第四十の問い「修羅場……?」
「わんつー、わんつー……」
ダンスの特訓をし始めて早一週間。もう少しでダンスパーティー。
最初は醜い、阿波踊りのようだったあたしも、少しは様になったと思う。
そしてバカにしていたあたしのジャージを、ほかの人たちが「動きやすい」と言ってなぜか着用し始めた。
――ジャージ着てダンスの練習する王子なんて、今までどんな物語でも見たことなかったんですけど。
そんなあたしの視線が気になったのか、ふと視線が合ったレイ(もちろんジャージ着用)に「なんだよ」と文句を言われる。
「別に」
「なんだよ……気になる」
ずい、と顔を近づけられ、あたしは一歩慄く。その反応を面白くないと思ったレイは、あたしの額にデコピン。
いきなりのことだったので、ぽかんとするあたし。
しばらく二人で馬鹿みたいに見つめ合っていたら、
「おいそこの二人ー。休憩中くらいいちゃいちゃしないでほしいなー」
というクロードののんきな声がかかった。やばい、他人の目を気にしろ自分! あいつに見惚れている場合か! っていうかさっきの何気に見惚れていました発言!!
この数日間で、あいつの立場が少し変わったのには自分でも驚きだ。なにせ、初日じゃ考えられなかっただろうから。
はっきりは言えないけど。あたしはゆっくり答えを出そうかな。
「何考えてるの?」
思考が途切れる。
声のかかった上を見てみると、タオルを首に巻いたジャージ姿のソウシ。一般人がそんな恰好したら完璧農業の人に見えるのに、あいつはそんなことなく完璧に着こなしている。
「別にー。あ、あたしお水持ってくるね」
ソウシの顎から垂れている汗を見て、あたしは慌てて立ち上がる。自分が飲みたかったのもあるんだけど。
「あ、じゃあ僕も行く」
「じゃあ俺も」
ソウシに続き、レイも立ち上がる。ところが、その肩をクロードさんがつかんだ。
「君たちは飲み物を取りに行く暇ないんだからね、このダンス音痴! 特訓は今から開始ね、秀名ちゃんが戻ってきたら休憩再開。秀名ちゃんはウォンチさんと行ってきて」
有無を言わせないクロードの声。
もともと声が低いのも手助けして、見事に二人を震え上がらせました……。
☆ ☆ ☆
「にしてもさ」
食堂の大きな冷蔵庫から冷たいお水を五つ取り出し、あたしはウォンチさんに話しかけた。
「なんであたしとウォンチさん行かせたんだろうね。どちらかというと運動音痴のあたしのほうが特訓、早く開始したほうがいいのに」
その途端、ウォンチさんがあたしの首元をつかんだ。
突然のことで、悲鳴すら声も出ない。
「あんた……あたしがレイ様のこと好きなこと知っててそんなこと言ったの……? あんたとソウシさまとレイ様。この三人で行ったら残るあたしの身にもなってっ!」
「はっ……? よく……わからないよ……」
首を絞めつけられる形。思うように息ができなく、声が出にくい。それでも何とか声を絞り出せたということは、彼女の力が弱いのか、はたまた手加減をしているのか。おそらくは前者だ。その証拠に、彼女の手は真っ赤になっている。
「わからない……? ……あたし、あんた大っ嫌い。絶対レイ様を奪ってやるんだからね」
……ちょっ、いきなりそんなこと言われてもぉ……!
Q、修羅場……?
A、はい。修羅場です、大修羅場です。