、マフラー、ニット帽。


耳あてはしてないらしく、耳と鼻。そして頬は真っ赤だ。


手には多少大きめな荷物。


そしてかすかに、帽子に白い何かが付着している。


「あれ? 外、雪降ってんの?」


わずかに付着したそれは、『雪だよ!もう誰が何と言おうと雪なんだよ!!』な感じだった。


俺の問いに、琴音が答える。


「うん。だから歩いてきたんだよ。自転車じゃ危ないし」


外はもう真っ暗だ。

そんな夜に、琴音が歩いてきた。


オメガやオメガ部類の人間がいたならば、高確率で誘拐しているだろう。


「おい、俺もいるんだぞ」


琴音の背後霊のようにうっすらと立ちつくしていたある一人の男が、頼んでもないのに突如喋り出した。


「ちょ、背後霊じゃねーから!!実在してるから!!」


まさかのトレーナーの上にパーカーという、斬新かつ新鮮なファッションをした一人の男。

だがしかし、意外なことにとても似合っているから困る。


そんな男の名は、竹田さん。


「ちょ、おい!竹田さんはやめてくれよ!!」


「え? お前竹田さんだろ?」


「そうだけど!そうじゃないだろ!!」


……しょうがねぇな。


竹ちゃんがゴチャゴチャうるさいし……。


それに、この小説を読むのは初めての方…つまり、初見の方々のためにも、かるく紹介でもしておいてあげよう。


では改めまして、まず『まさしく冬!』の格好をしたこの少女が、皆さんおなじみ竹田(たけだ) 琴音(ことね)


とても元気な中学一年生。最近怖いよこの子。暴力的なんだよ。恐ろしや。



そしてこの存在感ない人が、琴音の兄貴にして絶賛影薄いキャラが定着中の竹田(以下略。


「ちょちょちょちょ、ちょっと待てい!!」


何だよ。


「なんか不都合でもあったか?」


「不都合あったよ!!てか、不都合しかねーよ!!」


なんだと? 不都合だらけですと?


「それは悪かったな。不都合だけしかねぇならさっさと帰りなさい」


「違う!!」


「違うならそれでいいだろ」


「い、いや、違うけど違わないんだよ!俺の名前が名前じゃない事に不都合であって、お前のもてなしに不都合が見つかったわけではないから、結果的に不都合ではないけども、お前の俺の扱いに不都合が感じられて、つまりは不都合だったわけで……あ、あれ?」


なんか良く分からない事をよく分からない感じに呟いている、亡霊のように影が薄いこの男……あ、それじゃあ亡霊に失礼か。


まぁ、とにかく。この男、理解不能なり。


「つ、つまりはだな!!その、あれだよ!ほら、そのそういう事だよ!!」


「どういう事だよ。情緒不安定かあんた」


「ちげーよ!!」


「じゃあ、精神不安定かあんた」


「ちげーって!!」


「ならば、言語不安定か?」


「意味分からねーよ!!」


「ったく、だったらお前はなんの不安定なんだよ!!」


「なんでお前は俺を不安定にさせたいんだよ!!」


「わりぃ! ちょっとなに言ってるか分かんねぇや!」


「何で分かんねーんだよぉぉぉ!!!!!」


とうとう噴火した。秋が噴火した。


そう、この男の名は、竹田(たけだ) (しゅう)。琴音の兄貴。ただそれだけ。


そんな秋の頭の上にかすかに残った雪が、秋の存在感のようにうっすらと消えていった。


「海兄ぃ、あまり秋兄ぃをからかうと壊れちゃうから」


琴音が静かに告げた。


「壊れたら新しいの買うから平気だよ」


「俺はお前らのおもちゃじゃねぇぇ!!」


「……たく、安心しろ。冗談だよ」


これ以上からかうと本気でぶっ壊れそうなので、とりあえずなだめておく。


「そうだね。竹田兄はおもちゃではなく、僕達の道具だからね」


「道具でもねぇぇ!!!」


突然オメガも参加。

そして秋をからかい続ける。


「そうか。竹田兄は道具じゃなく下僕だね」


「下僕でもねぇぇ!!」


「なら奴隷ですな」


「奴隷でもねぇぇ!!」


おい。そろそろやめたげて。

ちょっと可哀そうになってきたぞ。


だがやめないオメガ。


「なら、竹田兄はパシリで決定!!」


「なぜじゃぁぁ!!!!」


そろそろ秋がいかれる。


琴音もそう思ったのだろう。少しムスッとした表情で、オメガに言った。


「恭兄ぃ!そろそろやめなよ!!」


「琴音ちゃんの頼みでも、さすがにそれは聞けな『やめないと私だけ帰るよ!?』


「ごめんなさい」


「分かればよしっ!」


琴音の言葉を聞き、その場ですぐに土下座して謝ったオメガ。どんだけだよ。


しかし、琴音も琴音だ。

まさか力技ではなく、自らを武器に使ってくるとは。恐るべし女なり。


琴音って意外と、将来付き合ったりとかしたら、さんざん遊ぶだけ遊んで、あとは捨てるみたいな人になるかも。

貢がせてポイッ。みたいな?


