第十五の問い「意中の人は、誰か?」
「保崎さんっ!? どうした――」
近くのドアから、心配そうなアシルがひょっこりと出てくる。
あたしは後ろに立っているメイドさん――いや、幽霊を指さし、酸欠状態の金魚のように口をパクパクとさせ、アシルに助けを求める。
すると、なぜかホッとした表情になるアシル。
「…………ランドさん……夜は危ないと、言っているでしょう…………」
「いえ、しかしランドは、ご主人様から命令を受けておりますので」
にこやかに話す二人。知り合いらしい。
「あのっ、ランドさん……ですよね? 誰なんですか?」
すると、ランドさんは黒髪をバサッと振りながら、こちらを振り向いた。
「ここのメイドです。ランドは物心ついたときからこの屋敷にお世話になっています」
機械のような口調で淡々と話すランドさん。よく見ると、顔はすごく整っている。
半分しか開いていないと思われる瞳に、薄い唇。白目の肌は、闇を反射している。パーツごとに描いていくと、病人みたいな感じだけど、おかれている位置は絶妙なバランス。
「あなたは――確か、『乙女ゲーオタクの変人』さんですね」
ぴきっ。
うん、確かに顔はひきつった。
「だ、誰からそんなあだ名を教え込まれたんですか……?」
「レイ様です」
あんの、性悪男ーっ!
「ランドは、レイの専属メイドだからね」
「あの人は、嫌いです」
ランドさんは、アシルの言葉を遮るように答えた。
「性格が悪いのです。ランドのことを何度も何度も足蹴りにしやがって、ランドがにんじん嫌いなのを知っているくせに、ランチに、にんじんのソテーとか出してきやがるのです。その割に、自分が嫌いな魚をランチに出させなくしているのです」
今までは機械のように単語として出てきた言葉だけど、レイの悪口を言っているときは、なぜか生き生きとしている――、気がする。
「というわけで、今、レイ様が発しているこの悲鳴ですが、ランドにとってはざまあ見やがれこの野郎程度にしか思わず、助けるそぶりさえ見せないのです」
「あ、そうですか……」
何故、後半説明するような口調だったのだろう……?
「ところで、アシル様、保崎様。お部屋に戻ってはいかがでしょう」
首を九十度に曲げ、ロボットのような恰好で聞く、ランドさん。
その時、一瞬、アシルがさみしそうな顔をしたのを、あたしは見逃さなかった。
「そうだね。早く寝ることにするよ。ランドさんも、あまり遅くまで徘徊しないでね。危険だから」
「ランドはレイ様の悲鳴が途切れるまで徘徊しています。お屋敷の中ですし、あまり危険はありません。ですので、早くお戻りください」
はいはい、と生返事をして、アシルはあたしの首根っこをつかみ、ランドさんと離れた。
「…………ところで、アシルさん」
「何かな」
「あなたの好きな人って、ランドさんですか?」
ぱ。
あたしの首根っこをっつかんでいた手が急に離れ、バランスを崩したあたしは、しりもちをついた。
「そ、そのことに関しては明日、明日っ、説明するよ。じゃあねっ!」
明らかに動揺しながら、アシルは近くの扉に入って行った。
「そこ、女子トイレなんだけどな……」
あたしのつぶやきは、二つの悲鳴にかき消された。
Q、意中の人は、誰か?
A、ランドさんだと思うよ。たぶん。
すっかり夜も明けて――、
次の日。
あたしは、パジャマ姿のまま、アシルの部屋をノックした。
「はいはい」
寝起き直後のような声がして、アシルが出てくる。
「えっと、さっそくですが、意中の人って、ランドさんですよねっ!」
「本当にいきなりだね……答えは――、yes、かな…………」
うーん、あの人を攻略するのか――、難易度がすごいな……。