第五十一の問い「ヘタレ?」
キラキラと輝く窓からの月光が、例の漆黒の髪を照らす。思わず見とれそうなその風景は、一生忘れないと思う――。きっと、「初めて人に告白した時の風景」として心のアルバムに収まるんだろうな。
まるで振られた時のようなマイナスな思考に、あたしは少し驚愕する。振られるのが当然だと思っているのに。少しでもあたしのことを真正面から向き合ってくれる、思考をあたしに染めてくれる。それだけで幸せなんだと思う。
「あたし、ね」
緊張で肩は今にも震えそうだった。心臓はバクバクと音を立て、そのまま胸を突き破ってしまいそうだ。
そんなあたしに気が付いてほしくなくて、思わず唇をかんでうつむいてしまう。
「れ、レイの事が――」
……極度の緊張状態の中で、デリケートなひきこもり野郎のあたしは、素直になれるわけもなく。
今日こそいうぞと力んで少し開いた唇からこぼれた言葉は、今までの言語と読者さんの期待を大幅に裏切ってしまう一言だった。
「というのは置いておいてっ、さっ、さっきのキスってなんだったの?」
置くなあたしぃぃぃ――――っ!!!!
額に冷や汗を浮かべたまま、引きつった顔で聞いたのは、確かに気になっていたけど明らかに根性なしな、逃亡の一言。
レイに気づかれないように腕をつねる行為を必死でやる。つねりすぎて自分に跳ね返ってきたことは言うまでもない。
涙を浮かべているあたしに気づく訳もなく、レイは今までの緊張した空気にはてなマークを浮かべ、堂々と質問に答えた。
「あれは一方的。不可抗力? つーの? とにかく特別な関係じゃないから安心しろ」
ぽんぽん、と頭を優しく叩かれるのは、まるで出来の悪い妹にするような。
明らかに恋愛対象になっていない。
「…………」
またうつむき始めたあたしは、安心と不安が交じったぐちゃぐちゃの思考で、思わずさっきの言葉に何か返事をしようと言葉を探した。
だけど、そんな都合のいい言葉はあるはずもなく。
「保崎?」
上からかかるレイの声が、なんだか遠くから聞こえたような感じがして、あたしの中の不安は懐からバズーカを取り出し、安心に向けてぶっぱなつ。つまり、何が言いたかったのかというと、勝者、不安と言う事。
重くのしかかる不安に耐え切れなくなったあたしは、先ほどから用意していた言葉を拾い上げてしまった。
「――き」
「……は?」
「好きなの」
顔も上げずに、乱暴に吐き出した声は――バカみたいに必死だった。そのまま顔を上げ、半分泣いている瞳でレイの事を見る。
「あたし、レイの事が、好きなのっ」
だから。
そう続けて、あたしは真っ赤になった顔に気が付き、両手で挟んだ。顔とは反対に、手は冷たく、気持ちが良かった。
それで少し落ち着いたと思ったけど、レイの漆黒の瞳とあたしの瞳がぶつかり合い、思わず思考がショートし、顔がゆでだこになる。
これはまずい。恥ずかしい。どんな羞恥プレイだとツッコミたい。
「――――っ!」
思わず、あたしは彼に背を向け、暗い廊下を走りだし、自分の部屋へと逃亡したのだった――。
Q、ヘタレ?
A、イエス……。