第二の問い「この二人はなんなのか?」
「あの……聞こえていますかー……?」
その声は、徐々に声が低くなっていき、ざっざっ、という後退する音も聞こえてきた。
気配からして察するしかないのだが。
「あのぉ……お願いですから聞こえていたら返事してぇっ!」
だだだ、とこちらに走ってくる音とともに、耳元で怒鳴られる。
「聞いてるわばか野郎ーっ! 鼓膜敗れるだろーっ!」
あたしもむくりと起き上がり、耳元で怒鳴ってやった。
ひえっ、と声を上げ、小動物のように縮こまる、例の人物。
「お願いですから、大声を出さないでください……」
ビビりながらそういうやつの顔は、結構、
「イケメンだ……」
そう、日本人離れした高い鼻、ややタレ気味の目、ふんわりとやわらかそうな唇、ふわふわなほっぺ。それらが絶妙なバランスでおかれている。
て、天から舞い降りたエンジェルやーっ!
そう。短めの紙はくるくるにまかれているし、白を基調とした、ナポレオンのような洋服。ほっそりとした手足は、あたしが力を入れるとすぐに折れそう。
「あの、テイクアウトで!」
「はあ……?」
いきなり怒鳴ったあたしに、はてなマークを出す、エンジェル。
ああ、その困った顔もかわいい……。
あたしが、エンジェルの顔をじとーっといていると、後ろからぱこっ、となにかで頭を叩かれた。
意外と強烈……。
「いったー……誰よ、殴ったのはっ!」
あたしが後ろを向くと、そこには、手に凶器を持った、殺人鬼――。
ではなく、
「またもやーっ!?」
黒髪の美少年が立っていた。
エンジェルの子と顔だちはよく似ている。黒髪も、ストレートではなく、毛先が少し、くるっと回っている。釣り目がちな瞳は、闇のような黒。こっちのイケメンは、黒を基調とした、エンジェルと同じつくりの服を着ている。
そんな彼は、あたしを不審そうにじーっと見て、こういった。
「このブス、処刑してもいいか?」
ふざけるなーっ!
「ああもう、やっぱそう来たか、乙女ゲーの定番、冷血人間っ!」
うん、黒髪と来たらそれだよね。……じゃなくて!
「は? 何が言いたいんだ? おい、ジェル。この女を連れて行け」
そういわれ、はひっ!? と肩を震わすエンジェル君。いや、ジェル君。
名前もかわいいんだから。
「あの、お兄様……本当に、連れて行くんですか……?」
「そうだ。おい、立て。動けないともなると、お前はデブでブスということになるぞ」
そういいながらも、腕を引いてあたしが立つお手伝い。
高感度、二十up。
「早く連れて行くぞ。おう、右のほう持て」
「は、はい」
二人のイケメンに挟まれ、あたしはきれいな緑色の草の上に、赤い鼻血をまき散らしました……。
Q、この二人はなんなのか。
A、この後わかります。
「いやあー、はっはっは。まさか森で倒れてしまうとはね。あっはっは、はっはー!」
豪快に笑うおじさんの前で、あたしは正座をしています。
下にはふかふかの、赤いカーペット。上にはキラキラのシャンデリア。そこには、メイドさんがずらぁーっ。ついでに兵隊さんもずらぁー。
目の前に座っているおじさんは、豪華な、金色の椅子に足を組んで座り、頭には大きな冠。真っ赤なマントがよく目立つ。そして、服装は、王様風。
いやあ、カボチャパンツはいているおじさん、生きているうちに拝見できたよ。よかったよかった。
「ってじゃなくてーっ!」
「誰に言っているのかね?」
「違います、違うんですすみませんっ!」
「うるせーよ黙れブス」
あたしの隣に立っている、あの冷血人間が言葉という名の矢を放つ。
クリーンヒット!
胸を抑え、うずくまるあたしに、おじさんは、「これ、レイ」と、まったくとげのない叱り方。
甘やかすなよ!
「っていうか、誰なんですか、あなた。あたし、まっったく状況読めていないんですけど」
「読めなくて当たり前です」
そういってにこりと近づいてきたのは、ピンク色のロリータを着た女性。
……いや、メイド服を着た、女性。
ふりふりのレースは裾だけでなく、様々なところに使われており、ワンポイントの花は、巨大だ。
「あなたはこの世界に召喚されたのですよ、保崎さま」
にこりと笑う、彼女にノックアウト。
おかしいなあ……あたしに百合要素は一切なかったはずだけど。
「それで……? あたしは何のためにここに来たんですか?」
他にも聞きたいことはいっぱいあるが、まずはこれが最優先だ。
すると、メイドさんに代わって、おじさんが、椅子から立ち上がり、大声であたしに言った。
「保崎 秀名。おぬしはこれから、最愛の息子たちのハートをゲットするのだッ!」
……保崎 秀名。なぜか異世界で、逆ハーレムづくりを強制されました……。