第二十の問い「三角関係はお嫌いですか?」 1
場所は変わり、アシルとランド。
「……行ってしまった……」
呆然と秀名がいた場所を見て、ポツリとつぶやくアシル。
その隣から、心配そうな顔のランドが、はてなマークを出す。
「あ、ランドはあの二人を追いかけてきます」
ランドが走り出そうとして――、アシルは、つい、とっさに腕をつかんでいた。
さあ、とランドの長い黒髪が揺れる。
それに見とれていると、不機嫌そうな顔で、「なんですか?」と聞いてきた。
「あー……イヤー……」
小首をかしげたかわいらしいしぐさに、アシルは、つい、心の中のことを言ってしまった。
「えーっと、あっと――……その、好きです!」
「何を言っているんですか。からかわないでください。ランドは追いかけます」
普段と変わらず――いや、普段より機械的な声で即答され、アシルは彼女を追いかけるのを忘れていた――。
☆ ☆ ☆
「――それで今、魂が出ているんですね」
「わかってよ、保崎さん……」
胸元にお花が付いているだけの、膝丈のシンプルなドレスに身を包んだあたしは、アシルさんの魂を捕まえようとしながら、ため息をついた。
数分前、ドレスに着替え終わったあたしが、ジェル君の女性嫌いを直そうという計画を立てていたとき、急にドアが開き、アシルさんが口から魂を出しながら、いきなり部屋に入ってきたのだ。
「…………それで、保崎さん……望みは――」
「ないですね」
即答をしてしまったあたしは、さらに顔色を悪くしたアシルさんに気付き、慌てて付け足す。
「いや、あくまでもあたしの意見ですよ!? ほら、本当に冗談と思ったとか――」
「ないですよー。即答はないでしょう。それに、答えたときの声が感情は言っていませんでしたし…………」
ネガティブ・シンキングなアシルさんにあたしはチョップ。
「……っ! な、何をするんですか!? 痛いですよ!?」
魂を一気に吸ったアシルさんは涙目であたしを見て、怒鳴る。
頭を痛そうに抱えているけど、そんなに痛かったのだろうか?
「ネガティブですよ! もっとポジティブに行きましょう! ほら、『僕とランドさんは両想いだー!』っ」
その途端、顔を赤くしたアシルさんは慌ててあたしの口を押える。
「じ、実名出さないでくださいっ! もし誰かにバレたら、大変なことになるんですって、何度も言ったでしょう!」
あーそうでした。
にしても、ランドさんから何か、聞いといたほうがいいかな?
「あ、アシルさん。あたし、ランドさんに探り入れておきますねー!」
高いヒールに苦戦しながらも、あたしは駆け出した。
「って、ちょっ!」
背後にアシルさんの声が聞こえたが、あたしは無視してドアを開ける。
すると、目の前には、ランドさんとジェル君の姿。
いや、きょとんとしているランドさんと、顔が真っ白で、ランドさんに担がれている、ジェル君。
「あ、すみません。開くとは思いませんでした」
「こ、こちらこそごめんなさい。それより、これはどうしたんですか――?」
あたしはジェル君を指さす。
まるで、さっきまでのアシルさんだ。
「いえ、確保しただけです。それでは」
た、と地面をけろうとしたランドさんの腕を、つかむ。
うん、いろいろと聞き出そう。
にやりと黒い笑みをしたあたしを見て、ランドさんは何かを察知した――ようだった。
Q、三角関係はお嫌いですか?
A、――ノーコメント――