第五十五の問い「――質問放棄」
重い足取りで何とか王様のところにたどり着いたあたしは、兄弟全員が集まっていることにびっくりした。あたしが最後ということか。
「…………全員集まったようだな」
最初に会ったときと変わらない王様が、部屋全体をぐるりと見回していった。兵士さんの数は少なく、きっと誰にも聞かれたくはないお話なんだということが想像できた。
「それでは、本題に入ってくださいませんか?」
腕を組んだクロードが、あたしの隣で少しきつめに言い放った。見たことのない冷たいその瞳に、あたしはごくりと生唾を飲み込む。
そんなあたしを尻目に、王様はうなずき、近づいてくる。
なんだこいつは、いったい何をするつもりだとだらだら冷や汗が上がれる。王様にはいてはいけないような暴言がのどまでこみ上げてきた。
「……保崎秀名。今からお前を元の世界に返す」
ああ、来てしまった。
このときが。
Q、――質問放棄。
A、――自然に回答もなし。
「ついに、なんて思ってません」
にやり、と笑ってやった。
予想外の反応だったのか、王様はびっくりしたように目を見張った。あたしを見つめるみんなは分かっていたようだ。
「あたしはもともと違う世界のものですからね。いつまでもここにいられるなんて思いませんよ」
ぎゅ、と目をつぶった。……大丈夫、あたしの思い出の中に、この夢のような出来事は残っている。みんなの顔も、言われた言葉も。
「ただの根暗でオタクで引きこもりの女子高生らしくない女子高生は、充実した引きこもりライフを送るしかないですから。この世界での出来事は、自分のボーナスとでも思っておきます」
だから、と続けたあたしに、クロードは腕をつかんだ。いきなりのことでびっくりするが、もう何度目かのことなので、そこまででもなかった。
「秀名ちゃん。言いたいことはないの? こんなおじさんの話し相手になってないで、みんなにお別れの言葉でもどう?」
それもそうだな……。
あたしは視線を王様から六人に向けた。
「うーん、言いたいことって急に言われてもないなあ……。とりあえず、ありがとう、かな」
照れ隠しに頬をかきながら、はにかんで言う。あ、赤面寸前だわ。
恥ずかしいので王様に「は、早く行きましょう!」とわざと大声で言い、背を向ける。そのときだった。
「おい、待てっ!」
急に後ろから腕が伸びてきて、あたしの肩をがっちりとつかんだ。……いや、抱き込んだ。
「…………待てよ」
耳元で、いつもより低いレイの声が聞こえた。
「お前だってさっぱりした気分で帰りたいだろ? 告白の返事、聞きたいんじゃないのか?」
「ばっ……。言わなくて結構です!」
思わず後ろを振り向いたとき、レイの黒髪が視界に広がった。ぽかんとしている間に、おでこにやわらかい感触が。
これはいわゆるあれだ。恋愛ゲームによくあるアクション、でこちゅーだ。
「…………?」
自分のみに起こっていることが理解できずに、しばらくフリーズ。するとぱ、と手を離され、
「好きだ」
それだけ言われ、あたしはとん、と肩を押された。
「帰るぞ、保崎秀名」
その声は、暗くなった目の前でやけに響いた。
おでこに、彼の感触を残して。
異世ハーも、残るはあと一話です
やっと完結……
でも次の話も恋愛もののつもりですw