第二十三の問い「カルチャーショックのその先で……?」
「ったく……あいつ、馬鹿じゃないのか……?」
怒ったように早歩きで廊下を颯爽とわたるレイ。
そのルックスからか、近くをすれ違うメイドが黄色い声を出す。
いつもなら不愉快になることだが、今はすでに不愉快――またはそれ以上――なので、あまり気にはならなかった。
「……本当にイラつく……」
イライラと口元を下げながら、思わず心の中の感情が口からこぼれ出た。
独り言など、今まであまりなかったのだが――あいつが来てから、目立ってきた気がする。
今だってそうだ。不快な気持ちを外に吐き出した。誰かに愚痴ることでもなく。
「意味わかんねぇ……」
不快ではあるが、何とも言えない感情に、いらだつ。
異世界から来た、どうでもいいただのオタクに、どうも、自分の感情を左右されている。
――言うまでもなく、レイは恋愛感情など、今まで一度も感じたことのない、恋愛初心者なのだ。
そんなレイの心境をよそに、秀名は午後のティータイムを満喫中――。
「お、おいひぃーっ!」
目の前に並べられた宝石のような一口サイズのゼリーを口に運び、あたしはほっぺたに手を当て、思わず一言。
レイを殴った後は何事もなく部屋に戻り、『カロリーゼロのゼリー』を早速食べ始めたのだけど、なんだか罪悪感――というより、後悔?
だって、一応あいつも攻略するんでしょ? こんなに自分の高感度下げまくりじゃ、元の世界に帰るのが遅くなっちゃうよ。
軽いカルチャーショックになっているあたしには、それは結構痛い。
「……決めた。本格的に攻略しよう。まずはレイからだね。さっきのこと、謝んないと」
決意を込めた拳で机をたたくと、机の上のゼリーがプルンと揺れる。
今のあたしには、それさえも応援の形にしか見えなかった。
☆ ☆ ☆
「よっ、レーイ!」
朗らかな笑顔でノックもせずに部屋に入ってきたあたしに、レイは心底びっくりしたみたいだ。
「おま……ッ……! 何しに来たッ!?」
「ううー、折角来てやったんだよ? 少しは喜んだら?」
「どこらへんに喜ぶ要素があるというんだ、このオタク! もう一度聞く、何しに来た」
「あたしはあんたら六人攻略しに来たんだよ? 理由なんてわかりきってるくせに」
唇をとがらせて言うあたし。
レイは少し動揺して、「う゛……」とうなった。
「まあ、軽いカルチャーショックのあたしは、早く元の世界に戻りたいのだ!」
「カルチャーショック!?」
目を見開きびっくりするレイの反応に、あたしは思わず腰を浮かべる。
「なんで早く言わないんだ! 無理にでもお父様に言って、いや、怒鳴り込んで、帰らせてもらえ!」
そこにあたしのことが嫌いだから――という感情は全くなかった。
ただ単に、あたしのことが心配なんだろう。
でも、強くつかまれた手には、さすがのあたしでも動揺するぞ。
「ちょっ、レイ!? 腕、つかんでる! 痛い痛い!」
「……ああ、すまない……」
ぱ、とあわてて手を振りほどくレイ。
「あたしは大丈夫だから、心配しないでね。あんな啖呵切ったんじゃ、戻りたくても戻れないから。あ、じゃあ、あたしもう行くね~バイなら~」
心配させないように、わざとへらへらしながら部屋を出る。
バクバク言っている心臓は、素直だなぁ……と、思いながら。
Q、カルチャーショックのその先で……?
A、べ、別になんもなってない!
「……何が心配するなだ、あの馬鹿」






