第三十九の問い「ダンスパーティー、大丈夫か?」
「っ、とにかく! 保崎、一緒に練習しようじゃんか!」
何を開き直ったのか、鼻の下についた赤い液体をふき取り、ソウシが手を差し伸べる。
あたしも誰と練習しようか迷ってたし、こいつでいいや。
そう思ってソウシの手を取ろうとした、その時。
横からにょきっと手が伸びてきて、あたしの手首をつかむ。そして無理やり引っ張る。
「へ? ちょ、レイ!?」
むっつりと唇を閉じ、何か言いたげな顔のレイ。
「お前は俺と練習だ。意義はないな?」
ありありですけど……ほら、さっきからソウシとウォンチさんの視線があたしの背中に突き刺さりまくってるよ……? あんたは気にならないの?
「ならない。おいクロード! さっさと教えろ」
「はいはーい。じゃあソウシはウォンチさんと踊ってね。ちなみに、すごい優越感と達成感に浸っているドヤ顔のレイ、ペアとか自分とかがどうしても踊れないと、すぐに変わるからね。男だろうと女だろうと僕と踊ることになるからね」
その一言で、レイは鬼の形相であたしを睨み付け、
「死ぬ気で踊れ。そして俺と踊れることに喜ぶんだな」
久々の俺様発言。
そういえば、こいつは冷血人間とか俺様キャラだったっけ。忘れてたわ。
そんなことが顔に出ていたのか、不審そうな目でレイがあたしの顔を覗き込む。
「……そんなキャラは嫌いか?」
別にそんなこと言った覚えはないんだけど……。
「あたしは好きだな。ゲームでもそういうキャラを真っ先に攻略するし。攻略し甲斐があるじゃん?」
そういうと、とたんにレイが顔を赤くする。……いや、顔だけじゃない、耳までも……。
「別に、嬉しくとも何ともないんだがな!」
「……ツンデレスイッチ?」
首をかしげると、クロードがパンパンと手をたたいた。
「はいはい、まずはお手並み拝見ね。秀名ちゃんも何となくでいいから踊ってみてよ。じゃあ、musicstart!」
クロードの掛け声とともに始まったのは、優雅なワルツ。
うっとりするような戦慄に耳を傾けていたら、手をむんずとつかまれ、強引に動かされる。
つかんだレイの手は暖かくて、……暖かすぎ……? 体が近づくところでは、レイが小声で「いち、に……」と言っているのが聞こえる。
下から見るレイは、一生懸命で、なんだかとても――。
「……顔になんかついているか?」
「…………はっ、いや、別に!!」
あははと笑ってごまかし、あたしはレイから顔をそむける。
待てよ自分! このまま思考モードに入っていたらどんな言葉を続けていたんだ!?
心の中で奮闘していると、こんな言葉がふと浮き上がる。
なんだかとても、かっこいい。
ばかかぁぁぁぁ!!! 待って、今のは無し、無かったんだ、そう、あたしはあんな乙女な言葉、たとえ心の中でも思わない!
「……何やってるんだ?」
「はへっ!? 別に、な、何とも思ってないし」
「手が汗ばんできてるんだが」
確かに、最初はレイのほうが温かいと思っていたつないだ手。今は完璧あたしのほうが熱いし、しかも汗ばんでいるし、なんだかこんなところからもとくとくと、あたしの早い鼓動が感じられる。
「あ、汗ばんでなんかないし? 勝手に思ってるだけなんじゃない? それかあんたが汗ばんでいるのか!!」
「俺は別に焦っていないが」
「だ、ダンスって意外と体力使うし、暑いねー」
いきなり立場を変えたあたしに、レイは首をかしげる。
それからにやりと笑い、急に顔を近づけた。
「ばっ!? 何して――」
「いや? 遊んでいるだけ」
そろそろ曲も終わる。でもその間、お互いの息がかかる至近距離でいられるかっつーの!
もう、強行突破。
「あ、ごめーん」
軽くそれだけ言うと、勢いをつけてレイの足を、だん、と踏んだ。
「…………ぃっ!?」
いったぁぁぁ!? という悲鳴は、屋敷中に響いた。
Q、ダンスパーティー、大丈夫か……?
A、た、たぶん。