……やはり恐ろしい女なり。


「ちょ、海兄ぃ、今なんか失礼なこと考えてたでしょ」


「かかか、考えてないなり!」


「動揺しすぎだよ海兄ぃ……」


また考えていたことが暴露されていたらしく、俺は驚いて語尾がおかしくなってしまった。


俺はいつもそうだ。


無意識のうちに考え事を自ら暴露している。


そして、さらに最悪なのが、喋らないように意識していると、今度は表情に表れてしまう事だ。


つまり、俺の考えは、世間様にフルタイムオープン状態。

まるで無料で入れる博物館のように、いつでもどこでも思考公開しているのだ。


これを逃れるには、この俺が感情を持たない植物人間と化すしかない。


それか、みんなに耳栓&アイマスクを常時装備してもらうとか。

表情で分からないようにセロハンテープを顔中にべたべた貼りつけて、バカみたいなツラを民衆の前にさらけ出すしかない。


もちろん、そんなこと出来るはずもなく。

つまり、諦めるしかないのだ。そうなのだ。これでいいのだ。


とあるパパさんも言っていた。これでいいのだ。と。


そんな考え事をしていた俺に、琴音はめっちゃ呆れ顔だ。やめて。


「……そんな所で話してないで、こたつに入ったらどうなんヨか……?」


そしてエメリィーヌも、呆れた声で俺たち三人に言った。


ずれた俺たちの話の流れを断ち切り、まともな方向へと持って行ってくれるのがエメリィーヌだ。


あ、ちなみに、エメリィーヌは宇宙人らしい。

見た目はとても美少女だけどな。中身はただの生意気な小娘だ。以上。エメリィーヌの紹介終了。


……言い忘れていたが、エメリィーヌもまた冬仕様。


地味な灰色のトレーナーを着て、薄緑色の若干もこもこしたズボンをはいている。暖かそうだ。

こんな地味な服装でも、オメガの手にかかればこんなにも可愛く着こなせるのだ。

まぁ、エメリィーヌだからこそだとは思うが。


そして、なぜか白いマフラーを頭に巻いている。

仕事疲れの、酔っぱらったサラリーマンが頭にネクタイを巻くかの如く。


聞く所によれば、本人 (いわ)く、強くなった気がするらしい。

子供の感性……いや、宇宙人の考えるこたぁ分からん。理解に苦しむ。


そしてこの変態。もといオメガの紹介に入ろう。


オメガは、俺が付けたあだ名。カッコよく言えばニックネームだ。

外見はとてもイケメンで、俗にいう美少年そのものだが。


綺麗な薔薇にはとげがあるというように、イケメンの姿は仮の姿。本当の姿は別にある。

このイケメンの容姿に騙されて、何人こいつの犠牲になったか分からないほど!!

コイツは全少女たちの敵なのだ!!


と、なんかゲームの魔王っぽい説明になってしまったが、それもしょうがないこと。

……え? 魔王の説明っぽくなってないって? うるせぇな。細かいこと気にするなよ。


で、続けると。

なぜなら奴は……超ド変態だからだ!!


そう、ロリコンで変態でメガネでオタクで銀髪で……あ、オメガの由来はオタクメガネからきている。

そんなオメガは、俺や秋と同じ高校二年だ。


少女達を見るとバカみたいにアホになり、バカみたいな事をアホみたいにやる。それがオメガ。

先ほどの流れで分かったと思うが、琴音もオメガの標的となっている。


そんなオメガの服装は、中央付近の大きくて赤いハートマークの中に、白字で『LOVE』と刺繍(ししゅう)されたピンク色のトレーナーを着ている。

一緒に街を歩きたくない格好ナンバー1のような格好だが、不思議と違和感もなく、とても似合っているのだから困る。


多分、この服を考案したデザイナーさんでも、ここまで綺麗に着こなしてくれるつわものが現れることなど、頭の片隅にもなかったであろう。


これが変態の底力だ。


……え? 俺の格好?

