第三十の問い「何やら雲行きは怪しい……?」
「こんな朝早くから、どうしたんだ?」
レイが、男時のソウシを見て、目を見開く。
そんな反応を面白がりながら、ソウシは目的を思い出した。
「保崎 秀名のことです」
名前を出すだけで顔を赤くする兄の反応を見て、ソウシは確信した。
「その反応――やはり、お兄様は保崎 秀名のことが――」
「ちっ、違うッ!」
赤くなった顔を隠すために後ろを向いたレイは、慌てて顔を抑える。
「断じて違う! 俺はあんなオタクなんかに恋愛感情など――」
「ほぼばらしていますよ。わかりやすいですね……」
「……仮に、仮にだぞ、俺があいつに特別な感情を持っていたとして、ソウシ――お前はどう思うんだ?」
顔を抑えながら上目づかいにこちらをうかがうレイ。
前までなら完璧に襲っていたであろう。
「宣戦布告します」
今までの会話全スルーでソウシが切り上げた。
びしりと突き上げた、白く細い人差し指は、しっかりとレイをとらえている。
「……宣戦……?」
きょとんとした顔でこちらを見てくるレイ。
ソウシはこくりとうなずき、指を下した。
「僕――いや、俺は、本気であいつを攻略する。恋敵がお兄様だろうか関係ない。……か、覚悟しとけよっ!」
初めて愛するお兄様に啖呵を切ったソウシは、語尾が震える。
「…………っていうか俺、あいつのこと好きなのか……?」
いまだにわからないレイの一言が、嵐の去った後のような静かな部屋に響いた。
Q、何やら雲行きは怪しい……?
A、……あたし的には……。
「なんだろうか……視線を感じる……」
久しぶりにアシルさんの部屋に言ったあたしは、最近感じている妖しい視線のことについて相談してみた。
すると、アシルさんは眉間にしわを寄せ、真剣な表情をした。
「……それは大変だね……お屋敷に不審者が侵入でもしたのかな……あまり考えられないけど……でも万が一ってこともあるし……お父様に相談しておこうか?」
なんだか久しぶりに聞いたようなまじめな返信に、あたしは感動して目を潤ませる。
「……ッ、どうしたの?」
「いやあ、最近悪口しか言わない性悪人間しか相手にしていなかったから、まともな意見を聞けたのに嬉しくて……」
あたし的にはものすごく感動したのに、アシルさんはプッと吹き出した。
な、なんてひどい反応……!
「ひどいです! あたしは真剣なのに……」
「ごめんごめん。……ぷっ……」
もうおさまらなさそうなアシルさんにあたしは少し睨み、相談の内容に戻る。
「で……視線って、なんだと思いますか?」
「……あれじゃない? 秀名ちゃんに惚れちゃった兄弟たち」
その答えに、あたしは吹き出す。
「ないないないですって! そんなことあったらあたしは美少女になりますよ!」
「たとえがよくわからないけど……考えられないか……」
少しショックを受けたようなアシルさん。
自分の意見が外れたのがそんな悔しいか?
「じゃあ、ほかの考えは…………ない、ね」
少し間をおいて断言したアシルさんに、あたしは小さく舌打ちをした。