第七の問い「四男五男は最悪か?」
「メイドさん、あのー……」
あたしは、メイドさんに追いつき、裾を引っ張る。
ふりふりの繊細なレースを引っ張るのは気が引けたが、まあ、仕方がない。
すると、レースが破けるので、と、表情にだし、さりげなくあたしの手を外す。
「なんでしょう? あ、次は双子なので、四男と五男、一気に行きますよ」
「いや、そういうことじゃなくて。あなたの名前とか、そういえば知らなかったなーって」
あたしが聞くと、にこりと、かわいらしい顔で、答えた。
「これからわかりますよ。ご心配なく」
それだけ言うと、あたしの背中を押した。
目の前には、ドア。
「ひ、開いていないですーっ!」
強い力で押されたので、あたしはドアに激突――しなかった。
ギリギリのところで開き、目の前に、白い腕が広がった。
そのまま、ふわりと誰かに抱きかかえられる。
「はい、捕獲ー」
「え、何やってるの……怖い怖い、ヤダヤダ連れてこないでーっ!」
捕獲とか言ってる、もはや人間扱いをしてくれない人は、ストレートの金髪。青い目。
あたしをみんなの嫌われ者扱いのようにしている、失礼な人はくるくるの巻き毛。緑色の目。
巻き毛さんのほうは、森であった、エンジェル――いや、ジェル君だ。
じゃあ、もう一人は……?
「初めましてー。ジェルのことは知っているんだよね。僕、ジェルの兄、シェルだよ」
あらー。ジェル君と同じく、かわいいキャラですかー?
と思ったら、隣にいたジェル君が忠告。
「シェル、かわいいキャラじゃないよ。小悪魔だから」
え? 何それ。
そう思っていると、ぎゅ、とシェル君が、きつく抱きついてきた。
「わわわ、何々っ!?」
慌てていると、衝撃の一言を繰り出した。
「うん、Cカップかな。まあまあだね。僕の範疇にはないけど」
死ねーっ!
Q、四男五男は最悪ですか?
A、ジェル君は分からないけど、シェル君は女子の敵。死んだほうがいいと思う。というかいっそのこと死ね!
いきなり、みぞおちに強烈なパンチを発動したあたしに、ジェル君はひい、と部屋の隅に逃げる。
「はー、はーっ。死ね死ね死ね死ね……」
あたしは彼の横にしゃがみ、お経を唱える。
その光景を見て、逃げようと確信したらしいジェル君は、壁に沿ってカニ歩きをし、ドアに向かってダッシュ。
あたしはジェル君より、自分の感情を吐き出すことが最優先なので、そちらをちらりと見ただけで、再び作業再開。
「もうやってやれないよーっ! これだから女の人って苦手なんだーっ!」
泣き叫びながらドアを出ていくジェル君に、キャラ確定。
こいつは女嫌いキャラだ。
「かわいい顔してるのに、なんつー性格だ、この兄弟」
ため息と自分の中にある黒い気持ちを吐き出した時、廊下から悲鳴が聞こえてきた。
「はっ! あれはジェル君の声! どうしたのかな。まさか、このお話はミステリーなの!?」
ミステリーは嫌いじゃないあたしが、胸を躍らせて悲鳴の聞こえたところに行くと、ジェル君と、その襟元をつかんで黒い笑みを浮かべているメイドさんがいた。
「あの、何かあったんですか!? まさか、さっ、殺人とか――」
「いえ。違いますよ。彼はただ、失神しているだけです。さて、連れて行ってあげてください」
そういって、名残惜しそうにジェル君を渡すメイドさん。
な、何があったんだ……。
「あ、目覚めたときに、悲鳴を上げると思われますが気にしないでくださいね。彼はほんっとうに女性が苦手なんですよ」
おほほほほ、と口に手を当てて優雅な笑い方をする。
「そうっぽいですよねー。わかりました、戻しておきます。
あたしはジェル君を遠慮なく引きずりながら、部屋に戻って行った。
部屋の中には、シェルがうなされながら左右にごろごろうごめいていた。
Q、四男五男は最悪ですか?
A、yes。シェル君に加え、ジェル君も、たぶん最悪です。
「う……」
しばらくしていると、ジェル君の意識が戻ったようだ。
うん、これもあたしがベットに運んでおいたおかげかな。
いいことをした、みたいな顔でジェル君に声をかけると――、
「うっわあああぁぁぁっ!? ベットに運ばれたああぁぁぁーーーーっ!」
と、世界の終りみたいな叫び声をあげられたので、あたしは――、
「死ね糞野郎っ! 女子の何が悪い!」
近くにあった花瓶を投げつけた。
うん、悲鳴は上がったけど、すこし的をそらしてあげたから、心配はない。