第八の問い「六男は、まともな人か?」
さて、最後だ。
これで全員との面談が終わる。あとは恋愛ゲーと同じ要領で攻略していけば大丈夫だろ。
にしても、遊び人、天然悪男、冷血人間、小悪魔、女嫌いとそろったけど、あとは何が来るんだろう……。
は、まさか、ムッツリ!? ごめん、あたしあれには萌えない体質なんだ。そうだったら、逃げよう。
そんなことを考えている時間、約二十秒。その間、上を見てボーっと突っ立っていたわけだから、メイドさんがあわてて声をかけるのもわかるよ。
でもさ、お願いだから顔をつねって、現実に呼ぼうとしないで……。
「い、いはいですメイドはん」
「痛くないですよ。最後なんですからっきちっとなさってください」
あれ、なんか目の色変わったよね。なんでだろう。
すると、メイドさんが、部屋のドアを開け、中に入って行った。
これまでとは違う行動に、首をかしげる。
そんなことをしていると、メイドさんが早くしてください、と言ってせかすので、慌てて中に入って行った。
「はいはい、入りましたよメイドさん。こんにちは、保崎ですー……って、ええっ!?」
中にいたのは、メイド服を豪快に脱いでいる、メイドさん。
ああ、文章的にも頭的にも混乱を招きそう。
「あのっ! 何があったんですか脱がないでくださいメイドさん! ああ、六男が悪いことをしたとかそういう感じですね! わかりました、あたしがぼっこぼこにしてやりますよ。さあ、出てきなさい、女の敵、魔性の六男!」
「あのさあ、うっざいんだけど。さっきから兄様の顔やらみぞおちやらを殴っててさ」
声がした。
小鳥のさえずりのように、透き通る、きれいな声。その声は、複雑なつくりのメイド服に苦戦している、あのメイドさんのほうからした。
「……え……?」
きょとんとしていると、上半身は脱げたようで、安心したメイドさんが、こちらを向いた。
「僕。僕がその声発してるの。わかる?」
眉をひそめ、どちらかというと睨みつけるような視線を送ってくる。
その人物は、先ほどまで、ロリータといったほうがいい、ふりふりのメイド服を着ていた、メイドさん――と、思われていた人物。
「僕が六男。第六王子の、ソウシ。兄さんたちにした分、返してあげるから覚悟しておいてね」
ああ、こいつは、最近人気が出てきたキャラ――。
女装男子キャラだ……。
Q、六男は、まともな人か?
A、まともじゃないです。一番。
「と、言うわけで。しっかり、歯を食いしばってね」
いやいやいや、上に一枚着てください、下半身スカートって異様な光景です。っていうかいつの間にメイク落としたんですか。っていうかなんでそんなにブラコンーっ!?
「失敬な。僕はブラコンなんかじゃない。男の人が好きなだけだ!」
堂々と、高らかに宣言したソウシに、あたしは思わず冷たい目を向ける。
空気が凍り付いてきたと思うが、そんなこと微塵も気にしていないスイッチが入ったのか、彼は顔を少し赤くし、それでも声のトーンを落とさずに演説。
「男の人っていいだろう……あの体!」
あたしは近くのクッションを投げつけた。
それを、少し体を動かし、かわす。
くそう、何て奴だ……!
「あの低い声……特に、クロードがいいと思うよ……」
ああ、こいつは腐っているー!
こいつも逆ハーレムの対象になっているのがヤダー! こいつに好かれるなら、全国のムッツリさんに好かれた方がマシだー!
すると、その叫びを、思わず声に出ていたのか、表情に出ていたのかは知らないが、とにかく察知したソウシは、む、と唇を尖らせる。
「なんだよ。ムッツリが嫌いとか、贅沢なこと言ってんじゃないよ」
「え、待って、説教モードに入りそう! やだ! こいつに説教されるとかマジヤダ! 幼稚園児にケータイの使い方教わるほうがまだましだー!」
「何言ってるんだよ。そんなことしないって」
机の上に重ねてあったTシャツに手を伸ばし、ソウシはくすりと笑う。
「まあ、今日は夜にレイお兄様と逢引する約束したからだけどね」
あ、そうか、あの時、レイが死んだような顔していたのはこのせいか。まあ、このホモ具合なら、何されるかわかんないね。
あたしは心の中でだけど、レイに合掌。
無事に、夜を過ごしてくれ。
「とにかく、僕は愛するお兄様――いや、男の人が、君に楽々攻略されるのが嫌なの。僕も逆ハーのメンバーに入っているけど、君には協力しない。いや、むしろ邪魔をする」
その瞳に、黒い光が宿ったのを、あたしは見逃さなかった。
「だから、僕は君に恋なんてしない。いや、できない。だって女だもん」
うわー、なんだか男が言わない言葉ランキングの十位以内には入りそうなお言葉。あ、後半部分だけね。
「だから、君の逆ハーの計画は失敗に終わるだろうね。ああ、それと忠告。もし、お兄様一人でも君に惚れるなら、君を葬むるのに手段を択ばないからね。覚悟しておいてよ」
着替え終わったソウシは、あたしをまるで恋敵のように見ている。
いや、あたし、あんただけじゃねくて、全員に好かれる自信がないんですけど!?
「そんなこと言って、本当はバリバリやる気なくせに。やだやだ、女の人ってやだ」
「ああもうウザいなあ。あたしが何か言うごとに突っかかってくんのやめてよ! この、女装ホモ男!」
「ああ? 女装はオプション。男の人に好かれるための手段!」
「それがキモいって言ってんの! 女嫌いキャラはすでにいるんだし、やめたら? そのキャラ」
「やめるもんかよ。お前こそ自分のキャラはなんなんだよ。言ってみろよ」
「ふん、オタク女子。これで結構コケコッコー」
「古いんだよギャグが!」
「新しいギャグないから仕方ないじゃん!」
数分、そのような低レベルのののしり合いをしたのち、ソウシが折れて、部屋を出て行った。
あ、忘れてたわ。恒例のあれ。
あたしは、あの忌々しいソウシの後ろ姿に、助走付きのとび蹴りをして、その場から逃げだした。