安心しろ。ただの革ジャンだ。気にするな。


「エメリィちゃん。隣座るよ?」


「別にいいんヨ」


「琴音ちゃん!駆け落ちしない?」


「する訳ないでしょ。崖から落ちろ」


そんな会話には、すっかり慣れてしまった俺達。

琴音も慣れちゃってるッポイし。慣れって怖い。


俺はみんなの前に、昼ごろ大量に買った豪華料理(特売の唐揚げ)や、その他もろもろを出す。


それを見たエメリィーヌが一言。


「うぉー!なんじゃこりゃー!」


大変興奮気味のご様子。子供は無邪気で可愛いものだ。


そして、琴音も一言。


「海兄ぃ、お皿に盛りつけて出すとか考えなかったの……?」


うん。素直でよろしい。


そうなのだ。実は、よくスーパーなどで見かけるあれ。

白のプラスチックのトレーに、特売のシールがでかく貼られているのだ。


そりゃ、雰囲気もくそもあったもんじゃないわな。俺が悪かった。


琴音に言われて初めて気付き、俺は大きめの平たい皿を持ってきた。


そして、豪快にすべての唐揚げをぶちまける。そう、皿の場外へ。別にワザとではない。ほら、あれだよ。些細なミス。


「ちょ、海!お前バカか!!何やってるんだよ!このバカ!」


秋が驚いて俺に罵声を浴びせる。素直でよろしい。


さらに、一つの皿に盛り過ぎたらしく、てっぺん付近の空揚げがこれまた見事にごろごろと場外へ。


こうして、約10個の唐揚げが地面に散らばった状態となった。……えへっ!ミスった☆


「……って、そんなくだらない事している場合じゃねぇ!!」


俺は自分で自分にツッコミを入れるとほぼ同時に、豪快に『3秒ルール!!』と叫びながら、皿の上の唐揚げらにハブられた唐揚げ達を素早く拾い上げる。安心しろ。箸でやっている。


皿を台所へ取りに行き、その皿片手に落ちた唐揚げ達を一つずつ箸で救出する。

焦っていたためか、何個ほどか取るのに苦戦したが、何とか終了。


救出の終わった唐揚げ達をテーブルに並べて、この俺の『30秒間の3秒ルール』は幕を閉じた。


「ふぅー。あぶねぇ!セーフ!!!」

挿絵(By みてみん)


「アウトだよっ!!!!」

「アウトだろっ!!!!」

挿絵(By みてみん)


俺が呟くと、さすがは竹田兄妹。間髪入れずに鋭いツッコミが返ってきた。

声で分かる通り、上が琴音で下が秋。二人仲良くハモりやがったわけだ。


「何だよお前ら。どのへんがアウトなんだよ!」


俺は逆切れをかます。


そんな俺の言葉に、最初に言い返してきたのは琴音だった。


「全部だよ!もう全部アウトだよ!せめて洗って来てよ!」


「いや、それはダメだろ。泡だらけになる」


「なんで洗剤で洗うことになったの!?普通水でしょ!?水ですすぐでしょ!?」


「いや、それはダメだ」


「なんでよ!?」


「だってよ。そんなことしたら、すすいだ瞬間、唐揚げの衣がキュキュッと落ちちまう」


「そんなもん加減しなよ!!」


……とてもあらぶる琴音。

正直、こんな琴音を見るのは初めて……ではないな。うん


「おい海。お前ふざけるのやめろよ。早くなんか食わせろよ」


食欲にまみれた琴音の兄貴。

そして、食し始めた緑の小娘。


「おいエメリィーヌ。今回はフライング禁止だ。先に食うんじゃない」


「ちっ、ばれたんヨか」


バレバレだ。

両の手に握りしめられた唐揚げでバレバレだ。


「海、早く洗ってこいよ。そして食わせろー!」


秋は本気で空腹のようだ。しょうがない。早めに準備するか。

………そして。


「竹田兄の…モグモグッ…言うとおりだよ…ゴクン。山空…モグッ」


「おいそこのハゲメガネ。お前何堂々と食ってんだよ」


しかもメチャクチャ分かりやすかったぞ。

モグモグッゴクン。とか。隠す気ねぇだろ。


「山空…モグモグ……僕はメガネだが…モグ……ハゲてはいない…ゴクンッ。のだよ!」


「のだよ!じゃねぇよ。ちょっとぐらい待てよ。すぐ用意するよ」


「……なら早く用意しなさい。あと3個食べたらやめるから」


まだ食う気かよ。空気の秋が泣いちゃうぞ。


「誰が空気だよ!!」


「お前だよ」


「俺かよ!!」


「そうだよ」


「そうかよ!!」


もうツッコミの意味が分からん。



―――とりあえずそんなわけで、俺達の豪華な夕食は終わったわけだ。


夕食が終わり、みんなはそれぞれにくつろぎ始める。


秋は相変わらずエメリィーヌと遊んでるし、オメガも相変わらず琴音にべったりだ。いや、実際にはべったりではなく、ボッコボコだが。


琴音も琴音で、結構楽しそうだし。


そしてなんとなくみんな忘れていると思うが、今日、琴音達は俺の家に泊るのだ。

ちゃんと、荷物も持って来たみたいだしね。


……果たして、無事に眠りにつく事は出来るのか。(特に琴音が)。


そして、無事クリスマスを迎える事が出来るのか。今日はほら、クリスマスイブだから。


さらにいえば、夕飯の豪華な材料や、エメリィーヌのクリスマスプレゼントを買ったせいで、俺の財布は悲しいことに。


……違う。俺が買ったんじゃない。サンタさんが買ったのだ。

そう、サンタさん。絶対にサンタさんなのだ。良い子のみんな!サンタさんだからな!!



その時だった。


「カイ、ところでクリスマスってなんなんヨか?」


…………え?


「今何と?」


「だから、クリスマスってなんなんヨかって……」


ええええぇぇぇぇぇえ!?

あれだけ盛り上がっておいてそれは無いだろ!?


……そんなわけで、エメリィーヌの衝撃発言が、午後8時27分49秒頃。この俺に降りかかってきた。


そう、クリスマスイブの夜に―――




クリスマス特別編!(前編) 終

後半へ続きます!!

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