第三十六の問い「絶対謝りませんからね! と言われても……?」
「ほんっとうに申し訳ありませんでした!!」
「いや、もういいですって」
「いいわけありません! なんとお詫び申したら良いのか……ほら、ウォンチ、謝りなさい」
ぽってりとした体系のメイドさんが、目の前にいるウォンチさんの頭を押さえ、ぐいと下げる。
ウォンチさんは少し抵抗したが、メイドさんの力が意外と強かったらしく、しぶしぶ下げた。
「いいですよもう……ほら、お風呂に入ったら落ちましたし、雑巾でこすったら床だってピカピカになりましたから」
濡れた髪をとかしながら――なんてことはないが、とにかく寒いので髪をぱんぱんとタオルで乾かしながら、あたしはクリームが落ちた、元はピカピカの床を指さす。
「そういう問題じゃないんだろ」
腰に手を当て、ため息をつくレイ。
その隣でソウシがうんうんとうなずいている。
「……だって、床が無事なら大丈夫じゃん。あたしは別に、慣れっこだし」
「慣れっこって……おまえ、まさかいじめられていた過去が……?」
「あるわけないじゃん! あたしはいつでも傍観者。っていうかみんなあたしに近づいてこなかったんだよねー。なんでだろうねー?」
首を傾げたあたしに、レイは聞く。
「お前、どんな様子だったんだ?」
「え? ただボーっとしてただけだよ? まあ、『お前らウザいからあたしに近づくなオーラ』は出してたけど」
それがいけないんだよ、とレイが怒鳴る。
すると、その言葉を遮るように、ウォンチさんが手を上げた。
「っていうか、謝るのは本人がいいと言っているから、いいんじゃありませんか?」
「よくない!!」
「よくないだろ!!」
血相を変えてウォンチさんに反論した二人。
あたしはその後ろでびっくりと、呆然として立っている。
「パイ投げはないだろう、パイ投げは!! クリームが飛び散るのを予想しなかったのか、お前は!!」
レイに怒鳴られ、ウォンチさんはほう……、と顔を赤く染める。
「……M……?」
「違います。あなたには一生分からない感情です」
「……?」
眉間にしわを寄せたあたしに、ウォンチさんはふん、と顔をそむけた。
あたしは助けを求めるように、ソウシのほうを向く。
振り向かれたソウシは少し困っていたけど、そのうちそむけられた。
「……みんないじわる」
不機嫌。
その途端、レイとソウシがあわてて弁解。
「いや、それは……」
「実はな、俺ら……」
ばしっ。
右ほおに強烈な痛み。
見てみると、怒った顔のウォンチさんが平手打ちをし終わった手の形。
「……なんですか……?」
涙目で、平手打ちを食らった頬を押えながら言うと、レイとソウシも「そうだそうだ!」と加勢。
意味わからん……。
「…………レイ様のばぁか! 絶対謝りませんからね!!」
泣きながら、部屋を飛び出していきました……。
Q、絶対謝りませんからね! と言われても……?
A、困るだけだよねぇ……痛いし……。