第十四の問い「どのような夜をお過ごしか?」
「ないよ、ない。そもそも、いたら自己宣告して、このくだらない、お父様による恋愛ゲームから一抜けさせてもらうし」
もっともな正論だけど、あたしにはまだ漬け込む余地がある。
「……周囲に反対されそうな恋なんですか」
その途端、アシルはひきつった顔で、あたしに笑いかけた。
「何を言っているのかな、保崎さん」
「うーん、そうだと思うんですが。違うんですか?」
「ち、違うといわれたら……反論できない自分がいるね……」
認めた。
少し違う気がするが、認めたと同じ事だろう。
「どんな方なんですか?」
もう後に戻れないと思ったであろう、アシルはしぶしぶ口を開いた。
「メイドだよ。元、下級貴族の」
「メイドさんかー。ずばり、手ごたえはあるんですか?」
「てっ、手ごたえっ!? わ、わからないよそんなこと!」
顔を赤くし、照れるアシル。
そんな乙女顔、しなくていい!
まあ、あたしならその恋、叶えてあげられる自信がある。
でもそんなことしても意味ないしなー……面白いだけで。
そう思っていると、アシルがピシ、と人差し指を立てた。
「そうだ。等価交換をしないか?」
「等価交換?」
「うん。僕は、両想いになりたい。好きあっていれば、お父様もさすがに許すと思うし。で、君は、早く元の世界に戻りたい」
梯子を優雅におりながら提案する、アシル。
「僕が両想いになれば、君は僕をハーレムの対象にしなくてもいいし、僕自身も利益がある。どう? いい案だと思うけど?」
地に足を付けたアシルは、にまりと、ドヤ顔。
「どうする?」
最後に言われ、あたしはうなずいた。
有無を言わせない声だったしな。
「じゃあ、取引成立ー。明日、朝に、僕の部屋集合ね」
一礼をして、部屋から出て行った。
にしても、こいつの好きな女の人って、どんな人なんだろう。楽しみー!
☆ ☆ ☆
「ぎゃーっ!」
あたしはその声で目が覚めた。
時計を見るとまだ夜の一時。ったく、なんの悲鳴だよ、殺人事件でも起きているのかよ。
枕に顔を押し付けながら、しばらく考えていたけど、あれは多分レイの声だ。ソウシに何をさせられてるんやら……。
答えが出て、よけいにすっきりした頭。これでは、当分寝れないだろう。悲鳴はまだ続いているし。
「廊下に出るかー……」
ゆったりとしたパジャマ姿のあたしは、手元にあった懐中電灯を手に取って、部屋のドアを開けた。
「わー……暗いー……こわー……くなんかないぞ」
悲鳴のよく聞こえる暗い廊下は、まるでホラー映画のワンシーンだ。
その中で、一人たたずむ女の人……うん、何かでそう。
「あーヤダヤダ。夜風に当たって、早く戻ろう……」
そういって、自分を元気づけ、一歩踏み出そうとしたとき――、
「何かお探しですかぁー……」
とん、と肩をたたかれた。
硬直しそうになる首に必死で鞭を打ち、あたしは後ろを振り向いた。
そこには、長い黒髪を無造作に伸ばした、メイドさんの姿――。
「き、きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
長い夜は、まだまだ続きます。
Q、どのような夜をお過ごしか?
A、幽霊っ! 幽霊が出ましたぁぁっ!!